コメント付き論文リスト

「与えられた針金(空間曲線)間を張る曲面のうち面積が極小になるもの」は極小曲面として知られ,物理的な立場のみならず,数学,数値解析の立場からもさまざまな研究がなされている.特に,1つの針金が与えられた場合,この問題は Plateau 問題と呼ばれている.この問題の面白いところは,与えられた曲線次第で解が複数存在することであり,一般には解の個数を特定することは不可能である.そこで,解を複数探索する高速な数値計算アルゴリズムが提唱できたらそれはとても有用であろう.このモチベーションに則り,本研究では,MFS に基づいた極小曲面の数値計算アルゴリズムを提案した.特に,複素歪曲率に着目してエネルギーを設定し,その最小化問題の解として(離散)極小曲面を求めることがポイントである.MFS を用いているため得られる近似曲面も滑らかであり,これは先行研究で用いられていた有限要素法と違った大きな特色である.本論文では,極小曲面へ収束する部分列の存在も示しており,MFS の極小曲面への初めての(理論的な保証つき)応用の成功例である.
    元々は,曲面上の流体現象を扱いたいたく,私が京大の助教だった時代から清水くんとは研究議論していたのだが,ここには書ききれない紆余曲折の後,本論文に辿り着いた.当初の想定とは全く異なる展開となったが,そのおかげでこのような面白い論文が書けたのは個人的にも大変嬉しい限りである.今後は,曲線の数を増やしたり,本研究に基づいて曲面上の流体現象を扱うなど,多くの応用が考えられる.

高次元における Kobayashi–Warren–Carter モデルの特異極限を求めた論文.1次元の場合は先行研究でグラフ収束に基づいた議論で集合値函数をうまく扱っていたが,高次元だとこの議論だとうまくいかない.そこで,スライスグラフ収束(sliced graph convergence)という新たな収束概念を提唱し,この位相で特異極限を求めた.私の貢献はほとんど何もないが,久々にゴリゴリの位相に基づいた議論をやった.
    この研究はさらに進んでおり,数学的にも数値的にもまだまだやることがありそうな予感がしている.特任研究員として儀我先生にお世話になった際に書いた論文1本で終わりかと思っていたが,これからも長い付き合いになりそう.

自己駆動体の数理モデルは以前より長山先生をはじめとする研究グループで積極的に研究されてきた.例えば,樟脳運動や液滴運動など様々なものがあるが,それぞれに対して数理モデルが提唱されており,統一的な見方は今までにされていなかった.この研究では,反応拡散型の1つの数理モデルで樟脳運動や液滴運動を表現できないかということを考え,実際に,積分型の体積保存項を入れた Allen–Cahn 型の数理モデルを提唱し,数値実験によりその有用性を確かめた.また,特異極限を取ることにより界面モデルを導出し,その数値計算結果と Allen–Cahn 型の数理モデルとで解の(大まかな)挙動が一致することを確かめた.さらに,この界面モデルは物理的に妥当なエネルギーの L^2 勾配流として表すことができることもわかった.
 バイドメインモデルの数値計算くらいしか反応拡散系に携わったことがなかったのだが,界面モデルの数値解析をやっていたおかげで長山先生からお声がけいただき,コロナ禍の真っ最中に岡山駅地下のスタバで研究議論したのが最初である.それから2年少々かかって論文まで辿り着くことができたので感慨深い.数学的にもやることが残っており,こちらについては京都大学の髙棹さんを交えて研究議論しようということになっている.共同研究を通じて色々と勉強することができて大変ありがたいので,これからもできるだけ頑張っていきたい.

矢崎先生と作り上げたスキームをもとに,磁場の影響が入った Hele-Shaw 問題の数値計算を行った論文.私は一切プログラムを書いていないが,等角写像論文で理解した天野の方法などの技を教え,数値計算がより安定に動くようになった.
    この論文はある意味で,今までで最も書き上げるのが大変だった.〆切有りの論文だったのだが,私に共著者に入ってもらえないかという連絡をいただいたのがおよそ1ヶ月前,初稿をいただいたのが2週間前あたりだったのだが,初稿が論文と呼ぶにはあまりにもだったので,9割以上自分で書き直してしまった.コロナ禍でオンライン授業対応をしたりの激務の中でよく書き上げたものだと自分自身を褒めたい.

博士課程在学中は,リーディング大学院プログラム FMSP のコース生として採用していただいたおかげで,副指導教員が割り当てられた.私は齊藤先生からのお勧めもあって俣野先生に副指導教員をお願いし,入学式のすぐ後に俣野先生の研究室で面談をした.その際に「今の研究内容に1本に絞りたいのか視野を広げたいのかどちらか」と問われ,迷わずに後者を選択した結果,月に1回程度のペースで俣野先生に反応拡散系のココロを教わり,私はその数値計算を少しずつ勉強することになった.そして博士課程を無事に修了できそうなタイミング(より正確には博士論文審査会直前)に俣野先生から連絡をいただき,バイドメインモデルの研究グループ(俣野先生,森先生,奈良先生)にお誘いいただいた.特に,森先生とは2〜3週間に1回程度のペースでミーティングしながら数値計算スキームを作り,余次元2の分岐構造まで見つけられたのは我ながらかなり頑張ったと思う.かなり多くの数値計算を行い,数値計算結果だけで論文を書き上げた.
    俣野先生からは,数学のみならずさまざまな事を教えていただいた.詳細はとても書けたものではないが,最終的に博士(居酒屋)の学位をいただけたのは,後にも先にも矢崎先生と私だけらしい.また,森先生にはこの研究の後にもお世話になり,現在も共同研究を進めている.

2つ下の論文の内容を,MSJ-SI「The Role of Metrics in the Theory of Partial Differential Equations」で講演した時の査読付きプロシーディングス.ダイジェスト的な記述になったが,内容は結構評価していただき,サクッと掲載された(が,実際に出版されたのはかなり後のはずなのに,出版日は2020年1月1日ということになっている).

Hele-Shaw 問題に対する構造保存型数値解析をした際に,時間離散化は行わずに空間離散化しか考えていなかった.そもそも,移動境界問題で構造保存型時空間離散化をしている結果はほとんどなかったため,何かできないかと思い,専門家の宮武さんに相談して共同研究し,出来上がった論文.私が京都,宮武さんが大阪にいらっしゃる関係で,お互いに行き来して(主にビールを飲みながら)議論して出来上がった.通常の微分幾何では,曲線のパラメータ付けの弧長微分として単位接ベクトルが定義され,そこから Frenet の公式を満たすように曲率を決めているが,この論文では,周長の第一変分を計算して出てきたベクトルから法線方向を先に定義することで,上手い時空間離散化を可能とした.
    この結果を龍谷で発表し,結果として応用数学研究奨励賞をいただくことができた.また,発表後の飲み会で降籏先生に「サラッとやればできるような事を言っていたけど,本当はかなり大変だったでしょ」とコメントいただいた.表には一切出さないようにしたつもりだが,やはり専門家の先生にはわかるようである.同時に結果自体も褒めていただいたので,より一層,移動境界問題の数値解析で頑張っていく気力が湧いた.

下までは主に博士課程までで行っていた結果だが,ここからは就職してからの仕事になる.博士の学位取得後に儀我先生にお声がけいただいて特任研究員として働くことになったので,折角なので何かしら仕事をしようということで手をつけたのがこの論文.金属の焼きなましの際の金属の結晶構造の時間発展を記述した数理モデルとして Kobayashi–Warren–Carter モデルと呼ばれるものがある.これは,多様体(具体的には SO(3))に値を持つ全変動流型の発展方程式と放物型方程式とのカップリングとして与えられるものであり,数学解析のみならず数値解析も困難である.そこで,今後の研究の第一歩として,多様体に値を持つ全変動流の数値解析を行った.具体的には,空間離散化は区分定数函数により与え,その時間発展を minimizing movement に基づいて行うというものである.多様体に値が束縛されることから単純に minimizing movement を用いると大変なことになるのだが,多様体上の値を指数写像を用いて表現し,その指数写像を線型近似することにより接空間上の最適化問題に帰着させることを思いついたのが大きかった.結果として近似解の一意存在,(時間刻み幅が十分小さい時の)エネルギーの単調減少性,フローの収束を証明することができた.
    主に,この時にD2(?)だった田口くんと毎週議論して研究を進めていた.また,夏休み冒頭に10日間北海道大学に出張し,そこで集中的に仕事をできたのは良い機会だった.昼はしっかりと仕事をし,夜は(何故か私が北海道に滞在することがバレていて)長山先生にだいぶお世話になって色々なところに連れて行っていただいた.長山先生には以前からお世話になっていたが,この時からよりお世話になり始め,その後に共同研究するに至る.なおどうでも良いことだが,儀我研のセミナーは金曜日にあり,セミナー後によく修士や博士の学生さんと飲みに行っていた.私が特任研究員としていたのは一年だけだったのだが,その翌年からはこんな感じで飲みに行くことはなくなってしまったそうである(私が飲みに行きたいオーラを醸し出していただけなのかもしれない).

最初に書いた論文で正則函数の有理函数近似を与える複素双極子法を提案し,その次に書いた論文で Jordan 領域における双極子法の数学解析を行った.そこでこれらを組み合わせることで,双方向の等角写像の数値計算をできないかと思い,実際に形にした論文.この論文では理論的にも2つの進展をもたらすことができた.1つ目は,等角写像の近似誤差を証明したことである.今までの先行研究では,複素指数函数の実部の近似に基本解近似解法を適用し,その共役調和函数として虚部の近似を求め,この虚部の部分の評価が与えられていなかった.しかしながら,Hilbert 変換を用いた簡単な議論により,虚部の近似誤差は実部の近似誤差と同じオーダーであることを示すことができた.2つ目は,特異点の点配置に関するものである.基本解近似解法に基づいた天野先生のグループの先行研究では,境界上に与えた選点から特異点を非常に単純なルール(天野の方法)で決めることで非常に良い数値計算結果が得られることを示してきたが,その理論的な考察はされていなかった.この論文では,Taylor の定理に基づいたシンプルな議論により,天野の方法が等角写像による配置の近似であることを示した.
    双極子法による等角写像の数値計算については,M2の夏に愛媛大学で開催された数学会で発表した.発表後に天野先生から「とても綺麗な結果で,今準備している本の内容を全て書き換えないといけないかもしれない」と言われるくらいに大変お褒めいただき,とても嬉しかった.ところで,この本が出版される気配がないのだが,いつ出版されるのだろうか.

Hele-Shaw 問題に対する構造保存型数値解析を基本解近似解法ベースで行った論文.かなり色々なアイディアが詰まっており,多角形曲線の時間発展の計算アルゴリズムの提案,仮想点&重み付き平均条件を課した基本解近似解法を提案して面積保存条件を厳密に満たすようにした,基本解近似解法の移動境界問題への本格的な適用を初めて可能にした等,個人的にはとても面白い結果であると思う.
    研究開始のきっかけは,2014年3月に学習院大学で行われた数学会で双極子法の数学解析を発表した時に矢崎先生から質問していただいたことであり,その後に Hele-Shaw 問題に適用できると思うのだがどうかと質問され,そこから共同研究が開始した.重み付き平均条件をうまく与えて面積保存条件を達成するようなスキームを思いついたのは,確か生田キャンパスで矢崎先生とホワイトボードに向かい合ってお互いに考えている時で,これを閃いた際はかなり興奮した.その後に,矢崎先生が仮想点を入れて不変スキームを構築できることに気がつき,合わせ技で見事にうまくいった.非常に紆余曲折のある研究であったが,外で発表できるようになって発表してからはかなりの反響をいただいた.
 一方,論文はなかなかアクセプトされずに苦労したが,最終的にはエディターから推薦されて無事に出版された.以前,確か室田先生が日本応用数理学会か何かで講演された際に「既存の結果の ε 拡張はすぐにアクセプトされるが,自信作に限ってリジェクトされるものである」と仰っていた事を身をもって体験したことになる.最初に某雑誌に出し,referee report で一人にかなりの難癖をつけられ,最終的には「提案した通りに記号が修正されていないからリジェクト」されたことは今でも根に持っている(もちろん,そのようなことを書いたレフェリーが誰なのかはわからないので追求しようがないのだが,あの記号の修正案は今でもセンスのかけらもないと思っている).

3Dケーブルモデルと呼ばれる,電気信号の伝播を記述する数理モデルの数値計算を MFS ベースで行った論文.元々は反応拡散系として記述されるものなのだが,色々と書き換えると,ある境界条件を満たす調和函数のペアを求め,それに基づいた時間発展を計算することになる.そこで基本解近似解法が使えるのではないかと踏んで数値計算スキームを構築した.実際にパルス解を求めることができたのは大変良かった.
    生田キャンパスで池田幸太先生による集中講義があったのでそれに参加した際に,いらっしゃっていた中村健一先生と議論して論文が出来上がった.中村先生には,学部1年生の頃に TeX と C 言語の基礎を教えていただいたのだが,それから月日が経ってこのように一緒に論文を書くことができたのはなかなかに感慨深い.

重調和方程式に対する通常の基本解近似解法では,重調和作用素の基本解を用いて近似解を構成するのだが,4階の作用素ということもあり,例えばこれに Laplace 作用素の基本解を加えて近似解を構成する等の工夫が必要である.一方で,Almansi 型分割を用いると,重調和方程式を満たす函数を求める問題を,2つの調和函数を求める問題に帰着させることができる.この定式化に基づいた基本解近似解法を提唱し,円板領域において近似解の一意存在および誤差の指数減衰を証明した.
    この研究は,チェコに滞在しているときにふと思いついて一気に進めたものである.そんなに大した結果出ないだろうと思いつつ論文として出版したのだが,自分の研究で一番引用されている.自分で結果の良し悪しを単純に判断するのではなく,しっかりと公表することの大切さを認識した論文でもある.

これも Hele-Shaw 問題に対する構造保存型数値解析を考える際に出てきたものである.Hele-Shaw 問題では Laplace 方程式の Dirichlet 境界値問題を解いてその法線微分が法線速度となるのだが,その際に用いる基本解近似解法で,特異点に加えて仮想点(dummy point)を導入し,対数函数の差を新たな基底函数とすることで,係数の平均が0であるという条件なしに不変スキームを構築できる.そこで,より一般に重み付き平均条件が0であるという場合を考え,円板領域において近似解の一意存在,および誤差の指数減衰を証明した.
    上で紹介する Hele-Shaw 論文に書けば良かったのだが,結構なページ数になってしまいそうだったため(かつそこまで凄い理論的な結果というわけではないので)JSIAM Letters で発表するに落ち着いた.

Hele-Shaw 問題に対する構造保存型数値解析を考える際に生まれた副産物をまとめておこうということでまとめた短い論文(下の論文とのページ数の差が激しい).室田先生による不変スキームの構成は対数函数の性質をフル活用しているが,それとは別のアイディアとして,スケーリングにより他の問題に対しても不変スキームを構築できるようにしたもの.
    矢崎先生の研究室で18時過ぎに議論して,その後に応用数理学会が開催されるまでの間に一気に書き上げた.レフェリーからの反応も非常に好意的であり,スムーズにアクセプトされた.

基本解近似解法の数学解析の多重連結領域への拡張は,室田先生による円環領域の場合しかなく,なんとかより一般の二重連結領域に拡張できないものかと思い,結構な時間を使って考え,とうとう通常スキームと不変スキームに対する解析を完成させた論文で,私の書いたものの中では最長(52ページ)である.
    通常スキームの解析は,M2の終わりの方に突如閃いて peripheral conformal mapping を2つ独立に用いて一般的な枠組みを構築することで,Jordan 領域の際の議論を拡張させることに成功した.桂田先生とのゼミの際に発表した時に「このような結果を示すことができるとは思っていなかった」と言っていただき,初めて指導教員を唸らせる結果を出せたと嬉しくなった記憶がある.ここまでで論文を書いてもよかったのだが,同時期に,緒方先生と桂田先生による,不変スキームの Jordan 領域における解析論文が出たので,二重連結領域でもそこまで結果を出さないとと思い,論文として発表するのが遅れてしまった.不変スキームの場合に適切な作用素を与えるのが非常に難しかったのだが,黒板を使ってずっと考えてダメで,終電に間に合うように駒場キャンパスから渋谷駅まで歩いて帰っている時に,ふと作用素の候補が降ってきて,家に帰るまでの間脳内で考え続け,帰ってからすぐにちょっとした計算をしたらうまく行ったので感動した.

下の論文で扱った双極子法は,元々は桂田先生の1989年の論文「A mathematical study of the charge simulation method II」の§5で提唱され,円板領域において解析がなされ,緒方先生の論文において等角写像の数値計算に応用されているが,円板領域以外での解析結果は存在していなかった.この論文では,Jordan 領域における双極子法の数学解析を与えた.
    投稿後にチェコ工科大学に3ヶ月の留学に行き,滞在中に referee report が返ってきたが,「英語が酷すぎるからちゃんと直さないと次はリジェクトするぞ」と言われたので,revise の際に初めて英文校正業者に出した.その結果は決して良いとは思えなかったのだが,個人的には英語表現で勉強になったところもあるので,ちょっとした勉強代として認識することにした(別論文でもう一度英文校正に出したが,それ以降は出さずとも英語で突っ込まれることはほとんどなくなった).また,この論文では referee が3人つき,3人目がよくわからないことを2回言ってきたのだが,最終的には担当エディターから3人目の書いてあることは無視して構わないと連絡いただき,常識的な範囲内の修正で終わった.博士課程の早い段階で BIT に論文を出すことができていたおかげで,外の研究集会に出て行って話をした際にも評価いただきありがたかった.

2011/10/25〜27 に開催されたRIMS研究集会「科学技術計算における理論と応用の新展開」に連れてきていただいた(初めての研究集会参加である).その中で,緒方先生によるご講演「電気双極子代用電荷法と数値等角写像への応用」をきき,大学に戻ってから先生と議論してこの内容が出来上がった.人間死ぬ気でやれば2週間で何かしら見えてくると身をもって体験し,そこからさらに頑張って数学会での講演申し込みまで頑張った.そのおかげで色々な先生方に認知していただき,博士課程への進学につながったのではないかと思う.なお,この時の講演を齊藤宣一先生に聞いていただいており,それから数値解析セミナーにお声がけいただいて参加するようになり,結果として博士課程の進学に繋がったと思うとなかなかに感慨深い.
    内容としては,双極子法を正則函数の実部として解釈することで正則函数の新しい有理函数近似を与えたというものであり,円板領域および円盤の外部領域で近似函数の一意存在,および誤差の指数減衰を証明した.論文として投稿するのをだいぶサボってしまった&査読を1年以上放置されたこともあり,出版されたのは2015年である.