電子カルテはどうあるべきか

◯ 電子カルテに何を望むか


複雑多岐にわたる医療の世界では、ひとくちに「電子カルテ」と言っても、期待するイメージは夫々に異なるのが当然。一方で、電子カルテの研究者達と話しあってみると、単に紙の診療録を電子化するだけはでなく、医療の現場における様々な情報処理を行えるツールにしたいと誰もが考えていることがわかる。

このように、本来は「医療総合情報システム」とでも言うべきものだが、理解しやすさから、そのような暗黙の意味を含め「電子カルテ」という呼称が使われている。 一般的に期待されるのは以下のようなものであろう。

診療録そのものを電子的に記録・診療費計算・処方箋発行・診断書や証明書など定型文書発行・データ検索・ネットワークによる連絡やデータの共有化(院内・院外)・ネットワークによる医療情報交換・オーダリング・検査データのグラフ化など医療情報の多角的検証システム・電子教科書・いろいろな医療支援など。施設規模や臨床主体か研究主体かなどにより、その優先度は異なってくる。

コンピュータは人間の能力を増幅するものであって、無から有は産みださない」ことを良く理解しておかなねばならない。「優れたシステムを入れたら、誰が使っても優れた仕事ができる ということはない」。混迷を増幅するだけということもある。

単に「電子カルテを入れたら何かが良くなる」ことを期待しても「大きな期待はずれ」だけが待っている。「目的意識をもってコンピュータを駆使する」ことが大切である。電子カルテで何をしたいかわからないのなら、従来の紙カルテで何も困ることはない。

皆が使える電子カルテはあり得ない


医療の現場は非常に複雑です。さらに診療科や出身大学などにより診療録の記載方式は千差万別・複雑多岐にわたる。従って電子カルテについては、ワープロのように「同じワープロ・アプリを使って誰でも仕事ができる」ということはない。理想を言えば「医療者各個人ごとに夫々の形式の電子カルテが欲しい」ということになります。

従って、もし誰かが「標準的電子カルテ」なるものを作り、全国の医療機関で使うようなことになれば最悪の事態になる。ある現場で使いやすい道具でも他の現場ではどうにも使えない最悪の道具となり、従来の手作業の方が遥かに効率が良いということになる。やるべきことは画一的電子カルテを作ることではない。医療の電子化なのです。

医療の電子化には以下のようなものが求められる

◯ 皆が使える電子カルテを実現するには


前記タイトルと矛盾するタイトルですが、長年、電子カルテ開発に「あーでもない、こーでもない」と格闘してきた結果、ある時ふと「誰でも使える電子カルテって実現できるんじゃない?」と気がつきました。それには以下のような仕組みが必要となります。

性善説で進化したインターネット発祥の頃はこれだけで良かったのですが、性悪説になってしまった現状では、これに加え「セキュリティを確保するフィルターの仕組み」も必要でしょう。

ひとつのアプリとしての電子カルテでは、特定診療科に特化した機能の追加は開発上大きな問題となってしまいますが、このシステムでは特定のツールを作って組み込めばよいので、他に影響を与えることが全くありません、

このようなシステムが提供されれば、ユーザは自分の好きな使い勝手の電子カルテで楽しく仕事をこなすことができる。ツールは「それを使うことで仕事が楽しくなるものでなければならない」。

仕事に使う効率的道具の実現には「多くの人が使い、改良を重ねることのできる仕組み」が必須。どこかの1社でこのような仕組みを実現しようとするなら Google のように柔軟な発想、ボランティア的思考、巨大な資源が必要となります。それよりも、多くの個人や企業が参加し自由な発想で進化する場を提供する方が、多少時間はかかるかも知れませんが、ずっと実現性が高いと思います。

本当に使い勝手のよいシステムは、多くの人の失敗・成功のノウハウを注ぎ込み時間を重ねることにより、はじめて実現される。インターネットの色々な仕組みもこうして実現されてきました。医療界にこのようなコンセプトでシステムが提供される日の早く訪れることを願ってやみません。