第1回勉強会 議事録

■ 第1回勉強会概要

「日本の援助の付加価値とは何か」

講師:JICA英国事務所 神 公明 氏

日時:2010年10月30日(土)

場所:JICA英国事務所会議室

(議事録担当:辻井、竹谷)

■ 勉強会議事録

題目:日本の援助の比較優位とは何か?

1. Commitment to Development Index

  • アメリカのCenter for Global Developmentによる、開発の貢献度に関するランキング。7つのカテゴリーがあり、援助(Aid) 部門において、日本は下から2番目(2010年度のIndexでは、韓国と同スコアの最下位)。トータルの国際貢献度でも下から2番目。

  • 援助部門のスコアは、GNI / capita, 援助協調、グラントエレメント(通常、25%以上でODAとカテゴライズされる)に基づいている。

  • 日本の順位の低さについては異論もあるが、一つの見方として日本の援助の低さを表わしているのではないか。

2. Global Humanitarian Assistance Report 2009

  • 日本の人道支援:2007年は19番目、2008年は12番目と非常に少ない。

  • 日本の援助のうち人道支援の割合は全体の2.3%(1人当たり2ドル)に過ぎず、同分野における日本の貢献度の低さがうかがえる。

3. 主要援助国のODA実績の推移(支出純額ベース)

  • ODA全体での日本の貢献度は、2000年はトップを走っており、「量」の面ではリードしていた。その後アメリカ、イギリスが援助額を増加させ、日本は2005年に2位、現在は5位で、全体の1190億ドル中、94億ドル。

  • 国連はODAの対GNI比を0.7%にすることを目標に定めているが、日本は減少傾向。

  • 2005年のサミットではODAの拡大が議論され、日本は10兆円のODAの上積みがあったが2005年以降減少傾向にあり、3.6億円マイナスとなった。

4.日本のODA予算の推移

  • 日本のODAには無償資金協力、技術協力、円借款(ローン)などがある。

  • 一般会計で計上されるODA予算は、1997年のピークを境に減少傾向にあり、現在はその半分であるが、ODAには特別会計からの借り入れで実施されるものもあり、一般会計の予算が下がったからといってODA予算が下がったとは言えない。<参考 平成21年度ODA事業の財源

  • グロスのODA:借款、グラントなど事業規模の総額(日本2位)

  • ネットのODA:グロスのODAから、円借款等の回収金を差し引いた額(通常議論される方。日本5位)

  • ODA額のGNI/Per Capita比では、日本はOECD国の下から3番目で非常に低い(→日本のODAに対する一番のポイント)

(問いかけ)なぜ低いのか?

>会場

日本のやっていることが数字になってみえてこないため、国民は実際のインパクトが分からず、説得力がないから。

イギリスは公務員の給料はカットしても、国際協力の分野への予算はカットしない。なぜイギリスではそのようなことが可能なのか?(質問)

国民の関心がないから。

ビジネスマインドが低いから。

>講師

イギリスは周囲の脅威があるために政府が積極的に対応していると言えるだろうか。(アメリカとの関係など)

>会場

日本のコミュニティ社会の考え方によるのではないか。米英は階級社会(上が下を助ける)の文化がある。慣習意識の違いからではないか。

>講師

公約として、イギリスのODAは2013年までにGNIの0.7%をODAにあてることとしている。しかしこれは、2013年に一気にその度合いを増やすという予算配分であり、イギリスも苦しい状況にある。

ODAに関して、日経世論調査によると、39%が減らすべき、46%が現状維持、そして12%が増やすべきだと回答している。GNIでみると0.18%(DAC諸国の平均は0.3%)にすぎない。

不況の影響だけでなく、「内向き思想」の強まりや、「援助は政府がやるもの」という関心の低さが表れているのではないか。

  • JICAの反省点:情報発信不足だった。もっと広報活動へ力をいれていくべき(戦略の練り直し)。国際協力を日本の文化に。援助はチャリティではない。日本が国際社会で生きていくための手段でもある。

5. 日本のODAの側面

  • OECD-DACが全体のとりまとめを行い、ラーニング効果を高めるという目標のもと、23カ国でお互いの援助を調査したピアレビューのレポート(2010年6月公表)によると、日本の援助の課題として以下のような点がある。

      • プレゼンスが弱い。

    • マルチレベルでの議論への貢献度が弱い。

    • 政策と現場での実施の整合性が低い。

    • 技術協力が現場のニーズに合っていない・・日本が提供できるものに限って援助しているという現実。

    • 世銀は、技術協力の評価が難しいため、技術協力の限界を指摘し高く評価していない一方、日本の援助の特徴はユニークな技術協力という意見もある。

6. OECD-DAC Peer Review (2009)

  • 一本化の流れの中、プロジェクトへProgramme-based approachの取り入れを実施。

  • 対象を東アジアからアフリカへ。

  • 課題

    • ODAの予算を増やす。

    • 予測性を高める(受入れ側、機関は年度末にならないと予算がどの程度つくか見えない)。

    • 日本の「顔」の見える援助に拘り過ぎ。

7. 世界の援助の潮流

  • 1980年代構造調整融資により、「条件」をつけるようになった。1960年代はアフリカ諸国が相次いで独立を果たしたが、1970年代、オイルショックによる財政収支の悪化、一次産品への依存(価格変化に左右される)のために債務が増加していった。そこで構造調整融資が行われたが、その結果として、産業構造の改革など起こらず、一次産品依存も変わらずむしろ援助依存が拡大していった。

  • どうすれば援助は改善するのか?→ex-ante から ex-post のコンディショナリティーへ(援助を受ける際に条件をつけるのではなく、ある条件を満たした場合に援助をする、という方針。)

  • 援助の効果を改善するため、受入れ側のガバナンスがいい国にのみ貸すという手段をとると、政府の支出が削減されることで、インフラ整備への配分も削減されたことから、Conditionality approachでは援助がうまくいかず、現在も効果を上げていない。Aid effectivenessの議論の中でこの現状を改善させることが重要である。

  • 2000年以降のアフリカの成長は、中国などの経済成長により、石油資源の価格が高騰し、これまで採算が取れなったもの(鉱山など)に投資しても採算が取れるようになったためで、根本的にアフリカが変わったのではない、という意見がある。

8. Aid Effectivenessと援助協調

  • 例としてタンザニアが挙げられるが、40カ国から2000のプロジェクトが行われていたため、実際にどのようなプロジェクトを行っているのか把握できず、その対応にコストがかかってしまうことから、Aid effectivenessの問題提起につながった。途上国政府のオーナーシップ、自分たちの考えというものが重要である。

  • パリ宣言

    • 被援助国のオーナーシップを重要視している。自分たちで貧困削減の戦略をつくり、ドナーは相手国がもっているシステムを活用するべきで、また、ドナー間での協調、調整の必要性、説明責任の重要性を挙げている。

    • →一つの共通の資金メカニズムをつくる。相手国政府が自分たちで支出するようにしていくかたちの財政支援へ

    • これで援助のeffectivenessを改善するのか?

  • 年間25億(一般会計)タンザニアへやっているが、目標達成という条件つきの財政支援である。「汚職」が発覚した際には、相手国の努力が見えないとし、財政支援を止めるというconditionality approach(ex-post)となる。(例:ウガンダ、エチオピア)

    • →援助効果のエフェクティブを高めるためには「いい」国に投資する(一方で、本当に援助が必要な国は、「いい」国ではないというジレンマがある。

9. オーナーシップとパートナーシップ

  • 日本の考えているオーナーシップとは、自助努力を支援することで、パートナーシップとは、その自助努力をドナーが支援することである。しかし、ヨーロッパの考えは、パートナーシップにおいて、より内政干渉が必要であり、オーナーシップとは、ドナーと途上国政府がつくったフレームに対して途上国がコミットメントをし、結果に対し責任をもつことである。

10. 多様性

  • GRIPSのレポート

    • 途上国の状況が多様であるのと同様に、ドナーの能力も多様であり、1つのツールで開発を議論するのはおかしい。また、やはり経済成長が重要であり、社会的側面にだけ焦点を当てていても貧困削減できない。ここで、アジアの経済成長の見直しが必要である。政府の産業振興への関与、インフラ整備が重要ではないか。

11. 日本のODAの鍵となる特徴

  • 2つの側面の1つとして、経済成長とインフラ整備が挙げられる。アジアの経済成長に対する日本のODAの成果から、開発全体に普遍できるものを学びとるべきではないか。インフラ分野への援助の多さに対する批判(自国の利益につながる)があったが、最近はアフリカでもインフラ不足が問題になってきたためその批判は少なくなってきた。またもう1つの側面として、教育や保健分野といった「人間中心の開発Human centered development」の面があり、この2つを組み合わせていくのがJICAの役割である。Inclusive and dynamic developmentが新たなJICAのビジョンである。

12. 東アジアとサブサハラ・アフリカの対比

  • アジアとアフリカでの顕著な差はインパクトの大きさに見られる。アジアではドナーと途上国が共に同じようなことをやってきたが、アフリカではドナーによる政策変更により、長期的なコミットメントの確保が難しい。途上国の主体性で意思決定をしてきたモデルがアフリカにはない。

13. 今後のJICA

  • Human centeredでの議論が必要である。知識の共有、新しい知識の創造(異なったもの同士から新しいものを)という考えが必要で、幅広く使えるものはない。Local knowledgeをあわせていくかたちで、オーダーメイドでつくりあげていくことが重要である。また、地域コミュニティの参加が持続的な発展に欠かせず、地域社会をつくっていくことも必要である。そのためにも、日本が中流社会になった要因を分析し、開発分野へ導入することができないか議論することが求められる。財政支援を増やすことだけが議論ではない。

■ 質疑応答

[質問1]

パリ宣言があってもうまくいっていないのはなぜか?

[回答1]

誰が体現しているのかというオーナーシップの問題と、アフリカ側からみた、途上国側のオーナーシップでなくドナーから与えられた枠組み内でのオーナーシップだと指摘される問題がある。

援助協調、財政支援へ議論がシフトしていく中、ドナーがセクターで役割分担をする、情報共有のためのシステム構築といった、「手続き」への議論へシフトし、Aid effectiveness ではなくFinancial mechanismの問題になってしまっている。そうではなく、「全体として」開発を考える必要があるが、依然としてFinancial mechanismの議論になるのではないか。

[質問2]

マーケットの競争原理を働かせられないか?

[回答2]

プロジェクトごとの競争はイギリスでやっており、成果、評価の高かったプロジェクトに投資をしている。しかしこれはselectivityの問題へつながるのではないか(成果が出やすいプロジェクトと、ニーズが高いプロジェクトは必ずしも同一ではない)。うまくいかないものはそのままで、キャパシティの問題とされてしまう。

[質問3]

政府に資金提供をしても、薬など、必要としているものが末端まで届かないのではないか。

[回答3]

(例)農業:現場で何をすべきか不明。入ってきたお金をどううまく使うか。

ローカルナレッジをつくることを、外から支援する必要がある。

[質問4]

援助協調において、資金支援をストップすると末端が影響受ける。(human securityの問題へとつながる)しかし、そこで日本が支援すればそれは援助協調ではなくなる。JICAの立場は?

[回答4]

JICAは援助をひかない。人権の問題があっても援助をひかない。(「ドナー全体」として決めていたらならう)

能力不足に対してどのように支援するかが重要である。

[質問5]

「日本の支援」であるというvisibilityについて。

ドナーの説明責任から、自分の出した資金がどう使われたか知りたい→レポートの必要性、conditionalityさらに高まるのでは?

[回答5]

顔の見えない援助でも全く見えないのはどうだろうか。ロゴをはるべきものには、はりたい。存在感を薄めてVisibilityを下げると、援助全体を取りまとめるのは国際機関だけで良いと、ということになる。

(例)イギリス:資金を単に提供するだけでいいのかという議論から、国が国際機関への影響力を高めることで援助全体の効果を高める(これは、日本はできそうにない)

[質問6]

補正予算、予測可能性について

[回答6]

来年や再来年の日本の予算について今までは言えなかったが、「予測」ということで計画を伝えることでpredictabilityを高める。

中身を細かくつめないで資金だけ提供し、3月末までに領収書さえきればいいという考えがある。質への影響について、議論が不十分である。実施レベルで問題がどのくらいあるのかはまだ不明である。改善していくにはどうすればいいのかということまで議論されていくべきである。

[質問7]

評価機関について。フォローアップが進んでいないというのは、メカニズムがないのか?何が問題なのか?

[回答7]

フォローアップへ労力をさく余裕がない。プロセス現場で主導すべきだがその体制が整っていない。案件を動かしていくのでいっぱいという現状がある。

[質問8]

民主党政党になって変わったこととは?

[回答8]

コスト削減(事業仕わけ)の影響がある。ODAは優先課題とされておらず、新しい方向性もまだ示されていない。

[質問9]

技術協力に関して、今後のJICAの技術協力の位置はどうなるのか。

[回答9]

どれだけのインパクトがあったのか、波及効果は簡単に測れない。

世銀はテクニカルアシスタンス(TA)をプロジェクトへ入れているが、JICAの考えとして、TAとはコンサルタントが行っていくことで、一緒に作り上げるものでない。日本の立場としては、途上国と専門家が一緒につくる形態で行っていきたい。(カウンターパートからの情報が必要)

しかし、「効果」を示さなければ概念でしかなく、課題の一つである。技術協力の意味を問い直すことが必要である。