被子植物ー送粉昆虫共生系の体系的解明

(Last updated, 2012 Nov. 11)

左上から:バンレイシ科Uvaria macrophyllaを訪れたカミキリモドキの1種(香港にて2011年撮影)、キク科オオシマノジギクを訪れたホソヒラタアブ(奄美大島にて2011年撮影)、タデ科ミズヒキを訪れたヒラタアブの1種(富士山麓にて2009年撮影)、キンポウゲ科レンゲショウマを訪れたオオマルハナバチ(富士山麓にて2009年撮影)、ウリ科カラスウリを訪れたシモフリスズメ(東京都目黒にて2011年撮影)、ユキノシタ科コチャルメルソウを訪れたクロコエダキノコバエ(京都府貴船にて2008年撮影)、キク科ヤハズヒゴタイを訪れたヒメマルハナバチ(富士山麓にて2009年撮影)、ユキノシタ科ヤマハナソウを訪れたコハナバチの1種(北海道足寄にて2007年撮影)

35万種を越える多様性を誇る被子植物(花を咲かせる植物)のほとんどは、その生活環を完結させるために他の生物の助けを借りています。

特に花粉を運ぶ動物(送粉者)の手助けを借りるために花を進化させたことが、被子植物の爆発的な成功の一助になったと考えられており(1)(ただし反論もある)(2)、

例外もありますが一般に下のような模式図で表される植物と送粉者との関係は、送粉共生と呼ばれ究極的には私たちを含めた陸上の生物の命を支えています。

特に被子植物の87.5%の種では、種子を実らせ健全に繁殖を行うのに花粉を運ぶ動物の手助けが必要だと推定されています(3)。

しかも多くの植物種では、花粉を運ぶ動物は何でもいいわけではなく、かなり厳密に決まった動物種だけに繁殖を依存していることが知られています。

しかし地域の植物相全体を通して、植物と送粉者の共生関係がどのようなパターンで存在しているかについてはまだまだほとんど分かっていません。

もちろん個別の植物種がどのような送粉者に繁殖を依存しているかという情報も非常に少なく、特に基礎的な研究がよく進んでいる日本の野生植物においてさえ、送粉様式についての情報はごく断片的です。

開発、乱獲、環境変動、草食獣による食害の増加などの要因によって、現在危機的状況にある日本の植物相を保全する上でも、このような基礎的情報の価値はますます高まっていると言えます。

そこで私は「生物多様性を知る、守る、伝える」という筑波実験植物園の活動方針に則り、絶滅の危機にある植物や日本固有の植物を中心に、

それぞれの植物種がどのような送粉者に繁殖を依存しているのかという情報を地道に集積しています。

このような知識は、私たちを含む生き物のつながりがいかに生物多様性を育んでいるかを広く理解する一助になり、また絶滅の危機に瀕している個々の植物種の保全策を得る上でも重要な指針となるでしょう。

本研究テーマに関連する成果として、チャルメルソウ属13種の送粉様式の解明(4–6)が挙げられます。この中には5種の絶滅危惧植物(マルバチャルメルソウ、モミジチャルメルソウ、トサノチャルメルソウ、タキミチャルメルソウ、ツクシチャルメルソウ)が含まれています。この成果の詳細についてはこちらもご覧下さい。

また特に送粉者の特定に力を入れている植物群に、カンアオイ属があります。

カンアオイ属は日本に50種あまりが自生し、その大部分が絶滅危惧種に指定されている一方で、繁殖は明らかに特定の送粉者に依存しており、またわずかな種(7)を除いてほとんど送粉者が明らかになっていません。

カンアオイ属のそれぞれの種はいずれも大変興味深く、またユニークな姿をした花を咲かせ、そこには送粉者との関係に関わる面白い発見がたくさん眠っていると考えています。

引用文献

  1. Regal, P. J. 1977. Ecology and evolution of flowering plant dominance. Science 196: 622–629.

  2. Midgley, J. J., Bond, W. J., Jarzembowski, E. A., and Grubb, P. J. 1991. Phil. Trans. Roy. Soc. Lond. B. 333: 209–215.

  3. Ollerton, J., Winfree, R., Tarrant, S. 2011. How many flowering plants are pollinated by animals? Oikos 120: 321–326.

  4. Okuyama, Y., Kato, M., Murakami, N.. 2004. Pollination by fungus gnats in four species of the genus Mitella (Saxifragaceae). Botanical Journal of the Linnean Society 144: 449–460.

  5. Okuyama, Y., Pellmyr, O., Kato, M. 2008. Parallel floral adaptations to pollination by fungus gnats within the genus Mitella (Saxifragaceae). Molecular Phylogenetics and Evolution 46: 560–575.

  6. Okuyama, Y. 2012. Pollination by fungus gnats in Mitella formosana (Saxifragaceae). Bulletin of the National Museum of Nature and Science. Series B, Botany 38: 193–197.

  7. Sugawara, T. 1988. Floral Biology of Heterotropa tamaensis (Aristolochiaceae) in Japan. Plant Species Biology 3: 7–12.

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