演習理論物理学

さて、みなさん。ランダウ・リフシッツの理論物理学教程に、演習問題集があるらしいというのをご存知でしょうか。「演習理論物理学」という題名で80年代中ごろに出版されています(今は絶版で入手できませんが、一応amazonで検索すると出てきます)。このたび、中身を読む機会があったので、ここで紹介します。

原書は力学・電磁気学・量子力学・熱統計力学の4巻ですが、和書では初めの2つが一緒になって全3巻になっています。私が目にしたのは「量子力学」の巻だけですが、他もほとんど同じだと思われます。で、待望の内容ですが、大したことありません。理論物理学教程を読んだことがある方ならお分かりだと思いますが、挿入されている「問題」は大抵が一筋縄では行かない(あるいはかつては論文になりえた)ほどの難易度です(もちろん、これくらい解けないとランダウ・スクールに入れないのかもしれませんが…)。それに比べると、この演習書の問題は、一部は教程から抜き出しただけのもありますが、より基礎的(標準的)な問題で、期待を裏切られてしまうでしょう。

とりあえず、普通の問題集としては丁寧で、サイエンス社や共立の問題集とは引けをとりませんが、理論物理学教程の名を関するには少々荷が重いと言わざるを得ません。

幾つか、目にとまった問題を紹介しましょう。

・運動量表示で演算子1/qを表せ。

・磁場中の電子のハミルトニアンからxとpのハイゼンベルグ方程式を書いて運動方程式を調べよ。

・上の問題で磁場中のディラック方程式のハミルトニアンで同じことをせよ。

・1/rのポテンシャル問題を1次元、2次元で解け(2次元は東大の演習の試験で出た)。

もう一つ、おまけに旧ソ連の問題集を紹介しておきましょう。「モスクワの森」というチャーミングな名前を持つ、この本はまだ入手可能ですが、これは演習理論物理学と違って(これは、理論の大学院入学を考えている人なら「誰でも解ける」というか解けなくちゃおかしい)工学部、あるいは実験向けの問題集です(ランダウの名前が前書きにあるのですが…。)。で、面白いけど解けそうで解けません。ほとんど全ての問題が実際の値を出すもので、非常に実践的です。例えば、原子物理(量子力学)の章から一問とってみましょう。

・太陽と似た恒星(自転周期10^6s、半径10^10cm、表面温度6*10^3K)について、スペクトルの光学部分(ω=10^15/s)でゼーマン効果を測定するとして、どの程度の磁場が観測できるか評価せよ。

演習理論物理学はパターン練習で解けるけど、これはセンスがいるね。