NOA プロジェクト

Introduction

大橋克洋による電子カルテ開発の歴史は 1985 年にさかのぼります。当時の電子カルテは WINE と命名されました。WINE は「Wise and Neat」すなわち「お利口で手際の良い医療秘書」の実現と、以下3つのコンセプト実現をめざして開発されました。

「診療録記載と診療費計算 にまつわる作業を能率化したい」「診療支援が欲しい」「あらゆる記述 ・連絡作業をコンピュータ化したい」「ネットワークを介しスタッフ間 の仕事を並行処理したい」などの実現をめざしました。 

1988年から菅生紳一郎(産婦人科)、高橋究(小児科) が加わった3名の共同プロジェクトとなり、 この電子カルテ開発プロジェクトを WINE Project と呼ぶことになりました。 すなわち WINE はこの共同プロジェクトの名称で、 非常に優れたソフトウエア技術者だった菅生先生は途中で去りましたが、 現在はそこから発生した大橋版の NOA と 高橋版の WINE Style がそれぞれに進化を続けています。

アフリカ大陸とオーストラリア大陸が太古の昔に分離し、それぞれの生物がそれぞれ違った方向に進化したように、現在 NOA と WINE Style はまったく異なる進化を遂げています。

WINE から NOA へ開発の歴史

電子カルテ開発プロジェクトは、最初 WINE project と呼ばれていましたが、途中から NOA project へと移行します。その経過は以下のようなものです。以下は Web のお作法に従い、最新のものから並んでいます。

新しい GUI でリニューアル(第8世代) 2012.10

初代 Emacs 版では「巻物形式」でしたが、2代目 NeXT版からは「ページ形式」をとってきました。このたび「巻物形式」へ改めるとともに、最新技術 HTML5 や CSS3 などを使った新しい GUI へと進化させました。HTML5 も CSS3 もまだ策定中で標準が FIX しない状態ですが、そこは「世の中の一歩先を切り開こう」というチャレンジ精神で、、

今回の開発で強く思ったことは「Web アプリは完全にデスクトップ・アプリを越えたな」ということでした。デスクトップ・アプリは特にこのようなものを開発する上で、もうレガシーな技術になりつつあるとの印象、、

Web 版電子カルテ NOA をオープン・ソースとして公開 2009.9

電子カルテのあるべき姿について、 医療情報学会や雑誌記事などで繰り返し述べてきました。しかし、 なかなか医療現場にとって「使い勝手のよい電子カルテ」が現れません。 そこで「電子カルテ開発者」かつ「エンド・ユーザ 」として 20年間 培かってきたノウハウのすべてを公開することにしました。 これが多少なりとも参考となって 「現場で本当に使える」「快適な電子カルテ」が 世の中に普及する一助となれば無上の喜びです。また、もしそのような考えで一緒に活動する仲間が得られれば、さらに嬉しいことです。

Web アプリケーションへと進化(第7世代) 2008.5

「電子カルテは OS やハードなどのプラットフォームに依存せず使えるべき」 「ログインしたユーザなりのレイアウトで使えるべき」というコンセプトで Web 版 NOA の開発にとりかかり、約5年の歳月を経て PHP と Javascript によるまったく新しい Web 版 NOA が誕生し稼働を始めた。 第1世代から 第2世代への移行は、 GUI を駆使できる環境への進歩に4年ほどを必要としたが Web版についても全く同様で、当初暖めていたアイデアは実現困難だったが、 5年後には Web アプリとして実現できるほど 世の中の Web 技術が進化した。

東京都医師会の公務で忙しくなりサポート困難なため、 当面 NOA の配布はフリーズする。 オープンソースとして共同開発の意思ある仲間を得られれば、 公開もあり得ると考えている。

電子カルテ NOA と呼ぶようになる(第6世代) 2002.1

高橋版が WINE STYLE という名称で商品化されたため WINE の呼称はそちらへ譲り、 大橋版を NOA: Neat Online Assistant と呼ぶこととする。 framework を奇麗に分け、ユーザインタフェース部分はまったく 同じものを使いながらデータ保存部分はまったく異なる実装の NOA Light と NOA Professional ができあがった。

MacOSX 正式リリース版で本格稼働(第5世代) 2001.4

WINE のレイアウトを XML 形式で保存し、ユーザが自由にカスタマイズ しやすくなった。第4世代で開発された部品を使い、ソースを さらにシンプルなものへとブラッシュアップするとともに、別の面での 部品化と操作性の簡素化をはかった。

MacOSX (Public Beta)上で電子カルテ(第4世代)の開発開始 2000.10

NeXT社で開発された OPENSTEP の技術が MacOS X として生まれ 変わり、この上へ移植開始。 第3世代まで WINE は単一のアプリケーションだったが、 第4世代からは電子カルテの部品化を本格的に進めることになった。

MacOSX Server(OPENSTEP)上で 電子カルテを実現 (第3世代) 1998.3

(株)メリッツとともに Oracle/Sybase などの商用 データベース・サーバと接続できる商品版の開発をはじめる。 ハードウエアは Macintosh(PowerPC)上の MacOS X Server や DOS/V マシーン上の Mach 版 OPENSTEP の他、 WindowsNT 上でもまったく同じに動く。 これにより、大橋版 WINE と高橋版 WINE とを統合、小規模診療所 から中規模病院までカバーできる電子カルテの実現を目標とする。

nextStep 上に移植し 電子カルテ(第2世代)を実現 1993.5

Emacs 上のシステムは開発者自身が使うには、 実用上ほとんど不便を感じないものに仕上がったが、 キーボードに習熟する必要があり、文字情報しか扱えなかった。

大体の仕様も固まり、 GUI を実現するための実用的なシステムも現われてきたので 「誰でも容易に使えるシステム」として大幅な機能アップを考えた。 当時標準的になりつつあったのは X-Window であったが、 Object 指向開発環境・より優れた GUI・マルチメデイア機能・ パワフルなネットワーク機能などの標準装備から、 迷わず NeXT社の nextStep(後日 NEXTSTEP と改称) を選択した。 菅生・高橋先生とともに電子カルテ開発 WINE project を立ち上げる。

日本語Emacs の上に 電子カルテ(第1世代) EmacsWINE を実現 1989.5

発想をまったく転換し「ワープロの中でカルテを書けばよい」 との考えにいたり、 UNIX 上の優れたテキスト・エデイター Emacs の上に Lisp 言語で電子カルテを実現。 コンセプトが大体でき上がっていたので、 開発開始1月後には基本部分が動き出し、 実際の診療で使い始めるようになった。臨床運用の開始である。

このシステムは実用上ほとんど問題なく使用できたので、 その後4年間は毎日の診療に使いながら 細部の機能の改良や拡張につとめた。振り返ってみると、この時期に電子カルテとしての基本仕様のほとんどが出来上がっていたと云える。

診療録の電子化プロジェクト開始 1985.1

世の中にまだ「電子カルテ」なるものが存在しなかったので、 「電子カルテとはどんなものであるべきか」 というコンセプト創りから始めた。 参考にするものが全くなく「無から有を生ずる」作業が一番大変だった。 ひとつの画面の中でいかに必要な情報を扱うかということで、 最初は宇宙船のコックピットのようなものを考えた。

その後4年間は Sun workstation の上で、C言語を使って開発を行った。 マシーンに依存しない移植性を考え、Sun のウインドーシステムではなく、 オリジナルのウインドーシステムの開発から行ったので 開発は遅々として進まなかった。