第3回勉強会議事録

ディスカッションテーマ: Social Justice 開発学の正義について

1. 教育に使用する言語に関わる公平性~English or Mother-tongue? In 南アフリカ

2. 洪水に対する社会的脆弱性の評価方法

日時: 2013年12月21日(土)

場所: 日本クラブ(NIPPON CLUB)

ファシリテーター: 礒谷千恵 氏 Institute of Education MA Education and International Development

菅良一 氏 King’s College London MA Disasters, Adaption and Development

University of Oxford ,MSC Water Science, Policy and Management


<第1部>

【南アフリカにおける言語使用状況についてのプレゼンテーション】

・南アフリカにおける旧支配層はイギリス系とオランダ系。英語とアフリカーンス(オランダ語と現地語が混ざった言葉)を話す。

・人口はアフリカ系が79%、ミックスが9%、イギリス系とオランダ系合わせて9%、残り3%がインド、アジア系。

・アパルトヘイト崩壊後、英語、アフリカーンス語、現地語9つ(ズールー語、コサ語、スワティ語、ンデベレ語、ペディ語、ツワナ語、ソト語、ツォンガ語、ベンダ語)を含めた11言語が公用語として認められる。英語とアフリカーンス語を母語として話す人の割合はそれぞれ10%、13%程度。

・生活の中にはかなり英語が浸透している。メディアは英語が大半、大学教育も英語かアフリカーンス語で行われる。ズールー語、ソト語などのメディア媒体もあるが、一方でベンダ語、スワティ語、ツォンガ語は全く使われていない。行政で使用される言語は、国レベルでは英語かアフリカーンス語。州レベルではズールー語などが使われる場合もある。

【ディスカッション】「あなたが南アフリカ政府だったら、義務教育課程においてどの言語による教育を推進するか。」

母語推進派

・教育の質を守るため

・教師の英語力が十分でない。児童への各教科に関する評価も難しい。

・児童の理解度、学習意欲の向上

・文化、民族的アイデンティティーの維持

・母語の発達が何よりも重要。英語は外国語として教えればよい。

・世代間の交流を促す

英語推進派

・高等教育、将来のビジネスにおける英語の必要性

・他の民族、国との交流に有効

・教材、人件費などコストの問題

・11言語全てを均等に教えることは現実的でない

折衷案

教科によって言語を変える(数学などは英語で行い、国語・道徳などは母語で)

【まとめとフィードバック】南アフリカにおける教育の現状

政府は11言語を公用語として認めたため、子どもたちには自分が学びたい言語を選ぶ権利があり、政府はその環境を整える義務があると定められている。つまり制度上は、アフリカの言語を守るという意味合いが込められている。しかし実際にはコストの問題、11言語全てに教師を揃え教科書を準備するのが難しいという現状がある。具体的には、多くの学校で最初の3年間は母語で、その後英語に切り替えるというシステムが採用されているが、問題点も多い。母語での授業では、違う母語を話す子どもが混ざっていることもある。加えて英語で授業を行うと言っても、教師の英語のレベルが十分でないという問題もあり、母語が話されるケースも多い。結果、母語、英語どちらも中途半端になってしまっており、現地語を母語として話す子どもたちの学習習熟度は低い傾向にある。

一方で高等教育において英語が使用されていることなどから、英語が生活に必要な言語であることは確かである。

政府の政策を見ていくと、国がどういった方向に向かっていきたいのか分かりにくい。今後どのように変わっていくのかまだ見えない状態である。

【全体で共有された質問】

・(紹介されたコンテナハウスの学校に対して)この学校はタウンシップの中にあるのか?

→はい。アパルトヘイト時代における黒人と白人の住み分けで、黒人は民族によって「ホームランド」に住むことを強制された。彼らが都市に出稼ぎに来た時に住むエリアが「タウンシップ」である。(紹介した)タウンシップでは現在でも人口増加傾向にあり、人数の把握もなされていない。[回答:ファシリテーター]

・南アフリカでは、地方でも義務教育は受けられているのか。また、何年間か。

→就学率は100%ではないものの、アフリカの中では高い数値である。教育の質がどれだけ保障されているかという疑問はあるが。義務教育は9学年までである。[回答:ファシリテーター]

・基本のデータとして失業率23.8%とあったが、これは国全体のもので間違いないか。

→はい。黒人コミュニティの中だとより高い数値だと考えられる。[回答:ファシリテーター]

・なぜ母語を守らなければいけないか。ビジネスなどでの英語の必然性、実用性を鑑みると、母語を保持するという理由は説得力に欠ける気がするが。

→短期的に捉えた意見ではあるが、マイナーな言語を話す人たちのコミュニティが成り立っているのであれば、国は共通語を話すように介入すべきではない。自分自身の青森県で津軽弁を使ってきたという経験からも、この言語、アイデンティティーは守っていきたい。

→人類学の観点から、言語が環境を変えた南アメリカの例を紹介したい。南アメリカのあるコミュニティで、英語教育を進めた。そこでは、焼き畑農業で土地を守っていた。しかし、焼き畑農業を意味する元々の言葉が英語に変換されず、焼き畑農業を知らない世代が生まれてしまった。結果大火事が起こり、人々はその土地を放棄し、新たに現代社会に組み込まれたコミュニティを作った。この例から母語の保持が良い悪いとは言えないが、このように環境を大きく変える可能性もあるということを考慮したい。

<第2部>

【国際防災政策の潮流についてのプレゼンテーション】

<数字で見る災害>

・1992年のリオから20年間の間に

・世界人口の64%の人が何らかの災害に被災。

・被災額は2兆米ドルにのぼり、それは25年分のODA予算に相当する

・また、災害による死者は130万人に達し、それは航空機事故1,500回に相当する。

・被災者数の大きい災害は洪水。頻度が高く、浸水範囲の拡大等により影響範囲が大きい。中国・インドが全災害合計の被災者数の1位、2位。

・経済被害額が大きいのは暴風雨。次いで地震、洪水。ハリケーンカトリーナの影響で米国の被災額が1位、次いで日本。

・死者数が大きいのは地震。予報できず突如襲ってくるため。ハイチが1位。

・経年変化としては経済被害額は年々増加している。これは人口増や一戸当たりの資産価値が増加している等の理由から

・災害による死者数は減少傾向。

・ただし、災害発生件数は増加傾向

・特に低所得国で災害発生件数が漸増。

・災害は自然現象(natural hazard)と脆弱性(vulnerability)から成る(exposureも入れた方がより正確)。自然現象自体の数はそれほど変わっていないが、急速な都市化や人口増により氾濫原や急斜面に住む等災害に対する脆弱性が途上国では高まっている。

<国際防災の変遷>

・国連世界防災会議は過去2回、2015年のものも含め全て日本開催

・2000年ころから防災の主流化が叫ばれ始める。

・兵庫行動枠組に基づいて現在世界的に防災の取組みが行われているが、目標期間は2015年。それ以降のポストHFAを検討中。また、ポストMDGsにも災害の項目を入れるよう尽力中

<開発と災害の関係>

・災害は苦労して達成した開発利益に対し、深刻な結果をもたらしている

・2014年のハリケーンアイバーンでは中米諸国が被害額/GDP比が200%を超えている。一方で阪神淡路大震災や東日本大震災は数%。

・防災投資があった場合と防災投資が無い場合では、被災後のGDPの回復が明らかに異なる。防災投資は促進するべき。

・防災の主流化を如何に達成するか、今後の課題。

・環境影響評価と同様に災害の影響評価をプロジェクト実施時に行ったり、

・費用便益分析に防災に関する項目を換算したり

・現在開発援助関係予算の中で極端に少ない防災関係の項目を増加したりするなどが考えられる。

【洪水に対する社会的脆弱性の評価手法ワークショップ】

<ルール>

・ある地域の10家族の状況(収入、家族構成、家屋のタイプ等)に基づいて、NGOから支援を受ける6家族を決めるため、支援を受ける順番を決める(順位付け)。

<順位付けで考慮した項目>

<順位付けが難しかった点>

<フィードバック>

・社会的公正には3種類あり、実際に良く行われるのはUtility。Vulnerabilityは恣意性が高く公平性の観点から難しい。

Equity 全ての家庭が同じ様に支援されるべき

Vulnerability 一番脆弱な家庭が支援されるべき

Utility 投入したリソースに対して一番効果がある家庭が一番支援されるべき

・一方英国では年齢や収入等のVulnerabilityを各家庭において評価する動きもある