クライアントや媒体主との対話の中で出てきた、捉え方次第ではタブーとして扱われる
素朴な疑問や意見に着目しながら、OOHメディアの本質に触れる。
デジタルサイネージ
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設置面数が少ないせいか、新規で立ち
上げたデジタルサイネージに広告出稿
がなかなか集まらない。
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デジタルサイネージの有効活用を考えた時に、二つのキーファクターが上げられる。‘音声が出せるスペースかどうか’ ‘訴求対象が立ち止まった状態にあるかどうか’ である。この二点に注意して、放映コンテンツ等のスキームを決定していかないとデジタルサイネージの広告収益モデルは立ち行かなくなってしまう。
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①音声が出せず、訴求対象が立ち止まっていないメディア
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このタイプのメディアが近年一番多く設置されていると思うが、おそらくその内のかなり多くが広告収益という面では苦戦を強いられている。不調の原因を探りつつ、新たな展開案についてひとつの架空事例を上げてみたい。
(例)
施設利用者に有益な情報を提供しながら、広告媒体としての価値も高め、広告収益の向上も同時に図れるように、デジタルサイネージを導入したが広告出稿が集まらない。
もともと多くの人が引っ切り無しに通り過ぎていく場所で、柱四本に計十六面のB1ポスター板が設置してあり、一週間六十万円の媒体料が設定されていた。
現在はポスター板を外してそこに五十二インチの液晶モニターを設置し、五分の番組を終日繰り返し放映している。番組は天気予報やニュースといったコンテンツで構成され、その中に三十秒CM枠を六本用意している。媒体料は一本あたり一週間二十万円の設定になっている。
(不調の原因)
・人が流れている場所に、地上波テレビの広告収益モデルは適用できない。屋外でちょっと目を引くコンテンツが放映された時、時間に余裕がある人は一瞬立ち止まって見るかもしれないが、見たいシーンが終わった瞬間その人はすぐにその場を去ってしまう。番組で視聴者を釘付けにし、そのままCMも見せてしまうというモデルは全く当てはめることができない。
・人が絶えず流れる場所に動画コンテンツは不向きと言い切れる。動いている人に見せたい広告があるのに、それをゆらゆらさせてしまったら見えにくくて仕方がない。そうすると放映する広告内容としては、静止画(、フラッシュ)中心のコンテンツが向いているということになるが、静止画中心の広告露出であれば、ポスター仕様の時と媒体価値はあまり変わらない。ポスター仕様の時より一社あたりの広告露出時間が短縮されるのであれば、それに比例した形で一社あたりの媒体料を引き下げる必要がある。
(改定展開案)
・広告以外のコンテンツは、施設に入っている店舗のセール情報のみの放映とする。
・放映コンテンツは、静止画、フラッシュで制作する。
・セールの時期は、放映時間の半分をセール情報の放映に割く。
・セール以外の時期は、昼間帯と夜間帯で二分割販売を行い、一枠の媒体料を三十五万円とする。二枠同時に申し込んだ場合は、ポスターで販売していた時と同じ六十万円とする。
※広告収益をポスター仕様の時より高く見積もるのは、現状なかなか難しい。デジタルサイネージの導入によって色々な広告表現が可能になり、ポスター製作費もかからなくなるが、反面オリジナルの広告クリエイティブ開発にどうしても手間と費用がかかってしまうため、はっきりとした媒体価値の向上を実感してもらうことができない。媒体料の値上げについては、同様の見え方をするメディアがサーキュレーションの高い他の場所にも複数設置され、素材の流用ができるようになったタイミングを見計って調整する必要がある。
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②音声が出せて、訴求対象が立ち止まっていないメディア
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このタイプはインストアメディアなどでよく見かけるが、多くの人が一生懸命買い物をしている最中で、(商品棚に設置される小型POPモニターは別として)通路脇や天井に設置されたモニターの映像を立ち止まって見るようなことはあまりしない。
ただ買い物中に目が商品棚に釘付けになっていても耳は空いているので、音声を流せるということはメディアとしてひとつの大きな強みを有していると言える。
例えば‘制作済みのテレビCMの音声に際立った特徴はないが、ラジオCMについては別の切り口で素材を用意している’というようなケースがあれば、おそらくラジオCMの方がそのメディアではより効果を発揮する。映像は静止画やフラッシュ素材を充てても良い。もし広告収益について行き詰っているメディアがあれば、音声の有効活用ということについて再度検討してみるべきかもしれない。
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③音声が出せず、訴求対象が立ち止まっているメディア
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訴求対象が立ち止まっていて、かつ手持ち無沙汰という状況があれば、これほど価値ある広告接触機会はない。電車の車内に設置されている液晶モニターは、音声が出ないにも関わらず多くの広告出稿が集まっている。山手線などは路線運行情報の流れる電車乗降口にモニター設置されており、視線の向かう数がとても多く、電車モニター専用のオリジナルCM素材も多数見受けられる。きっちりとした広告効果が発揮されていると感じる。
一方、精算レジ待ちやトイレ中を狙ったその他のメディアについては、まだまだ広告メディアとしては弱いと感じる。レジ待ちということは買い物を終えて店を出る直前であり、インストアメディアとして否が応にも期待されるリーセンシー効果が極めて弱い。トイレ中ということは、ブランドイメージがいい方向に転ぶ商品がきっととても限られてしまう。とても価値ある接触機会とは言え、これを活かすにはさらにひと工夫が必要な状況と言える。
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④音声が出せて、訴求対象が立ち止まっているメディア
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対象が立ち止まっていて、映像と音声を訴求できる環境があって、仕方なしにでもメディアの方を向いてしまう状況があれば、それはこれ以上ない広告接触機会と言える。 あとはどれ程多くの人に、どれ程きちんと視聴してもらえるかがポイントになる。テレビの場合どういった番組を作ればどれ程多くの人に見てもらえるか、番組内容と視聴率の相関について徹底的な研究がなされている。また‘広告は無視される’という前提にたって、たくさんの人に何度も接触してもらえるように、CM放映単価がとても割安に設定されている。OOH系のデジタルサイネージで広告収益を考えるのであれば、必ずこの強力なメディアと比較されることを忘れてはいけない。
例えばシネマメディア(シネアド)のCM放映単価はテレビよりもグッと高いが、視聴環境がとても素晴らしいという強味を持っている。携帯電話の電源を切らされ、周りは暗くなり、他にできることもない、テレビCM以上の視聴環境と言える。三十秒しっかり視聴してもらえるなら、CMはできるだけ内容の濃いものを放映したい。大型スクリーンでこそ映える迫力あるデザインなのか、お得な販促情報なのか、商品の詳細情報なのか、テレビでくり返し放映している十五秒のイメージ広告をさらっと流しただけでは勿体無い。強味をしっかり活かせればテレビCM以上の効果を実感してもらえるし、活かせなければ次回の出稿につながらない。
交差点にある大型の街頭ビジョンにしても同様だ。放映単価が少し高めに設定されている以上、 テレビでCMに接触した時とは違う価値がそこに見出せなければならない。例えば渋谷のビジョンは、日本を代表する大型のスクランブル交差点の最も目立つ場所に巨大な大きさで設置されており、若者に対してトレンド感みたいなものを演出するのに優れていると思う。若者の間で話題になりそうな商品、CMのローンチで活用したい。
音声が出せて訴求対象が立ち止まっているという素晴らしい環境があっても、広告視聴のされ方は様々なため、OOHで広告メディアを作る人も、作られたメディアを活用する人も注意深い検証と、創意工夫が必要になる。