第3回勉強会
■ 第3回勉強会概要
「気候変動と途上国開発」
第1部: 気候変動と途上国開発
第2部: 円借款に見る開発協力案件のポイント
講師:稲田 恭輔 氏
(Oxford大学 MSc in Environmental Change and Managementコース修士課程)
日時:2010年1月23日(土) 14:30-16:30
場所:ロンドン大学SOAS Brunei Gallery B102 教室
配布資料:
プレゼンテーション資料
「気候変動と途上国開発」 [閲覧]
勉強会内容:
1. 稲田氏の経歴紹介
2. 稲田氏によるプレゼンテーション
3. 質疑応答
■ プレゼンテーション・議事録
第3回「気候変動と途上国開発」稲田氏
1.気候変動と途上国開発
はじめに、気候変動問題の概要を次の4つの観点から、特に途上国開発の関係者として注目すべきと思われる点をお話いただきました。
(1)科学的根拠に 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書の観測結果、原因分析、予測内容のポイントについて。
(2)経済評価
(1)緩和(排出削減)コスト、(2)被害及び適応のコスト、(3)長期にわたる気候変動問題の分析に欠かせない将来のコストの現在価値への社会的割引率の3つの要素とあわせて、予測に伴う不確実性や様々な意見について。
(3)国際的枠組 国際環境条約である国連気候変動枠組条約(UNFCCC)・京都議定書の概要と特徴に加えて、過去・現在・将来の主要排出国による取組の重要性について。
(4)政治状況 これまでにUNFCCCの枠組で達成、実施されてきた取組内容と、コペンハーゲン会合に向けた主要国・地域首脳等の発言内容の比較について。
次に、気候変動問題に関する途上国での取組として、次の3つの分野に関して、特に途上国開発の関係者からみたそれぞれの取組に関する意見などをご紹介いただきました。
(1)適応
(1)途上国における影響、(2)国別適応計画(NAPA)や適応基金など、UNFCCCの枠組と資金支援メカニズムの進捗状況、(3)開発援助分野における気候変動適応統合の取組、(4)農業セクターの重要性について。
(2)緩和
(1)途上国におけるポテンシャル、(2)CDMの仕組み、成功及び課題、(3)国別緩和行動(NAPA)やセクター別アプローチなどの将来のメカニズムの案について。
(3)森林セクター・REDD(森林減少・劣化防止による温室効果ガスの排出削減) (1)1992年のリオ会議以降の国際的な森林保全の取組、(2)CDMにおける扱い、(3)REDD提案の背景、論点及び先駆的な取組について。
最後に、2009年12月にコペンハーゲンで行われた会合について、特に途上国におけるこれまでの取組結果と対比させながら、期待されていたこと、コペンハーゲン「合意」の内容、今後の課題、また途上国開発の視点からみたコペンハーゲン会合の意味合いについてお話いただきました。
2. 円借款にみる開発協力案件のポイント
まず、開発戦略の検討から個別案件の事後評価に至るまで、一般的な円借款案件の検討サイクルとあわせて、各ステップの目的、検討項目、実際の作業内容をご説明いただきました。 次に、モンゴルのインフラ開発、中国の環境保全の事例の事例をもとに、気候変動の視点でみた場合の検討課題や、コペンハーゲン会合後の気候変動の枠組づくりにあたって参考になると思われる論点をご紹介いただきました。
■ 質疑応答
[質問1]
途上国における気候変動緩和の次の枠組として提案されている国別緩和行動(NAMA)に関連して、途上国が低炭素開発の戦略を作成するにあたり、先進国が支援する際のポイントは何か。また、「コペンハーゲン・グリーン気候ファンド」の詳細は固まっていないが、どのような姿になると良いと思うか、個人的な意見でかまわないので教えてほしい。
[回答]
低炭素開発の戦略づくりにしても、「コペンハーゲン・グリーン気候ファンド」を通じた支援にしても、これまでの途上国開発の分野で蓄積されてきたノウハウを活用することが重要。それぞれの途上国が抱える開発課題や、各セクターでプロジェクトを実施していく上での難しさを十分認識した上で、戦略策定や支援案件の選定を行うことが理想的ではないかと思う。
[質問2]
日本が気候変動に関する途上国の取組を支援するにあたって、日本の皆さんに伝えるべきメッセージとしてはどのようなことが挙げられると思うか。
[回答]
途上国の中には、過去に日本などの先進国が排出した温室効果ガスによって途上国の生活が影響を受けていて、その影響を和らげたり途上国が経済成長する際になるべく温室効果ガスを出さない方法を選択したりするためには、先進国が従来の援助に加えて支援を行うべきだとの声がある、というメッセージが挙げられると思う。
[質問3]
途上国への技術移転に関しては知的所有権の問題があると思うが、コペンハーゲン会合では何か大きな進展があったのか。
[回答]
大きな進展があったとは承知していない。一般的に、企業が開発した技術や知的所有権は、企業が存続するために簡単には外部に出せないと考えられる。一方で、温室効果ガスの排出削減などの気候変動対策を広範に進める上では、途上国への技術移転も見逃せない問題。今後も、企業のもっている技術にきちんと対価を支払いながら途上国にも何らかの形で利益がもたらされる仕組みのあり方について議論が行われていくと思う。
[質問4]
植林事業の事例などをみると、REDDは実施上の課題が多いように見える。JICAではどういった取組を行っているのか。
[回答]
REDDは、温室効果ガスの排出削減という側面に加えて、生物多様性の保全や貴重な森林資源の保護、更には周辺コミュニティへの支援といった効果があると思われる。広大な面積の森林を管理しながら温室効果ガス排出削減量をモニタリングしたり周辺住民の生活に配慮したりすることは、例えば発電所のモニタリングとは比較にならない管理上の手間がかかることなので、コストを勘案しながら、一定のルールを決めて実施していくことが適当なのではないか。JICAでは、ベトナムでパイロット的な取組を行っていると承知している。
[質問5]
気候変動は、複数の国にまたがる問題が多いので、バイの機関による支援は難しいのではないか。
[回答]
一般的に、温室効果ガスの排出削減については、対策が排出源における措置に集中するので、複数の国にまたがる問題はそれ程多くないのではないか、との印象を持っている。気候変動の影響に対する適応については、例えば水源を国際河川に頼る複数の国々の農業セクターなどが考えられるので、ご指摘のとおり地域全体での検討が必要になる場合も比較的多いと考えられる。バイの機関は、こうした地域全体の開発課題について、各国政府との間のみで協議や検討を行うだけではなく、地域機構などとも協力して解決に取り組んできており、気候変動問題でも同様のアプローチで支援を行っていくことが十分可能ではないかと思われる。
[質問6]
途上国における気候変動の影響の事例として農業生産性の低下を挙げていたが、具体的にどういうメカニズムで生産性が低下するのか。
[回答]例えばアフリカでは、天水農業が多く行われており、灌漑施設を利用している場合に比べて降雨量の減少による穀物生産への悪影響がより一層懸念される、といったことが挙げられる。但し、プレゼンテーションの説明の際にも紹介したとおり、局地的な気候変動の動向や様々なセクターへの影響は細かく解明されていない面もあるので、現場で活動している途上国開発の関係者が地道にモニタリングや分析を行い、ノウハウを蓄積していくことが求められているのではないかと思う。
■ 講師経歴:
旧海外経済協力基金(OECF) 入社、モンゴルの市場経済移行支援等を担当
旧国際協力銀行(JBIC) 北京事務所(植林、都市インフラ等環境円借款)、企業金融部(カーボンファンド等民間連携)
アフリカ円借款総括(インフラ、民間部門振興、財政支援、国際機関連携等)
JJ 統合時は総務部(国会担当、組織内調整)、 2009 年に入りJICA気候変動対策室(COP15 ━準備)に勤務