第3回勉強会議事録

■ 第3回勉強会概要

「国際保健協力の現場から」~青年海外協力隊、国連ボランティア、NGOスタッフが現場で経験したこと、感じたこと~

日時:2011年12月18日(日) 14:30 - 16:30

場所:Institute of Education (IOE)

講師:林朝子 氏、相田華絵 氏、中田好美 氏

(議事録担当:稲垣、中野)

■ 勉強会議事録

林朝子氏: HIV陽性者向け収入向上活動

(青年海外協力隊エイズ対策隊員としてガーナに赴任していたときの話を中心に。)

(1)ガーナ基本情報/配属先

● 人口23.5百万人 LIFE EXPECTANCY:57歳 LITERACY:63%

● HIV感染率 1.9% (東アフリカ、南アフリカ地域に比べ低い)

● 任地:EASTERN REGION KWAHU SOUTH DISTRICT (クワフサウス郡役所):エイズ対策オフィサーアシスタント

(2)活動内容

● 郡内のローカルNGO主催のHIV/AIDS対策の取りまとめ業務

● モニタリング評価、データ管理、ステークホルダー会議開催、

● フィールドにおけるHIVの予防啓発、郡内のHIV陽性者団体のサポート (収入向上活動)

● HIVカウンセリングテスティング(陽性反応チェック)質的調査

● サブサハラアフリカ地域8カ国からエイズ対策オフィサーを招聘し、広域研修を企画

(3)ガーナのHIV/AIDS事情

● 他アフリカ諸国に比べHIV感染率が低く、陽性者に対する偏見・差別が根強い。

● 周りに感染者がいないので、知識や感心が低い。

● 宗教観ゆえの偏見。(例:HIV陽性=多数の人とセックス、という偏見)

● 2008年の統計データによれば、15-24歳の約30%前後しかHIVに関する正しい知識を持っていない。

(4) ガーナ国家エイズ対策 概略図

● 大統領の直下組織 GHANA AIDS COMMISSION

● MINISTRY OF HEALTH/ EDUCATION/ GOVERNMENT, RUAL DEVELOPMENT & ENVIRONMENT

● コモンファンドの0.5%をエイズ対策として振り当てられる

● BUDGET officerとパートナー

● 国家ストラクチャの一番現場レベル

● 上から、Ministry of Health →Ghana Health Service(保健局)→National AIDS/STI CONTROL programme (政策を履行する組織)→District GHS→陽性者支援団体はGHSの監査下+パートナーシップ。

(5) HIV陽性者団体 Eye Nyame Den (God is good)

● 郡保健局、郡役所からのサポート

● 計4名のスーパーバイザー

● 総メンバー19名 (当時)

● クワフサウス郡の拠点病院であるクワフ郡病院において毎月定例ミーティング

● 健康相談,栄養改善アドバイス,抗HIV薬費用の援助,情報交換,収入向上活動

(6) 「収入向上活動」のイメージ

● クラフト系やお菓子づくりなど

(7)携帯電話ユニットカード販売ビジネスの導入

1. ガーナで最もポピュラーなローカルビジネスのひとつ

● 多くの人が銀行口座持っておらず、定期的にお金を支払う人がいないので、携帯電話はすべてトップアップ式。よって非常に需要がある。

2. 個人ビジネス支援にフォーカスをあてた新しい試み

● グループでやるというより、個人に焦点をあてた。

3. 2名のHIV陽性者のビジネスパイロット展開/キャパシティービルディングに貢献

● 19人いたが、全員はじめるのは難しいので、2名のHIV陽性者をビジネスパイロットに。

(8)メンバー構成図を通じて見る陽性者の事情

● 所属コミュニティー

● メンバーの多数、拠点病院がある場所から1時間以上も離れたところに在住

● 自分の住んでいるコミュニティーに、自分がHIV陽性であることを知られたくないため。

● 独身か既婚か

● 独身者が多数を占め、かつ子どもを抱えている人が多い。

● 結婚していたが、HIV陽性判明で離婚するケースが見られる。

● 雇用形態

● メンバーのほとんどが自営業者であり、所得水準が低い。

● 教育水準が低い。小学校卒業、中学校が限界→なかなか雇用される機会がない。

● 自分たちで小売業をやったりしている。

● HIV治療(ART)の有無

● 免疫力を測るCD4+セルカウント350以下になると服用を始める。

● 19人中18人がHIV治療を始めている。(当時)免疫力低下による体調不良や、治療薬による経済逼迫。

(9)ENDが抱えていた問題点(ショウガ栽培ビジネスがなぜ失敗したか?)

● プライバシー

● 自分がHIV陽性であることが周りに知られてしまうため、陽性者団体に所属して行動することを敬遠する人が多い。

● 体調

● メンバーの体調が安定していないため、肉体労働を要するビジネス(畑仕事等)だと難しい。

● 遠距離

● グループで活動するのが難しい。交通費の工面ができないメンバーも。

(10)陽性者が抱える問題から見えるニーズ→携帯ユニット販売の利点

1. 個人でできるビジネス(周囲にHIV陽性者だと分かりにくい)

→きわめてポピュラーなビジネスのため、陽性者としての特別性がない

2. 身体への負担が少ない

→ユニットを売るだけなので、身体への負担少ない

3. 健康状態や生活に合わせて継続できる

→特別な技術、教育が不要

4. 運営や容易、アドバイスが得られやすいガーナで広く認知されている

→隊員の干渉がほとんど不要。(品質管理、販路開拓、広告など)ガーナ人同士の支援が可能

1. たとえばビーズだと品質管理などが大変。

2. 携帯だと多数が所持、販路開拓や教育の必要なし。

3. ポピュラーなので、ガーナ同士の協力が可能。

4. 不良在庫が出ない。こつこつ売ればかならず利益が出る。

5. 地域、時間を選ばず運営できる

→自身で営業場所、時間を選べる。

(11)支援獲得 支援者の関心

携帯ユニット販売は、以下の点で論議になり、支援者からの支持を得るのが難しかった。

● 支援者の関心

● 個人の利益にフォーカスしすぎている。グループの利益との両立は?

● チームワークが見えない。

● ものづくりをなぜしないのか?スキル向上につながるのか?

● HIV陽性者の事情やニーズは伝わりにくい

● いろんな団体で収入向上活動をしている様子をこの2年見聞きしてきて収入活動の運営は難しい、という実感。団体でのものづくりなどのプロジェクトであれば、隊員がプロジェクトの品質管理、販路開拓、利益分与の公平さを保つなど長期的に細かいケアが必要で、なかなかメンバーが支援から独立できていないことを実感。

● 陽性者の、HIV陽性者としてのアイデンティティーをできれば意識せずに暮らしたいという思い。(陽性者グループとしてではなく、個人としてサポートを受けたい。)ームワークが見えない。

● 理想的には陽性者団体全体で、差別・偏見の軽減などを訴えられるアドボカシーを伴った収入向上活動ができれば一番よいが、実際には、そのようにアクティブで強い陽性者ばかりではなかった。

(12)収入向上活動プロジェクト

● 「陽性者」としてではなく、個人ひとりの力で収入を生み出せるような 支援がしたいと思い携帯ビジネスを選んだ。陽性者のニーズに合致していることが一番重要ではないか。

● 支援者の関心にも応えるように、あまりにも個人の利益に特化しすぎないような仕組みづくりに注力。

● プロセス: ビジネスに必要なアイテムを貸与→ビジネスを開始し、売り上げ報告→初期費用としてかかったお金を毎月の売り上げから返納→それがすべて返せたら全部個人のものに。

● 売り上げ記録トレーニング(仕入れ、利益をきちんと計算して管理できるように)

(13)プロジェクトの効果

● 7営業日での売り上げ: 27セディや17セディなど。

● 所得水準の低いグループだと、月の収入が100セディ前後なので、かなり家計の助けになる。

● ガーナ人同士の協力

3月上旬におこなったモニタリングの時点では、両者とも最初にこちらから配布したユニットカードとトランスファークレジットを売り切り、すでに自ら仕入れも行っていた。隊員のスーパーバイザーに頼らず、地域の同業者に自ら協力を求め、自分たちの知恵でやってくれている。最もポピュラーなローカルビジネスを選んだゆえの利点。

(14) 協力隊の強み

● 現場の活動者になってはじめて、支援者が求めるものと現地のニーズのギャップを肌で感じることができる。

● 現地生活と人の真ん中で長期間活動する日本では唯一無二のプログラム。

● “そうはいっても”の部分を理解する。(支援者の理論、開発学のセオリーは理想、あるべき姿であるが、現実はそうはいかない、ということが個人のレベルで分かってくる。国レベルではなく、ひとりひとりが抱えている問題など、人のレベルでバリアが見えてくる。こういったことは2年間現地で暮らしてみないと分からない。)

〈質疑応答〉

【質問1】HIV陽性者が新しく携帯カード販売ビジネスを始める時、元々そのビジネスをおこなっていた人たちとの摩擦はないのか?

【回答1】とくにない。ガーナ人は特に気にせず、となりにお店を出してもなわばり争いがない。寛容さがある。

【質問2】隊員支援経費を使って資材を貸与し、返納してもらったということだが、お金は戻って来たのか?

【回答2】議論があった。本来はダメだが、意義を伝えて認めてもらった。

【質問3】モニタリングができなかったとのことだが、誰がその後のモニタリングを行ったのか?

【回答3】郡役所2人、保険局から2人、ピュアエデュケーターの男の子をトレーニングしていた。彼らが資金管理し、団体として今後どのように資金を使って行くのかを話し合って決める。定例ミーティングで売上報告をおこない、売上の10%を返済してもらいプールする。そのお金は、次のユニット販売をしたい人にあててもよいし、別の用途でもよい。

相田華絵氏: 国際保健協力の現場から〜国連ボランティアとして〜

(国連ボランティアとしてリベリアに赴任していたときの話を中心に。)

(1)国連ボランティアとは?

● UNDPの下部組織 1970年創設

● 開発支援、緊急援助、平和構築

● 応募資格のなかでもっとも重要なのが職歴。即戦力が望まれる。

● プロフェッショナルな仕事を提供するものの、その待遇はボランティアの価格で、という意味でのボランティア。

● 待遇: 生活費、住居費、渡航費用、着任、離任手当て。家族手当もあり。

● プロフィール:平均39歳/ 80%が途上国出身/ 平均10年の実務経験/ 日本人83人(2010年)

● 派遣先機関: 国連のPKO活動が全体の40%を占める。

● 応募方法

● ロスター登録(最も一般的):オンライン登録

● 平和構築人材育成事業

● JICA JOCV枠UNV制度 (相田さん)

(2)HIV&エイズ 概況

● 感染経路

● 血液感染/ 性交渉感染/ 母子感染

● 1981年の発見以来、サブサハラアフリカの新規感染者数が圧倒的にのびている。

● 病気が人の生活に与えるインパクトのランキング(WHO2000年)では、アフリカではHIVが圧倒的(2位はマラリア)。

● 1984年から5年ごとのHIV感染率、南部アフリカ地域で特に上昇している。

● サブサハラにおける平均寿命の低下予測

● 各国で徐々に平均寿命が上がっていたが、1980年代にHIVが発見され、その後寿命低下。エイズによる死亡が原因。

● HIV&エイズは保健医療にとどまらない、開発課題と認識

● 所得、人口の激減

● 孤児の増加

● 医療費負担の増大

● 2000年からの傾向

● MDGsの6番目にHIV/AIDS蔓延防止

● HIV対策に対する予算の変化・・・2000年のMDGs, 2001年特別総会のあとから徐々に上がっている。

● 世界のHIV対策へのコミットメント

● 効果

● HIV新規感染者数の推移、2000年を境にゆるやかに減っている

● エイズによる死亡者数の推移、90年代から徐々にあがり、2005年を境に減少傾向

● 未だ課題は多い

1. HIV予防プログラムの拡大

2. HIV治療の拡大

3. 差別偏見の軽減

(3)リベリアUNV活動報告

● リベリア概況

● 人口: 360万人(横浜市と同じくらい)/ 面積:日本の3分の1/ 平均寿命45.3歳/ HIV感染率1.5%, 妊婦5.4%

● 2003年、和平合意が結ばれたあと、復興、開発へ

● 2005年、アフリカで初の女性大統領誕生

● UNV

● 1年目 HIV母子感染予防担当官

● 2年目 HIV&エイズ担当官

● ユニセフリベリア: 約70名、うちインターナショナルスタッフ20名

● 課題対応のためのプロジェクト

1. HIV予防プログラムの拡大

● 政策やガイドラインづくり、マテリアル作成支援

● 宗教指導者NGO支援(影響力のある指導者への教育)

● コートジボアール難民 緊急支援事業

● ピアエデュケーション(同じ年齢、性別、背景などのコミュニティーチャンネルを使う)

2. HIV治療の拡大

● 保健施設のモニタリング(薬やキットの確認)

● 小児エイズケアのための病院整備(新設された病院のニーズ調査と機材購入)

● HIV陽性の子どもたちとその家族を支援するNGO支援

3. 差別・偏見の軽減

● 女性HIV陽性者団体支援(自分のHIVステータスを受け入れて、まわりに伝えたいというメンバーが多かった)。

● 医療従事者の中でも差別があるので、HIV陽性者が病院に出向き、医療従事者に話を聞いてもらう機会を提供。

● 収入向上としての石けん作り(女性団体と話し合いで事業を作っていった)。

● 感想

メリット

● UNICEFのネームバリューのもとに活動することができた。身元が明らかなので、初めての訪問先でも情報提供してくれるなど、活動しやすかった。

● さまざまなレベルで活動できる。中央で起こっていることを草の根のレベルで実施でき、草の根レベルでの課題を中央レベルでの議論に反映できた。

● アイディアを交換しながら事業をつくり、自分で見ることができるのはおもしろかった。

● 組織の一員として仕事ができる。上司はもちろん、教育、栄養、水と衛生の専門家など、色々な人からアドバイスをもらえ、勉強になった。

デメリット、難しかった点

● いち事業への関わりの時間的制約。

● さまざまな国籍の人と仕事をするので、文化的違いやずれもあった。

● UNVとしての制限。UNVはスタッフではないので、事業予算システム等へのアクセスは制限されており、誰かに頼らないといけないことがもどかしかった。

〈質疑応答〉

【質問1】林さんのケースでは、HIV陽性者はHIVであることを周囲に知られたくないという人が多いということだったが、 相田さんのケースではHIVであることを隠さず啓発活動をおこなっていた。この違いはどういうことか。HIV陽性者が自分を受けれていく過程はどうなっているのか。個人が自発的に受け入れるのか、それともボランティアなどの外部からのサポートやエンパワメントによって受け入れていくのか。

【回答1】外部からのサポートは所詮部外者であり、他人の言葉は耳に入らないことも多い。たとえば、医療従事者がこの薬を飲みましょうと言っても、当事者にしてみると「結局は他人事でしかない」、と反発しがちになることもある。相田さんのケースでは、感染したばかりの人たちが、感染が分かって数年経っている人たちからのサポートを受けながら、グループ内でロールモデルを見つけて徐々に自身のHIVステータスを受け入れることができている。一方で、グループ同士をつなぐための外部からのサポートも重要である。

【質問2】HIVの予防活動の中で、影響力のある宗教指導者への教育というものがあった。たとえば宗教の教義の中でコンドームの使用を禁止しているようなものがあると思うが、実際宗教指導者へのアプローチはどの程度効果があったのか?

【回答2】

世界的にも様々な宗教指導者を巻き込んだネットワークがあり、そこではHIV予防啓発活動自体は否定されていない。また予防方法も、コンドームだけでなく、例えば夫婦間だけの性交渉など、その方法は様々である。宗教指導者だからHIV予防は合わない、という考え方ではなく、では何なら合うのか?と彼らにあったオプションを考えていくことが重要。また、宗教を理由にすべてを反発、排除するのではない。住民の生活に密着した宗教活動をHIV予防メッセージを伝えるための有効なチャンネルとして活用している。

中田好美氏: カンボジアでのNGO活動

(NGOスタッフとしてカンボジアに赴任していたときの話を中心に。)

(1)ピープルズホープジャパン(PHJ)

● アメリカにあるプロジェクトホープの日本支部として設立

● 2006年に独立し、団体名変更

● 特定非営利活動法人、認定NPO(=国税庁に登録すると、寄付をした人の税金が控除される。)として登録

(2)背景

● 2006年よりPHJスタッフとしてカンボジア駐在

● 本プレゼンは、母子保健改善事業(2008-2010) を中心に

(3)カンボジア概要

● 国土面積は日本の面積の約半分

● 人口は日本の10分の1

● 主な宗教は仏教

(4)母子保健とは

● 妊娠、出産、育児に関する家族へのケア

(5)カンボジアの母子保健状況

● 乳児死亡率(子どもが産まれてから1年以内に死ぬ人数/1000人)

・ カンボジアの数値は、ベトナムやタイと比べても悪い

・ 十分なケアを受けていない。医師・助産婦による分娩介助率が低い

(6)母子保健の現状と問題

● 長期にわたる内戦(ポル・ポト虐殺)によってほとんどの知識層が虐殺され、生き残った人たちも海外流出(カンボジアに残留していた医療者は40人程度)。

● 現在でも医療システムが十分にととのっていない。

· 人材不足(育成する先生がいない)。

· 教育水準が低い。

· サービスの質が低い。

· 医療器具の不足。

● サービス利用者の問題

· 伝統医や伝統的産婆に頼る。

· 医療サービスを受ける習慣がない。

· 病気やその予防などの知識が不足。

· 貧しさにより病院に行くことができない。

· インフラがなく移動ができず病院にアクセスできない。

(7)お産にまつわる伝統・習慣

● 産後の女性、3日間炭火にあてると健康になる、と信じている。

● 蜂の巣の泥を子どものへその緒を切ったあと塗る←破傷風で亡くなる可能性が高い。予防接種が普及して最近は少なくなってきている。

● 子どもの頭に細かくくだいた薬草を塗ると頭の骨が固くなると信じている。

● お腹に氷を載せて、産後の子宮の収縮を助ける。

→彼らはこれらが健康に良いと信じているので、近代的な医療を受けようとする変容がなかなか起きない。

(8)カンボジアの公的保健制度

● 村に一番近い保健センターに村人がアクセスできることが肝要。

● PHJは保健センターを支援している。

(9)事業概要

● 事業名:母子保健改善事業

● 事業期間:2008年1月〜2010年12月

● 事業地:首都プノンペンから北に3時間の農村

(10)ゴールと事業目標

● ゴール:村人が保健センターで適切な保健サービスを受けること

● 事業目標: 保健センターでの母子保健サービス改善/村人の保健知識が向上し、健康を志向する行動を取るようになること

(11)アプローチ

1. 保健センター助産師のスキル向上

● 助産師のスキルトレーニング

● トレーニング後、適切なサービスかどうか保健行政区が監査する。担当官とチェック。

2. 保健センターの運営改善、設備支援

● 衛生モニタリング(感染しない病院づくり)

● 保健ボランティア、伝統的産婆たちと毎月会議をおこなう

3. 村と保健センターの連携を通した保健知識普及

● 保健ボランティア、伝統的産婆にワークショップに参加してもらい、保健知識を学んでもらう

● 伝統的に村でお産を担ってきた女性たちは、識字率が低いので、ポスターや紙芝居を使うなどの実践的な方法でトレーニングする。

4. 村での保健衛生推進活動

● 紙芝居を提供し、保健ボランティアが村人に対して知識を伝える

=村レベルで保健のために働く人材育成

(12)日本人スタッフの役割

● 実際の活動はカンボジア人スタッフが実施

● オーナーシップを高めることが重要。現地の人たちが自分たちの社会を良くするために活動する、というスタンスなので、日本人が先頭にたって活動を行うことはない

● 日本人スタッフの役割は団体・組織によって異なるが、PHJの場合、日本人駐在員は1名。カンボジア人スタッフは6人。日本人スタッフが組織・事業の運営管理全般を担う

(13)マネジメント

● 事業マネジメント

● 組織マネジメント(土台となる。ルーティンから突発的対応まで様々)

● 個人の働き方が反映され、いろいろな方法があり、正解はない。

● 唯一の日本人として所長として現地に派遣されて難しかった点は、カンボジア人スタッフをどう動かすか、ということ。

(14)マネジメントの工夫

● 組織のモチベーション

· 組織のモチベーションを上げるために、スタッフ全員が同じビジョン、ミッション、ゴールを共有

● チームワーク

· カンボジア人はチームワークが苦手である。自分の得た知識は自分の財産であり、それを他人に伝えるのは自分の地位を脅かすと考えている→スタッフ間のコミュニケーションを促進のため、情報交換の場を設定。

· カンボジア人スタッフのチームとして責任分担。チームリーダーの責任意識も育成される。

● 人材育成

· スタッフ全員が事業モニタリング評価に参加し、成果・内容の共有

· スタッフのパフォーマンス評価

· トレーニング参加支援

(15)日本人としてNGOで働くということ(どういう意義があったか)

● 利点

· 現場に直接深く関わることができた。

· 彼らのひとつひとつの変化を目の前で見ることができる。日々の地道な活動も、まとまると大きな変化になるという実感。

· 異文化間コミュニケーション力が鍛えられる。

· 自分が何を楽しいと思うのか、非常に重要。政策レベルで働いたり、草の根で働いたりと、様々なレベルがあるが、自分は草の根が楽しいという実感。

● (一般的なNGOの)課題

· 資金の調達が難しい。

· 労働環境や待遇がよくない。

· 事業が小規模であるためインパクトも小規模。

· 情報発信の必要性(母子保健の重要性が外部に伝わっていない)

(16)最後に

● NGOは自己満足じゃないか?という批判があるが、自分が仕事に対して満足するのは良い事。スタッフが達成感を持って仕事に取り組めるようにすること。

● 自己満足のみに終わらせないための評価制度や情報公開が肝要。説明責任、透明性を高める。

〈質疑応答〉

【質問1】

現地の方のモチベーションに関して。カンボジアといえば農業や観光業で働く人が多いと思うが、NGOに働きたいという人たちにはどういったモチベーションがあるのか。

【回答2】

NGOで働く人というのはカンボジアではエリートである。給与が高く、安定している。よって応募者数が多い。ただし敷居が高い(英語必須であり経験重視)。給与が高いからNGOで働きたい、という人は採用しないようにしている。社会のために貢献したい、という部分をくみ上げ、採用後、その思いが最大限発揮できるようにしている。

【質問2】

伝統的産婆へワークショップをおこなうということだが、彼女たちに抵抗はないのか。彼女たちが今までやって来た事と保健知識との葛藤はあるか。

【回答2】

産婆さんたちはトレーニングに参加するのは好きで、機会があったら学びたいと思っている。自分がすべてきちんと知っているという思いはなく、経験的に知っている事をきちんと教えてもらうことは喜んでいる。

政府は、伝統的産婆が分娩することを禁止している。ピープルズホープジャパンが伝統的産婆に教えているのは、一般的な保健知識や、異常の見つけ方(“こういう異常があれば、保健センターに連れて行ってください”)などである。産婆さんに、村と保健センターをつなぐ役割を担ってもらうようにしている。