第3回勉強会議事録

第3回勉強会概要

■ 勉強会議事録 「法整備支援の現場」

日時: 2012年12月15日(土)

場所: Institute of Education, University of London

■ 勉強会議事録 「法整備支援の現場」

● 講師経歴

● 竹内 麻衣子氏

● 2004年JICA入構。2007年から2009年まで公共政策部にてベトナム、ラオス、東ティモール、ウズベキスタン、ネパール等における法整備支援プロジェクトの立ち上げ、実施にかかわる。2009年から2012年までネパール事務所にて、民法起草支援、コミュニティ調停等の支援を担当。2012年9月よりSOAS, University of LondonのLLMに在籍。

● 社本 洋典氏

● 2007年司法試験合格。司法修習を経て、2009年4月から2011年3月まで名古屋大学法学特任講師としてウズベキスタン国タシケント国立法科大学日本法センターにて勤務。2011年7月から2012年6月までJICA専門家としてウズベキスタン国司法省内にて行政手続に関する法支援を行う。2012年9月より、Queen Mary, University of LondonのLLMに在籍

<講演議事録1 〜法整備支援の現場①JICA本部とネパールでの経験から〜>

● 「法」について

● 法といっても幅広く、法とは何かを日常生活上で考える機会はそう多くはないが、「何かが起こった時に、法に基づき問題を解決できる」という安心感が、日本やイギリスで生活している中ではある程度感じられるのではないか。適切な法があり、法による解決が行われている、その安心感が社会全体にある社会、すなわち、ある程度、「法による支配」が確立している社会といえると思われる。

● では、途上国等で法による支配が確立されていない状態では何が起こるか。

…例えば自身が派遣されたネパールでは、交通事故が起きて道路が崩れた際、法に基づく解決が行われないことから、実力行使で、地域の住民が道を閉鎖して車が通れないようにし、道路の修理費用や賠償を得ようとしている例もある。(ネパールの写真を基に説明)

● 法整備と法整備支援(JICAにおける考え方)

● 法は国家がかかわる幅広い分野にまたがり、それぞれの国の状況に合わせて作られる必要がある。

● また一度制定しても時代・社会の変化に合わせて改定されていく必要がある。法整備自体は主権国家が行うもの。法整備支援はその国の取組の支援。

● 法そのものに加えて、運用方法やそのための組織をきちんと整備していくことも重要。(行政機関、裁判所、国民のリテラシー向上など)

● 開発における法整備支援の重要性

● 1980年代後半から、開発支援の文脈において、グッドガバナンスの重要性が言われるようになった。開発を進める上でその国の制度を良くしていくことが重要と考えられるようになり、法整備に関する関心が高まっていった。

● また、経済学の観点からも新制度派経済学の登場など制度への関心が高まってきた。

● 特にソビエト連邦の崩壊により、計画経済から市場経済に移行する国が急増したことが、法整備支援の急速な拡大のきっかけとなった。また、内戦により、国内の制度が破壊された国への支援としても法整備が広まった。

● さらにトップダウンの支援だけでなく、ボトムアップ型の支援として女性やマイノリティ・グループの人権を守る観点からも法整備に関する関心が高まってきた。

● JICA以外の組織による法整備支援の例

● WB 、ADB等国際金融機関が、主に経済・金融法関連の支援を多く行っている他、国連ではUNDPが幅広く行なっている。またUNICEFは子どもための法整備を進めているなど各機関がそれぞれの関連領域での法整備支援を行っている。その他、先進国のドナーも法整備支援を後押ししている。

● また、法整備支援で特徴的な例としては、先進国の弁護士会が途上国の弁護士会を支援している例が見られる。

● 課題点

● 90年代に法整備支援が拡大した際、経済・金融法の整備が融資の条件となってしまったことと関連して、あまり運用可能性が留意されないままに法制度整備が進められてしまったこともあった。

● 調整が十分なされないまま複数の異なるドナーがそれぞれ支援を行ったが故に、当該国内において一貫性を欠く法整備が進んでしまうような例もあった。

● 例:民法における不動産の所有権に関する規定と土地法における土地の所有権に関する規定の間の齟齬など

● 法整備支援を行い、自国の法を輸出することが、ビジネスに資するとの考え方から、ドナー国間での法整備競争が強まってつながってしまう例もあった。

● 過去の反省から現在ドナー間の支援の調整の枠組み作りや、情報交換が行われるようになってきている。

● JICAの法整備支援の特徴

● JICAでは法整備支援を、ガバナンス支援の一環として据えている。(全体像としてはスライド11を参照)

● 法の整備そのもの以外に、例えば裁判所の実務能力の改善(例:裁判所での手続きの簡素化)や、国民の司法へのアクセス向上の支援、それを支える前提として、他のJICAの支援同様、人材育成にも注力している。

● 本格的には90年代後半より市場経済化支援や紛争終結後の法整備の必要性の中で広がってきた。

● 法制度は、整備しても根付かないと意味が無いので、日本の法律の専門家(法曹三者、大学教員など)に長期で現地に入ってもらい、現場の状況を踏まえた支援を行うとともに、日本国内にもその分野の法律の専門家からなるアドバイザリーグループを作ってより専門的な助言をできる体制で行っている。

● 他の援助機関の場合には、比較的短期間でコンサルタント等が現地に行って法律を作るケースが多いので、JICAの上記の方式は日本の強みといえるかと思う。(他方、関係者が多くなり時間がかかるという課題もあるが。)

● ネパールの事例(民法起草支援)

● ネパールでは150年以上前にナポレオン法典を元に作成したムルキアイン法典という民法・刑法・手続法が一体となった法典が改定されながら使われてきていたが、新しい国づくりの中で、これを廃して民法を起草することとなった。

● その際に日本からの支援が欲しいという要請があり、応諾。

● 国づくりのタイミングと重なる非常に意義深い事例。

● 新たな国づくりの機運の中で、憲法制定等のタイミングを合わせて民法を作るということを先方が重視していたため、限られた時間の中で質の高い支援を行うというバランスが難しい点があった。残念ながら結局、憲法自体がまだ制定されておらず、民法も結局まだ国会を通過していない。政情の影響を受けざるを得ない法整備支援の難しさが表れている一例といえる。

● ヒンドゥー教の影響の強い社会の中で、文化や伝統と「人権」をどのように法に織り込んでいくかというのも難しい課題としてあった。

● 例:土地の家族での共同所有や禁止されていても風習として残っている重婚等

● 民法支援はUNDPも支援しており協力して行ったが、できるだけ、混乱をさけるべく、

● JICAは条文作成の支援を中心に支援しUNDPはロジスティックスや資金面でのサポートを行うという形で、役割分担を明確化する形で進めた。

● ネパールの事例(コミュニティ調停)

● 地方での些細な揉め事の積み重ねが先般の内戦の要因の一つになったと指摘されており、こうした紛争の芽を除き、平和なコミュニティ作りを支援しようという観点から、コミュニティ内でのもめごとをコミュニティ内で解決できる力をつけることを目的として、コミュニティ調停の支援を行っている。

● 調停人に、女性や、カーストが低い人からも選出し、これによって調停人となった人がコミュニティに自らが貢献しているというモチベーションの向上やコミュニティの変化などSocial Inclusionの効果も見られた。

● 他方、政情不安なネパールでの支援の難しさとして、かなり地方まで政治・政党の影響が行き渡っていることがある。調停人の選定をめぐって、政党間から横やりがはいることもあり、幅広く関係者を集めて、繰り返し支援の中立性を説明することで解決を図る必要もあった。

● フォーマルな司法制度と、インフォーマルジャスティスのバランスについても考慮する必要がある。地理的な条件や、紛争後の社会の状況から、裁判所はコミュニティから一般的に遠い存在であり、迅速に解決しうるコミュニティ調停等のインフォーマルジャスティスが重宝され支援も多く行われているが、本来であればインフォーマルジャスティスはフォーマルジャスティスを補完する存在であるべきもの。

● 現状では緊急的な支援としてインフォーマルジャスティスへの支援が多く行われているが、長期的な観点からは本来の司法制度の強化も並行して進めていく必要がある。

● まとめ

‐法整備支援の今後

● 法整備支援は大きな支援領域であり、多くのドナーや関係機関がかかわってくるため、ドナー間の調整のための枠組みが必要であるが、まだ枠組み作りは途上である。

● 日本も今後、支援の成果を積極的に発信し、これまでの経験を踏まえて協力の枠組み作りにも入っていく必要がある。

‐現場での仕事

● 法整備支援も含め現場では計画通りにはなかなか行かない。政情などの影響を受ける。計画を変更しないといけなくなったときにどこまで自分の判断で進めるか。どこから関係者と相談して枠組みレベルの変更をするか。現場にいるとその判断を中心になって行う必要がでてくる。難しく、やりがいもある一面である。

● そういった予想外のことが起きた時に、対処していく上で、先方や関係者との信頼をどれだけ作って来てられているかがカギとなる。日頃からの関係構築が非常に重要。最終的に国際協力というのは人と人との信頼の基に成り立っているのだということを実感する瞬間であり、自分がこの仕事にどのように取り組んでいるかを問われる瞬間でもある。

<講演議事録2 〜法整備支援の現場 ウズベキスタンでの経験〜>

● ウズベキスタンはどんな国

● 地域区分:中央アジア

● 資源:中央アジアは一般的に天然資源が豊富(カザフスタンなどは既にロシアよりも一人あたりGDPは高い。ウズベキスタンも潜在的には相応の資源量を保有していると考えられている。)

● 政治体制:議会はあり、選挙によって選ばれた議員によって構成されているが、一方で現職大統領がすでに20年以上国を支配している。民主主義体制、独裁体制、双方の要素を持っている。

● 民族:ウズベク人、カザフ人、中華系、ウイグル人、インド系(ヒッピーのような人が多い)、ロシア系、タジク系、朝鮮系、ドイツ系(朝鮮系やドイツ系はスターリンが強制移住を行った影響を受けている。)

● 宗教:イスラム教が大多数だが、他の宗教もあり。

● 言語:ウズベク語。ロシア語。カザフ語、キルギス語。民族の数だけ言語がある。

● その他:1990年に旧ソ連から独立した非常に新しい国。

● ウズベキスタンの諸問題

● 宗教間の闘争はある。ただ、ムスリムが多数派のため、異宗教間ということではそこまで表面化はしていない、どちらかと言うと民族間の対立になっている。

● マイノリティに対する社会的な冷遇

● 公務員になるためにはウズベク語が必須となるなど、ウズベク民族に対する色々な優遇政策がある。結果として公務員が多数派がウズベク人で占められ、結果社会サービスもウズベク人を優遇するものとなっている。パスポート上の民族の表記の違いだけで冷遇されることもある。

● 何を持ってウズベク人とするかは意外と曖昧。

● 汚職の蔓延

l 民間公共問わず、すべてのセクターで汚職が蔓延している。世界汚職度ランキング(2011)で約182カ国中、177位。

● 旧ソ連諸国は軒並み汚職が深刻だが、その中でもウズベクはワースト。コネクションのない人間がまともな行政サービスを求めるためには賄賂を払わなければならないという状況が常態化している。

● 行政機関の硬直性

● 旧ソ連時代の徹底した上意下達のシステムやもともとこの地域の特性である自分の属さないグループに対する排他主義の影響などにより、行政サービスが非常に硬直化している。例えば郵便局の例。

● 地域の不安定

● アフガニスタンに隣接しており、宗教過激派によるテロ活動の危険、国内情勢の不安定化というリスクを負っている。ただし、強大な行政権力の下で警察を国内に大量に配置しており、国内の治安自体は近隣諸国と比べて良い。

● 産業の非効率性

● ソ連時代に、綿花産地としての役割を与えられる。今でも、輸出総額の10%は未だに綿花で、綿花の価格変動が国内経済全体に非常に影響を与える。

● 貧富の差

● 巨大な国家権力

● ウズベクの法制度

● ウズベクの法制度は、旧ソ連の法律の影響が大きい。

● 三権分立はなされているが、大統領は三権を統括する立場。必然的に大統領の影響力が大きくなってしまう。

● また、検察は法執行の監督機関として三権の範囲外にあり、三権分立によるコントロール機構が働かなくなっている。(2011年に検察権力を法務省副大臣の監督下に置くという制度改正が行われたが、法務省の副大臣に検察庁の人間が付くなど監督自体は不十分、実際に検察長官の立場は法務大臣よりもはるかに上にある。)

● 加えて、公安も三権に含まれず、強大な権力を有している。

● ウズベキスタンにおいても基本的には憲法が国の骨格であり、最上位となる法で、その下に法律、大統領令が位置しているが、実際には大統領令(法律上は政令の扱い)が他の法令に優先する場合が多い。結果として法律と矛盾する大統領令がまかり通ってしまう。

● 名古屋大学による法整備支援

● タシケント国立法科大学日本法センターを設置。ウズベキスタンにおいて日本語による日本法の授業を行なっている。

● 日本の法律に関する考え方を普及することで、将来優秀な人材が当該国の法整備の実務に携わることになる。

● 日本とウズベキスタンの架け橋として役割を果たしてくれる。

● 名古屋大学から派遣された日本法の講師と日本語の講師、JICAから派遣されたシニア・ジュニアボランティア、現地の日本語教員による構成で教育を行っている。

● ケースワーク

● タシケント国立法科大学日本法センターにおいて、一度入学試験で不合格となった学生の親から副学長を通じて入学を認めるべきとの圧力がかかった。どうやらこの親は政府の実力者である。あなたならどう対応するか。日本人日本法講師、日本人日本語講師、現地人日本語講師の立場で論ぜよ。

<回答例>

● 2:1で入学許可。許可の理由としては、学校運営の助けになると判断しため。また、将来的なコネクション作りにも役立ちうる。但し反対者の理由としては、汚職をここでも再現することとなるため。

● 2:1で不許可。一度入れると後々問題になる。追試をしてはどうか。ただし、現地人講師は入学を許可する立場。

● 2:1で不許可。ただし、ウズベク人現地講師がその後ひどい思いをするのではないかという点が懸念。日本人は逃げられるが、ウズベク人は逃げられない。現地人講師は入学を許可する立場。

● 2:1で不許可。顔は立てるが追試で落とす。

● 2:1で不許可。汚職は認められない。入れてもついていけないだろう。ただし、現地人講師は入学を許可する立場。

● 2:1で許可。日本人も雇い主の意向には逆らえないという前提。

● 不許可。名古屋大学とウズベキスタン政府の間の規定がどのようなものかにもよるが、その中に学力が明記されているのであれば、それに忠実に従うべき。

● 不許可。親には他学生との公平性の観点から入れないと説明する。ただし、不合格学生に対してサポートはする。

● 2:1で不許可。客観的になぜ落ちたのかを丁寧に説明して納得してもらう。ただし現地人講師は入学を許可する立場。

● 2:1で許可。日本語講師も現地で働いているので、現地での出世に響くかもしれない。ただし、日本人日本法講師は反対。

● 2:1で不許可。公平性の観点を重視。

● 2:1で許可。但しコンディショナルオファーとし、非常に厳しいプレセッショナルコースを課して、自発的にやめてもらう。

<実際の対応>

● 次年度への影響、他の生徒との公平性、日本法の観点から不許可とした。その代わりに日本語講師がつきっきりで日本語の面倒を見た。それにより現地の講師の立場も守るように留意した。なお、半年後には来なくなった。

● まとめ

● 現場で働くのであれば、その国の状況を熟知しておく必要が有る。単に法律のエキスパートとしていっても物事は進まない。

● 賄賂の例も上がったが、当然賄賂など払いたくない場合がほとんど。でも払わざるをえない。

● また、生活がしっかりするのであれば、賄賂など受けとりたくない人も多い。でもお金がない。公務員は賄賂が無いと生きていけない。賄賂に対する規制を強化する支援を行った結果、生活に困る人が急増したのでは現地の人のためには全くならない。賄賂がなくなった後の生活をどうして行くのかに対する視点のない援助に意味は無い。

● 自分の専門だけでなく、幅広い知見の収集が必要。

● 質疑応答

【質問1】法整備支援の醍醐味は?

【回答1(社本氏)】

● 法制度支援に関して言えば、直接的に国民の行動規範を変えうるため、非常に効果が大きいという点。

● 行政手続法の整備支援を行った際には、すべての企業の活動に影響を与えるようなものだった。

【回答2(竹内氏)】

● 途上国の場合には所謂先進国とは違って、法律そのものがなかったり、機能していなかったりと、ニーズが大きい。

● 社会的なニーズや現状と法整備のバランスとどのようにとっていくか、そこを見定めながら進めて行くところに醍醐味を感じる。


<実際の対応>

● 次年度への影響、他の生徒との公平性、日本法の観点から不許可とした。その代わりに日本語講師がつきっきりで日本語の面倒を見た。それにより現地の講師の立場も守るように留意した。なお、半年後には来なくなった。


● まとめ

● 現場で働くのであれば、その国の状況を熟知しておく必要が有る。単に法律のエキスパートとしていっても物事は進まない。

● 賄賂の例も上がったが、当然賄賂など払いたくない場合がほとんど。でも払わざるをえない。

● また、生活がしっかりするのであれば、賄賂など受けとりたくない人も多い。でもお金がない。公務員は賄賂が無いと生きていけない。賄賂に対する規制を強化する支援を行った結果、生活に困る人が急増したのでは現地の人のためには全くならない。賄賂がなくなった後の生活をどうして行くのかに対する視点のない援助に意味は無い。

● 自分の専門だけでなく、幅広い知見の収集が必要。

● 質疑応答

【質問1】法整備支援の醍醐味は?

【回答1(社本氏)】

● 法制度支援に関して言えば、直接的に国民の行動規範を変えうるため、非常に効果が大きいという点。

● 行政手続法の整備支援を行った際には、すべての企業の活動に影響を与えるようなものだった。


【回答2(竹内氏)】

● 途上国の場合には所謂先進国とは違って、法律そのものがなかったり、機能していなかったりと、ニーズが大きい。

● 社会的なニーズや現状と法整備のバランスとどのようにとっていくか、そこを見定めながら進めて行くところに醍醐味を感じる。