EPA DHAのこと
益田 豊
益田 豊
1970年代の終わりにかけて、国内の水産会社でEPAが話題になり、試作品が出回り始めた。事の起こりはアメリカでエスキモーの疫学調査が発表されたことに始まる。エスキモーが肉食にもかかわらず、高血圧の患者が少ないことが分かった。主食のアザラシの肉をアメリカ人が食べると、血圧が改善することが分かった。油を調べると、EPA DHAが発見された。日本の水産会社が調べると。青魚にも大量のEPA DHAがあることが分かり、高純度に精製したものがえられた。日本には魚油や鯨油を精製して肝油やビタミンADEを生産することが、水産会社で実施されていた。戦時中理研が軍事用に開発した“分子蒸留“の技術が普及していたのである。戦後余った肝油は学童に配られた。ADEは総合ビタミン剤や学校給食の栄養改善に利用された。EPAもDHAも高純度になると空気に触れると、酸化されて自然発火するのである。私は依頼先の日本化学飼料の函館工場に出かけた。“分子蒸留“とは、直径8メートル程の時計皿をひっくり返したような最高級のステンレス器具の頂点から、全体を覆うふたをしてから均一に油を流す。同時に減圧をかけて慎重に加熱する。実験は小さい器具で実施して,EPAの純度で35%、28%、25%のサンプルを採取し、窒素充填した。
温度35度、湿度30度以下で開栓し経時変化を見たところ、EPA含量35%未満であれば、すべてOKであった。早速、EPA28%DHA12%(EPAの比率により自動的にDHA含料は決まる)100gサンプルを作ってアメリカ武田に送り、サプリメントの製造会社フアーマバイト社に届けた。その後、正式受注で、トン単位となり、全米に普及した。
日水もマルハも仲間だったので、EPA28%を目標に精製すれば、DHAは12%となり安定した品質管理ができるという情報を伝えた。濃度はVEで保護された大豆油で希釈して、空気との接触を少なくする。これで、EPA DHAの含量を保証する10%のまし仕込みも可能になる。経時変化の試験は武田薬品人工気象室を使った。
日水は、日水製薬が担当し熊大薬学部出の人が担当し、35%の高純度にこだわったらしいが親会社を通じて、無理だと伝えた。
大塚製薬のFISH OILも逆輸入の日本製である。EPA28% DHA12%はデファクトスタンダードになっているらしい。
医薬業界や厚生省はこの種の情報はアンテナにかかりにくいようで、無関心であった。研究発表も、もっぱら農芸化学会、水産学会で盛んにおこなわれ。水産会社にとって、かって武田薬品はオイルビタミンの大口取引先であったので、何かにつけて話がしやすかった。商社ではこの部門に三菱商事が力を入れており、阪大農芸化学出身者を中心とした理系の社員が多かったので、よく相談した。阪大ではEPA DHAの許容量を調べて400mg以下になった。明らかなことは、中性脂肪を少なくして血管内部をきれいにするとゆうことである。コレステロール低下や血圧低下など、医療分野に触れることには距離を置いて健康に役立つ食品として、安全性、使用方法などを中心に注意事項をまとめることになった。水産会社は缶詰や魚の販売促進にも役立てることになった。
アメリカ市場は違った。国民の健康は政治の目標でもあり、具体的にヘルスケアーが総合的ビジネスとして展開されていた。ソフトカプセルを利用した生産に特化した会社がフアーマバイトのほかに2社あり、フイッシュオイルはブームになって、全米のサプリメントメーカーを通じて普及していった。濃縮して製造したEPA DHAについては、400ミリグラム以下であれば安全性の問題はない。缶詰や魚肉を調理して食べた場合には3000ミリグラムを越えることがありますが,特に問題はありません。時間をかけて少しずつ吸収されるためです。毎週2度以上の青魚の摂取は望ましいのです。
日本でも、厚生省が健康保険の出費を抑えるために、健康食品の導入を図る方針を発表した。アメリカのヘルスケアー政策に倣ったのである。
EPA DHAもサプリメントの逆輸入という妙な形で普及することとなった。
参考資料