第2回勉強会 議事録

■ 第2回勉強会概要

「ロシア/旧ソ連諸国の開発事情」

講師:村上 久 氏 (JETRO London Director of Research)

日時:2010年11月26日(金)

場所:JETROロンドン事務所

(議事録担当:渡辺・戸田)

■ 勉強会議事録

ロシアを中心とした旧ソ連新独立国家諸国について。

日本とロシアとの間には歴史的にも様々な面において関係があるが、日本におけるロシアへの理解は不十分な部分も多くある。

1. ロシアのイメージと実態

  • ロシアは一国内に複数のタイムゾーンを持つ非常に広大な国で、モスクワなど発展しているのはシベリアよりも西側の地域。そのため、それら西側の都市部に住む人にとって、北方領土問題は、チェチェンやグルジアなどのより重要な問題があるので、小さな位置づけでしかない。それはちょうど東京などに住む日本人が尖閣諸島問題が起きる前の竹島問題に対して感じる日常生活においての切迫性の小ささと似ているかもしれない。

  • 人口は減少傾向にある。

  • ロシア人男性の平均寿命は59歳で日本と比べると長くない。厳しい自然環境とソ連時代の計画経済政策下の習慣(一生懸命働いても働かなくても収入は同じ、という考え方)が影響し、長期的な蓄えをするより日々の生活を楽しもうとする姿勢が強い。

  • ロシア内部では、都市部と地方部での所得の格差はあるが、アフリカと比べた場合に極度の貧困はほとんどみられない。

  • ロシア語は日本人にとって意外と身近である。例えば絵文字にもロシアの文字が使われている。コンビナート、ノルマなどもロシアからの外来語である。ロボットは同じスラブ語であるチェコ語から来ているが、ロシア語も「働く」という意味。

  • クマのように大きな人が多いというイメージがあるが、ソ連は多民族国家であったため、様々な人種が入り混じっている。大きな人ばかりというわけではない。

  • ロシア人の名前は日本人のそれと同様に意味を持っている事が多い。例えば、ウラジーミル(プーチンの名)の意味は、「ウラジ=征服する」と「ミール=世界」を組み合わせたもの。同様にメドベージェフの「メドベージ」は「はちみつ」という意味である。

  • ロシア人は、少し怖いというイメージがあるが、実際には人見知りで人懐っこい。ソ連崩壊の歴史の影響は強く、国家は「崩壊する」という脆弱性を秘めている事をよく理解している。強いリーダーに先導してほしいという願望も常に見て取れる。

  • ソ連時代には、ハードウェアが発達していていなかったため、ソフト面(プログラミング等)での工夫に注力した。近年では、シリコンバレーで働いていた若いIT技術者がチャレンジの場を求めて、ロシアに戻るケースも増えてきている。

  • 日本好きな人が多い。それは、冷戦期も日本は商社を通じてソ連との間で取引をしており、日本製品は高品質であるというイメージが根付いているから。日本の中古車に詳しいこと、日本のテレビ番組がロシアでも放映されていることなどからも見てとれる。

2. ロシア・旧ソ連諸国の開発、ODA事業について

  • ロシアはODA対象国ではないが、開発していくべき場所は多い。

  • ソ連時代にも自動車産業はあったが、ソ連崩壊後、ロシアで自動車産業を盛り上げようという動きが出てきた。自動車産業におけるコア技術であるエンジンについて、従来からロシアにあったものを生かしつつ、IFC(International Finance Corporation:国際金融公社)の主導でプロジェクトが行われた。ロシア唯一のエンジン工場の幹部がトヨタ式の導入を強く希望したので、IFCからJETROに打診があり、日本のトヨタ式技術者を擁するコンサルタント会社をロシアに派遣した。資金はIFCが援助をしたが、自動車産業の発展というプロジェクト目的もさることながら、ファイナンス枠の消化が優先というIFCの姿勢が印象的であった。

  • 当時の実態はともかく、ロシアはDeveloping Countryに定義づけられないので、ODA事業は中央アジアなどロシア以外の旧ソ連諸国で行われている。

  • JETROは貿易面でロシア以外の旧ソ連諸国のODA事業を行っている。

  • 東ドイツと旧ソ連のつながりが強かったため、現在でもドイツは旧ソ連諸国におけるODA事業に積極的に参加している。日本はハコモノ重視で単年度予算なので、うまくニーズにこたえられないことが多い。

  • JETROでいえば、長くて1週間程度のプログラムしか組めず、例えば対日輸出成功といった具体的な成果に結びつく前に、「また来年」となってしまう。

  • 旧ソ連諸国では、アフリカや当時のベトナムに比べても単純労働に取り組む姿勢と金銭報酬に対する欲がない、繊維関係の専門家に言われた。

■ 質疑応答

[質問1]

現在ロシアが重視している貿易パートナーはどこか。

[回答1]

ロシアにとって一番のパートナーはヨーロッパ諸国である。ロシアはヨーロッパにエネルギー供給し、それをもとに資本を蓄え、その資本を他の国が狙って進出、という形での経済成長モデルとなっている。

[質問2]

日露貿易で最も伸びている分野は何か。

[回答2]

日本との関係でも、サハリンプロジェクトなどをはじめとするエネルギー面での関係が最も強い。ただ日本からロシアへの進出という点では、自動車に加えて空調など新しい分野で日本企業が積極的に進出しようというケースもみられる。

[質問3]

ロシアと中国・中東・中央アジアとの関係はどうか。

[回答3]

中国とは国境を接しており、森林資源などをめぐるトラブルをはじめ、お互いに資源を有することから協力関係というよりもライバル関係にあるといったほうがよい。ロシア東部に中国人が多く進出しているため、ロシアにとって中国の存在がある種の脅威となりつつある。

[質問4]

ロシアでどのようなビジネスの可能性があるか。

[回答4]

エネルギー及びそれに付随する分野、さらにインフラ事業などで今後ビジネスの機会を見出していくことは可能だが、現状の中国マーケットに比肩しうるほどのビジネスチャンスかというと、そうではないだろう。たとえば、サハリンプロジェクトがあまりうまくいってないのは、ソ連崩壊後わずか20年しかたっていない中で共産主義時代の慣習が色濃く残っており、ビジネスに国家が過度に介入することによって企業間の信頼を醸成するのが難しいからである。

[質問5]

日本から進出した企業で成功例はあるか。

[回答5]

たとえば、三菱自動車があげられる。三菱自動車は現地に良いビジネスパートナーを有しているため、ロシア市場で非常によい業績を残している。

[質問6]

企業がロシアに進出する際に、英語でビジネスをすることは可能か。

[回答6]

現時点で、ロシアで英語を使ってビジネスを行っていくことは難しい。なぜなら大きな国になればなるほど、自国の言葉のみで用が足り、英語を話す必要性がなくなるからである。ただ、若いロシア人の中には英語を話すことができる人も増えており、彼らを介して英語によるビジネスは可能。

[質問7]

石油・天然ガスなどのエネルギー産業にのみ頼ることによって、他の産業が育たないという指摘があるが、ロシア政府は何らかの対応を行おうとしているのか。

[回答7]

エネルギー産業中心の経済を根本から変えるのは現実的に難しいと思われる。ソ連時代の計画経済の名残もあって、自らマーケットを作り需要を生み出していこうとする意識は薄い。同じ資源輸出国でも、中東は最近になって資源以外の投資誘致にも積極的に取り組むようになってきたが、ロシアはまだこれからの段階。

[質問8]

外資導入に対する優遇策のようなものはあるのか。

[回答8]

国家として大規模な外資優遇策はない。ただ、かつてに比べれば多少の取り組みはなされているようだ。