IDDP第4回勉強会議事録

IDDP第4回勉強会議事録

テーマ:「国際保健協力の現場から〜バヌアツとタンザニアの保健システム強化プログラム〜」

講師

· 西村 恵美子氏(JICA職員/London School of Hygiene & Tropical Medicine, MSc-Public Health in Developing Countries在籍)

2009~2012年JICAタンザニア事務所勤務

· 渡部 明人氏(London School of Hygiene & Tropical Medicine/London School of Economics & Political Science, MSc-Health Policy, Planning and Financing在籍)

2011年バヌアツにて公衆衛生医師としてご活躍、保健省

国際保健協力の現場から①

JICAタンザニアの保健システム強化プログラムと事例紹介

1. タンザニアの保健セクター概況

保健セクターの課題はなんでしょう?

- 母子保健(12人に1人は5歳になる前に命を落としている)、

- マラリア(5歳未満の子の一番の死亡原因)、

- HIVエイズ(15-49歳の20人に1人はHIVに感染している)

- 保健人材(村の診療所に行っても医者も看護師もいない)

- 保健行政、保険財政(診療所に薬も機材もなく、適切なサービスが受けられない)

o 母子保健:子供関連の指標については近年大幅な改善は見られるものの、妊婦死亡率ついては改善は進んでいない。

o 感染症:HIVエイズ感染率、マラリア罹患率ともに改善傾向

o サービス提供を支える保健システム強化が課題(保健行政、保健人材、保健財政)

保健システム関連の課題

- 中央における政策・策略策定能力、実施能力が脆弱

- 急速な途方分権化と保健セクター改革に伴い地方に権限が委譲される一方で、地方における行政の計画・事業実施能力が脆弱

- 雇用凍結政策及び不適切な人材育成計画に起因する深刻な保健人材不足(充足率約4割)

- 高い外部支援依存度(4割)による不安定な保健財政

2. JICAタンザニアの取り組み:「保健システム強化プログラム」

- 短期的・直接的な介入ではなく、長期的・持続的な観点から保健サービル提供の基礎となる「保健システム」の総合的な強化をめざす。

- 地方分権化の文脈のもと、県レベルサービス強化が課題となるが、他ドナーとの棲み分け・連携の観点からJICAはそれを支え州ならびに政策を策定する中央レベルの保健行政マネジメントの強化を重視。

上位目標:質の高い保健サービスが持続的に提供される。

プログラム目標:県保健局および州病院の機能強化のための中央・州からの支援の強化

タンザニア第三次保健セクター戦略計画の11戦略の中の4戦略に焦点を当てる。

(保健行政システム強化プログラム2011~2014)

3. 事例紹介「きれいな病院プログラム」:

- 日本型マネジメント(5S-KAIZEN)でアフリカの病院を変える!

- 2007年より、JICA「アジア・アフリカ知識強健プログラム」のもと日本・スリランカでの研修

- 5S-KAIZEN-TQMアプローチ:職場環境向上のツールである5Sを用いて、サービス提供が容易になる環境(安全性、生産性向上、コスト削減など)を作り出し、資源の有効活用、効率化を行い、顧客の満足度を高めるよう質の高いサービスを提供するための手法 à 最終的に目指すのは、恒常的な質の向上(Total Quality Management)

- 職場環境向上→業務内容・サービスの向上→事業プロセス全ての質の向上

- 5Sとは?職場環境改善のためのツール事業場の無駄を省き、効率化を進めるとともに、顧客が満足のいくサービスを提供する。

v 5S: Sort (Seiri), Set(Seiton) , Shine(Seiso), Standardize (Seiketsu), Sustain (Sitsuke)

きれいな病院プログラム経緯

- 2007年より、JICA・アジア・アフリカ知識共創プログラムのもと、日本・スリランカでの研修(5S-KAIZEN-TQMを通じた質向上)

タンザニアからパイロット病院であるムベヤ国立病院の院長、看護師長らが参加。帰国後ムベヤ病院でのパイロット活動開始。

- 2008年:効果を認めた保健省により他病院への普及開始

- 2009年:保健省国家ガイドライン策定。

タンザニアにおける全国展開手法

- 国家ガイドライン策定

- National Facilitatorの作成

- 指導者の研修

- 研修フォローアップ(巡回指導)

- 定期進歩報告会

5S-KAIZENの効果(5SからKAIZENへ)

- 効率化・より整理整頓された環境(患者のカルテ・医薬品の棚・書類など)

- Colorcodingを活用したラベル貼り

カイゼン手法による問題解決のプロセス(PDCAサイクルPlan Do Check Act)

- テーマ選択à 現状分析 à 問題分析 à 対策立案 à 対策の実施 à 効果の確認 à 標準化・歯止

ムベヤ国立病院のケース

問題:外来患者の待ち時間が長い

- 問題分析;医療従事者の遅刻、朝の会議が長い、診察中の休憩が長い

- 背景:「職務規定を守らない」「モニタリングの仕組みがない」「会議の議題が決められていない」等

- 対策:「職務規定の厳守」「議題の事前準備の徹底と会議時のタイムマネジメント」「患者の流れの見えるようにする(番号札の導入、倍たるサインの診察前チェック等)」を目標に具体的な対策を立案・実施

à待ち時間平均 45.12分から15分に短縮(66.8%減)

中央倉庫でのカイゼン

備品の過剰在庫と長期放置品の削減(一般・医療器具の在庫は31.2%減、全体で37%減)

è 約55万円相当の経費削減

意義と今後の課題

意義

- 資源の限られたアフリカの病院で、無駄を省くことによりサービスを改善

- チームワークによる職場環境改善、保健人材のモチベーション向上

- 業務改善、サービス改善、患者満足度の向上へ

課題

- 5SからKAIZEN、病院の総合的質管理(TQM)へ

- 効果のエビデンス構築(オペレーションリサーチ)

- 保健省のリーダーシップと持続性

4. 終わりに

日本の援助の特徴:

- 長期的な保健システム強化

- キャパシティー強化と人材育成

- 国家プログラムとして制度化

- 日本型マネジメント手法の適用


国際保健協力の現場から②

バヌアツの保健システム強化事業

バヌアツ共和国について

- 世界一幸せな国。人種はメラネシアン。公用語は、英語、仏語、ビスラマ語。

- 独立前は英語・フランス語の学校やシステムが共存。

- 中所得国。熱帯~亜熱帯地域。

- バヌアツ保健問題

- Immunization coverage(97%…データの信頼性に疑問)

- マラリア(飛躍的に減少、一部の島では既に撲滅されている)

- HIV(国内では5症例のみと少ない)

- 一方でNCD生活習慣病が顕著に目立ってきている(Overweight50%、Obese19%)

- Workforce(小さい島国のため、医療従事者の養成力に限りがある)

- Health Financing(23%を援助に頼っている)


保健システムとステークホルダー

配属時の保健省の状態

- 一部の課のプログラム(マラリア課)に資金・権力が集中

- ヘルスプロモーション課スタッフが激減

- 幹部・課長職の管理能力の欠如

- ポジションの空席・代理ポジションの乱用

- 不透明・非効率・未消化な予算

- 州保健事務所とのコミュニケーションの欠如

- 事業実施レベルでのコーディネーションの欠如

- 長期的な策略の欠如

- ヘルスシステム強化事業の現場レベルでの連携不足

- コミュニケーション戦略のない啓発教材

政策・予防啓発戦略・予算確保・業務改善・チーム編成


保健システムステークホルダー(配属時)

疾病別の垂直型アプローチの弊害

- 選択的PHC:対象疾患を絞った垂直型のプログラム…Global, National, Provincial, Community

- 垂直型プログラムの束:システム疲労・重複

- 包括的PHCによるプログラムの調和:州チームによる調整機能à ターゲット別プログラムà すべての人に健康を。

州チームによる調整機能が必要

健康的な島づくりイニシアティブ

実現可能な計画(どのレベルの人でも理解可能な政策)

包括的・水平型

トップダウン・ボトムアップの融合

保健システムの強化

経済社会的要因


フェーズ1(問題分析・計画)

公衆衛生局長・WHOへ直談判à WHOから300万円の予算獲得à VHWPコーディネーターをリクルートà初のヘルスプロモーション全国会議開催à WHOローカル TAをリクルートà PHCナショナルオフィサーをリクルートà PHC政策チームを結成 à州基本計画立案会議開催 à政策の公式発表 à WHO/UNICEF/AusAIDから約1000万円の予算

3人からのスタート…!à PHC Team結成à 州のレベルのヘルスプロモーションHPU Team結成à 州保健パートナーとの連携(保健スタッフだけでなく他の分野からのスタッフも参加)

フェーズ2(ロールアウト)

Healthy Islands IEC Package/DVD 作成à 州基本計画レビュー会議開催à 州モデル事業計画・評価計画会議開催à パートナー・国スタッフを含めた委員会開始à 州保健チームを全州で結成à 公衆衛生局マネージメント会議開始à 約3500万円の新規政策予算獲得失敗à WHO AusAIDから約3500万円の年間予算を獲得à2013年予算申請を後方支援à Community Mobilization Training Manual 作成à 地域代表者会議を各州で開催à 学校・医療施設・公設市場・村でのモデル事業

Healthy Islands IEC Package

以前は個々バラバラでのアプローチであったが、同時に行うことで効率化。

Healthy Settings Initiative Project 2012-2013

- 包括的・水平型アプローチのモデルの作り

- 住民参加型・地域の自立支援

- 州保健局の機能強化

予算の向上

国・州政府の関係強化à これによりインフラの向上にも繋がる

保健システム課題

- 専門家次々に提供される技術の消化不良

- マネージメント強化にかかる時間・労力

- プログラムコーディネーションの難しさ

- カウンターパートのモチベーションの維持

- 州政府による自立的な計画立案の難しさ

- 国、州、地域への事業・人材・資金の落としこみ

- ドナーへのアカンタビリティーとローカル人材育成の両立

- 不安定な政治の事業への影響

- グローバルトレンドの影響

- ドナーからの断続的な予算確保の難しさ


質疑応答

· タンザニアのサービスにおいてNGOの存在は大きいと思うが、NGOのサービスはどのくらいなのか

o Private Sector の割合は多く(全体の3割程度)、Christian,Muslim系のNGOもかなり多い。5S への関心も高いことから、Private Sector にも研修を行った。

o バヌアツにはNPOストリートチルドレンの活躍も顕著。NGOが必ずいい訳でない。もともとSWAPからの援助でNGOは予算を組むが、政府からとしての予算というよりむしろNGOの予算という意識が広まり、指導が難しくなる。

· SWAPの保健省からの予算の割合はどのくらいか

o 外部予算が4割くらい。SWAPのもとでバスケットファンドが設置されており、資金の使途にはドナーの厳しいチェックが入る。

· JICAからUSAIDへの出向について、何年目でどのくらいの人数が出向しているのか。

o 5年目で出向した。USAIDへの出向は1人だが、JICAから他機関への出向は、国連、世銀、地域開発銀行等に年間10人程度。

· 5-S KAIZENの初期の導入のアプローチはどのような感じだったか

o 5Sによって余計な仕事が増えるのではないかとの声もあったが、病院長等キーパーソンの指導者研修において、進捗の進んでいる病院の事例紹介等を通じて理解を促進することによって進めた。他の病院の経験談や状況のとリーダーシップが重要。

o 5Sのプロジェクトと他の保健人材計画との関連・連携

o タンザニアの保健人材戦略計画のうち保健人材の質の向上に貢献するという位置づけで連携している。

· 発展途上国にて視覚障害者がどのような対応を受けているのか

o バヌアツについては、中国が眼科医派遣を送っている。州レベルでは視覚障害者への対応は行き届いていない。

o タンザニアについては未詳だが、社会保障分野では、HIVエイズ孤児のサポート等が行われている。

· 保健省からどのような契約でバヌアツに行ったのか

o バヌアツには協力隊・ODI・VSO・UNVなどの派遣システム等を使って、保健省スタッフの一員として仕事をする機会がある。契約は派遣元機関と結ぶが、外の人ではなく組織の人間として働く事になる。全ての派遣が中央省庁ではないので誤解をしないで欲しいが、省庁レベルの派遣では現地のニーズに合わせて政策立案やプログラム作成にも関われるので、立場を気にしないで要請内容で選ぶと良い。

· 州レベルとヘルスプロモーションはどう連携しているのか

o 州保健局の課長・ヘルスプロモーション担当官と連携して州保健調整チームを立ち上げる。WHOのDistrict Health Teamというコンセプトを参考。

· マラリアについて:マラリアの認識に、医療者と住民の間にギャップがある

o バヌアツのマラリアは罹患率も下がっており、重症化しにくいので、住民はどちらかというとデングの方を怖がっているようだ。最近は、全国での撲滅を目指してコミュニティーベースでの参加型アプローチ(学校・村など)が始まっている。

· ハンセン病の状況について(隔離政策・コミュニティーは存在するのか)

o バヌアツはハンセン病が少なく、最近保健のアジェンダに上がってきていない。現在分離政策はしていない。物乞いも全くいない。家族の概念が広く、一般的に人々が支えあって生活している。一方で障害者関連政策は少なく、発展途上。

o タンザニアでの存在は少ない。感染症対策の予算の多くはHIVエイズやマラリアに使われており、ハンセン病に対してはあまり使われていないと思われる。