第7回勉強会議事録
■ 2013/14年度 第7回勉強会議事録
テーマ:「現場から感じた真の国際援助」
日時: 2014年4月26日(土)
場所: Room739 (Level 7), Institute of Education (IOE)
講師: 牧浦 土雅 氏
· 国際教育支援NGO e-Education (ルワンダ): 代表
· Needs-One Ltd. (イギリス→アメリカ): 共同創業者/元CEO
· M-Ahwiii Ltd. (ルワンダ・東アフリカ): プロジェクトコーディネーター/取締役
· フリーランス農産物ブローカー(東アフリカ)
· ソーシャルビジネスラボ (日本): 発起人
· Asha Society (インド): アンバサダー
· Opening Up Rwanda Assoc. (ルワンダ): ビジネスアドバイザー/コーディネーター
· トジョウエンジン : 副編集長
【アジェンダ】
・ 自己紹介
・ きっかけ
・ キャリア形成
・ 国際協力の「いま」:国際協力とはなんなのか
・ 援助アプローチについて考える
・ グループディスカッション
・ 究極の問題:3.11から考えた国際協力と復興支援のジレンマについて触れたい
【自己紹介】
・ 1993年生まれ。小・中学校2年生まで日本で教育を受け、その後英国ボーディングスクールに留学
・ ギャップイヤーではアフリカ、インド、中東、東南アジアに行ってボランティアなどをしていた
・ インド、ニューデリーのNGOで英語教師をした
・ e-educationルワンダ立ち上げ、パレスチナ自治区のサポート
・ 農業の効率化にITを活用する会社の理事
・ M-Ahwiii Ltd.(東アフリカ・ルワンダ)プロジェクト
・ コーディネーター/取締役
・ ソーシャルビジネスラボ(日本)発起人
・ Opening up Rwanda Assoc.(ルワンダ)ビジネスアドバイザー:ルワンダへの外資の参加をコーディネート
・ 現在英国ブリストル大学1年
・ 東南アジアの社会企業投資に特化したNeeds-One Ltd. 共同創業者/元CEO
・ Asha Society(インド)アンバサダー
【きっかけ】
貧困、国際協力に興味をもったきっかけ
・ スコットランドのボーディングスクールのリサーチペーパーで地域の貧困について書く
・ インドでのNGOでの職務
・ 英語の教師をやった際にスラムの光景を毎日目にしていた。
・ 複数のNGOのサービスが同じ分野でオーバーラップしていた。
・ Asha Societyの中にコーディネート部門を作り各NGOの業務コーディネートをした
・ パラドクス;子どもたちやそこに住む人々は幸せそうにしていた。途上国が貧しいという観念との矛盾
【キャリア形成】
キャリアスターティングポイント
l リサーチする前に現場に入るべき:
・ 先入観を持ってしまう。最初に触れる情報が脳に焼き付く。先入観を持ってしまうと失敗する
・ スピードが早くものごとが動いている:まずは現地に行って、帰ってきてから考えるほうがベター。
→そこから分野・業界選択:「貧困」解決はあくまで大枠
l 活動拠点:現地でやるのか先進国でやるのか
・ アナリストや研究者は先進国が多い
・ 民間のコンサル出身の人でも現地で泥臭くやっている人もいる。
・ どっちでやりたいのかを考えるのがキャリアを考える上で重要
l どの立場でやるのか。
・ 非営利:入りやすいが、将来性や金銭面から難しい部分も
・ 国際機関:入りにくいがブランドもあるし、任されるプロジェクトの規模は大きい
・ 民間のCSRや一般企業:企業はCSRに配属されるとも限らない面が難しい。
・ 社会起業:日本では限られているが海外には多い⇔海外は競争が激しい
・ 研究機関・大学:リサーチ部門の主なキャリアオプション
・ 財団:ロックフェラーなどの大財団は入るのは難しい。クリエイティビティを持っていて、イベントなんかを作りたい人はいいかもしれない
l キャリア形成で重要なのはプレゼンテーション
・ 今までの実績をどのように見せることができるか?
実際に求められているのは長々とやったことを語ることではなく、それによる結果、影響が知りたい。
l 最初は人最後も人
・ 途上国でPJをやっていくにあたって誰をカウンターパートに選ぶのかが重要であり、その点でコネは重要なファクター
l 自分がやりたいことをやるのが最優先
【国際協力の今】
重要な概念
l トップダウンとボトムアップ
・ トップダウン:二国間協力やBilateral Aidなど中央政府から落としこむ形の開発
・ ボトムアップ:援助される人々の目線で草の根の参加型開発をやる。NPOやNGOが現地のニーズを把握してPJを行う。
・ 2つは重要なIndicator
l マルチセクターアプローチ
・ 医療や教育、ITなど複数の分野を横断するアプローチ
例)感染症対策として、ビッグデータや統計情報などを利用して対処していく
l パートナーシップ
・ NPOや地域機関、政府や研究機関などあらゆるステイクホルダーを巻き込んで行くことの重要性
l リスクアバージョン
・ ハリケーンや地震等の自然災害に対して脆弱性の大きい途上国のリスクを想定していく必要性
・ 2、30年前は起きてからの対策で良しとされていた。
【ケーススタディ:教育問題】
l 国際学力調査の結果
・ 上位勢はアジアや北欧諸国である一方、Bottom3はアフリカの国が多い
→いくつかの教育問題の中で一番多くのセクターが関わる問題として教師の指導力不足/良質な教師の問題がある。
1)JICAのアプローチ
SMASE(中等理数科教育強化プロジェクト)
・ 1998年ケニアでJICAがはじめる
・ アフリカでは数学恐怖症—理科数学は難しいという固定概念—の為に理数科学力が低い
・ JICAはプロジェクト支援が多い:現地に専門家が入り込んでニーズ調査(DFIDは財政支援型)
・ 各学校に入っていって少数の教師をロールモデルとして育てることで他の教師への波及効果を狙う
・ 実践的な授業の技術を重視:授業の内容について指導を行う
・ 2008年に予算切られて終了したが、ケニアからの要請でほかアフリカ中心に34カ国で新たにパートナーシップを組んでJICAが行っている
2)USAID
Quality Teacher Preparation Initiative
・ 現地の2つの大学とパートナーシップを組み、2年間に渡り高校教師の指導準備に特化して改善
3)ゲイツ財団
Postsecondary Success Project
・ MOOCs(無料オンライン授業)への巨額投資し平等な教育の機会を提供
・ オンライン授業の途上国教育への影響を評価する研究機関を作り調べる。
・ プログラミングやOfficeソフトの使い方など、実践的なスキルを配信することで就職市場における需要と供給のギャップを解消することを狙う
4)Facebook
Internet.org
・ インターネットへのアクセスを全世界へ届けることをミッションとし、MOOCsを利用し生徒たちへ最高の授業を届ける
・ ノキア・Airtel(インド発の携帯電話キャリア)との提携で子どもたちのインターネットアクセスを確保
5)Worldreader
Books for All
・ 教科書データが入ったキンドル端末を配布
→オフラインでもアクセス可能
教科書の輸送コストも解決
キンドルのバッテリーは長寿命なので充電の心配が少ない
・ 9カ国14,000人への配布(2014年2月現在)
6)E-Education
DVD授業
・ モットー:世界の果てまで最高の授業をDVDにして届ける
・ 日本の東進ハイスクールのモデルに習って途上国でもDVD授業が可能ではないかというアイデアから始まった
・ ローカルのコンテンツを作るというのがユニークな点
:先進国の大学の授業ではなく現地で使われている言語で現地の「最高の先生」の授業をDVDで届ける
l なぜDVDか
・ MOOCsではインターネットアクセスのない人14億人の人々に授業を届けることができない
→農村部などインターネットアクセスが確立されていない場所に住む人でも教育にアクセスできるようにするためにDVDという方法を選んだ
l DVDを使う3つの理由
1) いつでも、どこでも、何回でも
・ DVDにすることでいつでも自分のペースで学べる。持ち運びも簡単
・ 反転授業も可能
—アフリカの学生は寮生活が多い
2) ローコスト・ハイクオリティ
・ 1人の「最高の先生」の授業を焼きなおすだけでいい
3) 永遠に続く教育支援の形
・ 現地のパートナーとDVDさえあればいつまでも授業を受けることができる、支援団体が撤退しても問題無い
【質疑応答】
Q1:最高の先生はどうやって見つけるか?
A :現地の大学で学生に本音のアンケートを取って、教育省の評価データと照らしあわせて、良い先生を見つけてお願いする
Q2:農村部の先生は質が下がる/職を奪われてしまうのでは?
A :すべてのカリキュラムをDVD化するわけではなく試験でのポイント等だけなので先生の手がある程度必要になる。地方の先生を中央都市へ招待して授業指導もしている・
Q3:授業の内容はどんな教科をDVD化しているか?
A :試験のパスが主目的の授業。活動拠点である東アフリカの大学試験では英国のAレベルで使われるような内容のものがそのまま使われる事が多い。受験する際の5教科ないし4.3教科のコンビネーションでDVDを作る。主に理数科のコンテンツに力を入れている。理数科恐怖症の背景もあるのでおもしろいコンテンツを作るようにしている。また試験にパスできても大学に行って、就職できるかは別であるため、企業の人がほしいスキルを身につけられるような内容のDVDも作り始めている。
質問者補足:バランスが気になる
何を教えるかという点で、「良い」とされる授業をそのまま子どもに届けるのが本当の教育なのかという点の議論が足りないのではないかと感じた。内容に文化差の影響等の少ない理数科などではない教科はアイデンティティなどにも関わる。
Q4:ルワンダでDVDを見られる環境の人は限られているのではないか。既に十分な教育を受けることができている人々なのではないか。教師に恵まれないような一般的な家庭の子どもたちに対するアプローチはどのように考えているか。
A :最初のトライアルは農村部の寮の学校にDVDを導入した。教育の現状について段階的に調べたかったので、農村部の寮の人・進学校・学校にいけない人の3段階で行っている。学校にいけない人にはキオスクのようなコンピュータールームを共有スペースにつくった。現在は親の農業の手伝いなどで参加しない、できない人へのアプローチをやっている
調査目的で進学校行っているというところ。
Q5:PJのアウトカムはどのように測っているのか。
良い大学に受かることが目的だとして、どのように測定しているか。
A :試験にどれだけの人がパスできたかをカウント:2012/13では提供者全体で平均46%の試験成績の向上があった。今後は就職結果(就職可否、職種、業種)についての調査や、所得向上の度合いも視野に入れてインパクト調査をやっていきたい
Q6:生徒とのインタラクションの起こりえないDVD授業においてどのように双方向性や生徒の主体性を担保するのか?
A :生徒ひとりひとりにDVDを与えることで自分のペースで出来るようにしている。DVDの視聴とは別にディスカッションのクラスも提供している
Q7:ティーチャートレーニングをしたほうがいいのでは?
A :ハンガリーロマ族やパレスチナ自治区ガザ地区ではティーチャートレーニングをやっていて、ガザ地区の学習障害児用の先生を育成するニーズがあった。国連と協力してヨルダンの学習障害児教育専門家を巻き込み30人のガザの先生をスカイプ授業で教えた。各国ごとの教育問題に合ったアプローチを取っていきたい。
Q8:現地の先生へのギャランティは?
A :払っていない人は理念共感によって教育問題の解決であればノーギャラでいいという人がいる。支払いが要求される場合には、ギャラがインセンティブの役割を果たすので、生徒の評価を踏まえて対価がなくても質の良い授業をしているようであればギャラは支払うし、対価を提示したからというので精力的に授業を行うような場合にはお願いをしない。先生の選定には時間をかけている
Q9:国連やJICAなどとの協働の例があるようだがそういう場合にはどっちからのアプローチをしているのか
A :バングラデシュのプロジェクトの場合は規模が大きくなることでJICAの人たちから声をかけてもらえた。フィリピンの場合はパブリックセクターとの協働をしている。ケースバイケース。
Q10:現地の教育システムとDVD授業との関連性、整合性はどのようになっているか
A :時間割の中に入っている場合もあれば、放課後の場合もある。キオスク型のコンピュータールームの場合は現地大学生の家庭教師などが来ていたりする。
Q11:DVD授業は現地の先生にどのように反応しているか
A :最初にアプローチするのは主に校長先生だが、DVD授業について懐疑的なようであればそれ以上のアプローチはしないことが多い。現地でDVD授業導入の必要性が強く感じられるような場合には導入後に効果を納得してもらえるパターンもある。
【ディスカッション】
Q. 教育問題に対する6つのアプローチを紹介したが、それらを批判,検討してもいいし、第7,第8のアプローチを出してもらってもいいので、教師の指導力不足/良質な教師の不足という問題に対する解決案を考えてほしい。
A班:全部をうまい具合にミックスできればもっともよい
先生を教えても先生の頭脳流失の可能性が高まる
キンドルの物理的資産価値やDVDの放映可能性の格差
教育:情操教育も必要なのでDVDだけには頼れない、先生とのやりとりも必要
トップダウンで進めていく中で現場からの声を拾っていけたらいいのでは
B班:DVDは単純なノウハウ的知識の伝達面では優れている。
アフリカのオーラルカルチャー:先生から教えてもらえるということ自体に潜在する意味も考慮する必要がある。
歴史観やアイデンティティは重要なポイント
各アプローチはあくまで対症療法。構造的問題の解決も必要。
DVDで欠けるインタラクションの部分は携帯電話の利用で解決できるのではないか?(メールによる問題のやりとりなど)
コミュニティを巻き込むことでモチベーションをあげる。
DVDを日本の研究授業のように先生が手本として活用できるのでは
課題:先生や生徒を集める段階で彼らのインセンティブをどのように担保できるのかが課題
C班:短期的には、e-educationのDVD戦略は効果的。JICAの教育指導も
長期的には、親の教育への意識改革等が必要。
教材を共有できるシステムがあれば教師がよりよい教育を提供しやすくなるのではないか
D班:指導力不足が問題であればこうしたアプローチは有効。
絶対数の不足では、教師の地位の改善や給与の改善が必要。そのためにはトップダウンとボトムアップ両方必要
E班:JICAのプロジェクトが農村部の貧しい生徒たちを対象とした時最もインパクトがあるのではないか。
JICAのプロジェクト以外では高等教育が対象で、農村部の人々は高等教育まで進むか疑問
JICAのプロジェクトは最も基礎的な初等中等教育を対象としている
ブルキナファソでは学校運営組織(親たちの組合みたいな)が先生を私費で雇ってコミュニティで教育の質を維持する努力があった
F班:ボトムアップとトップダウンのコンビネーションが大事
2つのバランスは国づくりのビジョンに影響される。
例)中国はトップダウンで国力を大幅に上げてきた。
インドはボトムアップで様々なアクターの参加を盛んにしてきた
DVDはあくまで補助的な役割を担う特性がある。
理想的には教師がいた方が良いが、喫緊の問題への対応策としてDVDは有効だと思う。
G班:教育には実学的な科目(理数科)と情操的な側面がある。
E-educationは高等教育へのfocusが主なようだったが初等中等ではまた別のニーズが有るとおもう。
農村部と都市部での教え方にも特徴があるだろう
コミュニティの中で助け合う(Social Capital)ことを考えればより良くなるのでは
H班:Facebook社Internet.orgが最も課題解決性が高いと思う
インターネットが拡大⇒介入の可能性が広がる
インターネットを用いた解決策の課題としては、インターネットを使う技術をまず学ぶ必要性があること、双方向性は依然低いことがあげられる。
アニメや漫画など、楽しめる要素を入れることで生徒の参加を促せるのでは
l 講評
・ 違うバックグランドの人との協働で今回のディスカッションのように様々な発見ができる。
・ 情操教育や歴史教育アイデンティティなどはDVDではカバーしきれないので今後考えていく部分
l 正解はない、全部正しいといえる。
【国際協力に存在するジレンマ】
l 国民の認識として国の国際援助予算はこれ以上多くなることは難しい(
・ イギリスでのサーベイで予算割合について聞いた結果、約半分の人が「援助額を減らすべき」と答えた
l アフリカか東北かどちらを救うべきか
・ ケニアでの地熱発電を日本企業が開発しているのは環境問題などグローバルな課題への貢献を期待してのことである。
・ 国益にかかわらないプロジェクトをやっても仕方がないと思っている。オフショアの工場を作ると同時に現地に学校を作ったりすると、他の国からの企業誘致が来たりする。お互いがビジネスパートナーとしてgive and takeでやっていくことが重要になってくるだろう。
・ 協働する必要性が高まっている:「援助してあげている」という上からの目線では受け手も受動的になっていく。より高いアウトカムのために先進国間の貿易関係のようにお互いがお互いの国益を追求することでお互いの利益になる関係を築いていくことが重要。