第7回勉強会議事録
■ 第7回勉強会概要
「世界銀行、アジア開発銀行(ADB)と人権――開発における人権の保障をめぐる現状と課題」
日時:2012年5月26日 15:00-17:00
場所:JICA英国事務所会議室
講師:藤田早苗(ふじた さなえ)様 (University of Essex)
■ 勉強会議事録
Human rights and development
人権から開発へアプローチ。人権と開発は非常に関連がある。
1986年のDeclaration on the right to developmentで承認される。
Multilateral Development Banks (MDBs)
多国間の様々な開発銀行のこと(世界銀行、アフリカ開発銀行など)
The World Bank Group (世銀グループ)
5つの機関(IBRD=中所得まで, IDA=貧困層)
187カ国 (世銀の加盟国になるためにはIMFの加盟国にならないといけない)
国際開発金融基金(IFIs)と人権
人権とは、拷問死刑などの政治的な問題だけでなく、社会福祉(水、食料、教育)なども含まれている。IFIsと人権といったとき、3つの種類が考えられる。
加盟国の人権状況とIFIs
IFIsの活動による加盟国の人権状況へのマイナスの影響(藤田さんが主に研究している事)
IFIsの活動による、加盟国の人権状況への貢献
IFIsの人権に関する法的義務
IFIsの人権に対する義務の理由
直接的アプローチ
· 国際法の主体だから
· 国連の専門機関だから
· マンデートとコミットメント
間接的アプローチ
· 国連人権条約の加盟国へのコミットメントを介して
(e.g.) 国連社会規約委員会(加盟国がIFIsでの政策決定が人権条約へのコミットメントと反しないように勧める)
世界銀行
Overview of the World Bank
国連専門機関であり、IBRDとIDAから成る。187加盟国。
毎年約300の新しいプロジェクト
加重投票制:拠出金によって票が変わる(日、米など5カ国(5人)が39%を占める。他国はグループを作り1人ずつ出している。理事は全員で25人)
日本はVoting power(影響力)が大きい。
人権に対する世銀のアプローチの変遷
1. 世銀協定4条10項
= 銀行役員は、経済的事項のみを考慮しなければならない。
2. 1960年代
世銀、IMFで人権に関する問題がはじめて国連で取り上げられる(ポトルガルの植民地問題、南アのアパルトヘイトへの融資の有無)
→世銀、IMFは「非政治性」を強調し、国連の議論に参加せず。(一切人権にはタッチせず)
3. US public law 95-118
世銀内で大きな影響力のある米国理事が、重大な人権侵害を行う国への融資には反対するように求めた(e.g. ミャンマー、中国)。
→政治的問題(重大な人権侵害など)の経済への影響は世銀の関心事
4. 1980年代
世銀の活動に対する内外からの批判
プロジェクトによる負の影響(e.g. Narmada Dam, India)
· その結果、Operational Manuals (OMs)が出来た。Inspection Panel (プロジェクトで悪い影響を受けた人々が世銀にクレームを出せる)
5. 構造調整政策とコンディショナリティー
IMF/世銀、借りて国政府の責任を強調(「政策自体が悪いのではなく、その国の実施方法が悪い」というスタンス)
6. 1990年代
“Development”の定義がより包括的になった
· 世銀、社会開発プログラム(経済)、社会的権利への貢献を強調するようになった
「人権」が公的に言及されるようになる時期
世銀において人権が言及されるようになった背景の一つ:国連によるアウトリーチ
1993年:ウィーン宣言
· 人権関連機関と開発機関が協力・協調すべきだという認識。
Robert Danino (法務部長)の見解
“人権は世銀のマンデートの中心となるものである”
加盟国の人権保障義務も強調。世銀は加盟国政府をサポートする役割。
しかし、‘Rights based approach’ (非差別的、参加型、透明性を準備段階から適用していく)には、コミットしていない。
ADB (アジア開発銀行)
加盟国: メンバーはアジア・オセアニアだけではない(北米、ヨーロッパなども)
Voting power:
· Regional countries (48カ国):総裁は常に日本人
· Non-regional countries (19カ国):アメリカ12%
ADBも世銀と同様に批判されているが、世銀に比べると注目度は低め。
設立協定:「非政治性」(世銀協定と同一の文言)
· 政治的問題に介入はせず、経済的考慮のみ。
人権侵害の深刻な国に対してどうアプローチしているか
ミャンマー:融資は1988年から中止。公的には「融資協定違反」だが、実際は政治的考慮のため。(cf US理事)→現在、アジア諸国はミャンマーに融資したい、欧米は慎重。
ウズベキスタン:2010年の年次総会 タシケントでやる意味=独裁政権の承認とならないか。→「非政治性」「地域協力」を強調し開催。
ウズベキスタンでの年次総会
前年のインドネシアでの総会:セキュリティガードによるNGOsに対する妨害
それを受け、ウズベキスタン総会前、NGOの安全確保をADBに要求(ウズベキスタン政府に要求してほしい)→ADBは慎重姿勢。→NGOsは総会をボイコット(⇔EBRDはNGOに協力的)
NGOとの対話の重要性
ADBの政策の改善に貢献
ADBもその重要性を認める
NGOと対話しないと良いものはできないという実感
ADBのOperational manuals (OM): Regulations
情報公開、アカウンタビリティ、貧困削減、環境影響評価など
その過程で行われるPublic policy
ドラフト→コンサルテーション→パブリックコメント→理事会での議論、決定
ドナー、借り手、MDBs,NGOの利害が対立
MDBs間のポジティブな競争
Safeguard Policy Review (2007-2009)
“Dilution”? NGOs の批判
環境影響評価の公開:120日ルール(理事会承認の120日前に公開しなければならない)→もっと公開期間を短くしてほしい(例えば60日に)という国があったが、NGOが反対。
先住民:Consent or consultation?
Free, Prior and informed consent
国連:「先住民がFree, Prior and informed consentを得なければならない」
しかし世銀やADBは “Free, prior and informed consultation”と少し変えている
情報公開政策
2005年のADBのpolicy: Presumption of disclosure(原則公開)をIFIとして始めて適用
2009年世銀、2011年ADBがこうした情報公開政策を適用
Accountability mechanism
1996年のInspection panel: 被害を受けた人々がクレームをする機関→批判を受け、”アカウンタビリティメカニズム”→約3年間のレビューを経て、2012年改訂版が出た。
最も難航した論点:Site visit issue (タイのケース:パネリストがプロジェクトサイトへ視察し、影響住民にインタビューしたいのだが、借り手国の許可がなかったので行けなかった。)
· これを受け、パネルによるプロジェクトサイトへの訪問について、ドナー国は「融資条件とするべし」(受け入れ国は義務として受け入れるべし)⇔借り手国「国家主権」を強調
· 2012年の改訂版では、訪問受け入れ拒否の理由を公開し、レポートを作成することで妥協。
質疑応答
【質問1】政治的な事には関与しないという世銀の協定が始まった背景は?(なぜ「非政治性」が出てきたのか)
【回答1】国連発足時(なぜ第2次世界大戦が起きたのかを振り返った際)、国際連盟は政治と経済が分離していなかったという反省があった。そこで、国連ではそれぞれが専門分野に集中し、政治と経済は分けるべきという結論になったから。(機能主義[functionalism] という)
【質問2】人権が開発に与えるポジティブな面は何か。
【回答2】「透明性等を怠ったがために住民に悪い影響があれば、Inspection panelに報告されるので、コストがさらにかかる」と言える。また、世銀のレポートに見られるように、人権は開発の道具、例えば、「健康な肉体はすばらしい労働力になり生産性が上がる、だからヘルスは重要」、という議論もある。ADBの局長は、「教育に関しては、開発の手段として大事だが、教育自体の価値・目的も認識している」とのコメント。
【質問3】新しく変わった世銀総裁は医療の専門家である。保健と人権は関わりのある分野であるし、新総裁就任を受けて、今までの世銀のアプローチが変わるだろうか?
【回答3】変わる事を期待している。トップが変わると影響がある。総裁はキーパーソンである。
【質問4】アメリカがPublic lawで政治的な問題があるところには援助しないという強い姿勢とのことだったが、日本が人権に対して強い姿勢を示した例はあるか?
【回答4】ADBはコンセンサスを非常に重視しており、人権にはあまり言及せず。現在の米国理事が前任者の日本理事にある程度の影響を与えた事がある。アカウンタビリティメカニズム改訂の際、ワーキンググループがパブリックコメント締め切り後数日でドラフトを仕上げたことがあり、日本理事はワーキンググループが時間をかけてパブリックコメントを検討してドラフトを作らなかった事を理事会で米国理事とともに強く批判したことがある。、日本理事がそういう態度を示すことは珍しいので、それにはアジア諸国も驚いたようだ。しかし大体の場合は難しい立場にあるので、基本的にはあまり言わない。
【質問5】ADBとCivil societyの会合で、黒田総裁が回答に困るような質問や意見はなんだったか。
【回答5】総裁自身ではなくプログラムの問題でもあることが多いので、大抵の場合回答に困る事が多い。
【質問6】MDGsと世銀の関連は。MDGsも、世銀が変わって来たことの流れだろうか。
【回答6】そうであろう。MDGsは水や健康の基本的権利に非常に関わっている。社会権規約を作る時、国連が議論に招集したにも関わらず世銀が来なかった時に比べれば、世銀の認識面で大きなステップがあり、立場は変わって来たと言えるだろう。