IDDP特別講演会 議事録

「国際協力NGOの働きとNGOで働くということ」

~ワールド・ビジョン・ジャパンの支援活動とその中で求められる人材像や能力を例にして~

講師:ワールド・ビジョン・ジャパン 支援事業部 今西浩明氏

1.自己紹介

①なぜ途上国で働きたかったのか?

理由:生まれる国が違うだけなのに、なぜこんなに環境が違うのか。なんとかしたい。

②青年海外協力隊でバングラデシュへ

・職種/任地:稲作、延長含め3年1か月、世界最貧国の東北部でインドとの国境が近い、僻地を希望していたので嬉しかった。

・要請(任務):農村開発局で組合を通して農業や地域振興を図る

③帰国後調整員でネパールへ

・協力隊の調整員の募集に応募、合格。※調整員とは、隊員をサポートする立場

ネパール語とベンガル語が似ていたが、現地で隊員の現地語学訓練をする学校に通ってネパール語を習得した。任期を1年半延長して合計3年半滞在する。

④米国フラー神学大学院世界戦教学部異文化研究学修士課程

・経済的、社会的、物質的に豊かになっても、人間的に発達しなければいけない、そこをベースにした開発を勉強したい。

・私のバングラデシュに滞在中に、現地調査をしていたフラー大学院のPh D.の方の紹介

⑤イギリスのサセックス MA Rural development

・本格的な開発学も勉強したかった。

⑥ワールド・ビジョン・ジャパン

・信仰のバックグランドが同じ

・バングラデシュの元協力隊員であった妻が元ワールド・ビジョンのスタッフだった。

・International Officeが留学先のフラー神学大学院に近く訪問したことがある。

2.ワールド・ビジョン・ジャパンの働き

①ワールド・ビジョンについて

・1950年第二次世界大戦の孤児の支援、米国の宣教師(創始者)から始める

創設者の経験 -中国の孤児院がいっぱいで預けられなかった1人の孤児への支援から始まった。

・哲学:「何もかもできなくとも、何かはきっとできる」

②活動データ(全世界)

・活動国:97か国

・スタッフ数:4万5000名 -WVJ約80名

・チャイルド・スポンサーを紹介されているチャイルド数:430万人 -WVJ 61,313名

・総収入額:45億6340万円(WVJ)

・組織Global center:全世界のコーディネート

Regional Office:

7 regions(東アジア/南アジアパシフィック/中東東ヨーロッパ/東アフリカ/西アフリカ/南アフリカ/中南米)、ストラテジーの決定やリソースアロケーション、テクニカルサポート

National Office: 各国での支援事業の実施

Support Office: 主にファンド・レイジング、現場での支援事業実施をサポート

・課題:ファンド・レイジングの伸び悩み(2010年頃より)

・寄付金:1チャイルドにつき4500円/月

③ワールド・ビジョン支援3本柱 ~開発支援‐緊急人道・復興支援‐アドボカシー~

1) 開発支援― TD(Transformational Development)

Mission Statementの一部

主であり、救い主であるイエス・キリストに従い、人々の生活に変革をもたらすために、貧しく、抑圧されている人々とともに働く。

定義

人間として尊厳を持ち正義と希望に満ちた人生へと、子ども、家族、コミュニティが 継続的に変わっていくプロセスをもたらす開発。肉体的、精神的、霊的、社会的、経済的、政治的、自然環境的な範囲にまで及び、個人、地域、国家、そして 地球規模のレベルにまで視野にいれる。

以下の6つの領域において、対象地域が社会的・経済的・霊的な変革をして行き、地域全体が自立してゆくことを目指す。

1.Well-being of children, and their families, and communities, Child wellbeing

2.Empowered children to be agents of transformation

3.Transformed relationships

4.Interdependent and empowered communities

5.Transformed systems and structures

6.Transformed donors

Transformational Development Indicators (TDI)(子ども、家族、コミュニティでのTDの状態を表す指標)

変革が期待される領域

○子どもたちやその家族、地域全体が心身ともに健康な状態となる

○こどもたちが変革の主体となるように力をつけさせる

○関係・結びつきが変革される

○連携を通して地域が力を持つようになる

○社会構造とシステムが変革される

2)緊急人道支援(HEA:Humanitarian Emergency Affairs)

・規模:災害や紛争の大きさや犠牲者の多さでカテゴリー1~3に分けている。

・支援:ワールド・ビジョンの支援の規模により、national response, global responseに分けている。

・意思決定:ナショナルオフィスが判断し、適宜支援を求める。クイックアセスメントでニーズ把握

・事例:食糧緊急支援、東日本大震災

東日本では約40億円の収入。緊急期、復興期、移行期を経て昨年3月で3年間の活動終了

3)アドボカシー 近年強化している分野。一昔前までジャイアントスリープといわれていた

・「政府」と「市民」への働きかけ

・子ども支援として、他のNGO(セーブザチルドレン、プランなど)と協働して活動

・仙台で世界防災会議、災害防止で子どもと参加

・一般社会、政治家への働きかけ、→ 政策提言書を提出

・人身取引、ユニバーサルヘルスカバレッジ 子どもの栄養改善等の活動も

・ドイツでG7 SDGsの働きかけを行っている。ほかのNGOと協力

3.チャイルド・スポンサーシップによる具体的な支援活動

①財源

チャイルド・スポンサーシップがメインの財源 (10~15年の協力)

顔と顔、心と心を結ぶ支援。支援することでドナーが貧困の現実を知り、また、被支援者の子どもたちや家族が愛を受け取り、心や生活に変化をもたらすことができる。

・支援者は個人的な成長の記録を写真と手紙で受け取ることができる。地域開発に関する報告書も送付される。

②目的、目標

「家族やコミュニティの中での子どもたち、特にもっとも脆弱な子どもたちの持続される健やかな成長

1.心身健やかに成長すること

2.良好な社会・人間関係を持つこと

3.尊重・保護され、参加する機会が与えられ、社会的公正を実感できる環境にあること

③支援国、支援地域、チャイルドの選定…スライドNo?参照

国選定の基準:HDIやニーズが基本、支援者のニーズ等も考慮する場合もある

支援地域や活動内容・分野:他機関や政府との棲み分け、現状とのバランスも考慮。

例:インド初等教育…政府、中等教育…WVJ

チャイルドの選定:基本的に地域の中で、最も貧しい子ども

その他:学校へ子どもを行かせることを妨げない家庭 決してWVが無理やり行かせルのではなく、保護者が行かせるようにする。成績は保証するわけではない。

4.求められる人材像や能力

①組織概要

国内スタッフ約80名

②求められる資質、能力(全スタッフ)

・知識能力

・コミュニケーション能力

・ロールモデル

③求められる資質・能力(海外支援事業)

・課題の抽出と共有

・企画立案

・事業の受益者の変革の追及と実行

・業務遂行・実行能力

④必要な経験(海外事業担当者)

・NGOはジェネラリストが多い。しかし、専門分野も大切。

・駐在のスタッフは助成金事業を担当、事業の実施にかかる実務は現地スタッフが担当、駐在員はモニタリングをする等ジェネラリストの仕事が多くを占める。

⑤自分を動かし続けるもの

・貧困の人々、難民、被災者に対する熱い思い、この世の中の不条理を変えたいという思い

・Don’t stop doing something just because you can’t do everything.

付録

NGOの仕事で生活は成り立つのか

・社会保険、健康保険、残業手当を出している。

・シニア…チームマネージメント

スタッフ評価、それぞれの目標をたてる、4分野で評価

※いただいたお金は預けられたもの…フィールドで使うと同時にスタッフや家族を大事に活動する。

質疑応答(抜粋)

Q:財源、助成金以外にあるのか、各財源がどれぐらいの割合か

A:スポンサーシップは72%。クリスマス募金や夏季募金などが10%、その他17%がJICA草の根パートナーシップ 外務省NGO連携無償などの日本政府系の助成金や、グローバルファンドからHIVAIDSマラリア対策や国連系(WFPから食料なども含む)など国際機関からの助成金となる。

Q:ファンドレイジングで新規のスポンサーをどのように開拓しているのか、継続的な支援をするためにどういった策をとっているのか。

A:新規獲得:毎年11月12月に新規スポンサー獲得のキャンペーンを行っている。昔は新聞広告などが多かったが、今は交通広告、雑誌の広告、検索サイトなど、複数の媒体を利用している。特に最近はSNSを使ってWeb関係、テレビ番組が多くなっている。新規支援者の申し込みではテレビ番組での申し込み数は多いが、実際に入金までつながる率は他の媒体に比べると低い。

継続するための支援:マイワールドビジョンというページを使い、自分の子どものプロフィール、自分の募金の状況やプロジェクトの成果等を表示し、臨場感をなるべく感じてもらうようにする。子どもとの手紙のやり取りも継続するための動機付け。そのため現地語→英語→日本語、という手間をかけている。プレゼントなどは極力なし。現地での不公平感がないように。ITの導入でライブ感の演出も試みている。

A:募金は実際子どもにどれぐらい行くのか。

Q:4500円中72%を海外に送金 グローバルセンターのための経費も含まれている。地域支援プログラム全体の予算規模の割合は、地域の状況によってまちまち。子どもに直接(物品など見える形で)支援が行くことは少なく、地域全体の開発ということで支援していく。例えば、収入向上の研修を父親が受けることで家計の収入が向上し、子どもと地域のWell-Beingが向上して行くような支援の仕方。支援者には理解していただいている。