1.オタマジャクシによる栄養塩回帰の影響

卒業論文、博士論文の内容です。研究のなんたるか、を学んだテーマでもあります。かなり重くて、まだまだ理解が追いついてないところも多いのですが・・得るところも多かったなぁ。

水域食物網の概念図です。一般には、植食者、デトリタス食者、肉食者といった消費者が、それぞれの資源を摂食によって「消費」し、減らすもの、と考えられがちです。しかし、ここでは「栄養塩回帰」という事象に注目し、逆にプラスに持っていく消費者の可能性について追究してみました。栄養塩回帰とは、消費者が摂食に伴って、食べカスやフンなどから栄養塩を放出する現象です。栄養塩は、水中で利用可能となり、これを利用している一次生産者や、デトリタスの分解に関わる微生物を喜ばせます。すると、一次生産を食べている植食者や、デトリタスを食べるデトリタス食者にもプラスの影響となるのではないか、と考えられます。これまでも一次生産者にプラスの効果があることは知られていたのですが、デトリタス系についてや、さらに間接的に他の消費者に与える影響については見られてきていませんでした。さらに、最初に栄養塩を出す消費者が雑食者である場合、これらの経路がいっぺんに成り立つため、さらに複雑な経路になると考えられます。そこで、この研究では、水中の雑食者、オタマジャクシを対象とし、オタマジャクシによる栄養塩回帰がどのような影響力を持つのか、調べました。

これはオーストラリアでやった実験です。家畜用のタンクをずらっと並べ、自然の池を模した環境を作りました。ここに、オタマを0、5、10匹入れ、それぞれのタンクで栄養塩量、藻類量、植物プランクトン量、ユスリカ量、リターの質や量、がどう変化していくかを調べました。それぞれのタンクには、オタマ排除区と対照区を設け、オタマによる直接の摂食ができないものとできるものとを比較できるようにしました。

例えば、タイルに生えた付着藻類の比較です。左がオタマのいなかったタンク、右がオタマがいたタンクです。それぞれの写真の左側に写っている2枚のタイルはオタマによる摂食ができなかったもの、右の2枚がオタマが入れるようになっていたものです。もちろん、オタマなしタンクではどちらの2枚もオタマによる摂食はされません。写真からも明らかなように、オタマがいると、摂食を受けたほうはオタマなしタンクとあまり変わりませんが、摂食を受けないほうは藻類が多く、緑が濃くなっています。実際にグラフでみるとこうなります。つまり、オタマがタンクにいると、付着藻類も、ユスリカも、4倍くらいに増えるのですが、摂食を受けられるようにしておくと、増えた分は食べられ、結局相殺されてタンクにオタマがいない時と変わらないくらいになっているのでした。Iwai N, Kagaya T, Alford RA. Feeding by omnivores increases food available to consumers. Oikos In press.

Iwai N, Pearson RG and Alford RA. 2009. Shredder – tadpole facilitation of leaf litter decomposition in a tropical stream. Freshwater Biology 54: 2573-2580.

Iwai N and Kagaya T. 2007. Positive indirect effect of tadpoles on a detritivore through nutrient regeneration. Oecologia 152: 685-694.

<関連した研究の論文>

González AL, Kominoski JS, Danger M, Ishida S, Iwai N, Rubach A (equal contribution). 2010. Can ecological stoichiometry help explain patterns of biological invasions? Oikos 119: 779-790.

Iwai N and Kagaya T. 2005. Growth of Japanese toad (Bufo japonicus formosus) fed different food items. Current Herpetology 24: 85-89.

Iwai N and Kagaya T. 2005. Difference in larval food habit of two Japanese Rana species. Journal of Freshwater Ecology 20: 765-770.