はじめに

ようこそ、ランダウ・リフシッツ著の理論物理学教程ファンサイト、「理論物理学教程の道」へ。ここでは、原著者の簡単な紹介と理論物理学教程の入門の仕方を行います。なお、このサイトは非公式であり、出版社やLandau Institute などとは何の関係もありません。

右図に見えますのがこの理論物理学教程の原著者であります、ランダウ先生の若かりし頃のお姿であります。ランダウ先生は、言うまでも無く旧ソ連を代表する大物理学者で、高エネルギー(場の理論)、低温、物性に加えて流体力学の大家でもありました。1908年に生まれ、1962年の悲劇的な事故の後、1968年に亡くなっています。ランダウ先生は、理論物理学者になるためには何でも知っていなければならないと主張し、理論物理学者になるために、最低限必要な知識をまとめた有名な、教授要目<理論ミニマム>を作成し、彼の弟子になることを希望する学生に試験を課していました。その内容は、基礎的な数学が2科目、力学、場の理論、量子力学、統計物理学、連続媒質の力学、マクロの電気力学、相対論的量子力学の全9科目です。もともと、理論ミニマムと呼ばれる教授要目は、学生の勉強の指針になるように、最低限読むべき教科書、論文をページ数に渡るまでこと細かく記された勉強のガイドのようなものでしたが、自分に教師としての才能のあることに気付いたランダウ先生は、ミニマムのみでなく、それを包括してより深く理論物理学を勉強できるための指針となるように、理論物理学の教程をつくろうと思い立って、ここに40年以上の歳月をかけて完成したのが、今現在存在する理論物理学教程全10巻です。残念ながら、この教程はランダウ先生の生存中には完成しませんでしたが、弟子であるリフシッツがその恩師の仕事を引き継いで、最後まで書き上げました。理論物理学教程や、理論ミニマムについての詳しい解説は、ランダウの伝記(2冊ありますがどちらも絶版。)または、手に入りやすい本としては「相対性理論入門」の付録を読まれると良いと思います。

さて、理論物理学教程に入門するに当たっての予備知識などはどの程度必要でしょうか。必要な数学に関しては、理論ミニマムの数学課程と思ってよいでしょう。その内容としては、第1回の試験が、不定積分をしたり(ランダウが彼のお見舞いにきた息子に1/sin x の不定積分くらいできなくてどうすると怒ったという逸話があります。レベルとしてはこれくらいでしょうか。)普通の標準タイプの微分方程式を解く能力、ベクトル解析とテンソル解析の知識が要求されています。第2回の試験では、複素関数論(留数の理論、ラプラス法)の基礎が入っていたようです。テンソル解析、群論その他の数学は理論物理学教程中で扱われています。また、物理学についても教養程度のニュートン力学、電磁気学の知識は必要かと思われます。数学に関して、補足しておきますとランダウ先生は、「数学をあらかじめ学んでおかないと、物理を勉強する時に問題の数学的な難しさの方に気を取られてしまい、肝心の問題の物理的難しさの方がおろそかになってしまう。」と述べています。また、経験によると(私も激しく同意)一本立ちの研究生活に入ってしまうと、数学の勉強が物理学者にとってあまりにむ「退屈なもの」になってしまうことを示しているそうです。というわけで、理論物理学教程のページをめくる前にどうぞ十分に数学の力を付つけてください。理論物理学教程の楽しさに数学の勉強が「退屈」になってしまうことは必至ですから。なお、数学を学ぶといっても、論理的な練習問題(あらゆる存在定理や、厳密すぎる証明など)はまったく飛ばしてよいとランダウ先生は述べています。必要なのは数学を応用する能力であり、必要の無いことを勉強することによって、論理的思考方法が学べるという、中世のスコラ哲学にふさわしい考え方と論争しようとは思いません、と彼は主張します。ただし、物理学の進歩に伴って、理論物理学者が必要とする数学のレベルもランダウの当時に比べると上がってきているかもしれません。トポロジー、微分幾何、多様体論なども必要になるでしょう。しかし、このあたりは自分の専門に合わせて勉強するのがいいと思います。

ところで、理論物理学教程をマスターするとランダウの評価で3.5級になれるといわれます。0.5級はアインシュタイン、1級はボーア、シュレーディンガー、ハイゼンベルグ、ディラック、フェルミ等ノーベル章級だそうです。ランダウはランダウ反磁性の研究で自分が2級になったと言っています(私の考えではその後の活躍を含めてランダウは1級でしょう)。注意、この等級は対数めもりでつけられてるので、2級の人は1級の人の十分の一しか科学に貢献していないことになります。対数で科学的業績が評価されるのはもっともなのですが…。