第1回勉強会

■ 第1回勉強会概要

「第三回援助効果向上に関するハイレベルフォーラムについて」

講師: 古川光明 氏

(独立行政法人国際協力機構 英国事務所長)

日時: 2008年10月24日(金)午後6時~8時

場所: JICA英国事務所 会議室

配布資料:

・ プレゼンテーション資料 「第三回援助効果向上に関するハイレベルフォーラム」

・ Accra Agenda for Action

勉強会内容:

1. IDDPの紹介

2. 古川氏の経歴の紹介

3. 古川氏よりJICA英国事務所員の紹介

4. 古川氏による発表

5. 質疑応答

(作成: 神谷)

■ 勉強会議事録

「援助効果向上に関するハイレベルフォーラムについて」

ここ15年間位、ドナーの援助アプローチについて随分と議論がなされてきた。その結果、2005年にパリにおいて途上国とドナーとの間でどのようにしたら援助をより効果的なものにできるかについてハイレベルフォーラム会合が開催され、その結果パリ援助効果宣言が発表された。

本日の勉強会では、パリ援助効果宣言の内容、その背景にある援助潮流、先月ガーナで開催されたアクラハイレベルフォーラム会合における取りまとめ内容の概要、現在の援助アプローチを積極的に進めている国々、そして、最終的にどのような援助アプローチがよいかについて話をしたい。

最後の援助アプローチに関しては、私自身長年JICAに勤めているがいまだに正直なところ分からない部分もあるため、皆さんなりに考えて頂いて、もし興味が沸けば、研究のテーマとして取り上げて頂き、考えを教えて頂きたいとも思っている。また、援助アプローチについては、JICAや外務省の中でもいろいろな考え方があるが、今回の発表ではこれまでの私自身の個人的な経験を通じて感じた部分も含めて話をしたい。

1) パリ援助効果宣言

2005年のパリ宣言のイメージについてであるが、しごく当たり前のことが主張されている。

まずは、オーナーシップである。これは例えて言えば、相手国(途上国)自身がバスの運転手となること、つまり相手国自身が援助の優先順位を決定することである。

次は整合化である。これは、ドナーは相手国が運転するバスに乗ること、つまり相手国の優先順位に沿うことや相手国の制度を使うことである。

最後に調和化である。これは、ドナーは運転手の邪魔をしないこと、つまりドナー共通の取り決めをして、手続きを合理化し、お互いに何を行っているか情報共有をしてゆくことである。こうした3つの要素をピラミッド型にしたものが2005年のパリ援助効果宣言である。

このパリ援助効果宣言は、2005年2月28日から3月2日に協議され、100カ国以上の国や機関が署名を行った。その基本理念としては、ミレニアム開発目標という、絶対的貧困層を2015年までに半減させる(1990年比)ことを目的とし、その達成に向けて、ドナーと途上国とが一体となって援助効果を上げていこうというものである。

パリ援助効果宣言では、オーナーシップ強化、アラインメント、調和化、開発成果マネジメント、相互説明責任の5つが重要な要素として掲げられている。

オーナーシップ強化は、途上国自らが開発計画を作り、開発の実施の重要性を再認識した上で、国家開発に取り組むことである。また、開発計画だけでは機能しないので、3年間の中期支出枠組や予算書と、後に述べる貧困削減戦略書(PRSP)や開発計画とのリンケージを促進させることが重要である。

アラインメントとは、相手国の開発計画に沿ってドナーが援助を行うことである。具体的にいうと、各ドナーはバラバラに援助するのではなく、相手国の政策内容に沿って援助を行うということである。これは予算計上の促進、途上国の調達制度や公共財政管理制度の活用、二国間援助のアンタイド化の促進を指す。

調和化の推進とは、援助実施の手続きをドナー間で調和化させることで途上国の負担を軽減することである。

開発成果マネジメントとは、開発成果の達成に向けて、各成果に指標を設けてパフォーマンスを評価すること、また、分かりやすく開発成果を把握してゆこうというものである。

相互説明責任とは、開発成果について、ドナーと途上国とが相互に説明責任を有することである。

パリ援助効果宣言は、2005年3月に取りまとめられたが、今年2008年9月には、MDGの中間年として、ガーナのアクラにてハイレベルフォーラムが開催された。

さて、どうしてこの取り組みをする必要があったのか、その背景について話をしたい。

2) 援助潮流の背景

第二次世界大戦後、様々な援助スキームや考え方の下、ドナーによる援助が実施されてきた。例えば、トリックルダウン仮説があるが、これは大規模な公共投資をすることで、そこから雫のように援助の効果が流れ出ていくという考えである。

1970年代に起こった世界的な経済危機の影響として、1980年代には、途上国の債務問題が顕在化した。それに伴って、途上国の貧困問題がクローズアップされ、それまでの援助の反省もなされるようになった。また、途上国の債務問題に端を発し、途上国の経済構造そのものを変えていこうという動きが活発化し、1980年代中盤に世界銀行やIMFの構造調整プログラムが開始された。しかしながら、同じような内容の政策プログラムを途上国に一律に押し付けており、途上国の特に貧困層に悪影響を与えているという批判がなされるようになった。また、1980年代には、途上国政府の民営化を推進するニュー・パブリック・マネジメントの手法も導入され始めた。

こうした中、1980年代には、特にアフリカにおいて援助の効果が上がらないことから、ドナー側において援助疲れの様相を呈するに至った。

そのため、1990年代から、限られた援助資金の中、援助をより効果的なものにしていこうという動きが生まれる。そのひとつの現れとして、1990年代中盤に誕生したセクター・ワイド・アプローチ(SWAp)が挙げられる。この端緒となったのが、1995年に世界銀行のハロルド氏が出したセクター・アプローチに関するディスカッション・ペーパーである。彼は、これまでドナーにより断片的に行われきたプロジェクト型援助に対して痛烈な批判を行った。その後、欧州諸国が中心となり、主にアフリカ諸国においてSWApが推進されてゆく。

1998年には、世界銀行がCDF(包括的な開発フレームワーク)を発表した。これは、途上国13~14カ国をパイロット国として、それまで採用されてきた経済一辺倒のアプローチではなく、政治的、経済、社会面等様々な側面から援助を行ってゆく援助アプローチである。

これらの動きの集大成として、1999年に貧困削減戦略書(PRSP)が発表される。

PRSPは、途上国、特に低開発国については、国家開発計画的な扱いになってゆく。多重債務国に対する債務削減は1980年代から徐々に実施され始めたが、PRSPの作成・実施と引き換えに債務削減をするという条件の下、PRSPの策定が途上国において爆発的に拡大していった。また、PRSP策定により、途上国においては、より一層プログラムベースの援助が拡大していった。

2000年代に入ると、国毎のPRSPより、より大きな視点で開発目標を定めるという目的で、MDGが発表され、日本も含めた多くの国がこれに署名をした。また、このMDGだけでは、絵に描いた餅になりかねないので、MDG達成のための援助資金拡大策として、2002年にモントレイ国際資金開発会合が開催された。さらに、2003年には、ドナーの行動についても協調し効率的なものとしていくためのローマ調和化宣言が発表され、2004年には、開発成果マネジメントに関する会合がマラケッシにおいて開催された。

このように、援助関係者が共同で開発を進めてゆく開発協調が進められていく時代の集大成がパリ援助効果宣言である。

パリ援助効果宣言には、これまでの援助のあり方についての猛烈な反省がその背後に存在する。特に、アフリカにおける開発がなかなか進まないという問題意識が大きい。その中核にあったのが「援助の氾濫」である。つまり、ドナーによる断片的なプロジェクトが個別に実施され、ある場合は政府を介さずNGOを通じて実施されたりと、様々な形で途上国におけるプロジェクト数が増加していく状況である。

私自身は、1997年から2001年までタンザニアに赴任していたが、タンザニアにおける開発の多くの部分はドナーに依存していた。このように、特にアフリカは旧宗主国との歴史的関係もあり、援助漬けといわれる対外依存度の高い状況にある。特に行政能力が低い国は、受動的に援助を受け入れることになる。そのため、途上国の政府自身が一体どれだけの支援を受けているのか把握できなくなってしまう、つまり援助を管理しきれない状態が生まれてしまう。

さらに、各ドナーが個別のアプローチによる報告書作成やそれぞれのミッション(調査団)の派遣すること等による取引費用が増加するため、先方政府への負担が増え、途上国政府の組織・実施体制への悪影響を与えることとなる。

別の問題としては、経常経費の適正な確保の困難さがある。ドナーによるプロジェクト実施の際は、途上国政府には、プロジェクト毎に人件費や光熱費がかかってくる。しかしながら、構造調整後の緊縮政策の影響もあり、こうした経常経費が捻出できないことが多い。ドナー側も経常経費については支援しないことが多いため、途上国政府の負担がかさんでくる。こうした理由により、プロジェクトの持続的な効果発現が困難となる。

また、規格・仕様の不一致という問題がある。例えば、ドナーからの供与機材のマニュアルがドナー国の言葉で書かれていると、供与機材が使われないまま放置されてしまうといった問題が起こる。 こうした断片的なプロジェクト型援助の結果として、援助はむしろ相手国の開発を阻害しているのではないかという意見さえ出てきた。

ファンジビリティ(援助資金の流用性)の問題についても、援助予算が流用されてしまうという恐れもあったが、途上国側の作成する適切な計画の中で援助資金を使用することで、ファンジビリティの問題を克服できるのではないかという議論も生まれてきた。

こうした背景の下、途上国側には主体的に開発計画を作ることが推奨され、ドナー側には援助の予測可能性向上や援助手続きの調和化が求められるようになった。つまり、断片的なプロジェクトは止め、ドナーが共通のバスケットに資金を統一していく、コモン・ファンドの動きが特にアフリカにおいて活発となっていく。

これらの動きは、個別のセクターを越えて、PRSP, MDGやパリ援助効果宣言につながっていった。こうした取り組みがどれだけ進捗したのかを確認するために開催されたのが、今年のアクラハイレベルフォーラムである。

3) アクラハイレベルフォーラム会合

2008年9月に128カ国、64機関から総勢約1200名が集まり、ガーナのアクラで開催された。その場で、Accra Agenda for Action(トリプルA)が採択された。

AAAのポイントとして、ひとつめとして挙げられるのが、能力向上(Capacity Development)と技術協力(Technical Cooperation)である。会合では、技術協力がいろいろな途上国においてバラバラに行われているのではないかという、技術協力に対するネガティブな議論もあった。また、技術協力自体もアンタイド化されてゆくべきという議論がなされた。つまり、お金を途上国政府に渡して、その国の市場から専門家を調達すべきであるということである。一方、途上国は、能力開発のための戦略を策定することを促進することが求められる。

ポイントの2つめは、カントリーシステムの使用である。これは、ドナーは途上国が有するシステムを第一のオプションとして使用するということである。例えば、一般財政支援のように、相手国政府の国家予算に直接援助資金を投入し、途上国政府の公共財政管理を通して、援助を実施すればよいというものである。調達についても同様であり、途上国側の入札制度に行えばよいと考えられる。50%以上をカントリーシステムで実施すること、カントリーシステムを使用できない場合は理由を明らかにすることが求められる。

ポイントの3つめは、ドナー間分業である。これは、特にEU諸国が強力に推し進めた内容である。例えば、EU諸国内では、重点分野をドナー各国が3つ以内に設定することを決定している。日本としては、ドナー各国の予算規模が異なることもあるため、重点分野の選択は途上国側のオーナーシップにまかせたほうがよいと主張した。この部分は、2009年に進捗状況を評価して、2009年6月までに国際分業に関する対話を開始することで落ち着いた。

4つめはアンタイド化である。これは、ドナーによる更なるアンタイド化を進めるためのプランを作成することが決定された。

5つめは南々協力である。これは、特に中国等、新興ドナーが強力に主張して入れてきた部分である。

6つめは、相互説明責任である。これは、お互いに自分たちの行っていることをきちんと説明できるようにすること。

7つめは、コンディショナリティである。ドナーによってこれまで付けられてきた援助に係る条件をできるだけ少なくしてゆこうとが決定された。

8つめは、援助の予測可能性である。日本は単年度予算のため、長期的な援助額にコミットできない。ただ、3~5年についての援助額目安だけでも提示していく方向にある。

最後は、国ごとのアクションプランであり、AAA実施のための行動計画作成をすることである。

4) 欧州ドナー VS 日本

北欧諸国プラス、つまり、北欧諸国にオランダ、英国、アイルランドを加えた7カ国がパリ宣言の牽引役であった。アクラハイレベルフォーラムに関して、日本と米国がそうした動きの足を引っ張っていたという批判記事が、2008年9月4日のフィナンシャル・タイムズ紙に掲載された。

北欧諸国プラスは、パリ援助効果宣言に書いてあるような内容の援助を、1990年代後半から取り入れ、現場への権限委譲、援助の委託、援助額の長期的コミットメントといった形で実施してきた。

こうした北欧諸国プラスの援助のやり方と、日本の援助システムとの間でギャップが生じてきている。

5) ポストパリ宣言

この部分については、どうした援助のやり方がベストであるか正直私にも分かりかねるため、皆さんと一緒に考えていきたいと思っている。

昨今、新興援助国、グローバルファンドといった垂直的基金、市民社会、民間セクターによる援助額が拡大している。また、食料、エネルギー、気候変動、金融危機の課題もあり、ドナーによるパリ援助効果宣言の枠組みにも限界がきている。

パリ宣言と開発成果との関係についても、カントリーシステム、一般財政支援、アンタイド化を進めることで本当に開発効果が本当に上がっていくのか、従来型の援助と比較して本当に優れたやり方であるかどうかは分からない。私も悩んでいるところであるため、気がついた点があれば教えて頂きたい。

■ 質疑応答

[質問1] 根本的な問題として、どうしてドナーは援助を行うのか、JICAの立場から、もしくは個人的な立場からの見解を聞かせてほしい。例えば、ドナーの国益としては、安全保障や外交関係の強化といったものが考えられる。

[回答] JICAの場合は政府予算を用いて援助を行っているので、日本政府の意向、つまり、外交に拠るところが大きい。グローバリゼーションの時代においては、世界的な相互依存があるので、援助を行うことで回りまわって国益となるのではないかと考えられる。個人的には、開発を主に考えており、援助を行うことで現地の人々の生活の助けに少しでもなればと純粋に考えている。

今日のような、グローバリゼーションの時代においては、世界の中でこれまで知らないですんでいたことがお互いに比較できる時代になり、途上国の就学率や食料問題といった基礎生活の部分としては最低限、支援を行う必要があると考えている。援助が悪影響を与えているという議論もあるし、現在の援助の効果については十年後に振り返ってみないと分からない部分でもある。そのときそのときのベストと思うことを、信念を持って行うことが重要だと個人的には考えている。

[質問2] 援助国と被援助国という構造がこれまで開発の中で続いてきたが、このような構造での対話の限界点を感じることはあるか?また違った形の枠組として考えがあるか?

[回答] 最近の協調アプローチの中で私自身が経験的に感じたのは、現地においてDonor Drivenの状況、つまり、途上国側がドナーの要求を聞かざるを得ない状況があることである。こうした状況下、途上国側においてドナーの要求なりを調整できる人を育てていかないといけない。また、ドナーと途上国との間の調整を行うある一定のルールをつくってあげることが肝要である。この点において、ルール作りを行ったパリ援助効果宣言の方向性は間違っていないと思う。

ドナーと途上国の関係自体としては、文化的、歴史的な背景があるので、そうした歴史的な事情を適切に把握した上で、枠組みをつくってあげる必要がある。枠組み作りを各国が個々にやろうとしたら限界があるが、その枠組みを設定したところが、PRSPの良かった点としてあげられる。

[質問3] 2000年以降、MDG等が作成されて、援助の大きな流れが変わってきたのは分かったが、途上国側からの声としてはこの流れにどれだけ反映されているのか?

[回答] パリ援助効果宣言において、アフリカ側の声はきちんと反映されている。アジアや中南米の中には、ピンときてない国もあるが、多くのアフリカ諸国は、彼ら自身が開発の主体となって、オーナーシップを発揮してゆきたいという気持ちを持っており、そういった現地の声はパリ援助効果宣言に反映されていると考えている。

■ 講師経歴 :

・ 清水建設(株) 勤務を経て 1989 年より、国際協力事業団に入団

・ アジア・太平洋地域国際災害救助暫定議長

・ タンザニア事務所(1997 − 2001)次長

・ 外務省経済協力局政策課国別計画策定室課長補佐(2001 − 2002)

・ JICA 本部無償資金協力部計画課課長代理(2002 - 2003)

・ 総務部総務グループ総合調整チーム長(2003 - 2005)

・ 国際協力客員専門員(2005 - 2006)を経て 2007年1月より現職

・ 米国デューク大学大学院公共政策学部(国際開発政策)修了

■ 古川氏執筆の論文

「アフリカを取り巻く援助動向とその対応(一考察)−タンザニアをケースとして」『PRSPと援助協調に関する論考』 (JICA, 2004)

「援助協調への日本の取り組みの成果と課題:本部での対応を中心に」

『FORUM 23号』(IDCJ, 2003)

■ 参考リンク

・アクラハイレベルフォーラム http://www.accrahlf.net/

・パリ宣言 http://www.oecd.org/document/18/0,2340,en_2649_3236398_35401554_1_1_1_1,00.html/

・パリ宣言(日本語訳)http://www.oecd.org/dataoecd/12/48/36477834.pdf

・ワシントンDC開発フォーラム・パリ通信 http://www.devforum.jp/paris/backnumber/index.htm

・ 世銀のPeter Harrold氏によるセクターアプローチに関するディスカッション・ペーパー

“The broad sector approach to investment lending: sector investment programs”

Comprehensive Development Framework (CDF)

Poverty Reduction Strategy Paper (PRSP)