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和歌山県友ヶ島(沖ノ島)の移入シカに関する研究
■ 遺伝学的解析による祖先集団の由来の解明 (文献:Matsumoto et al. 2015, Conservation genetics)
1960年代に、タイワンジカ(Cervus nippon taiouanus:ニホンジカの台湾の亜種)は野生絶滅しました。台湾の国立公園(墾丁国家公園)では、台湾の動物園で飼育されていた個体が放され、現在は800頭ほどの個体が生息しています。
和歌山県の友ヶ島に1955年に放されたタイワンジカの個体群の由来を明らかにするため、台湾の研究者と共同で、ミトコンドリアおよび核DNAの一部の遺伝子配列について解析を行いました。
解析の結果、友ヶ島のシカは、タイワンジカとサンバーなどの他のシカとの雑種であることがわかりました。今回解析に用いた友ヶ島のシカのサンプルからは、ニホンジカとの交雑は確認されませんでした。
解析結果および文献調査から、友が島のシカは台湾のシカ牧場由来である可能性が高いと考えられます。また、雑種であることから、友が島のシカは台湾に生息するタイワンジカの遺伝資源としての有用性は低いと思われます。
今後は、日本国内や他の国の動物園等で飼育されているタイワンジカの遺伝解析を行い、タイワンジカの保全に有用な知見を得る必要があります。
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■ 観光客の存在がシカのハビタット選択に与える影響
友ヶ島は無人島ですが、行楽シーズンになると多くの人々が来島します。
友が島のシカにとって、広場に生育するシバは重要な餌資源です。しかし、来島した人はこの広場でBBQやキャンプを行うため、広場に人がいる場合、人に馴れていない島内のシカは広場にでてきません。
私たちは広場の利用が来島者に影響を受けていることを明らかにするために、広場と森林に自動撮影装置を設置し、その撮影頻度が来島者数に影響を受けるかを調べました。また、広場と森林で採集された糞の内容物についても調べ、シカが実際に食べているものも、来島者に影響を受けているかどうかを調べました。
※以降の詳細な解析内容、結果に関しては、論文が発表された際に追記します。
■ 個体数の推定
友ヶ島のシカに関しては、導入当時と1983年の調査以降、個体数の調査が行われていません。
私たちは、友が島のシカの現在の基礎的な情報を得るため、動物の存在を感知して自動的にシャッターを切る、自動撮影装置(センサーカメラ)とよばれるカメラを用いて、友ヶ島のシカの個体数を推定しました。
※以降の詳細な解析内容、結果に関しては、論文が発表された際に追記します。
■ 環境教育の題材としての友が島のシカの有用性 (文献:松本・幸田 2017, 生物学史研究)
タイワンジカは台湾では狩猟や生息地の破壊によって野生絶滅した一方、漢方薬となる枝角の生産のために家畜として飼養されてきました。また、友ヶ島では観光目的で放されたことから、タイワンジカは様々な形で人の影響を受けてきました。
タイワンジカのように、比較的大型の哺乳類で、野生絶滅種であり、外来種でもある種はとても珍しいです。この希少性に加え、シカのような中・大型の生物種は、人からの関心を得やすいといった特徴もあります。さらに、タイワンジカの近縁種であるニホンジカによる日本各地で農業や林業への被害、生態への被害が深刻化しています。
これらのことから、野生絶滅種、外来種としての側面を持つ本個体群、またシカという動物種の側面から、環境教育の題材として有用であると考えています。
今後、このシカの普及啓発を行うとともに、一般の市民の方々を対象に外来種や絶滅種の問題、さらには獣害問題までを取り扱ったワークショップを企画したいと考えています。
マウスにおける従順性に関わる遺伝子の同定
■ マウスにおける人に対する馴れやすさの遺伝的基盤の解明(文献:Matsumoto et al. 2017, Scientific Reports)
国立遺伝学研究所で野生系統のマウスを用いて、人に対して慣れる行動(従順性行動)の遺伝的基盤の解明にむけ、ゲノム全域の多型データを用いて、量的遺伝・集団遺伝などの統計遺伝学的解析を行っています。