場の理論ミニマム(作成中)

ウェブマスターの専門は場の理論(超弦理論を含む)ですが、たまに「弦理論をやるにはポルチンスキーを読まないと駄目ですか?」などの質問を受けます。

個人的な意見ですが、(もはや出版から15年以上たっている)ポルチンスキーを読む必然性はそんなにないのではと思いますが、

場の理論を勉強することはそれ以上に教養としても実際の研究においても大事だと思います。

たしか、ウィッテンも場の理論の勉強をするのが一番大切であると言っていたと思います。

そういうわけで、いくつか場の理論の基本的な教科書を集めてみました。

まずは、全体を俯瞰するために2冊。どちらも数学的な人には向かないでしょうが、場の理論の心を理解したい物理学専攻の人のための第一歩です。

Quantum Field Theory in a Nutshell (A. Zee)

難しい計算や理論の整備はとことん排除されている一方、場の理論の仕組みから応用として何ができるのかを「語ってくれる」教科書です。

技術的な計算ができることは重要ですが、「どうせ必要になった時には昔計算したことなど忘れている」ことが多いので、まずは全体の理論構造を把握することはとても大事です。しかも、(古めな)技術的な教科書にはない現代的な見方にも触れられていてよい本だと思います。

もちろん、計算が必要になった時にこの本をレファレンスにしてはいけません。

むしろ、物性や統計物理を学んでいる人にお勧めでもあります。

Scaling and Renormalization in Statistical Physics (J. Cardy)

とくに素粒子を専攻にしている人にお勧めです。

この一冊で場の量子論の「使われ方」に関する見方が変わると思います。

場の理論は「素粒子標準理論」と言う、非常に狭くて偏った、たいして面白くない場の理論の一例を記述するために存在するのではなく、私たちが住んでいる世界を統一的に理解する普遍的な言語であるという認識を私は持ちたいと思います。

トピックは多様ですが、やはり、繰り込み群の技術的な側面はかなり排除されています。

臨界指数をファインマンダイアグラムを使わずに最低次のイプシロン展開で求めていて感心するのですが、著者もちゃっかりイントロで自慢しています(笑)。

次に私が感銘を受けた教科書と言うことで、

Gauge Fields and Strings (A. Polyakov)

を挙げたいと思います。 Polyakov 先生は天才型なので、この教科書に書かれている内容は論理的には厳密でないし(時には間違っているし)、初心者が読んでも全くわからないと思います。

しかし、それでも場の理論の神秘を伝えてくれる名著(迷著?)です。

一応、ランダウスクールの流れに属していると思うのでここに載せるのも適当でしょう。

余談ですが、著者のセミナーも本と同じくらいわからないのですが、ご自身も「これ以上説明すると余計誰にも(自分にも)わからなくなるから説明しないが、これは正しい」とおっしゃっていたのにはみなさん苦笑していました。ちなみに、セミナーの内容は3次元イジング模型に対応するストリング(この本の最終章!)の最新動向についてでした。

続いてこのレベルの(翻訳でない)和書は少ないのですが、いくつか紹介したいと思います。

ゲージ場の量子論 (九後 汰一郎)

非常に丁寧にゲージ場の量子化が論じられているいい本です。ただし、初めにこの本から入ると気付かないのですが、著者の趣味が実は濃く表れていて主張の濃い本です。ちなみに、(これも著者の好みと信念を反映して)インスタントンを初めとする非摂動的な場の理論の解析については有効場の理論の方法を除いてほとんど述べられていません。

アノマリーのところで藤川法の紹介があるのですが、脚注でのユークリッド化についてのコメントが…。

相転移・臨界現象の統計物理 (西森 秀稔)

比較的新しい教科書ですが、上記の Cardy の本と被っているところは多いです。著者の専門であるランダム系の記述により詳しいです。しかし、誰かレプリカ法について正当性(またレプリカ対称性の破れの微妙さ)についてわかりやすく教えてください(涙。

くりこみ群の方法 (江沢 洋、鈴木 増雄、渡辺 敬二、田崎 晴明)

いつの間にか絶版で著者の一人も幻の教科書と呼んでいます。

著者が複数なのですが、担当箇所の記述にとても特色があらわれています。よく意見が一致したなと思うところもありますが、大人の人は邪推しないでください(笑)。内容は繰り込み群のかなりテクニカルな計算も丁寧に追ってあって、これまで紹介してきた場の理論の本より厳密性は高いです。ただし、厳密性を追っている分(と著者の趣味)によって扱う題材は限られています。繰り込み群にはこの教科書に載っている以上の美しい性質(たとえば単調性や共形対称性との関係など)が隠れているので、この本以上に勉強したいことはたくさんあります。

The Quantum Theory of Fields (S. Weinberg)

場の量子論の教科書として、「なぜ相対論的な量子力学では場の量子論を考えるか?」に対する答えを与えてくれる画期的な導入をしています。

ランダウ・リフシッツの最小作用の原理と対称性の考察による解析力学の導入に魅せられる人が多いように、Weinberg 的な場の量子論の導入の信者になる人は多いと聞きます(笑)。しかし、少し考えてみると場の理論が役に立つのは素粒子理論だけではない、あるいはラグランジアンの存在は必然か?などと大人になって考えると、これが本当に唯一の道であろうか?と疑問に思います。しかし、それにしても示唆に富んでいる本です。ただし、記法、特に3巻であえてマヨラナフェルミオン表示を使うところは注意してください。

(以下執筆中)