第6回勉強会 議事録・発表資料

日時:2015年4月18日 13:00~16:00

会場:Institute Of Education (UCL) Level 3: S13教室

講師:藤田 早苗氏

第一部:開発と人権

人権法とは

• 法律家が専門とする難しいイメージがあるが、開発分野にも密接に関わっている。

• 国際人権法に関する教育プログラムは、日本よりもイギリスの方が進んでいる。

• 第二次世界大戦までは、国内の人権問題に国際社会は干渉してはいけないという風潮があり、監視が行き届かなかった為ナチのホロコーストも防げなかった。

• 国際連合の設立時、人権を国際的な関心事項とする為、国連のマンデートの1つとして国連憲章15条に人権を入れ、更に実施の為具体的に様々な条約を採択してきた。

• エセックス大学においては12月初旬はHuman Rights Week。1948年の12月10日に世界人権宣言が採択され、毎年12月10日は国際人権Dayとして人権に関する様々な企画が各国で行われる。だが去年の12月10日に、皮肉にも日本政府は秘密保護法を施行した。

国際人権規約と人権機関

• 世界人権宣言の認知度の調査結果は、国際的な平均は56%だが、日本は25%と低い。

• 人権には生命の自由や拷問を受けない自由、表現の自由などの自由権といわれるカテゴリーだけなく、居住、食料、健康や教育など、社会権というカテゴリーがあり、開発分野にいる皆さんと深く関わるものも人権である。

• これらが条約になったのが国際人権規約で「経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約(社会権規約)」と「市民的、政治的権利に関する国際規約(自由権規約)」があり、日本は両規約とも批准している。宣言だと法的拘束力はないが、条約だと加盟国は法的義務を負う。

• 両規約以外にも国連は多くの人権条約を採択しており、それぞれの条約委員会が各国の実施状況を監視している。

• 国連はまた人権理事会を設立し、様々なテーマや国について調査・研究する独立専門家である「特別報告者」を任命している。

例えば、二代目の健康への権利に関する特別報告者であるAnand Grover氏は対象国として日本を選び、福島の人々の健康の問題に関し詳細なレポートを提出した。

開発と人権

• 推奨する文献:“Human Rights and Development”著者Mary Robinson氏(元アイルランド大統領・元国連人権高等弁務官)とPhilip Alston.

• 1960年代のアフリカ諸国の独立による国連の加盟国層の変化に伴い、70年代には、「発展も人権問題であり、一国のみでは克服困難な問題に対し、人権の観点から取り組むべき」という議論が起こった。途上国によって後押しされていた。

• 1986年に「発展の権利宣言」採択。重要な成果は一国では解決困難な問題への対処を呼び掛けた事と、開発と人権の相互不可分性を明らかにした事。

• 国連ではアナン事務総長時代、人権は国連の全てのマンデートと密接に関わるとし、人権の主流化が提唱された(1997年)。

• 近年、特に社会権を専門にする国際人権法学者や活動家が、人権条約の内容をアンパックし、人権の原則を開発の実務に活かそうと試行錯誤してきた。国連人権委員会も、開発のプロセスに人権を織り込む為に働きかけてきた。例:「参加的」「非差別」「アカウンタビリティ」「透明性」

事例:健康への権利 3A+Q(Availability、Accessibility, Acceptability, Quality)

→実施の観点で文化的な側面も取り入れる必要性。の医療施設は、Available且つPhysically accessible でCulturally Acceptable、また十分なQualityを保障すべき。

開発金融機関、融資と人権

• CSR(企業の社会的責任):特別報告者ジョン・ラギー氏の報告書(ラギー・レポート)

→企業は人権を「尊重」し、国家は企業から人権を「保護」し、且つ法的枠組みに則り人権侵害から人々を「救済」すべし。

• 開発金融機関と人権の関わりは3通り。1.人権侵害を行う融資先に融資するべきかという、受入国の政治的状況と銀行の問題2.開発金融機関が引き起こす人権問題。ダムや道路建設時の強制立ち退き等。3.開発分野からの貢献。

• 世界銀行の憲章、世銀協定の4条第10項には、「融資決定の際、受け入れ国の政治的な状況は考慮してはならず、経済状況のみを考慮すべき」とされているが開発金融機関では人権=政治的事項と考えており、経済問題ではないので人権を考慮してはいけないと解釈した。

1960年代:アパルトヘイト時代、南アに融資していた世銀・IMFが国連の人権委員会に初めて取り上げられたが、両機関は非政治的な機関であると主張し融資を続行した

• 重大な人権侵害が行われている国への融資に対して、米国理事は理事会において反対しなければならい、と規定する米国の国内法成立に伴い、世銀は人権問題への対応を求められた。

→結果:「人権侵害が起きている国は融資償還に支障をきたす可能性があり、政治問題の経済への影響は世銀の関心事項」だと考慮し始め、南アやミャンマーへの融資を取り止めた。

1980年代:世銀が行うプロジェクトがもたらす負の影響への懸念・批判。

1990年代:世銀は社会開発プロジェクトを開始、正式に人権問題に取り組み始めた。

• ADBも「非政治性」を主張する設立協定があり、世銀同様に批判されている。

• 開発金融機関の総会は貧困削減を議論する場であり、開催国にとっては名誉だが出費も大きい。世銀やADBの総会ではCivil societyとのセッションがあり、NGOから要望、意見を言う場が設けられている。

第二部:情報への権利と世銀、ADBそして日本

• 1946年に開かれた第1回の国連総会決議で、「情報の自由は基本的な人権であり、国連が関与するすべての自由の試金石」と宣言。国連ができた翌年に、情報の重要性を国際社会にアピールした。

• 情報へのアクセスは、すべての人権の要石であると考えている。

• 世界人権宣言と自由権規約のそれぞれ19条には情報の権利が規定されており、それには情報を求めけるだけではなく、国境を越えるか否かに関わらず自ら発信する自由も含まれる。

• ロンドンに「ARTICLE19」という国際的に著名なNGOがあり、表現の自由や情報の自由を専門に活動している。MDGの実現のための透明性の重要性などもテーマにして議論してきた。

• 情報への権利の原則:「まずは公開を前提とすべし」と考えるPresumption in favour of disclosure)公開が前提で、必要があればそこに制限を加えていくのが本来のやり方。

• ただし、制限を加える場合も厳しい条件を満たす必要があり、政府が非公開にしたい情報でも、それを公開することによるリスクと利益をはかりにかけて、公共にプラスの要素がリスクよりも大きい場合は公開しなければならない。非公開にする場合は、国際スタンダードにそった形で非公開にしていることを自ら説明しなければならない。

• 国際金融機関の内規:職員が守らなければならない内規において、先住民への配慮、環境配慮と並んで、情報公開についても規定があり、職員はこれを遵守しなければならない。

• 世銀、ADBの情報公開政策:2005年、全ての国際機関の中でADBが最初に「まずは公開を前提とすべし」と考えるPresumption infavour of disclosure)という原則を適用した情報公開制度を作った。世銀は2009年に従来の情報公開政策を改訂してこの原則を盛り込んだ。(必ずしも世銀がいつも進んでいるとは限らない)。

• 日本の秘密保護法:閣議決定後に初めて公開されて、その後6週間で採決。その起草過程は不透明で非民主的であり、法律の内容も問題が極めて多い。

• 国連特別報告者であるフランク・ルー(表現の自由担当)は、秘密の特定根拠が広範囲であいまい、ジャーナリストも逮捕される可能性がある、との憂慮を表明。

• 国連高等弁務官であるナビ・ピレイは、法案の慎重な審議を政府や国会に促した。

• 自民党の改憲案では表現の自由への制約が強まり、拷問も可能になる文言になっていて、人権条項が削除されている。

• 政権による近年のメディアへの圧力は強まる一方である。海外のメディアも日本のその問題を報じている。

<フランク・ルーのビデオメッセージ>

• 表現の自由は、二つの方向で行使する権利。第一に、どんな情報にでもアクセスできること(特に公共の情報)、第二に、自分の考えを広げられること(表現の自由)。

• 私たちは、自分の意見や気持ちを、情報を得ることによって形成し、それを表明する。従って、情報へのアクセスは重要で、民主主義社会において不可欠。

• また、政策一般を知る上でも重要。経済的な情報等だけではなく、決定に至る過程等について知ることも含まれる。

• 公開の例外については、1. 法に明文化されたもの、2. 損害や他の人権侵害を防ぐために必要であること、3. 秘密保護期間はその人権を守るために必要な期間に限定されるものであることでなければならない。

• ジャーナリズムについて。基本的に、ジャーナリズムは、「市民の立場」に立って権力を監視しなければならない。

• 報道の自由度ランキング、日本は2010年には11位だったのか、2015年には61位にまで急落している。

(了)

質疑応答(抜粋)

(質問)人権と開発について、人権条約に基づく国家の義務はあるものの、法的拘束力がない。例えば、日本での難民受け入れは少なく、現実的にはNGOの支援活動が中心。こういう状況において、政府に対してどのように働きかければ効果的と考えるか。

(回答)どのように対応するかについては、まず世論が高まる必要がある。日本が締結している条約内容も、負っている義務に関してもメディアは取り上げないし、知っている人も少ない。メディアのモラルの問題もあるかもしれないが、知る事は大事。条約については、個人通報制度がある。これは、人権侵害を受けた個人が国連に通報できる制度だが、日本はこれを規定した選択議定書に批准していない。これに批准すれば、裁判官も必然的に国際人権条約について勉強することになると思う。その他、例えば移民に関する日本の判決について、英語にして国際社会に訴えることも考えられる。

(質問)人権という考え方は第2次大戦後に西洋の文化として日本に入ってきたと考える。西洋の文化と比べ、アジアは遅れているように思うが、地域的・民族的な違いが、人権への取り組みに対する温度差につながっているのではと考えるがどうか。

(回答)エセックス大学では、アジアにおける人権に関する授業はない。また、アジアには国連の地域人権機構がない。このような現実が、地域的な違いという意味で一つの答えになるかもしれない。アジアでは比較的人権の概念が確立されていないのでは、とよく言われる。個人の権利を国家に主張するという考え方がアジアでは少なく、コンセプトが違うように感じる。

発表資料

開発と人権

情報への権利と世銀、ADBそして日本