第4回勉強会

第4回勉強会 「気候変動対策の次期枠組みに向けて」

~国際交渉の行方と途上国開発に及ぼす影響~


講師:

鷺坂 長美 氏 チャタムハウス客員研究員

井上 直己 氏 環境省水・大気環境局自動車環境対策課課長補佐

(現在サセックス大学にて環境開発学修士課程に所属)

小林 豪 氏 同地球環境局地球温暖化対策課係長

(現在LSEにて公共政策学修士課程に所属)

日時・場所:

2009年2月28日 午後2時半~4時半/ロンドン大学SOAS

配布資料:

・ プレゼンテーション資料

「地球温暖化問題について」 (鷺坂 長美 氏) [閲覧]

「気候変動に関する国際交渉について」(小林 豪 氏) [閲覧]

「CDMと適応政策の開発に与える影響」(井上 直己 氏) [閲覧]


議事録: 勉強会議事録 [閲覧]

主催: IDDP


■ プレゼンテーション要旨

・地球温暖化の影響により、自然環境や人間社会などのさまざまな分野において世界レベルでリスクが増大している。そのため温室効果ガス濃度の安定化を目的とした排出削減への国際的合意に向けた交渉が行われている。

・現在、日本の温室効果ガス排出量は基準年比を上回っており、低炭素社会へ向けた取り組みが始まっている。

・世界的な合意の枠組みは、科学的根拠を基に行われている。

・京都議定書は、先進国の温室効果ガス排出量に上限を設定した最初の一歩。

・次期枠組みに関する国際合意の実現に向けては、温室効果ガス削減義務についての公平性を確保しながら、途上国の取り組みを促していくことが重要な鍵となる。そのためには先進国が率先して削減に取り組む姿勢が不可欠。

・そうした国際交渉の中で、日本は米国と欧州の間、そして先進国とアジア諸国の間をつなぐ役割を果たしている。

・CDM(クリーン開発メカニズム)は途上国における排出削減について費用対効果の高い手法として大きな役割を果たしているが、持続可能な開発を促進するためには、現在の制度は十分とはいえず、改善が必要。

・コベネフィット・アプローチは排出削減と持続可能な開発を両立させるために有効であり、その考え方を取り入れたCDMが促進されるインセンティブが求められる。


・気候変動に対してぜい弱な途上国にとって適応対策は開発の支柱。


■ プレゼンテーション・議事録

1. 「地球温暖化問題について」 (鷺坂 長美 氏)


第4回「気候変動対策の次期枠組みに向けて」資料 1/3 (鷺坂氏)

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・温暖化が原因となり、自然環境・人間社会・世界規模でのリスクが増大している。温暖化の傾向と今後の予測の科学的見地に基づき、温室効果ガス濃度の安定化のためには、今後CO2排出量を自然吸収量と同等まで減らすことが必要。


・大気中温室効果ガス濃度の長期的な安定化に向けた排出削減の必要性が訴えられており、次期枠組みの合意に向けて、科学的根拠を基にした模索が行われている。


・2007年度における日本の温室効果ガス排出量は、1990年よりも8.7%上回っており、京都議定書に基づく6%削減約束の達成には14.7%の排出削減が必要。日本は京都メカニズムにより1.6%を、森林吸収源により3.8%をそれぞれ削減分とすることを計画していることから、2007度のレベルから9.3%を削減することが必要。福田前首相の主導により、低炭素社会への転換を目指した「福田ビジョン」が示され、日本が2050年までに現状から60%~80%を削減する長期目標など掲げられた


2. 「気候変動に関する国際交渉について」(小林 豪 氏)

第4回「気候変動対策の次期枠組みに向けて」資料 2/3(小林氏)

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国際交渉全体

・国際交渉は、「世界全体で何をするべきか」という問いに対して科学が示す方向性に基づいて、各国の行動・責任を定めていくプロセス。その際にどのような指標や基準を用いるかが大きな影響を持っている。


・国際交渉には政治的決定が不可欠だが、交渉の真の成否は、最終的には科学が必要としたことに答えられる成果を出せるかどうかにかかっている。そのため、政府だけでなく、さまざまな主体が科学との橋渡しを行うことが重要であり、特にNGOやメディアの監視が大きな役割を担っている。


・中国、インドは京都議定書に批准はしているが、そもそも削減義務がかかっていない。また、米国は批准していないため、削減義務に拘束されていない。そのことを捉えて、国際社会から京都議定書の有効性に関する疑問が呈せられることもあるが、現在までに183カ国が批准しており、京都議定書が世界的な削減を進めていくための重要な一歩であることには間違いない。


日本の立ち位置

・米国と欧州をつなぐ役割、そして先進国とアジア諸国(中国・インドなど)をつなぐ役割を担っている。


日本としてアピールできる点

・2008年のG8議長国として、G8の成果を各国へ紹介・共有

・公害を克服し経済成長を成し遂げた経験を各国と共有

・高い技術力で世界に貢献


世界全体のCO2排出量と今後の予測

・2005年時点で、米国、中国、EU、ロシア、日本とインドのCO2排出量が、世界全体の7割を占めている。一方、将来の排出量の予測では、途上国全体のCO2排出量は増加し続け、先進国は現在と同程度と予想される。


次期枠組み交渉の課題

・各国間の公平性を確保した上での排出削減をいかに仕組みに落とし込んでいくかが重要。

・米国、そして中国やインドなどの排出量の多い途上国の参加が重要であり、それらの参加インセンティブを与えていくことが必要。

・気候変動への適応力を持っていない国への資金供与などの支援も重要な課題。


次期枠組みに関する日本の提案

・2050年までに世界全体の排出量を少なくとも半減するという長期目標を採択すること。

・排出削減のために各国が負うべき義務として、先進国へは削減目標の達成を義務付け、途上国へは経済の発展段階により目標を差異化すること。

・既存の資金メカニズムを改善するとともに、新たな資金需要については国際的な協力の下での対応を検討すること。


AWG-LCA(条約特別作業部会)の論点

・緩和・適応・技術移転・資金を4つの柱とし、全体のパッケージとして交渉していく。


次期枠組みのキーワード:MRV

・「Measurable(計測可能)/ Reportable(報告可能)/ Verifiable(検証可能)」

・先進国のMRVな国別削減目標と、途上国によるMRVな手法での削減行動が重要。


まとめ

・地球温暖化については科学の警告を踏まえた対応が必要。

・京都議定書は先進国のCO2排出量に上限を設定し、カーボンマーケットも形成されており、「最初の一歩」として重要な合意だと言える。

・今後の温暖化対策には途上国の取り組みが重要な鍵となるが、それを引き出すためにも、先進国が率先して取り組む姿勢が必要。

・今年12月の締約国会合における次期枠組みの国際合意に向けて、ますます交渉が加速される。


3. 「CDMと適応政策の開発に与える影響」(井上 直己 氏)

第4回「気候変動対策の次期枠組みに向けて」資料 2/3 (井上氏)

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CDMとは

京都議定書において定められた、温室効果ガス削減をより柔軟に行うための経済的メカニズムである京都メカニズムのひとつであり、先進国と途上国が共同で事業を実施し、その削減分を投資国(先進国)が自国の目標達成に利用できる制度。


CDMの目的1: 温室効果ガス排出削減

・省エネの進んでいる先進国が自国内で削減を進めるよりも、途上国で削減したほうが費用対効果が高い。一方、削減義務が課されている先進国による国内削減に対する補完的な位置づけである点に注意。

・削減義務のない途上国には排出枠が与えられていないため、結果として議定書に基づく総排出枠の量が増大。そのため、クレジット発行の審査は厳格になされている。


⇒ 煩雑な手続きによるコストの増大にもつながる。


CDMの目的2: 持続可能な開発の促進

・京都議定書においてはCDMの目的のひとつとして、「持続可能な開発への貢献」が掲げられている。

・途上国への資金や技術が流入する機会となるため、途上国の経済開発ニーズにも応える仕組みとして期待が高い。

⇒ 地域間の不均衡・プロジェクトがもたらす持続可能な開発の是非などの問題あり。


CDMの地理的不均衡

・プロジェクトが中国やインドなどに集中し、アフリカ諸国などの割合が非常に小さい。

○ CDMのプロジェクトの数とクレジットでみると、アジア太平洋地域が全体の7割程度を占める。

○ 2007年には中国において全プロジェクトの7割が実施。


・地理的不均衡の要因としては以下が考えられる。

○ 費用対効果の高い削減プロジェクトが促進される仕組みであるため、そもそも排出増大傾向にある国にプロジェクトが集中。

○ CDM手続きが複雑であり、資金的・時間的にもコストがかさむため、小規模プロジェクトは得られる利益に比して手続きコストが相対的に大きくなるため不利。よって、小規模プロジェクトのニーズが相対的に大きい(大規模プロジェクトの実施可能性が低い)アフリカなどの途上国ではプロジェクトが実施されにくい。

○ 経済的安定性・政治的安定性・インフラ整備の状況といった投資環境の良悪が影響。


「持続可能な開発」要件の充足の判断

CDMが「持続可能な開発」に寄与しているか否かはホスト国が判断することとされているが、結果的にCDMプロジェクトの誘致を有利に進めるため、ホスト国(CDM受入国)による「持続可能な開発」の要件審査が緩くなる傾向が見られる。


「持続可能な開発」要件の構成要素

各ホスト国が定めている当該要件の構成要素としては、生態系システム・経済システム・社会システムの3つがおおむね含まれている。しかし、重点の置き方は各国で相違が見られる。


例) ブラジル・インド・南アフリカなど:雇用・所得再分配に焦点。

ペルー:地域コミュニティーのニーズに焦点。

中国:国家全体の経済成長・エネルギー安全保障に焦点。


「持続可能な開発」と排出削減はトレード・オフか

CDMが途上国の持続可能な開発に寄与しているかについては異論がある。市場メカニズムに基づいてデザインされた仕組みであり、費用対効果の高い削減が主眼。そのため金銭価値で計れない「持続可能な開発」の項目は優先度合いが低くなる傾向があるのではないかと懸念されている。


※ ケース・スタディー:南アフリカ

廃棄物埋立地の環境汚染から引き起こされる深刻な健康被害から、周辺住民は埋立地の閉鎖を以前から求めてきていたが、世銀融資によるCDMプロジェクトとしてメタンガス回収による発電事業が進められることとなったため、プロジェクト撤回と埋立閉鎖を求める住民運動が展開された。

一方、埋立地は別の住民グループにとっては貴重な収入源でもあったため、プロジェクト推進と埋立継続を求める住民運動も展開された。

このケースは、住民によってプロジェクトがもたらす影響が異なるため、プロジェクト賛成・反対において当該住民間で意見が分かれ、CDMの「持続可能な開発」との両立が困難となる一例といえる。


⇒ 持続可能な開発はどうあるべきか、という一般的な開発事業と共通する問題とも言える。


コベネフィット・アプローチ

国家の開発ニーズ(環境改善ニーズ)と、国際ニーズ(気候変動対策のニーズ)を同時に満たすアプローチで、途上国の大きなニーズである環境改善をCDMを通じて推進することで「持続可能な開発」に寄与することが主眼。


CDM制度改善に向けた動き

最貧国やアフリカ諸国などにおけるCDMの拡大を目指して、手続きの簡素化や外部支援を通じた実施コスト削減の方策が模索されている。


CDMの目的3: 適応と持続可能な開発

先進国の関心・途上国の関心

・先進国の関心は気候変動の緩和が中心であるが、途上国の関心は気候変動への適応に集中している傾向にある。

○ 緩和(mitigation):温室効果ガスの排出削減、吸収源の増強

○ 適応(adaptation):気候変動による悪影響への対応


・気候変動が及ぼすインパクトは、途上国と先進国では異なる。

この点は途上国における雨期へのぜい弱性と、先進国の季節変化への適応力(Season proof)の対比に共通する論点だと言える。(Seasonality)

すなわち、途上国の貧困層においては、雨期において道路遮断などのインフラ機能が不全となり、それに伴い農作業その他の就労が困難となり、保存食料の腐敗も進むために食糧不足にもさいなまれるなど、生活への影響が甚大。

一方、先進国はインフラ整備などにより、降雨による影響は最小限に抑えられ、季節性による影響を受けない。このように、季節変化がもたらす影響は途上国と先進国では異なる。同じことは気候変動への適応についても当てはまる。

・気候変動によるインパクトは各国の地理的・経済的・文化的事情によって異なるものであるため、その影響を各国個別に調べて、効果的に適応策を図ることが必要。


まとめ

・CDMは途上国における効果的な排出削減を進める手法として大きな役割を果たしている。しかし、CDMによって「持続可能な開発」を促進するためには現在の制度は十分ではなく、改善が必要。

・コベネフィット・アプローチは排出削減と持続可能な開発を両立させるために有効であり、その考え方を取り入れたCDMが促進されるインセンティブが求められる。

・気候変化に対してぜい弱な途上国にとって、気候変動は大きな脅威であり、適応対策は開発の支柱。


【第2部: 質疑応答】

Q1. スイス・韓国・メキシコが国際交渉において同じグループに属しているのは興味深いが、環境十全性グループのスタンスとは何か。なぜこの3カ国が同じスタンスをとっているのか。

A1. 1992年に採択された気候変動枠組条約(UNFCCC)においては韓国とメキシコは途上国扱いされているため削減義務が課せられていないが、現在はOECDにも加盟しており、実際には途上国として見ることはできない国で、交渉の場面でも途上国グループからは同格扱いされていない。韓国・メキシコ自身も途上国の輪には入らない。スイスはEUに入っていないためEUとの距離がある。そのためにこの3カ国は属するグループがない。韓国は次期枠組みの際には先進国の一員として今後削減義務を負う覚悟を持っているかのような姿勢が見られる。交渉において対立軸が出てくる際に、このグループがキャスティング・ボートを握ることもある。


Q2. 国際交渉は科学的根拠に基づいて行われているとのことだが、最終的な各国の利益が科学に基づいてなされているとは思えない。特に6・7・8(京都議定書で定められた主要各国の温室効果ガス削減率。日本:-6% 米国:-7% EU:-8%)は、本当に科学的根拠に基づいて交渉が進められた結果なのか。

A2. 京都議定書の際の6・7・8という数値が科学に基づいていないという反省に基づいて、世界的に科学的根拠を基にした合意を進めようという話が出ている。今までは各国が個別に数値を持ち出して交渉していたが、各国がそれぞれバックステージで行っていたことを、外部に対してもいつでも説明できるように今後は方法論についても透明性の高い議論を行い、目標を決めようという動きがある。


Q3. 交渉のなかで日本としてアピールできる点をいくつか上げていたが、実際に日本は京都議定書における温室効果ガス削減義務を達成できずに超過している。その点交渉に影響はないのか。

A3. 排出量が上がっていることにより、非常に交渉がやりにくくなっていることは確か。Demonstrable Progress(京都議定書において先進国扱いされている国が提出する報告書)の提出によっても、排出量が実際に増えているため、この点を突かれると、日本が各国に取組の強化を求めても、説得力は弱くなってしまう。

実際に各国が行っている政策や排出量の結果は交渉に大きく影響を与える。カナダでは2005年末に政権が交代。前政権が気候変動に対する対策をとっていなかったため、発言に対する説得力が削がれていた。NGOからも批判が多い。政権の支持率も交渉ポジションに影響を与える。EUも、東欧諸国も含めた全体では排出量を削減してきているが、西欧15カ国で見ると増えており、厳しい状況。

先進国全体が約束達成を公約として掲げ、今後の予測を提出して途上国に対して積極的に取組んでいることをアピールしていくことが重要。


Q4. 適応基金(Adaptation Fund)についての質問。緩和に関しては各国も(京都メカニズムなどを通じて)対応しやすいのではないかと思うが、適応に関する具体的な施策は難しい気がする。適応基金の財源(を確保する手法として)は、市場メカニズム(の取引に課税をする方向)に傾いていくのか。

A4. 適応対策自体について京都メカニズムのような経済的手法を用いることは、適応についての数値化やその検証が難しいためイメージしにくい。また、気候変動による悪影響への対応は通常の自然災害に対するセーフティネットといった基盤的整備との線引きが難しいという問題もある。そのため、現在のように資金をプールしていくことになっている。

適応基金の財源については、共同実施による発行クレジットや排出量取引の一定分を拠出する案や、先進国の排出枠の一定分を拠出する案があるが、そうした課税方式に対しては、途上国がかかわらないプロジェクトや取引に対してなぜ課税していくのかという批判はある。適応基金に今後求められる必要資金の調達方法についての議論はまだ決着がついていない。


Q5. 気候変動への国際的枠組みに対する米国の無責任さに対しては何かペナルティのようなものはあるのか、次期枠組みに米国は組み込まれていくのか。また京都議定書に盛り込まれている米国の排出分は今後どう処理されていくのか。

A5. 米国に対しては国際的にも不信感が高まっている。気候変動への対策を遅らせると、同じレベルでより多く削減しないといけなくなる。次期枠組み内では、どういう尺度で義務を課していくのかについて検討されている。どのレベルで各国の努力の比較をしていくのかは重要な問題。過去の温暖化対策と今後のポテンシャルとを同時に考えていかなければならない。

米国で主に議論されている削減シナリオは、長期的には大幅削減を行うが2020年には1990年の排出値に戻すことも目標としている。ただ、ほかの国との比較を考えた場合にほかのシナリオも含めて検討する必要はある。

ペナルティについては、将来より多くの削減を数値に盛り込むのか、削減値をどう考えていくのか、まだ議論されている。米国はAWG-LCA(条約特別作業部会)で話をしている。


Q6. CDMによって先進国の総排出枠が増加してしまうという説明があったが、つまり世界全体での排出量が増えてしまうということか。そのような批判がなされているのか。

A6. CDMによって世界全体の排出は削減されることにはなるが、その削減はあくまで途上国が肩代わりしているものであり、先進国の排出自体は削減されていないという批判はある。例えば、ブラジルでは、石炭の代わりにユーカリの木炭を使用することを目的とした、大規模なユーカリ・プランテーションが展開されているが、これにより生物多様性が損なわれ、化学肥料の汚染などにより地域住民の生活に影響が及んでいるとも言われている。その犠牲によって利益を享受しているのは誰か。結局は、そこで発生するクレジットを裕福な先進国が買い取ることによって、その先進国内では二酸化炭素を排出する利益を享受しているのだという批判はある。それは先進国支配の新しい形として「カーボン・コロニアリズム」と表現されることもある。


Q7. 気候変動の枠組みに関しては、生産にフォーカスしたストラテジーばかりだと思うので、消費にフォーカスした戦略があれば教えてほしい。

A7. 政府から消費に関して制限を行うことは難しい。ただ、家庭部門からの消費を減らすことを呼びかけることは重要なので普及啓発には努めている。低炭素社会作りに向けて、「チームマイナス6%(京都議定書の削減義務である-6%に向け個人・法人が温室効果ガス削減を実践する、普及啓発のプロジェクト)」の呼びかけも行っており、現在28,000社の登録がされている。また国民一人一人への啓発活動も行っており、「私のチャレンジ宣言」(温暖化防止のメニューの中から個人が実践したいものを選び毎日の生活の中で1人1日1kgのCO2排出量削減を目指す取り組み)の啓発も行っている。これは当初はマイナーだったが、マクドナルドや和民など、参加者に割引特典を用意する協賛企業が増えたことによって急速に普及した。


Q8. コベネフィットCDMについて、講演で紹介された南アフリカの事例は世銀が融資しているものだが、実際ODAや世銀など公的機関によるものが多いのではないか。民間企業の場合、気候変動対策を行いつつ、持続的な開発にも寄与するのは難しく、トレード・オフが生じてくるのでは。プロジェクト自体のバランスをどう両立していくのか。

A8. 公的機関は民間企業とは違い、収益を考えずに活動できる。確かに援助機関はリスクを負えるが、民間企業にとってリスクは追加コストでしかないという面もある。しかし、持続可能な開発という要素に市場価値を与え、その価値を費用効果計算に取り入れる(外部費用を内部化する)ことでビジネスベースに乗せることができれば、民間企業がコベネフィット・アプローチを行うインセティブは確保されるのではないか。


コベネフィットに適合するプロジェクトからは割り増ししたクレジットを発行させるなど、CDMクレジットの差異化させる方式が検討されているが、それによってコストがカバーされ、ビジネスの採算を取ることができるのでは。ただ、「持続可能な開発」の価格付けは制度的・技術的に難しく、今後検討していくことが必要。