アシナガグモ属幼体の見分け方

水田のメジャーなクモであるアシナガグモ類4種の形態的特徴を、サイズごとにまとめました。試作版ということで、全種揃っていませんが、徐々に充実させていく予定です。各個体の種名は、DNAの塩基配列(バーコード領域)に基づいて特定されています。

SUMMARY

・腹側の模様が種識別において重要

簡略版

●各種サイズ別の解説

体長:1-2mm

アシナガグモ Tetragnatha praedonia

腹側の2対の白い斑点が特徴的。

ハラビロアシナガグモ Tetragnatha extensa

アシナガグモの模様が斑紋状であるのに対し、ハラビロでは連続的な縦条を成す。腹部背面を走る網目状の模様もアシナガグモに比べて細い。

ヤサガタアシナガグモ Tetragnatha maxillosa

腹側は基本的に無紋 or 腹側後半に一対の斑点がある。

トガリアシナガグモ Tetragnatha caudicula

腹部の縦条模様ははっきりしておりハラビロアシナガグモに似る。腹部の先端がとがっていることで区別できる。

シコクアシナガグモ Tetragnatha vermiformis

無し

体長:3-4mm

アシナガグモ Tetragnatha praedonia

腹部両脇の(白い)縦条はあまり目立たない or 中央部で途切れている。

ハラビロアシナガグモ Tetragnatha extensa

アシナガグモに似るが、腹部両脇の縦条が太くてはっきりしている。

ヤサガタアシナガグモ Tetragnatha maxillosa

腹側は無紋 or 鱗片状の黄色い模様がちりばめられている。

トガリアシナガグモ Tetragnatha caudicula

腹部先端が尖っているので、他種と容易に区別可能。腹側の一対の縦条も特徴的。

シコクアシナガグモ Tetragnatha vermiformis

無し

体長:5-6mm

アシナガグモ Tetragnatha praedonia

腹部中央の黒い条が特徴的。両脇の(白い)縦条はあまり目立たない or 中央部で途切れている。

ハラビロアシナガグモ Tetragnatha extensa

アシナガグモに似るが、腹部両脇の縦条が太くてはっきりしている。

ヤサガタアシナガグモ Tetragnatha maxillosa

腹部の腹側は無紋。

トガリアシナガグモ Tetragnatha caudicula

無し

シコクアシナガグモ Tetragnatha vermiformis

無し

おまけ1: シコクアシナガグモT. vermiformis と思われる個体

シコクアシナガグモと思われる個体(+シコクアシナガグモの成体)は今回、上手くバーコード領域を増やすことができなかった。

参考までに、実験に使用した個体の画像を掲載する。右端の個体は腹側中央の黒条が目立つが、通常は白い鱗片で覆われる事が多い。

おまけ2: 腹部形態の変異

アシナガグモ Tetragnatha praedonia

背面の隆起が本種の特徴とされるが、そうでない個体も存在するので注意が必要。

ハラビロアシナガグモ Tetragnatha extensa

腹部背面の隆起はみられない。

おまけ3:ヒカリアシナガグモ T. nitens

本種の識別点を記述したかったが、近場で幼体が手に入らないため、実現できていない。南方系の種で西日本に多いが関東の水田でも稀に見られる。腹部の模様は黄色い縦条が幅広く、ハラビロアシナガグモに似る。しかし、体形がずんぐりしており、割と見た目でも区別はつく。また人工的な環境を好み、建物の外壁にも網を張る。習性はアシナガグモ T. praedoniaに似る。

愛媛県松前町

●水田のアシナガグモ属の種組成にみられる地理的変異

水田内(畦畔は除く)で見られるアシナガグモ属は地域によって異なります。北海道から沖縄県まで各地の水田で調べましたが、総種数は7種、一地点で見られる種数の幅は1~5種でした。南にいけば生き物の種数が増える…というイメージがありますが、必ずしもそうではなく、栃木・福島など北関東・東北南部で種数が最大になる傾向が見られました。南はヒカリアシナガグモが優占する傾向があり、北ではハラビロアシナガグモが多く見られます。必ずしも各種の分布域と対応していないこともあり(潜在的に分布はしているが、田んぼでは見られない…など)、種間関係や水田周辺の環境利用も関係しているのではないかと推測しています。現在、この地理的パターンを形成する要因について探っています。

参考文献

 ・Baba YG, Tanaka K 2016. Environmentally friendly farming and multi-scale environmental factors influence generalist predatory community in rice paddy ecosystems of Japan. NIAES Series No.6 The Challenges of Agro-Environmental Research in Monsoon Asia, 171-179. PDF