FAQ

・Q1 「物理学教程」で使われているコンベンションを教えて下さい。

・A1 最も気にかかると思われる電磁気の単位系ですが、基本的にCGIガウスです。現在の教科書で(特に実験系の場合)SIが使われることが多いのですが、高エネルギーではSIは使いにくいのでCGIにもなれて欲しいと思います。なお、場の理論(の他の教科書)ではCGIヘビサイドもよく使われて、こちらとガウスもマックスウェル方程式あるいは、クーロン力に4πの差が出ているので注意が必要です。また、計量のコンベンションは(+,-,-,-)を大部分で用いています。その他ではボルツマン定数をほとんどの箇所で1にしています(というか、こちらの方がはるかに自然です。ケルビンの存在価値は私にはわかりません。)。

・Q2 日本の物理学者で理論物理学教程を全てマスターした人はいないって本当ですか?

・A2 そういううわさもありますが、私には真偽のほどは分かりません。

・Q3 理論物理学教程は全ての物理の分野を網羅していますか?

・A3 残念ながら、そういうわけではありません。意図的に抜かされている強弱理論をはじめとして、経路積分の方法は全く記述されてませんし、固体理論などもそれほど詳しく書かれているわけではありません。また、統計力学で言えば、確率過程や数理物理学的色合いの強い、特殊なモデルハミルトニアンの解析なども省かれています。繰り込み群の解説も、Wilsonの仕事の解説もあることにはありますが、現在の立場から言えばかなり不十分と感じられるかもしれません。また、ランダウの業績が全て含まれているかといえばそうでもないようです。

・Q4 QEDの巻でP変換、T変換が変なような気がしますが?

・A4 確かに他の文献と比べてみると微妙に違うかもしれないので、ここで解説します。まず、P変換ですが、フェルミオンに対してP^2=-1のコンベンションを取っています。理論物理学教程では厳密に中性なフェルミオンが見つからない限り、P^2=1のコンベンションと区別する仕方はないそうですが、現在ニュートリノの質量などを考えてどうなっているのか、僕には分かりません。なお、現在ではP^2=1のコンベンションが普通に使われているような感触があります。次にT変換ですが、最も理論的にスッキリとした立場はおそらくT変換をアンタイユニタリと見なすことです。しかし、理論物理学教程ではそれを避け、直観的に分かりやすい(かどうかは知りませんが)様に、一貫して複素共役を取り始状態と終状態を入れ替えるという立場でいます。アンタイユニタリ変換の行列要素の作り方を良く見ると、本質的に両者は同じであることが分かりますが、(特に、始状態と終状態を入れ替えるので、演算子(=場)は複素共役を取ることに注意)混乱しないようにしましょう。なお、当然のことですが、これらの事情によって、物理的に重要なSマトリックスの性質(相反定理等)は変更を受けることはありません。

・Q5 統計物理学の巻を持っていないのですが、熱力学関数の名前が他の本と違ってよくわかりません。

・A5 自由エネルギー(free energy):ヘルムホルツの自由エネルギー。熱関数(heat function):エンタルピー。熱力学ポテンシャル(Φor G、thermodynamic potential):ギブスの自由エネルギー。熱力学ポテンシャル(Ω、thermodynamic potenatial):グランドポテンシャル。という対応になっています。

・Q6 ファインマンダイアグラムが変です。

・A6 うーん、変ですね。普通の本では左とか下とかどっちかが始状態、もう片方が終状態を表していて、時間の流れがダイアグラムの中にあるはずなんですが、理論物理学教程ではありません(泣)。というわけで、どのチャンネルを表しているのか運動量の符号などから自分で判定しなくてはいけません(交叉対称性を表しているという風に弁護もできますが)。特に中間状態が電子線2本だけとか、あのダイアグラムでどうやって判定してるのでしょうか?謎です(もちろん結果は間違ってません)。

・Q7 カルテックの図書館には(ファインマンの教科書でなく)壁一面にランダウ・リフシッツの理論物理学教程が学生用にびっしり置かれていて、学生はファインマン物理学でく、ランダウ・リフシッツで勉強すると言うのは本当ですか?

・A7 往年はどうであったかしりませんが、2015年現在では、一つの巻につき、版の違いを含めて数冊ずつ置かれている状況です。ファインマン物理学が授業で使われていないのはそうだと思いますが、ランダウ・リフシッツで勉強するかどうかはしりません。

・Q8 ロシア語におけるブラックホールの秘密とは?場の古典論で訳を変更したと言うのは??

・A8 まず、ランダウ存命中の場の古典論にはブラックホールと言う訳語はありませんでした。これは、ランダウが高尚な精神から不謹慎な単語を排除したわけではなく、当時はブラックホールと言う言葉で崩壊体に対応するシュバルツシルト解を表していなかったからです。ブラックホールと言う単語はウィーラーがその後に作り出したものです。さて、70年代の改訂で、ブラックホールと言う単語が登場します。英語版と日本語訳を比較しますと、(少なくとも)一か所、崩壊体と書かれているところが(訳者あとがきにあるように)ブラックホールに置き換えられています。ただし、ブラックホールと言う単語が何度か登場する以上、原著で避けられていたかどうかは明らかではありません。ロシア語を母語とする同僚に確認しましたが、ブラックホールと言う言葉がロシアで避けられるべきだったと言う主張すら初めて聞くようでした。この件に関しましては、さらなる調査中です。