3.奄美大島のオットンガエル

こ のテーマは、2004年6月、初めての来島でオットンガエルの大合唱に出会い、そのユニークな鳴き声とでっぷりとした貫禄の姿にすっかり惚れ込んだのが きっかけです。同年7月、奄美両生類研究会を発足、プロ・ナトゥーラ・ファンドの助成を受けたことで調査活動を開始することができました。オットンガエ ルってどんなカエルなのか?を純粋に追っています。

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2016年、「奄美群島の自然史学:亜熱帯島嶼の生物多様性」(水田拓・編著、東海大学出版会)が出版になりました。11章にオットンガエルの生き様を載せています。

2016年6月21日、朝日新聞夕刊で本が紹介されました。11章、オットンガエルの章が挙げられています。

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2011年3月、日本生態学会で、これまでのオットンの指に関するデータをまとめました。

←これまで撮れなかった闘争シーンもあります!

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*オットンガエルの基礎生態*

奄美大島に生息するカエルの中で最も大きくなる種類のカエル。肢が太く、でっぷりとした貫禄ある姿をしています。 流れの緩やかな沢や池の周辺を好み、岩の隙間にできた奥の深い穴に隠れていることが多いですが、夜間林道に出てきている個体に出会うこともあります。

<特徴>

普 通のカエルは前肢の指は4本ですが、オットンは拇指というトゲ状の五本目の指を持っています。このトゲ状の指は、メスをめぐ るオス同士の戦いに用いられる、とか、捕食者対策だ、とか諸説ありますが、まだはっきりとは分かっていません。ただ、胸やわき腹に刺されたような穴や、引っ掻き 傷を持つオスはよく見つかるので、私は勝手にオス同士の戦い用と思っています(いつかそのシーンを撮影してやる、と闘志?も燃やしています→2010年、撮影に成功!)。不用意にオット ン(特にオス)を 捕まえてしまうと、このトゲにさされて流血することになるので注意が必要です。

←5本目の指。中からトゲが飛び出してきます。

←左胸におそらくトゲによるものと見られる傷がある。でもこの子の場合何かのはずみで自分で自分を刺したのでは・・・という位置に傷が。

※本種は天然記念物のため、触れることは禁止されています。

許可をとって捕獲調査を行っています。

<寿命>

カ エルは冬眠します。冬眠の間は食べ物をとらない、もしくはとる頻度が少なくなる(特に奄美のような暖かいところでは、完全に眠ってしまうわけではない)た め、成長が鈍くなり、そのため、骨に年輪ができます。この数を数えることで、越えた冬の数とし、年齢を推定する方法があります。これを用いてオットンガエルの年 齢査定を行いました。オットンの指の先をちょっもらい、骨をスライスして染色、顕微鏡で観察、という手順です。

これまでに、メス65個体、オス66個体の年輪査定を行いました。

←骨の断面を染色したところ。矢印のところが濃くなっており、冬の回数を示すと考えられる。この個体は4本。

年輪は雌雄ともに0~7本見られたことから、雌雄とも少なくとも7年は生存することが分かりました。また、繁殖場所で鳴いていた個体や、卵を持っていた個体などの、明らかな成熟個体は3本以上の年輪を持っていたことから、成熟年齢は3歳と考えられます。3歳以上の個体を成体とし、その平均年齢を求めたところ、メスで4.3±1.0(mean±SD; N=44)、オスで4.2±0.95歳(N=59)でした。

平均的なオットンガエルは、春から夏にかけて変態上陸した後、3回冬を越した3歳の時に初めて繁殖に参加し、翌年4歳での2回目の繁殖後に死亡するが、長寿のものは3~5回繁殖するようです。

<雌雄の違い>

オスは腕が太く、顎の下がざらざらしており、わき腹には楕円形のケロイド状皮膚が見られることが多い。一方でメスは 腕が細く、腹が白く、つるっとしている。ケロイドはない。最初はほとんど見分けはつかなかったが、最近はパッと見でなんとなく雌雄が分かるように・・。メ スは全体に華奢な印象である。

←オスのケロイド。腕の付け根とラベルの間にある、盛り上がった部分が分かるだろうか。

一般的なカエルはメスがオスよりも大きいことが多いのですが、オットンガエルはオスのほうが大きく、オスは体長で99.5~138.5mm、体重で145~330gに対し、メスは体長102.9~131.6mm、体重146~271gという結果でした。

<繁殖>

繁殖期は4月から10月で、特に6~8月が盛んです。カエルはオスが鳴いて(オスしか鳴かない)メスを呼ぶのですが、このコールが聞かれる期間が繁殖期になります。

比較的平らで浅い水場に直径20~30cmほどの浅いクレーター状の穴が掘られ、そこで産卵が行われています。穴を掘るのはオスと言われているのですが、確かな証拠はなく、穴掘り現場観察もまだ例がないようです。(→メスも掘っていました!オスも掘る動きは見せますが、メスより適当です・・)

←産卵巣の中のオットンガエル。昼間に見かけることは稀だ。穴を掘っていたのだろうか?

ピーク時の産卵場は多数のオスが集まり、メスを呼ぶ鳴き声がこだまします。オットンの鳴き声は独特で、人間の咳払いなどにも例えられるほど。「ぐ ふぉん」とか「うぉっほん」という大声がこれに当たるのですが、この本鳴きのあとに「くーくー」もしくは「くーくーくー」という余韻を付け加えることが普通です。 10匹近くのオスが互いに「ぐふぉん! くーくーくー・・」と鳴き交わす合唱はなんとも言えない異次元空間を醸し出していて感動的。

←本鳴きの前に空気を溜め込む。腹がぱんぱんにふくらんでいる。← 一気に鳴嚢へ送り込んで音を出すメスがやってきてからオスと抱接するまでの過程はまだ観察できていないが、同じようなクレーター型の巣を作るカエルでは、ここでオス同士が闘争をすることが知られている(Kluge, 1981)。オットンでもトゲを使ってメスの取り合いをするのかもしれない。(→してました!)

さて、無事にカップルが成立すると、巣の中にスタンバイ(写真)状態になる。上がオス、下がメス。 観察例はまだ少ないですが、あるペアではこの状態になってから2時間半という長い間、抱接したまま巣の中を回転し続ける行動が見られました。 Kluge(1981)も、この段階で後肢で土を押し出すといった、巣を広げる行動が見られたと記述していることから、オットンの回転行動も巣の状態を改善す る目的を持っている可能性が考えられます。

オスはその間ほとんど動かず、メスにしがみついたままでしたが、時たまそのままの状態で本鳴きをしたり、「くーくーくー」のみ発したりしました。

そして、いよいよ産卵開始。

メスがおしりを持ち上げて上下させる動きを見せると、オスは後肢を写真のように上にひきつけ、産卵が開始。メスが上下に動くたびに、総排泄孔から卵が数十個ずつ産み出され、水面に浮かんでいきます。 上下運動は60回ほど繰り返され、約10分ほどで産卵は終了、オス、メスともに別々に巣を去っていきました。卵は互いにくっついて一層となり、巣一面に広がっていきます。