第8回勉強会議事録
「CSRとは? 開発援助を企業の視点から考える」
日時: 2014年5月17日 (土)
場所: Institute of Education (IOE), University of London
ロンドン大学教育研究所
講師:下田屋 毅 氏
サステイナビジョン(Sustainavision Ltd.)代表取締役
http://www.sustainavisionltd.com/
ビジネス・ブレークスルー大学講師(担当科目:CSR)
国際交流基金ロンドンCSRセミナーシリーズ2011/2012プロジェクトアドバイザー
※講師略歴
英国ロンドン在住CSRコンサルタント。日本と欧州とのCSRの懸け橋となるべくSustainavision Ltd.を2010年英国に設立。ロンドンに拠点を置き、CSRコンサルティング、CSR研修、CSR関連リサーチを実施。また英国IEMAが認定する「サステナビリティ(CSR)プラクティショナー資格講習」を2012年より日本にて定期開催。
1991年大手重工メーカー入社、工場管理部にて人事・総務・採用・教育・労使交渉・労働安全衛生を担当。労働安全衛生主担当として、「安全衛生管理要綱」作成、「安全内部監査制度」を企画・導入。環境ビジネス(新エネルギー・R.P.F.製造) 新規事業会社立上げ、その後2007年渡英。英国イースト・アングリア大学環境科学修士、英国ランカスター大学MBA(経営学修士)修了。
1.CSRとは何か?
ディスカッション:CSRのイメージ
・経営陣が考えるもの 現場の社員とかい離があるのでは?
・マーケティングのため? 消費者のイメージアップなど
・途上国への寄付 わかりやすいが本当に役立っているのか?持続性は?
本来のCSRを意味する概念は同じだが、地域で使っている言葉が違う 英国ではCR=Corporate Responsibility
米国やフランスでは、Sustainabilityを使う。欧州全体では、CSRを使用。
もしCSRをやらなければ…
・不買運動
・信頼低下
・進出先の国・地域の不興
・従業員の士気低下
・優秀な人材の確保困難
・サービス・商品の質の低下
CSRに取り組むと・・・
•企業のコーポレートブランドの向上、評判の高まり、売り上げアップ
•ステークホルダーへの肯定的なイメージ
•投資家への肯定的なイメージ、株主との信頼関係の構築(投資へのアクセス、資金調達の機会を得る)
•社会の中でのレピュテーションの向上
•競合他社との差別化
•従業員の充足感、従業員の誇りを高め、生産性も高める
•優秀な人材を確保
•リスク・マネジメント・危機マネジメントの改善
→ 企業はCSRを行うことで利益を生むことができるCSRは企業の長期的な利益に貢献する
持続可能な開発とCSR
1987年 環境と開発に関する世界委員会の最終報告書「Our Common Future:地球の未来を守るために」に「Sustainable Development」(持続可能な開発の概念を初めて打ち出し、そこから広く認知されるようになった。
“将来世代のニーズを損なうことなく現在の世代のニーズを満たす開発”
トリプルボトムライン
1997年に英国のサステナビリティ社のジョン・エルキントン氏によって、決算書の最終行(ボトムライン)に収益、損失の最終結果を述べるように、社会面では人権配慮や社会貢献、環境面では資源節約や汚染対策などについて評価をし、述べるべきと提唱された。現在の企業のCSR活動において、大きな指標、軸として機能している。
ケーススタディ:
①シェル
ナイジェリアの採掘事業で環境汚染や労働環境、経済的利益をめぐる住民運動が発生
→原油がもたらす利益を優先した政府によって活動家9人が処刑される
人権問題に発展、国際的な非難高まり不買運動に
②シェル
海底油田施設の処理をめぐり、グリーンピースが反対運動→欧州全土で不買運動
③ジョンソン・エンド・ジョンソン
内服薬の事故で死者が発生
「我が信条(Our Credo)」という経営理念の中に「消費者の命を守る」があり、内服薬の回収の為の専用ダイヤルの開設やCM、広告などで徹底的な対応
→売り上げ回復
CSRはリスク対策の側面もあり、長期的には企業側にもプラスになる
企業はもはや社会や消費者等を含むステークホルダーを無視して事業を行えない。倫理的であることをますます求められる
→グローバル化で企業活動が持つ影響が大きくなっているため
CSR=企業の持つ潜在的悪影響の特定、防止、軽減 長期的には企業にも利益がある
⇒ CSR = 企業活動
CSRとは企業活動そのものである
・ガバナンス/倫理 企業理念やコンプライアンス、情報開示
・職場 人権、多様性、均等性、ワークライフバランス
・社会 地域経済の活性化、社会との協働
・市場 汚職防止、公正な競争、製品の安全性
・環境 汚染防止、資源の利用・開発
欧州委員会のCSRの定義 : 「企業の社会への影響に対する責任」
適用される法律、社会的パートナー間の労働協約の尊重は、責任を果たす前提条件。企業の社会的責任を十分に果たすために、企業は、ステークホルダーとの密接な協働により、社会、環境、倫理、人権、そして消費者の懸念を企業活動と経営戦略の中核に統合する行程を以下の目的の下に構築すべき。
•株主、広くはその他ステークホルダーと社会の間で、共通価値の創造を最大化する。
•企業の潜在的悪影響を特定、防止、軽減すること。
※日本には公的なCSRの定義はない
2.CSVとは?
CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)
2011年1月にハーバード大学マイケル・ポーター教授等が“Creating Shared Value”を論文にて発表した概念。
社会的課題を事業に組み込み、企業活動で利益を上げつつ社会貢献→Win-winの構図
これまでに蓄積したノウハウやスキルを活かす
CSVの実践過程
・製品や市場の見直し
・バリューチェーンの見直し
・拠点の周辺で地域を支援する産業クラスターの形成
例:ウォルマート
包装の簡素化+配送ルートの見直し=2億ドルのコスト削減+環境負荷の低減
例:ネスレ
カカオ産地に農業・技術・金融・ロジスティクスなど関連会社やプロジェクトを複合的に立ち上げ
農業の実践的教育も支援、品質向上につながると共に現地にも恩恵
ディスカッション:CSRとCSVの違いは?
CSR⊂CSVの関係
CSVは主に「社会に対するポジティブな影響を大きくする」という部分。「CSR→CSV」は、欧州のCSRの定義の一部を実施するのみで、「企業が与える悪影響を軽減する」という部分、つまり人権への影響など企業が与えるネガティブな要素を無視している。またマイケル・E・ポーター教授等の論文の中で定義されたCSRは、アメリカ国内の一般的なCSRのイメージである「慈善事業」や「寄付活動」、「企業利益とは無関係」というものであり、世界のCSRを牽引する欧州のCSRの定義とは同一ではない。
欧州でCSVを実施している企業:「ネスレ」
ネスレは、自社のCSR活動の一環としてCSVを2006年から実施し、マイケル・ポーター教授等が提唱するよりも歴史は古い。ネスレのCSR活動は、「ネスレの社会ピラミッド」として3段構造で、一番上がCSV、二段目が、サステナビリティ、そして、三段目が「コンプライアンス、人権、行動基準等」で、CSVはこの2つの土台の上にある。つまりCSVだけを実施すれば本来のCSRをカバーするものでないことは、この事例からもわかる。
CSRやCSVなどの定義について企業が決めることができる
3.BOP
貧困層=潜在的市場ととらえる
社会的課題の解決が市場拡大につながりやすい
BOPビジネス
「主として、途上国の低所得者層(1日2ドル未満、全世界の約72%、40億人)を対象とした持続可能な、現地での様々な社会問題(水・生活必需品・サービスの提供、貧困削減等)の解決に資することが期待されるビジネス」
BOPの基本となる考え
①貧困層は製品やサービスの「潜在的市場」。民間企業のBOPへの積極的関与は、これまでの負の面を解決する包括的な資本主義を生み出す上で重大な要素 → 貧困の緩和は民間の大企業と現地のBOPの起業家が協
働で担う事業開発
②市場としてのBOPは、新たな成長機会とイノベーションについて議論する場を民間企業に提供する
③BOP市場は、民間企業のビジネスに不可欠となり、コアのビジネスの一部となり得る。
例:HUL(ヒンドゥスタン・ユニリーバ、ユニリーバのインド法人)
・食塩に関わる新技術を開発、ヨード欠乏症という病気改善に貢献→売り上げも増加
・自社石鹸を使った衛生教育を展開、下痢が減少→売り上げも増加
貧困層にどうアプローチするかが重要
4.ステークホルダーとは
一次ステークホルダーと二次ステークホルダーがある。
企業は自社の重要なステークホルダーを特定してアプローチすることが必要。
アプローチの方法に3つあり、
① 単方向コミュニケーション(報告・フィードバック)、
② 双方向コミュニケーション(対話)、
③ エンゲージメント(信頼と協働)
5.ビジネスと人権
児童労働や不当な搾取、劣悪な労働環境などが問題になっている
ケーススタディ:リーバイス
下請け工場で児童労働問題が発覚、国際的な批判高まる
リーバイスはどのような対応をとったか?
学校を開校し、労働していた子どもたちに学習機会を提供
その間の賃金も保障した
→逆にイメージアップに成功
国連・各国政府・企業・NGOでビジネスと人権の意識が高まっている
国連「ビジネスと人権に関する指導原則」
2011年3月に公表。
ビジネスと人権に関する指針を関連のある全ての主体に提示するための包括的な枠組み
保護・尊重・救済のフレームワーク
① 国家による人権保護の義務
② 人権を尊重する企業の責任
③ 企業活動による人権侵害を受けた者への救済手段の必要性
企業は組織内やサプライチェーン上での人権侵害の発生を防止するための「人権デューデリジェンス」等が推奨されている
6.リスクに対する企業の取り組み
今後10年間の企業の将来的な持続可能性のリスク
① 気候変動
② エネルギー・燃料
③ 材料資源不足
④ 水不足
⑤ 人口増加
⑥ 都市化
⑦ 富
⑧ 食料の安全保障
⑨ 生態系衰退
⑩ 森林伐採
リスクをビジネスのイノベーションや学習など新たな機会へと結びつけて対応する。
エコロジカルフットプリント上では、現段階で人類は、将来世代の資源を使用しており、地球1.5個が必要となっている。これを地球2個必要な状況にしてしまうのか、1個に戻すのか。個人としては、生態系への負担を減らすことを念頭に活動することが必要。