ゆらぐ系の熱力学(京大集中講義)

日時:6/10(3-5限),13(2-5限),14(3-5限)

場所:京都大学基礎物理学研究所講義室K206(ハイブリッド形式)

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本講義では、ここ20~30年の非平衡統計力学の一つの重要な研究領域である、ゆらぐ系の熱力学について概観する。通常の熱力学はマクロな系を対象とするが、ゆらぐ系の熱力学は熱ゆらぎの無視できない小さな系を対象とする。このような系においては、ゆらぎの定理に代表されるさまざまな普遍的な関係式が成り立つ。本講義では、ゆらぐ小さな系においてどのように熱力学を定式化するのかという問題から初めて、ゆらぎの定理、情報熱力学、熱力学的不確定性関係などの重要な結果を解説する。

講義計画

1.確率過程による熱力学の定式化

2.ゆらぎの定理

3.既知の非平衡関係式のゆらぎの定理からの導出

4.ゆらぎの定理タイプの等式

5.情報熱力学

6.スピードに対するトレードオフ不等式

7.熱力学的不確定性関係

談話会:小さい系の応答と緩和に関する最近の話題(6/13、16:45-18:15)

概要:熱ゆらぎが無視できない小さな系における熱力学の研究は、集中講義でも触れているように、ゆらぎの定理、情報熱力学、熱力学的不確定性関係など、さまざまな普遍的関係式を明らかにしてきた。この談話会では、その最近の結果として、まず時間反転対称なカレントの導入とその揺動応答関係の話[1]をしたい。通常のカレントは時間反転反対称だが、ここでは時間反転対称なカレントの対応物をうまく定義し、それがある種の非平衡定常状態周りで揺動応答関係を満たすことを証明する。この対称カレントは、理論的興味のみならず、生の遷移レートの実験的推定への応用も期待できる。
時間の余裕があれば、緩和過程特有の、第二法則よりも強い熱力学的制限を与える不等式[2]についても議論したい。

[1] N. Shiraishi, arXiv:2111.09477.
[2] N. Shiraishi and K. Saito, Phys. Rev. Lett. 123, 110603 (2019).