第6回勉強会
■ 第6回勉強会概要
「イノベーティブな開発支援としてのBOPビジネス」
発表者: 槌屋 詩野 氏
(株式会社日本総合研究所ヨーロッパ研究員)
日時:2010年5月29日(土)
14:30-16:00
場所:
Green Room, Dragon Hall
配布資料:
プレゼンテーション資料
勉強会内容:
1. 槌屋氏の経歴紹介
2. 槌屋氏によるプレゼンテーション
3. 質疑応答
■ プレゼンテーション・議事録
第6回「イノベーティブな開発支援としてのBOPビジネス」槌屋氏
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<目次>
1. BOPビジネスに興味を持ったきっかけ
2. BOPビジネスが注目され始めたきっかけ
3. 企業とNGOのシナジー
4. ディスカッション
5. デザイニング
6. オーナーシップ
<内容>
1. BOPビジネスに興味を持ったきっかけ
槌屋さん自身のOxfam Japanでの企業へのアドボカシー活動を通じて、NGOと企業の関係性について考えるようになった。どのように企業や技術者を巻き込んで、貧困撲滅といった社会問題を解決していくことができるのか?どう企業との対話に結びつけるか?
企業の目的、文化によってアプローチの仕方を変えなければならず、また、対話には長い時間を要する。しかし、社会への利益向上を考慮することが、持続的なイノベーションにも繋がる、といった考えが企業に浸透することで、そこからNGOとの対話へと結びつくのではないか。どのように企業と社会の相互利益追求を実現していくのか?ということを考えるようになる。
2. BOPビジネスが注目され始めたきっかけ
C.K.プラハラード
「Core competence」や「BOP(the bottom of the pyramid)」といった言葉の生みの親として知られる経営学者。
以前は、BOPビジネスは、貧困層向けマーケティングとして捉えられていた。そのため、「selling to the poor(貧困層への売りつけ)」ではないか、という批判が2000年以降、NGOを中心として起こる。
プラハラードは、発展途上国における人々が貧困から脱しようとする力(想像力、情熱)を借り、企業もビジネスを発展させる事ができるのではないかと考えた。発展途上国の人々のニーズに応えた開発を目指すことで、企業側も新たなイノベーションを得られるのではないか。そのためにも、発展途上国の人々の潜在能力をどのように引き出し、それらをどのようにビジネスに巻き込んでいくかが重要となる。
2003‐2004年頃から、大企業のCEOがBOP層に向けたビジネスプロジェクトを開始。
従来の市場は、「Red Ocean」と表現される。価格競争、人材獲得が激しく、商品開発が早い。よって、持続可能ではない。
それとは対照的に、未だ開拓されていない市場を「Blue Ocean」と呼び、BOPビジネス市場はこちらに属するのではないかと言われている。
ムハマド・ユヌス
経済学者で、「Social Business」の提唱者。
年々、先進国から途上国への海外直接投資の額が援助額を上回っている事から、企業活動のMDGs(Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標)への役割に注目する。
また、多くの欧米企業では、MDGsを念頭にビジネスモデルを考えている。そこで、CSR (Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)と本業との区切りを無くしていくという試み、「Social Business (社会的企業)」を提唱。
ユヌスは、途上国に雇用を生み出すことが「Social Business」であると考える。ユヌスの考えは、Extremeであると捉えられているが、彼は企業がどれだけ彼の考えを体現できるのか、企業が途上国にどれだけ利益を生み出せるのかを試すことでで、新たな思想へと発展させようとしていると考えられる。
3. 企業とNGOのシナジー
従来のビジネスと異なり、企業はNGOとのシナジーを期待している。従来とは違ったパートナーと組むことで、新たなアイディアを引き出そうとしている。
BOPビジネスは、成果が得られるまで7~10年を要する。しかし、収益性だけではなく、従来とは違った設定条件で商品開発を行うことで新たなイノベーションを狙う。
NOKIA
新興国向けの携帯電話―フラッシュライト機能、スピーカー機能(非識字層対象)、長時間バッテリー、防砂機能等、現地の人々の生活のニーズに応えた機能を備えている。
また、商品を通じた教育、医療、農業支援機能を提供。
―農産物の市場価格、天気予報などの情報がSMSで届く。
―英語教育のためのテキストが読め、音楽が聴ける。
「Customization」、「Localization」オープンラボ(開放型研究施設)を作り、政府や、NGO、現地の人々との共同開発によって機能を生み出していく。そうすることで、従来の方法では届かなかった層の市場の流れを掴む。また、現地の人々が直面している問題に対してソリューション型の商品を作っていく。
4. ディスカッション
[講師] BOPビジネスがどのように途上国、企業側に影響を与える可能性があるだろうか。
[参加者1] BOPビジネスが貧困層において、たとえばNOKIAの商品に手が届くグループと届かないグループといったような、新たな格差を生み出す懸念があるのではないか。
[講師] BOPビジネスがどこまで貧困層に達するのかは分かっていない。そして、BOPビジネスは最下層に届く商品を開発できていないのが現状。その理由として、企業側のコスト、リスクが挙げられる。また、たとえ商品が人々の手に届いていたとしても、そのコミュニティー自身が、商品を自分たちの生活に取り入れて利用できる段階に無い場合がある。コミュニティーの生活条件、必要性によって求められる商品が違うため、トライアルの状態である。
[参加者2] 企業がBOPビジネスに参入する際に、事前調査やトライアルをどのように行っているのか。
[講師]リスクを避けるために企業は小さい投資から始め、そこからスケールアウトしていく。企業はコラボレーターを置き、彼らと情報交換を行うことで方向性を決め、現地に根付くような商品へと改良してく。そのため、コラボレーターが成功の鍵となる。良いコラボレーターを探して企業はBOPビジネスに参入してくる。
5. デザイニング
NAPS社のラクダ冷蔵庫(ソーラーパネルを電源にした冷蔵庫をラクダに搭載し、ワクチンを運ぶという商品)
NAPS社は、商品と人的トレーニング(ワクチンの使用方法等)をパッケージにして売り出している。人間開発の要素を加えることで、他社との差別化を図っている。
生態系のデザイン-「Deep Listening」
企業から派遣された技術者、調査員は現地NGOと協力し、現地の慣習に則った生活を実際に体験しながら、現地の人々の生活に関わる要素(家畜含め)を観察し、現地のニーズを奥深くまで探ろうと試みている。
6. オーナーシップ
ケニアのスラムで若者が海外の技術者に教わった技術を基に、ソーラー電池を利用したライトを開発し、売り出している。貧困から抜け出すために、またスラムに暮らす人々の生活向上のために新たな商品を生み出そうとしている。
現地の人々のオーナーシップを尊重し、新たなアイディアを引き出すことの重要性。誰か一人がビジネスを始め、成功すれば、それがロールモデルとなり、波及効果がある。現地企業家にとって、BOPビジネスが初めのステップになるのではないか。
BOPビジネスは国づくり、人づくりにつながる。
槌屋さんはBOPイノベーションラボという貧困層・低所得層とのビジネス協業に関心を持った人たちのオンライン・コミュニティを運営されています。
詳しくはこちら: BOPイノベーションラボ
■ 勉強会:スタッフの感想・コメント
噂に聞いていたBOPビジネスですが、あまり詳しく考えたことのなかった私にとっては、BOP ビジネスと開発についての基本的な概念や、現在起こっている事例について勉強することのできるとてもよい機会になりました。勉強会後の懇親会では、パブで槌屋さんがBOP ビジネス研究を行うに至ったきっかけについてお話をうかがうことができました。槌屋さんの冷静な語り口を耳にしながら他方で感じていたのは、彼女のこの仕事によせる熱意で、このバランスの良さに好感をもちました。大学院での勉強は時として孤独なものですが、こういう機会に開発の第一線で活躍されている人のお話をうかがうことは大きな励ましになることを実感しました。(H.N)
今回の勉強会では、BOPビジネスという国際開発における新しいテーマについて貴重な御話を聞く機会となりました。貧困層にある人々を支援するだけではなく、むしろ彼らをビジネスに組み込んで共に発展を加速させていくというアプローチは新鮮で非常に興味深かったです。自分の身近にある企業が取り組んでいる実例も交えて御紹介いただき、貧困アプローチに対する新たな視点を得ることができたと強く感じています。(M.F)
■ 発表者経歴:
株式会社日本総合研究所ヨーロッパ研究員。国際協力NGO勤務後、株式会社日本総合研究所、創発戦略センター入社。 2009年より株式会社日本総合研究所ヨーロッパ(ロンドン)にて BOP(Base of the pyramid)市場、新興国調査を行う。 BOPビジネスについて国際開発ジャーナル2009年5月号から連載している他、 『世界を変えるデザインーものづくりには夢がある』(2009年10月)監訳。