第4回勉強会議事録

■ 第4回勉強会概要

「新しい公共サービスの提供と社会的企業の役割」

日時:2012年1月21日(土) 14:30-16:30

場所:London Business School

講師:日下部元雄氏(立命館アジア太平洋大学客員教授、University Collage London 客員教授)

(議事録担当:中野、相田)

■ 勉強会議事録

<内容>

1. 社会的排除とは何か?どこが従来の貧困概念と違うか?

a. 従来の貧困概念との対比

i 従来: 消費・所得からの視点、社会的推計量、マクロ、財サービスの消費、貧困=特定階層、国家レベルでの政策、特別な不利を持った人への福祉国家

ii 社会的排除アプローチ: 多元的背景から貧困を捉える、個人・ミクロデータ、動学的排除過程を重視、消費に至るまでの社会的背景、誰もが負の連鎖過程の中で貧困に転落するリスク、共助、社会的包摂(連帯を強めることを目標)

2. 背景:問題の根源:4つのトレンド

a. グローバル化に伴う雇用の変化:製造業の途上国への移転により、先進国では情報・知識・高度サービスへの雇用が伸びる→労働者の二極分化、東アジア型モデルの偏り(中国のみでの成功例)、一度経済活動から排除された人・地域は、再生過程に時間を要する、平等成長の限界、ミクロの調整過程を重視

i アメリカ、EU、日本での失業率上昇、全体的な雇用の衰退、回復期においても雇用の伸び悩み

ii 成長パターンの長期的変化(速水祐次郎”Development Economics”)

19世紀:マルクス型成長パターン:資本の蓄積による成長、分配の限界

20世紀:クズネッツ型成長パターン:生産性の伸びによる成長、労働者層の中産階級化

21世紀:雇用の減少、Working Poor ・・・マルクス型成長パターンへの回帰?

b. 多様な成長戦略の失敗=新しいアプローチの必要性

i OECD各国におけるTFPの伸びの低下(スウェーデンの積極的労働政策においてもTFP低下)

ii 1970年代からの開発戦略の焦点の移行―全ての戦略が成功しているわけではない →今後は、社会関係資本、well-being を重視?

c. 貧困概念の多元化=開発戦略も変化

i 従来の「所得や消費の額」での貧困の定義から、「貧困は多元的な現象:Empowerment、Security, Vulnerability」へ (2000年 世界銀行開発報告“Attacking Poverty”)

ii Capability Approach by Amartia Sen: 「財・サービスにアクセスするFunctioningの欠乏」

d. 福祉ニーズ

3. これまでの調査に欠けていたもの

a. 「少年期に貧困だった子供は平均に比べ3.5 倍高校中退となりやすい」:このような命題の検証はこれまでの統計データからは得ることができなかった

i 子供の貧困、高校中退を同時に調査した結果(多次元データ)がなかった(管轄部署が異なる)

ii 事象の時期が異なる、子供のころのデータは統計として現れてこない、時系列的データの欠如

iii 多次元、時系列を満たすデータ→ミクロパネルデータと呼ぶ

b. 現状

i イギリスは統計が発達している →約200の指標、ほとんどの政策分野をカバー、地域ベースの統計データがある、しかし個人ベースの多次元データはない

ii 各時点・調査において調査対象者は異なり、個人の変化を調査できない

iii 大規模なパネルデータの存在:British Council of Panel Survey (毎年5500世帯、一万人、2000の質問), Keio Household Panel Survey (毎年4000世帯、7000人、800の質問)

〈欠点〉

- 所得データ中心の統計、家計簿をつけられない人が調査から抜け落ちる

- 調査対象の限界(ホームレス、ネット難民などの欠如)

- センシティブな質問の回避、回答率が低い

- 子供時代のデータ量が薄弱、巨額の費用、参加者への負担、自治体レベルでの分析の限界

c. コミュニティー・カルテ・システム(CCS):日下部氏が開発、少ないサンプルサイズ、自治体レベルでの利用を目指す

i 多次元データ(一個人が持つ問題の数)、時系列データ(問題はいつ発生、いつ解決)の収集

ii 回顧パネルデータ

iii センシティブなデータの収集方法

- 参加型アプローチ(コミュニティーセンターを通じて):コミュニティグループとの連携を通し、部外者では入り込めないケース(長期にわたる対立、閉じこもった関係など)からの有効回答を得る工夫

iv 全ての調査関係者へのメリットの必要性:学問目的の調査だけでは、協力を得ることは難しい

〈各関係者のメリット〉

回答者=自己診断システム、問題解決のための情報提供

協力団体=少額報酬、顧客のニーズ把握

自治体=地域福祉計画作成の情報収集、予防的サービスを民間主体でつくる

国=福祉・社会サービスの効果の測定、より予防的な施策への転換でコスト削減

v 調査目的

- 個人の生活史を1回の調査でカバー(幼年期―学齢期―就業期―老年期)

- リスク要因:問題の連鎖の順番を解明する

- 強み要因:問題の連鎖を防ぐ要因を個人、コミュニティで解明する

vi 調査の具体的目標

- 3都市間での「社会的排除」の有意差を比較

- 社会的排除の最も多い「入り口」、順番の連鎖・速さ・強さ、強み要因とその有効性を明らかにする

- 調査地

リバプール(エバートン/ケンジントン地区):1970年代から伝統的産業(造船・海運業)が破綻し、最も早い時期に「社会的排除」が始まる、当時、人口の1/3が失業

ロンドン(キャムデン地区):リバプールと同時期に破綻が起きる。Council Housing を作り続け、貧困地域を形成する一方で、裕福な人が住むエリアもある

新宿:賑わいを持つと共に、ホームレス、ネットカフェ難民のためのインフラが整っている(安い食堂、ネットカフェ)、非正規労働者、高齢者のための限界団地も存在

vii 調査方法

- 各都市300人を対象、無作為抽出(Random sampling)ではない

- 8つの福祉分野から、「リスク要因」「強み要因」に関し、各40、合計80の指標を質問

- 「リスク要因」に関して、発生時期、解決時期ついても調査

4. 調査1年目の結果概要

a. 多次元的な問題:一人当たり平均問題数

i リバプール(近隣、雇用、教育など)>ロンドン(近隣)> 新宿(多次元排除は少ない)

ii 雇用問題は各都市に共通

b. 社会的排除の入り口は?

i リバプール:少年期の貧困、片親による養育

ii ロンドン:人生の後半期(就職期)からの排除が始まる

iii 新宿:リスク要因はまんべんなく分布している

c. 主要な連鎖の経路を2種類の手法で分析

i ケース・コントロール法(CC法):2010年調査時点で問題があった人のオッズ比率(全参加者)と、5年前に何らかのリスク要因が存在していた人のオッズ比率を比較

- 無作為抽出では、回答者の偏りが生じる(ex. 問題数が多い人は回答したがらない、住所や職が不定なものは抜け落ちる)

- 無作為抽出でなくても、統計的に意味のある結論を導きだすため、ケース・コントロール法を用いる

- 交絡要因がないこと、サンプル(ケース、コントロール)が同じ性質の母集団から採られているという2つの要件がオッズ比率の信頼性を保つために必要

ii 多変量パネル回帰モデル

- パーソナルヒストリーを過去20年分のパネルデータに変換

- 一度に多数の説明変数の入力が可能、効果が独立して検出、係数の信頼区間も算出される

- 各変数の回帰係数のExponentialがオッズ比率となる

- 交絡要因の可能性のある要因を見つけ出すことができる

d. 分析結果

i 4つの連鎖パターンを分析:

1) 幼年期から学齢期

2) 学齢期から心と身体の健康への影響

3) 幼年期・学齢期・健康から雇用への影響

4) 雇用から貧困へ

ii 幼年期から学齢期

- 新宿において、「少年時貧困」は、「いじめ」(3.54倍)、「不登校」(4.23倍)、「高校中退」(3.30倍)のリスクを増加させる (しかし、「いじめ(2%)」を覚えている人は少ない かもしれない)。「親接触少」は、「いじめ」(4.72倍)、「不登校」(5.63倍)、「高校中退」(2.52倍)のリスクを増加させる。「一人親養育」は、「いじめ」(9.44倍)のリスクを増加させる

- リバプールにおいて、「仲間遊び苦手」の子どもは、学齢期のリスクが10倍以上になる(「いじめ」18%、「不登校」16%、「高校中退」15%) →幼年期の問題がそのまま救済されず将来の問題へとつながるリスクが高い、幼少期の問題に対処することが重要であると示唆

iii 幼年期・学齢期の問題が雇用に与える影響

- 新宿において、「一人親に養育」(3.89倍)、「不登校」(3.24倍)、は「NEET」へのリスクを増加させる(CC法)

- 新宿において、「いじめ被害」が、「NEET」(64.58倍)、「非正規雇用」(130.23倍)、「失業」(6.96倍)のリスクを増加させる(多変量回帰分析法)

iv 心の健康が雇用に与える影響

- 新宿において、5年前に「アルコール依存」の問題を抱えていた人は、「NEET」(2.78倍)、「非正規雇用」(7.29倍)、「失業」(6.90倍)のリスクを増加させる(CC法)→早期の「アルコール依存症対策」プログラムの参加により、問題発生のリスクを低下することができたかもしれない

- 新宿において、5年前に「アルコール依存」の問題を抱えていた人は、「NEET」(470倍)、「非正規雇用」(105倍)、「失業」(13.09倍)のリスクを増加させる。 また、「引きこもり」の問題を抱えていた人は、「NEET」(3995倍)のリスクを増加させる(多変量回帰分析法)

v 貧困に連鎖するリスク(CC法)

- 「失業」(9.51倍)、「病気療養」(6.48倍)、「居場所なし」(4.45倍)、「引きこもり」(3.89倍)、「一人親で子育て」(3.46倍)

vi 貧困に連鎖するリスク(多変量回帰分析法)

- 「NEET」(107 倍)、「引きこもり」(22.4倍)、「病気療養」(20.4倍)、「非正規雇用」(5.08倍)、「不安定、うつ」(4.94倍)

vii CC法と多変量回帰分析法では、リスクの捉え方が異なる

- CC法では、全体の総合効果、複合要因を測定

- 多変量回帰分析法では、単独効果を測定

viii 3都市間による貧困連鎖の違い

- 新宿、ロンドンでは、青年期・就業期の要因が大きな影響を及ぼす

- リバプールでは、幼年期・学齢期の要因が大きな影響を及ぼす

ix 「強み要因」:リスクを引き下げる効果、Resilience factor, Protective factor

負の連鎖を防ぐための資質、40種の指標を作成

i 自助―自身の価値観、資質を高めることでリスクを引き下げる

ii 共助―家族、友人、職場からの支援

iii 公助―健康保険、年金など制度へのアクセス、地域コミュニティ

x 幼年期から学齢期への「強み」要因(新宿)

- 近隣援合い、育児センター等、コミュニティのサポートが、学齢期には効果的

xi 雇用リスクへの「強み」要因(新宿)

- 「信念・自信」、「目標・計画」等の自助がリスクを回避する効果が高い

xii 貧困への連鎖を防ぐ要因:社会的背景により「強み」要因は各都市異なる

- 新宿:「在宅介護」、「大卒の学歴」、「家族仲良い」

- リバプール:「近隣援合い」、「在宅介護」、「専門資格」、「スポーツ」

- ロンドン:「信念・自信」、「大卒の資格」

xiii 「強み」要因が効果があるかは、オッズ比率だけでなく、努力で回避できるものか、先天的なものか、社会的地位で決まるのものかにより異なる

- 先天的:早期の対処により回避可能

- 家庭環境:大学進学への影響

- 個人的努力:信念、自信、目標、努力

- 公的努力:サービス、育児センター、在宅介護

xiv 「強み」要因の比率:「強み」要因のプロ・プア度(貧困の人が持っている確率/非貧困の人が持っている確率)は、各都市により大きく異なる

- リバプール:貧乏な人ほど強い

- 新宿:裕福なほど「強み」要因が強い

- 「強み」要因は3つの指標を総合して、査定:その要因を持っている人の比率、リスク低減効果(オッズ比率)、プロ・プア度

xv 社会関係資本(Social Capital):「強み」要因との類似が多い

- 社会関係資本:信頼、互酬性、友人ネットワーク等、限られた範囲から要因を抽出、その要因を持つ人の割合だけを測定、効果の測定は不鮮明

- 「強み」要因:個人が排除を受けないための要因を、家庭、学校、職場、自己の資質等を含めた広い範囲から抽出、オッズ比率にて効果の計測が可能

- 人的資本:「大卒の資格」、「専門資格」等を計測、「自信・信念」などの個人の資質は概念に含まれない

- 「強み」要因:「大卒の資格」等の成果ではなく、個人の資質、「親の教育熱心」等、教育を受ける能力があるかを分析

- Capability:個人の貧困脱出等の潜在能力、計測不可能

- 「強み」要因:概念は「Capability」と非常に似ているが、オッズ比率により計測可能

- 幸福度:主観的満足度を測定

- 「強み」要因:幸福を追求する能力があるかを測定

5. 政策的インプリケーション

a. 早期対応が、次世代へのリスクを軽減

i 社会的排除の次世代へのくいとめ

ii 予防的な早期介入

- (例)0-5歳を対象にした総合的プログラム:Sure Start Program

- 民間が開発し、自治体や学校に取り入れられている

- Commissioning Agencyが大きな決定権を持つ

b. 「強み要因」を高める政策

i 強み要因を取り入れる仕組み -コミュニティベースのサービスの強化等

c. 新しい雇用の創出:4つの戦略

i Activation: 現在雇用から排除されている人を、どう取り入れていくか

- (例)「New Deal For Young People」: ブレア政権時、LSE教授のアドバイスにより開始 (大阪府でも実施中)

- 1対1 での就労アドバイス(3ヶ月)、4つの選択肢からの職業体験(6ヶ月)

- 訓練終了後、30%のみが定職を得る →短期訓練では取り返しがつかない

- 現連立政権は、「New Deal For Young People」を停止、北欧でも訓練の限界を認識

ii Decent Work: 非正規雇用者への適切な職場環境の提供

- 現在非正規雇用は3割、数年後には4割に?

- 適正な雇用機会:不公平な格差は社会的な亀裂を招くリスクとなる

- 単純に全員に職を与えるのではなく、プロモーション、研修、労働時間、休暇、子育て支援等の職場環境を整える

- 非正規・正規の固定化を防ぎ、流動性を確保

iii Participation: 多様な手段で雇用形態を増やす

- Work Sharing、ボランティア、コミュニティ・ビジネス

- 多様なキャリアプランの提示と、その価値を教える教育の実施

- ボランティア活動を行っている人は、貧困が少ない

iv 社会サービス分野で社会企業による雇用創出

- コミュニティサービス分野での、社会企業の活用(社会企業型:企業としての利益と社会目的の双方を追求、コミュニティ・ビジネス型:地域に密着した様々なビジネスモデル)

- 社会貢献の機会と同時に、所得を確保

- 社会問題に対するImaginativeなプログラム

- 自治体に比べ、企業は生産性が高い

- 地域のニーズに即したビジネスモデルの創出

- 地元民からの人的・資金的サポートが得られやすい

d. 社会企業家の役割を伸ばす

i 社会サービスの育て方

- サービスニーズを計量的に把握

- 効率的な社会サービス提供のビジネスモデルを創出

- 地元を経営に取り込む

- 自治体が戦略的なコミッショニングシステムを作り、優れたビジネスモデルは自治体が支援

- 全国的なネットワークの構築

- 社会的ファイナンスの活用

ii 戦略的コミッショニング

- 英国:自治体は、地域ごとの専門家集団に各種のプログラムの執行を割り振り、サービス提供する (例) Primary Care Trust(PCT)、Children’s Service Trust

- 日本:予算の過半は補助金のため、新しいサービスの創出が困難

iii 社会的ファイナンス

- 審査にあたり、投資収益だけでなく、社会的メリットも考慮する

- リスクを多元化し、リスクプロファイルが向上

- 社会的に認知されてきている(JP. Morgan 2011 リポート)

- 途上国の場合、依然マイクロファイナンスが主流、社会企業が発達していない

- 将来的な投資対象は、BOPビジネス(医療、保健、教育):すでに様々なビジネスモデルが確立されている

- モデルを世界中に拡大し、一定の利用でどの程度社会的ビジネスが増えるか→1兆ドルの需要(BOPの将来性、分野ごとのビジネスモデルを使っての計算)

<質疑応答>

【質問1】ロンドンとリバプールの幼年期のリスク要因を比較した際、「近隣助け合い」が一番大きな要因として挙げられている。リバプールの場合はコミュニティが同質であり、同じ人が同じ場所で大人になる、と考えられる。しかしロンドンでは、周囲の環境、人間関係が変わりやすく、2、3年で再びやり直すことができる。こういった背景を踏まえ、「強み」要因である「近隣助け合い」はリバプール・ロンドンでは「強み」なのか?

【回答1】社会制度が同じであるため、ロンドンとリバプールにおいてほぼ同じ調査結果になると期待していた。しかし結果から、コミュニティによりそれぞれの社会規範が異なることがわかった。リバプールの調査では、アイルランド系移民が多く住む、40年前に社会的排除を受けたコミュニティを選択した。幼年期に公的施設に入所し、そのまま大人になり雇用経験がない人が多かった。一方ロンドンは、貧困はあるもののコミュニティの流動性がある。文化に大きな違いが見られた。

【質問2】子どもの成績、奨学金等のインセンティブと「大卒の学歴」の関係は?

【回答2】学力は、20分間の調査質問では測ることができない。「大卒の資格」と「貧困」に関して、多変量回帰分析で見ると大学教育そのものの直接効果より、大学に入れたという、それまでの教育へのアクセス、親、近隣の影響、自身の資質、計画性が「貧困」に強く関係していると考える。

【質問3】コミッショニング・エージェンシーの地域ごとの専門家はどのように選ばれるのか?采配のゆだね方は?

【回答3】コミッショニング・エージェンシーにはかなりの権限が与えられており、予算のプログラム毎の配分も決めるが、もともとの予算は国により振り分けられている。コミッショニング・エージェンシーには、医療の専門家、幼児教育、保護の専門家等、その分野の専門家が選ばれる。しかし人件費が高額であり、保守連立政権は医療関係のコミッショニング・エージェンシーであったPCTの廃止を提案している。

【質問4】

i ボランティア活動を行っている人は貧困リスクが少ないとの調査結果であったが、もともと貧困ではないからボランティアをしているのではないか?

ii 日本の開発援助政策上でのインプリケーションは?

【回答4】

i 「リスク」要因は、発生時期を質問し、時系列で表すことができているが、「強み」要因は、その獲得時期、「リスク」要因との前後関係について調査を行っていない。因果関係は、両方の可能性がある。しかしボランティアなどの形で社会参加している人は貧困になり難いと考えられる。

ii これまで発展してきた国を見ると、援助により発展したというよりは、企業が育ち、資本の蓄積があり、発展へとつながったケースが多い。発展から取り残されたケースを見ると、ガバナンスの問題、社会的資本欠如という状況が見られる。発展には、社会関係資本がまず重要であり、開発政策の中で重要になってくるのは、地元の企業家であると考える(例:インド、台湾、韓国、中国での成功例)。

社会企業が発展するためには、いろいろな要素が備わっていなければならない。しかし、それらを育てるための開発援助政策は行われていない。日本の援助政策は、インフラが中心であり、政策自体が社会企業家に直接資金を提供する仕組みを持っていない。世界銀行では、初めての試みとして、「Japan Social Development Fund」を通じて、六千万ドルの資金を直接コミュニティに拠出した。JICAにそのような仕組みがあるかはわからない。

社会的ファイナンスは、日本の援助ではまだあまり認識されていない分野である。若い世代が、日本の開発政策を一歩進めてもらえるとありがたい。

【質問5】雇用拡大の戦略に関し、多様なキャリアパス(正規雇用と認められていないものを、認める)は単なる統計上のごまかしになるのではないか?ワーキングプアが正規雇用につくことにより、貧困から抜け出すことができるのか?4つの雇用拡大の戦略により、GDPも拡大することができるのか?

【回答5】パートタイムやボランティアの人が貧困のままで良い、というのではなく、多様なキャリアパスを示すことにより、Alternativeを提示している。例えばリバプールにおいて、一度失業した人はWork Forceから落ちてしまい、職業スキルを失い、元に戻ることが難しくなる。社会貢献ができていないことから、セルフエスティームの低下へとつながる。新たに就職することで問題が解決できれば良いが、雇用の機会は限られており難しいのが現状である。生活保護を受けている人、非雇用の人々は、引きこもりになりがちである。社会に食べさせてもらっている、故郷に行っても自分がやっていること、自分のことを話せないことから、自殺念慮につながることもある。賃金は少なくても、なんらかの社会貢献、創造的な仕事をすることは、自信回復へとつながる。そこで様々なオプションを与えることが重要である(例:オランダ ワークシェアリング)。多様なオプションを創出しなければ、失業者の多くが自信を失い、そして反社会的行為へとつながるリスクがある。多様な価値、オプションを早くから教えることが、社会的排除プロセスをくいとめる一助となる。

成長なき時代の国家戦略に関して、これまでの政策とは全く異なる方法が必要である。Well-being は、GDPでは測れない。次世代の問題の解決には、別の解決方法が必要である。