命名したクモ

1. ミナミヤハズハエトリ: Mendoza ryukyuensis, Baba 2006

分布:トカラ列島(中之島, 諏訪瀬島)、奄美大島

同属他種に比べてオスの体が細長く、かつ第一脚が長いのが特徴です。ハエトリグモの中では比較的大型で目立つにも関わらず、つい最近まで記載されていませんでした。2014年までに3島でしか記録されていませんが、周辺の島々にも分布しているものと思われます。

Baba 2006 Acta Arachnologica 55:107-109

2. ワイノジハエトリMarpissa mashibarai, Baba 2013

分布:本州(山口県・東京都)

山口県の秋吉台および東京都二十三区内の荒川のほとりで発見されています。全国的に広く分布するものと思われますが、採集例はわずか5個体にすぎません。模様がユニークで、その外見から同属の他種と容易に区別することができます。 和名は、第一脚から腹部にかけての黒い模様が「Yの字」に見えることに由来しています。本種の学名の由来や記載にまつわるエピソードが山口新聞で紹介されています。

Baba 2013 Acta Arachnologica 62:51-53

3. クマドリハエトリMarpissa yawatai, Baba 2013

分布:本州(千葉県)、奄美大島、沖永良部島

10年以上前に千葉県の野田市・流山市で採集された種ですが、最近やっと記載できました。種小名は、発見者である八幡明彦氏(故人)に由来し、和名は、オスの頭胸部の白地に赤い模様が、歌舞伎の隈取(くまどり)模様に似ていることに由来します。雌雄で模様が全く異なり、メスの頭胸部には人の顔のような模様があります(写真参照)。湿地や、ため池などで見られますが、乾燥した農地でも見られるそうです(須黒 私信)。全国的に広く分布すると思われますが、地表面に生息するため、人目に付きにくく発見例が少ないと考えられます。

Baba 2013 Acta Arachnologica 62:103-107

4. シマヤハズハエトリMendoza suguroi, Baba 2013

分布:琉球列島(沖永良部島、沖縄島)

種小名は採集者の須黒達巳さん(元・筑波大学)に由来します。和名の「シマ」は、オスがもつ特徴的な「縦縞(タテジマ)」と採集場所である「島」の2重の意味を持ちます。雌雄ともに模様がユニークで同属他種と容易に区別することができます。今のところ、沖永良部島と沖縄本島でしか見つかっていませんが、近隣の島にも生息していると考えられます。貴重な記録となりますので、見つけた方は一報ください。

Baba 2013 Acta Arachnologica 62:103-107

5. ヨシタケイヅツグモAnyphaena yoshitakei, Baba and Tanikawa 2017

分布:琉球列島(宝島、沖縄島)

種小名と和名はタイプ標本を提供してくださった吉武 啓博士(農研機構・農環研)に由来します。外見や生殖器は、イヅツグモやAnyphaena taiwanensis に似るが、識別可能。

Baba and Tanikawa 2017 Acta Arachnologica 66:31-33

6. オオサワヒメアシナガグモGlenognatha osawai, Baba & Tanikawa 2018

分布:小笠原諸島(聟島・媒島)

聟島と媒島からそれぞれ得られた雌雄一個体の標本を基に新種として記載しました。オス触肢の形状で他種と区別することができます。種小名と和名はタイプ標本を提供してくださった大澤剛士博士(元農環研・現東京都立大学 准教授)に由来します。

Baba & Tanikawa 2018 Acta Arachnologica 67: 39-42.

7. ヤマヒメアシナガグモPachygnatha monticola Baba & Tanikawa 2018

分布:本州(長野県)

長野県で得られた標本を基に新種として記載しました。ヨツボシヒメアシナガグモによく似ています。

Baba & Tanikawa 2018 Acta Arachnologica 67: 39-42.

8. アカオビハエトリSiler ruber, Baba, Yamasaki &  Tanikawa 2019

分布:中琉球(奄美大島・沖永良部島・沖縄島)

カラオビハエトリによく似た種でこれまで同種か別種か不明でしたが、形態観察とmtDNAの部分塩基配列に基づく系統解析により、明確に区別できる別種であることが分かりました。なお論文ではSiler rubrumで記載していましたが、種小名と属の性が一致していなかったため  rubrum ruber と種小名の語尾が正されました。うっかりしていました。

Baba, Yamasaki & Tanikawa 2019 Arachnology 18(3): 354-357.

再記載

1. カラオビハエトリSiler collingwoodi, (O-.P-. Cambridge 1871)

分布:八重山諸島(西表島・石垣島)

西表島の標本を元に日本新記録種として再記載した種ですが、いろいろと問題があります。1) 本種と思しきクモは南西諸島に広く分布しますが、奄美地方のものは体色や♂の触肢形態が若干異なるため、それらが同種かどうか検討の余地があります。現時点では八重山諸島以外のものはオビハエトリグモ属の一種、Siler sp.とした方が無難だと思います。 ⇒別種であることが分かりました(Baba et al. 2019 Arachnology)2) 本種を再記載したProzynski(1985)によると、原記載とタイプ標本との間に著しい情報の不一致があるようです(池田, 2012)。氏の論文を根拠に日本産のものをS. collingwoodiと同定しましたが、将来的には本種の正体を再検討する必要があります。これらの問題解決にはかなり時間がかかりますが、地道に調査を進めたいと思います。

参考文献: 池田博明 2012 幻のカラオビハエトリ. Kishidaia 100 80-82.