第2回勉強会 議事録

■ 第2回勉強会概要

「最近の国際社会におけるOECDの役割とは~OECDと日本、そして、アラブの春~」

講師:藤田 輔 氏(OECD日本政府代表部 専門調査員)

日時:2011年11月12日(土) 14:30 - 16:45

場所:London School of Hygiene and Tropical Medicine

(議事録担当:相田)

■ 勉強会議事録

<内容>

第Ⅰ部 OECDの概要と我が国の取り組み

・「経済協力開発機構」は英語だとOECD、フランス語だとOCDE。公用語はフランス語及び英語。(OECD本部シャトーは、フランス政府がOECDに寄贈した経緯あり。)

・OECD加盟国は、各国代表部を設置している。(国を相手にするのが「大使館」、国際機関を相手にするのが「代表部」。)

・OECDは「シンクタンク」であり、直接の開発援助は行わない。また、国連機関でもない

1.OECD設立の経緯

第二次世界大戦後、ヨーロッパの経済復興のため欧州経済協力機構(OEEC)設立。その後、1961年にOECDへと発展

2.OECDの目的

(1)より高い経済成長を続けること。

(2)自由かつ多角的な貿易の拡大を実現すること。(保護貿易が第二次世界大戦を招いたという過去の経験を省み、当時のGATT(関税及び貿易に関する一般協定)体制を後押し。)

(3)開発途上国の経済発展に寄与すること。

3.OECD加盟国

34カ国で、加盟国の多くが欧州諸国であることが特徴。1964年に日本加盟。

4.新規加盟候補

(1)新規加盟(2007年より促進)

スロベニア、エストニアは加盟交渉から1年で加盟した(両国はEU加盟国であり、OECD加盟が容易であった)が、ロシアは現在も加盟交渉継続中。

(2)関与強化(将来的な加盟を目論む)

・関与強化対象国は、ブラジル、インド、インドネシア、中国、南アフリカの5カ国。

・戦略的優先地域は東南アジア(日本が提案)。そのほか、現在は、「アラブの春」を受けて、中東・北アフリカ(MENA)に注目。

5.OECDの機構

・事務局長はアンヘル・グリア氏(元メキシコ財務大臣)で、初の欧州地域外からの事務局長。

・藤田氏は、対外関係委員会及び投資委員会に関わる。

6.OECDの活動

(0)OECDの基本的手法

・統計・データの整備。最近では、一日一人当たり飲食時間等、ユニークな指標を開発。

・各国の政策を分析、政策提言(シンクタンク的役割)。

・ピアレビュー。

・加盟後、締結しなければならない条約等の「ルール・メイキング」 (ex.資本自由化規約、贈賄防止条約(非加盟国も加入できる)など)。

(1)安定したマクロ経済運営のための国際協力

経済見通しの作成、「エコノミック・アウトルック」の発行。現在の注目イシューはギリシャの信用不安。

(2)構造問題への取り組み

様々な分野の構造調整を進め、各国の潜在成長力を高めるための提言を行う 「国別経済審査」(Economic Survey)の発行。

(3)貿易・投資の自由化推進

・より良い投資環境を整備するための提言、投資政策レビューの実施。

・貿易に関しては、WTOとのオーバーラップが懸念されるが、協力関係を築いていくことが課題。

(4)市場経済の枠組みとなるルール等の策定と普及

・租税制度の透明性確保への取り組み(事実上OECDのみが実施)。タックス・ヘイブン問題への対処。

・「OECD多国籍企業行動指針」を改定。「人権」チャプターが設けられたことが大きな成果

・贈賄防止、特に非加盟国への普及。(cf. transparency internationalの報告によると、贈賄指数の最下位はロシア、次いで中国。)

・透明なビジネス環境の構築がOECDの大きな役割

(5)エネルギー資源の安定供給

・IEA(国際エネルギー機関:要は原油を消費する人々の集まり)では、エネルギーの安定供給、石油備蓄、省エネルギー政策推進等が取組まれている。(cf. OPECは原油供給国の集まり。)

・NEA(原子力機関)では、平和目的のための原子力エネルギー生産・利用促進のための作業が行われる。

・10月のIEA閣僚理事会の議論を踏まえると、3.11を受け、ドイツ及びオーストリアは「脱原発」表明。しかし、我が国やフランスをはじめとする大多数が、なんらかの形で原子力に依存せざるをえない、この事故だけで判断することができないという考えを持つ。

(6)開発途上国に対する開発援助政策の調整

・開発援助委員会(DAC)にてODAに関するあらゆる分析。DACはOECD設立以前から設置されていた。

・非DACドナー(新興ドナー)やODA以外の資金(民間セクター)の開発援助に与える影響の拡大に注目。

(7)イノベーションの促進と経済・社会への影響分析

海賊版・模倣品の抑止。イノベーション戦略を作成。

(8)気候変動を含む環境問題、持続可能な開発への取り組み

・廃棄物管理等への取り組みとともに、「環境保全成果レビュー」も行う。日本(環境省)はOECDレビューを参考に政策策定を行うことが多い。

・グリーン成長戦略:新興国をいかに巻き込んでいくことが課題であるが、中国・インドの負担感増が懸念される。

(9)社会問題への対応(雇用、年金・医療、教育)

・「雇用アウトルック」を公表。

・高齢化 社会保障制度等の国際比較。

・各国政策比較。学習到達度調査(PISA)を実施。最新の事例では、1位がフィンランド、2位が中国(上海)。日本は15~20位だが、理数系のみではトップ10にランクイン。)

(10)その他の政策課題

(11)G20への貢献

・当初、中国・インド等の反対により、OECDのG20会合への参加は許可されなかった。その後、2009年9月より参加できるようになった。

・カンヌサミット(2011年11月)において、OECDの貢献を随所で言及。

・OECDは、金融危機への短期的対応よりも、それを受けての長期的戦略策定(出口戦略など)には比較優位を持つ。

7.新興経済諸国(非加盟国)へのアウトリーチ

(1)ブラジル、インド、インドネシア、中国、南アフリカとの関与強化決定

・関与強化の深化のためのガイドライン作成。

・新たな地位の付与(associate member設定など):完全な加盟にはまだ早いが、OECDの活動に定期的に参加できるようにすることが考えられる。1970年代、旧ユーゴスラビアがassociate memberであったことがある。

・東アジア地域のOECD加盟国は日本・韓国のみであり、日本はOECD加盟国がヨーロッパ地域に偏重することを懸念。→アジア諸国の巻き込みが重要との見解。

(2)地域アウトリーチプログラム

・地域プログラム:OECD手法(ピアレビューなど)を新興国に活かす。

・6地域に対して存在、いずれも任意拠出金により運営。

・日本は、MENA・OECDイニシアティブ、NEPAD・OECDアフリカ投資イニシアティブ(日本がその強化を提案)に資金拠出。

8.OECDにおける我が国の位置づけ

・1964年加盟:日本経済の自由化、開放化を進める契機となる。

・OECD日本政府代表部には約40名が派遣されている。

・OECDの作業プロセス:「OECD事務局がプロポーザルを作成→各国代表部が集まる委員会にて協議→理事会(各国大使が集まる最高意思決定機関)にて決定」

・OECDへの拠出金額はアメリカについで第2位。しかし、事務局職員、各委員会の議長の邦人比率は低い。

・OECD日本人職員インタビューを藤田氏が実施。下記ウェブサイトを参照。

http://www.oecd.emb-japan.go.jp/interview/index_shiken.htm

第Ⅱ部 OECDの視点からアラブの春を考える

民主化を「春」になぞらえることは、英語(Arab spring)でも仏語(printemps d’Arab)でも同様。

1.MENA OECDイニシアティブとは

・2000年代初頭、雇用に関する若年層からの圧力があった。→民間セクター改革の必要性を認識。

・2004年G8サミットで採択された「Broader MENA構想」を後押しするためのOECDの役割を検討(米国中心)。

・2005年に「開発のための良い統治及び投資に関するMENA-OECDイニシアティブ」を3ヵ年プログラムとして立ち上げ。

・各国政策のピアレビューが中心:開発援助とは異なるOECDなりの方法で支援。

・対象国は18カ国・地域でだが、国ごとに関与度合いの温度差あり。非産油国(ヨルダン、エジプト、チュニジア、モロッコなど)は積極的。

・各作業部会へのMENA諸国とOECD加盟国からの共同議長選出。MENA諸国のオーナーシップを重視。

2.投資プログラムの成果

・閣僚級会議の開催(MENA諸国がホスト)。

・政府間協議のほか、民間セクター関与のためのネットワーク構築。

・女性の経済活動への参加促進。

3.ガバナンスプログラムの成果

・今年6月に「腐敗防止ステークホルダー対話」をモロッコで開催。

・エジプトのEガバメントに関するピアレビューの開始。

・水管理政策、グリーン成長に関するグループを設置。

・予算配分能力の向上について対話強化。

・PPP対話強化。

・パレスチナの法の支配構築支援:OECDレビューを通じて、国内改革に動きが出てきたという報告がある。

4.アラブの春の動きと現状認識

・従来から、MENA地域にはいくつかの不安要素あり。

・チュニジアが発端となり、エジプトへ飛び火、各国に民主化の動きが広まる。

・エジプト:まだまだ革命は終わっていない。安定化には時間がかかる。

・リビア:カダフィ死後、暫定国民評議会への政権移行。

・湾岸産油諸国:幸いまだ何も起こっていないが、サウジアラビアの王位継承の行方等、混乱のリスクはある。

5.「アラブの春」から得られる教訓

・アラブ諸国では10年に一度の周期で歴史的変動:80年代のイラン・イラク戦争、90年代の湾岸戦争、2000年代のアフガン・イラク戦争、そして、今年の「アラブの春」。

・多くの課題(高い失業率、腐敗の蔓延、ジェンダー不平等など)が山積。

・イスラム過激派の伸長の懸念。

・人材育成、民間セクターの強化が今後のキーになるとの認識。

・MENA諸国の安定は重要。日本にとっては石油・LNGの安定供給、ヨーロッパ諸国にとっては移民問題(EU国内でも受け入れ態勢差があり、仏は慎重、伊は柔軟)が背景にある。

6.OECDはMENA諸国へいかに貢献するか

(1)G8からのOECDへの期待

・G8首脳会合(2011年5月:ドーヴィル):資金支援を表明。日本からは、東南アジアの経験をもとに、公正な政治、人づくり、雇用創出を支援表明。

・G8財務相会合(2011年9月:マルセイユ):投資・ガバナンス政策枠組みに関し、OECDの関与を歓迎するとの文言が記載される。

・G8外相会合(2011年9月:ニューヨーク):OECD関与を歓迎する言及が随所にあり。

(2)OECDのMENA諸国への貢献

・進展させるべきトピック:

①雇用創出:投資プログラム作業部会の貢献。

②市民社会の関与:女性ビジネスフォーラム等への期待。

③教育の充実化:世銀・OECD教育レビューやPISAの貢献。

④反腐敗と透明性:贈賄防止条約や健全性フォーラムを通じたピア・プレッシャーにて、腐敗防止に努める。

⑤地域統合の促進(日本発案):東アジアの経験をMENA諸国に共有できないものか(ex.分業体制、域内のwin-win関係の構築)。投資政策や域内貿易のベストプラクティスを話しあう。

・注意点

-イスラエルのOECD加盟とMENA・OECD関係。特にパレスチナの立場に注意。

-「OECD=西側諸国の価値観」をどう打破していくか。→ユーザー・フレンドリーな機関として機能する必要。

-OECDがいかに新興国の経済改革に役立っているのかをPR。それにより、スティグマ(ex. IMF政策によるインドネシアの混乱)を回避する。

-比較的情勢の安定している国からアプローチ。混迷国に関してはWait&See。

-政治問題に関与する国際機関ではない、シンクタンクであることを都合よく利用してもらうことをPR。

<質疑応答>

【質問1】MENAの域内貿易の活発化を図るという話であったが、MENA諸国はエネルギーの輸出国というイメージがある。エネルギー産業以外で域内貿易を発展させるためにどういう分野があるか?

【回答1】MENAでは産業構造が互いに似ているため、域内分業が難しいのが現状である。しかし、モロッコ、チュニジア、ヨルダン等の非産油国では、比率は少ないものの、製造業、娯楽産業への外国投資はある。産油国・非産油国のおかれている状況の違いをふまえ、産業の多角化を支援していく必要がある。

【質問2】OECDは自由貿易を推進しているが、ロシア、中国などの旧社会主義国家に対して、リベラルな経済成長をどうアピールしていくのか?それらの国々からは自由貿易についてどう見られているのか?

【回答2】ロシアがOECDの加盟プロセスに遅れているのは、ロシアがWTOに加盟してない理由が挙げられる。OECDの加盟条件は、多角的な自由貿易に参加していること、つまり、WTOに加盟していることである。ロシアは保護的な政策、留保分野(自由貿易の対象ではない)が多いので、加盟交渉に時間がかかる。中国はWTOに加盟しており、OECD加盟の土壌はできている。しかし、OECDへの加盟となると、資本自由化規約(注:これにはサービス取引の自由化も含まれる)への参加が求められており、「自由化が強制されてしまう」という中国側の懸念が生じる。条約や規約に参加するのはいわば政治問題であり、贈賄防止条約に入ってもらうのも難しいであろう。中国やロシアとは気長に関係を築いていく必要がある。

【質問3】OECDはサービス業の輸出に関する提言を出しているか?

【回答3】貿易委員会において実施している。サービス貿易制限指標を開発し、WTOとオーバーラップしない役割を評価されている。

【質問4】アラブ・アフリカ地域の汚職問題に関し、彼らと価値観・倫理観と西側諸国の考えの違いは?公務員は社会・国民に対する責任感があると思うが。

【回答4】例えば、アルジェリアやモロッコでは汚職が当たり前のように受け入れられており、汚職が経済活動の円滑化になるとさえ考えられている。OECDには贈賄防止条約があるが、欧米諸国が中心になって作った条約であり、アラブ諸国に受け入れられるか疑問は残る。しかし、腐敗防止のマルチステークホルダー対話が本年6月にモロッコで開催されたが、これはOECDとモロッコ政府が共同で提案した経緯があり、少なくともモロッコ政府は改革の意識とオーナーシップを持っている。モロッコ以外で、贈賄が慣習化している国々に対して、どうアプローチしていくのかが今後の課題である。

【質問5】日本のOECDへの拠出金額は第2位であるが、邦人スタッフは少ない。OECDの邦人スタッフを増やすことにより、日本の存在感を増強しようとしているのか?拠出金額の多さだけでは、日本の存在感は保つことができないのか?職員によるプレゼンスが重要なのか?

【回答5】拠出金だけではなく、人的資源の面でも、日本がOECDに貢献できないかという考えがある。また、OECDの意思決定に関し、委員会における議長のリーダーシップが重要であり、政策提言の決定が議長の意思に傾くことも多い。現在、議長職は欧米諸国出身者が担っていることが多く、偏ったバックグラウンド、アイディア、経験を基づき、欧米諸国の思惑が大いに反映されたOECDの決定となることが懸念される。偏った議論にならないよう、日本の国益が反映されるよう、また日本人が増えることによって、新しいアイディアの吹き込み、アジアの経験の取り込みが期待される。ちなみに、OECDでは、他の国連機関に比べても、高いドラフティング能力が求められている。そういう面でもネイティブである英米が長けている。

【質問6】藤田氏がみずほ銀行からOECD代表部(開発途上国へのフォーカス)までに至った経緯は?

【回答6】元々、アジアなどの新興国の経済動向を分析する研究者になりたいと考えていた。しかし、経済分野は実務が重要ではないかと考え、日本の経済・金融システムを知るためにみずほ銀行へ行った。実は、銀行で働いていた経験が今の仕事でも随所に生きている(資金フローに関する知識、多国籍企業行動指針の議論における金融機関CSR普及の動向等)。

【質問7】仕事をしている中でのやりがいは?

【回答7】国益に関わること、OECDという国際機関と直接関われることがおもしろい。また、例えば、日本経済を良くするために、日本政府の方針の中に自身のアイディアが盛り込まれた時、貢献できていると感じる。また、日本政府はアジアのリーダーとして一部の世界から見なされているため、OECDでの議論を進める中で、アジアの発展のために日本のリーダーシップをどのように発揮できるのかを考えていきたい。

【質問8】中国とロシアの自由化について、両国は比較的安定し発展しているにもかかわらず、なぜさらなる自由化が必要なのか?

【回答8】OECD加盟により急激な自由化を進めることが目的ではない。外国企業に対し規制されている分野も多く、日本やその他OECD加盟国の企業が、これらの国々で活動する際、差別的な対応を受けていることが多いので、むしろ、そのような不利益を被らないように働きかけることが重要である。

【質問9】OECDの政策提言は、MENA諸国に受け入れられなければ意味がない。どのように聞いてもらうのか?そのためのアプローチはあるのか?

【回答9】元々、イニシアティブはMENA諸国のニーズに端を発し、OECDが勝手に始めたものではない。モロッコ、ヨルダン、エジプト、チュニジアなどの国々は、オーナーシップを発揮し積極的に関わる一方、産油国の関与は低い。今後も、前者には引き続きオーナーシップの継続を働きかけつつ、その他関心の低い国々とどう関係性を築いていくかが課題である。

【質問10】貿易投資の自由化の推進により土地収奪の問題が起きている。多国籍企業行動指針があるが、どうやって遵守させるのか?

【回答10】指針自体には法的拘束力はなく、企業が自主的に遵守するガイドラインであり、各国政府が多国籍企業に働きかけ、守ってもらうようにするしかない。日本も普及活動を行っている(各多国籍企業のCSR担当者を集めたセミナー開催など)。また、アジア諸国への普及も日本の責務である(ジャカルタで2011年11月末にCSR普及セミナーを開催)。

OECD多国籍企業行動指針(日本語訳):

http://www.oecdtokyo2.org/pdf/theme_pdf/finance_pdf/20110902mneguidelines.pdf

【質問11】MENA諸国において、地域統合の促進がこれまでなされなかった背景は?

【回答11】MENA地域にはGAFTAという自由貿易協定があるが、MENA地域の主要産業の多くはエネルギー部門であり、互いに構造が似通っているため、分業が難しい。アジアの場合、製造業が多く、分業しやすい構造だったため、域内貿易が促進されやすかった。MENA地域でのエネルギー取引では、域外貿易が主であるため、域内貿易が促進されなかったと考えられる。