第7回勉強会

第7回勉強会 「東南アジアの円借款業務と環境影響審査 -実務の視点から-」


■講師:

本橋 光徳 氏

(JICA職員: 現在インペリアル・カレッジ大学にて、

Environmental Technology修士課程に在籍)

青木 一誠 氏

(JICA職員: 現在サセックス大学にて、

Environment, Development & Policy修士課程に在籍)


■日時・場所:

2009年5月28日 午後2時30分~4時30分

ロンドン大学SOAS


■講演概要:

JICAが担うインフラ開発等への円借款業務は、発展途上国の経済基盤を固め、海外からの民間投資を促進するために重要な役割を担っています。また、貧困削減、環境問題等の地球的規模の問題への対応も、引き続き重要な課題となっています。こうした開発プロジェクトは、どのように案件が作られ、実施されているのでしょうか。開発プロジェクトは、案件形成から実施にいたるまでに、相手国政府や現地住民、国内外のNGOなどさまざまなステークホルダーとの交渉や調整があり、また、プロジェクト実施に伴う環境影響の評価や、プロジェクト実施後に発生する技術的課題の解決など、きめ細かい対応が求められます。

そこで今回の勉強会では、本部で実務に携わられていた両氏から、案件形成からプロジェクト開始前の審査、環境社会配慮確認、プロジェクト実施までのプロセスやモニタリングの実務を、実際に両氏が担当された東南アジアにおけるプロジェクト例をもとにお話いただきました。


■ プレゼンテーション要旨

· 2000年代前半、インドネシアの電力セクター等を担当したが、当時、東南アジア各国は通貨危機後で、民主化が進みつつあり、円借款の案件形成にあたっては、いろいろな関係者と対話をする必要性や、為替レートの変動がインフラ案件の実施に影響するという問題があった。

· ODAのプロジェクト・サイクルは、準備段階でも数年かかるほどの長いプロセスである。

· 援助の仕事に携わる上での基本的姿勢として、開発効果の向上、業務への結びつき、組織のレピュテーション向上を意識している。ODAは途上国へのいろいろな関与の仕方の1つでしかない。援助を通じてパイロット事業を導入し、相手国がそれを広めていく形で、相手国の開発に貢献できればと考えている。

· 環境と開発は相反するものと見られることもあるが、経済発展に加えて環境配慮が重要。旧JBICでは、プロジェクトが環境や地域社会に与える負の影響の回避または緩和、環境社会配慮の主体=事業実施者、アカウンタビリティ及び透明性の確保といったガイドラインの原則に則って、環境及び社会への配慮を行ってきている。

· 環境面の審査は、プロジェクト審査時に環境影響評価レポート(EIA)等の資料の読み込み、実施主体への質問表の送付を通じた確認及び現地実査等によって行い、主に環境汚染・自然環境破壊、社会配慮、情報公開及びコンサルテーションの3点を確認している。


■配布資料: プレゼンテーション資料

第7回 「東南アジアの円借款業務と環境影響審査」資料 1/2 (本橋氏)

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1. 本橋氏のプレゼンテーション-東南アジアの円借款業務と環境影響審査 本橋氏の略歴2000年、旧国際協力銀行(JBIC)入行。財務部、開発第1部第2班(インドネシア、マレーシア向け円借款業務)、アジア開発銀行へ出向、開発業務部を経て2008年より現修士課程に所属。

0.はじめに

· 趣旨:開発援助機関の職員がどのようなことを考えて何をしているのか-例の紹介

· 内容:東南アジア向けのプロジェクトに即した円借款業務の紹介(本橋氏)、環境社会配慮確認のための業務の紹介(青木氏)

· 本店業務の経験を基にした発表者の個人的な見解であり、情報が少し古いことについてのお断り。


1.円借款について

· 日本が実施するODAに関して、特に2つの点を強調したい。1つは、円借款は経済協力の様々な手段の1つであるということ。金額で言うと、経済協力の4分の3は民間資金であり、円借款は金額としては大きくない。他方、公的資金は、民間資金と比べて、全体の金額が比較的安定しているという特徴がある。ただし、個別の国ベースでは不安定だという予見可能性の議論はある。

· もう1つのポイントは、なぜ援助を行っているのかという点である。「平和・発展・安全・繁栄」はODA大綱に書かれているキーワードだが、ODAのシェアホルダーである国民の間に様々な考え方がある。

· 個人的な話だが、東南アジア向けの円借款業務を行っていた開発第1部(当時)に移る際、深田祐介氏の小説「神鷲(ガルーダ)商人」を読むように薦められた。日本の商社が戦後賠償の資金を利用しながら、船舶をインドネシアに輸出していく様子等を描いたもので、日本と東南アジアとの関係が昔から長く続いていて、経済協力には様々なモティベーションがあることを教えてくれた本である。


2.担当部署に配属されると

· 配属された開発第1部(当時)は、東南アジアのASEAN初期加盟国、大洋州諸国、東ティモールを所掌していた担当した。

· 当時の本店では、新しい案件を作ったり、担当省庁からの問い合わせを受けたりし、駐在事務所では、実施中の案件の監理(スケジュール、資金、調達等の監理)を行う。

· 自分は、主にインドネシア電力セクターを担当し、後にマレーシアの電力・水資源セクターも加わった。時期にもよるが、10件から30件くらいのプロジェクトを担当していた。


3.2000年代前半当時の状況

· 開発第1部に配属されていた頃は、ちょうどアジア通貨危機後で、東南アジアの政情は複雑であった。各国で、「開発独裁」が終わり、政権交代が相次ぎ、民主化が進みつつあった。

· 東南アジアは、円借款を行う上で年次国(毎年、新規のプロジェクトを行うことが想定されている国)が多いのが特徴。かつてであれば開発計画を担当している省庁が明確だったようだが、通貨危機後に借入国の省庁間のパワーバランスに変化が見られたりして、情報の入手や借入国内の調整が難しい側面があったと思う。そのため、本店にいても情報が入りにくい、プロジェクトのニーズを掴みにくいという面があり、いろいろな関係者と対話をする必要性が強まっていた。

· また、アジア通貨危機の後遺症の一例として、為替レートの変動が、インフラ案件の実施に影響するという問題が出てきた。通貨危機前と後では、為替レートの変動により、同じことをやっていても債務超過に陥ってしまうことがあった。為替リスクによる影響は、インフラ会社のレベルだけでなく、国家のレベルにも及ぶ。そのような状況に陥ると、特に国際機関を中心に構造調整のようなことが議論されることが多い。当時のインドネシアの電力セクターに関しても、世銀やADB等は早急なセクター改革(国営企業の分割民営化等)を議論していた。このように、被援助国はドナーの政策の影響を受けるが、それは必ずしも一方的なものではない。国は異なるが、例えば、Michael Holmanの小説「Last Orders At Harrods: An African Tale」などは、ケニアで援助を受ける側がドナーを操る様子を題材にしていて興味深い。

· インドネシア電力不足メカニズムの図(スライド参照)は、インドネシアの電力不足の問題を簡単に整理したものである。

4.誰と一緒に仕事をするか

· 借入国、国内、国際機関の他、社内の様々な部署と一緒に仕事をする。

5.何をどうするか

· 実際のプロジェクトの立案・実施については、大きく分けるとプロジェクト準備から交換公文・借款契約の締結までを本店、プロジェクトの実施を主に現地事務所が行っている。

· プロジェクト・サイクルにかかる期間については、プロジェクト準備段階は、マスタープランやフィージビリティ・スタディの実施等を含めると数年かかる。それらが整ってから、相手国から要請が出てくる。要請から交換公文・借款契約の締結までは通常1年以内である。その後、施工監理を行うコンサルタントの雇用や資機材の調達等を行うため、実際に施工を始めるまで長いプロセスである。

· 1つの部署に配属されるのは2-3年くらいなので、担当者が1つの案件を最初から最後まで担当することはまれである。むしろ、複数の案件を担当するため、これから始まる案件や、終わる案件を同時に見ることとなる。

· <写真のスライド>業務を担当していると様々な課題に直面する。写真は業務の一例。また、これらの背景にはたくさんのペーパーワークもある。

6.審査の視点

· プロジェクトの審査にあたっては、相手国・セクターの現状と課題、相手国政府が何をしようとしているのか、他ドナーが何をしようとしているのかを把握した上でプロジェクトの設計を行う。予め入手可能な資料を読み込み、その後、相手国に質問票を送り回答をもらう。本店から現地に2~3週間のアプレイザル・ミッションを送る。ミッション期間中は相手国政府等との協議を行い、合意文書を作成する。


7.どういうことを考えているか

· 援助には大きく分けて2つの批判的見方があると考えている。1つは、援助は環境社会配慮を欠いている、あるいは成長重視・貧困軽視ではないか、というような見方であり、もう1つは、援助を行うことによって民間セクターをクラウド・アウトしているのではないか、あるいはもっと国益を重視すべきではないかというような見方である。援助機関の職員として、これらの批判に真摯に耳を傾けると同時に、このような批判があたらないような案件を作りたいと考えている。

· また、仕事を行う上での基本的なプライオリティとして、(1)どうすれば開発効果を向上できるか、(2)どう業務に結びつけるか、(3)どうすれば組織のレピュテーションを高められるかという点を意識している。

· 先に述べたように、援助は様々にある経済協力の中の1つの手段に過ぎない。国にもよるが、相手国政府の財政規模からしても小さなものであることが多いので、援助によって、質的に良いパイロット事業を導入し、相手国がそれを広めていく形で、相手国の開発に貢献できればよいと常に考えている。


第7回 「東南アジアの円借款業務と環境影響審査」資料 2/2 (青木氏)

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2.青木氏のプレゼンテーション-環境影響調査について2002年、旧国際協力銀行(JBIC)入行。開発第1部第3班(フィリピン向け円借款業務)、環境審査室、管理部を経て2008年より現修士課程に所属。

イースター島と環境

· イースター島は、かつては木々に囲まれた自然豊かな島であり、最盛期には一万人程の人が住んでいた。しかし、人口圧力が高まるにつれ島の森林はモアイ像の石材を運ぶための丸太及び燃料等に供するために無節操に刈り取られてしまった。その結果土壌流出などの環境破壊を招き、人口も一時期は百人強に減少してしまった。環境を顧みない発展は、持続可能ではないということを、イースター島は我々に教えてくれる。


環境VS開発

· 環境と開発は相反するものと見られることもある。例えば、日本の高度成長時代の裏には、四大公害病が発生した。このようなことを起こさないためにも、経済発展に加えて環境配慮が重要である。将来世代のニーズを損なうことなく、現在世代のニーズを満たす持続可能な開発の考え方が重要である。


環境社会配慮確認(環境審査)の原則

· 旧JBICでは、ガイドラインに則って環境社会配慮の業務を行ってきている。具体的には、(1)プロジェクトが環境や地域社会に与える負の影響を回避または緩和すること、(2)環境社会配慮の主体は事業実施者であること、(3)アカウンタビリティ及び透明性を確保することという原則に則っている。

プロジェクト・サイクルにおける位置付け

· 環境面の審査は、プロジェクト審査時に、環境審査室の職員が実施。また、必要に応じて外部コンサルタントとともに実施する。

環境社会配慮確認の流れ

· 環境審査では、まずスクリーニングでプロジェクトを4つのカテゴリに分類する。カテゴリA、B、FIは環境レビューを行い、環境面以外の審査結果と合わせて問題がなければ、融資の契約締結となる。また、審査の過程で、カテゴリ分類結果や、環境影響評価レポート(Environmental Impact Assessment: EIA)の入手状況、環境レビュー結果をウェブ上で公開している。

環境社会配慮確認の流れ(詳細)

· 具体的には、EIA、住民移転計画書等の資料を読み込んだ後、相手国政府、実施機関(電力公社等)に質問状を送り、例えば、排ガス等が現地の法制度に遵守しているかなどの確認作業を行う。一回の質問状で全てを確認することは難しく、何度か質問表を送る場合もある。回答の際、先方に表に埋めてもらうようにするなど、答えやすい形に工夫する。

環境審査時の視点・確認事項

· 環境審査時の視点・主な確認事項は以下の3点。

(1)環境汚染・自然環境破壊:EIA等を参照し、現地の関連法制度に遵守しているかを確認する。国によっては、緩い法制度、あるいは法制度がない場合もあるので、その場合は国際基準(世銀セーフガード・ポリシー等)を参照する。

(2)社会配慮(非自発的住民移転等):例えば漁港の建設の場合、漁民が移転しなければならない、また漁場を失うといった住民移転の問題に配慮する必要がある。影響住民に対する補償等により、住民が生活水準を維持もしくは改善できるかを確認する。

(3)情報公開及びコンサルテーション:EIA等に関する情報が公開されているか、また、住民に対する情報提供や、回復計画策定にあたっての住民参加の有無などを確認する。


融資契約締結後のモニタリング

· 融資契約を締結した後は、借入人等からモニタリング結果のデータを入手し、実際に必要な配慮がなされているかを確認していく。またステークホルダー等から情報提供を受けることもある。· また、プロジェクトによっては、苦情が出る場合もあるので、その場合は借入人等を通じた確認、必要に応じさらなるモニタリングや調査を行う。

事例:ベトナム・石炭火力発電プロジェクト

· 本プロジェクトでは、酸性雨の元になる窒素酸化物及び硫黄酸化物の排出を減らす機器が用いられている。· 本プロジェクトは、審査のタイミングでベトナム政府が大気汚染防止法を改定したことから、環境省に追加でヒアリングを行うなどして、新しい法律に遵守しているかどうかを確認する必要があった。

· また、ベトナムでは人民委員会が住民移転を担当していたが、住民移転に関する情報をなかなか入手することができないという課題があった。また、先方への質問票は英語からベトナム語に翻訳する必要があったため、確認に時間がかかった。


【質疑応答】

[質問1]却下される案件の割合はどのくらいか?またその理由は?

[回答]却下される案件の割合の具体的な数字はわからないが、実際には相手国政府から日本側に案件の要請が来るまでのプロセスが長く、その間に事務レベルで事前にかなりの調整を行っていることから、却下されることは少ないのではないか。ただし、相手政府も全ての案件が採択されるとは思っていないので、数多くの案件を要請することはあり得るかもしれない。また、例えばEIAといった審査にあたり必要な文書が整っていないため、採り上げることができない案件はある。日本側では出てきた案件を実施機関である我々の他に、外務省、財務省、経済産業省がそれぞれチェックする。


[質問2]ベトナムの石炭火力発電プロジェクトでは、質問表をベトナム語に翻訳したとのことだが、ベトナム政府とのやりとりは英語で行うのか?

[回答]ベトナム政府との協議は英語で行う。しかしながら、例えば中国のプロジェクトでは、駐在員事務所のスタッフが日本語も中国語も流暢であるため、質問表はスタッフが日本語から中国語に訳すという場合もある。


[質問3]国際機関との協調の事例は?

[回答]当時のインドネシア電力セクターに関しては、国際機関が政策レベルの改革を進めようとしていたことから、政策協議を行った。また、プロジェクト・レベルでは、特に90年代から発電所の建設は民間に任せようという考えを背景に、彼らは送配電のプロジェクトを行う傾向があったが、通貨危機の影響等により発電所の建設が進んでいなかったことから、日本はこの分野でも支援を行い、棲み分けがあった。自分は担当しなかったが、国際機関と協調融資を行う事例もある。環境審査面ではインドネシアでアジア開発銀行との協調案件があったが、実施主体に両機関の政策の違いを整理して伝えるなど工夫する必要があった。


[質問4]語学の勉強はしていたか?

[回答]インドネシア語を勉強した。実際に政府との協議のためというよりも、簡単な日常会話ができることを目指していた。日本に留学しているインドネシア人に休み時間に教えてもらった。担当国がフィリピンだったが、英語のみ。現地での協議では、実施主体と住民の協議がヒートアップしてタガログ語になり、英語で協議するように依頼することもあった。


[質問5]円借款ではプロジェクト・ファイナンスも行っているか。

[回答]円借款は、基本的には日本政府から相手国政府に対する円建ての貸付である。(いわゆるノンリコース型の)プロジェクト・ファイナンスは現在のJBIC(当時の国際金融等業務)が行っている。


[質問6]写真にあるインドネシアのガス火力発電所の新設は、プラントの建設の他に、送電網の整備も行ったか?

[回答]当該プロジェクトは発電所の建設のみで、送電網はやっていない。


[質問7]環境社会配慮の審査は、原則としては相手国政府が行い、JICA(旧JBIC)はそれを確認するとのことだが、社会配慮の報告書の作成や住民とのワークショップにJICAはどこまで関与するのか?また、環境社会への配慮が行われない場合、返金を要請することもできるのか?

[回答]融資契約を締結した案件で、あとから社会に影響があると苦情を受けたことがあるが、まずは相手国政府に対して申し入れを行った。必要に応じて、実施主体と住民のミーティングに参加する場合もある。また、融資契約に返金を要請する権利は書かれているが、住民の話を聞いただけで返金を求めることはできない。実際に担当した案件で返金を要請することはなかった。


[会場からの補足]世銀の場合、問題が指摘されたラオスのダムのプロジェクトがあったが、その場合は先方にやり直しを要請した。返金は条項上は可能であっても、いったん供出した資金を返してもらうのは手続き上、困難である。ただし、これから貸し出す資金を止めることはできる。世銀の中国の高速道路のプロジェクトで、中央分離帯の不備が見つかったが、やり直しを次の融資の条件にした。何度かに分けた融資を行うことで、コンプライアンスをとることは可能。


[質問8]アジアでの他ドナーとの協調はどのくらい進んでいるか?また、ドナーとして中国とどのように付き合っているのか?

[回答]バイの援助機関との協調としては、例えば、インドネシアの気候変動関連のプロジェクトにプログラム・ローンを拠出したが、フランスの援助機関が協調を求めてきた事例がある。マルチのドナーとの協調としては、世銀の貧困削減支援借款(PRSC)や開発政策借款(DPL)への協調融資などがある。中国の援助はディシプリンがないのではないかといわれるが、中国の援助機関向けにワークショップを開くなど、新興ドナーとの協力を進めようとしている。ベトナムの石炭火力発電プロジェクトは、国際金融業務で中国輸出入銀行からも借り入れがあったと聞いている。当時、中国側による現地での詳細な環境への配慮の確認はなかったと実施主体より聞いたことがある。


[質問9]EIAのモニタリングで、出来の良いEIAが出てきたが、実際には予算不足でそれが守られていないという場合もあるが、EIAモニタリング予算を別枠で取っているのか。

[回答]モニタリング用予算はないが、住民との問題が出てくる等フォローアップが必要な場合、JICAは追加で調査をかけることができる。


[質問10]案件を実施する際にどのくらい時間をかけるのか?

[回答]どの時点をプロジェクト・サイクルの起点にするかによるが、マスタープランの策定、計画立案、フィージビリティ・スタディの実施、環境影響評価等を行うのに数年かかる。途上国の開発ニーズは大きく、全てに応えることはできないので、新しい成功事例を作り、その後は相手国政府がそれをduplicateできないかという発想で仕事している。


[質問11]プロジェクトが失敗した事例はあるか?あればその理由は?住民移転を伴うダム事業等は失敗事例ではないのか。また、誰がその判断をするのか。

[回答]何らかの事情によってあらかじめ設定した目的を達成しなかったプロジェクトもあるだろうが、プロジェクトが失敗したかは、どの視点で見るか、便益を受ける人とコストを負う人のバランスや、プロジェクトを実施した場合と実施しなかった場合のそれぞれの機会費用をどう捉えるか等にもより、とても難しい判断であると考える。相手国の公共事業なので、最終的には相手国政府が責任を負うこととなる。私の祖父母が世銀のダム建設によって移転させられたが、その頃の話を聞くと、何も知らない間に決まっていたとのこと。住民に対する情報公開、合意形成などの地道な作業で対応していくことが重要なのではないか。


[質問12]今後どのような分野の仕事に関心があるか、抱負を聞かせてほしい。

[回答]今後は、相手国で最終的に民間企業が動きやすくなるようなビジネス・モデルの構築に関心がある。フィリピンの植林事業で、当時フィリピンの財政状況がよくなかったために借入要請がなく、実施されなかった案件があるが、現地に行くたびに、木がない状況を目のあたりにする。円借款でもできることは限られているので、試行錯誤しながら、他地域にも広がるようなパイロット的な事業を行っていきたい。


■講師略歴:

本橋 光徳(もとはし みつのり)氏:

2000年、旧国際協力銀行(JBIC)入行。財務部、開発第1部第2班(インドネシア、マレーシア向け円借款業務)、アジア開発銀行への出向、開発業務部を経て2008年より現修士課程に所属。


青木 一誠(あおき いっせい)氏:

2002年、旧国際協力銀行(JBIC)入行。開発第1部第3班(フィリピン向け円借款業務)、環境審査室、管理部を経て2008年より現修士課程に所属。