数学特別講義VB(博士前期課程), 特別講義VB(博士後期課程)
講義題目 : 量子力学的散乱理論と共鳴極
2025年10月20日-24日 大阪大学数理科学研究科
旧ver. : 数理自然科学特殊講義I (教養学部), 数理科学続論D (理学部), 数理科学特別講義IV (数理科学研究科), 東京大学, 2024年10月21日-25日.
講義題目 : シュレーディンガー作用素に対する準古典解析と散乱理論
講義資料 : 講義ノート 最終更新日:2025年9月21日 (森岡の研究資料を拡大流用する形になりましたので, やや長いノートになります.)
※2025年9月19日以前のver.には多くの誤りや不適切な議論, 用語の誤用などが含まれています. 最新版にもまだ誤りが残存している可能性があります. 利用される場合はご注意下さい.
目的 : シュレーディンガー方程式で記述できる量子系において, 遠方から波を入射し, ポテンシャルによる摂動の影響を受けて再び遠方に波が散乱する様子を記述するのが散乱理論の要諦である. 一方, シュレーディンガー作用素に含まれるプランク定数を極めて小さいパラメータと見て近似を行うと, 量子力学と古典力学の対応関係が現れる. これが準古典解析である.
この講義では, シュレーディンガー作用素の散乱理論を準古典解析の枠組みによって解説することを試みる. フーリエ積分作用素を用いれば, 散乱行列は詳しく記述することができる. さらに, 準古典解析を用いると, 散乱現象と共鳴極の関係を見ることができて, 量子力学特有の現象である共鳴散乱を記述することができる. これらのことを理解するために必要となる手法を要約し, 示すことを目標とする.
計画 : 次の内容について解説しつつ, 準古典解析の文脈で散乱理論の俯瞰を試みる.
ハミルトン力学における古典軌道の解析
準古典解析的なレゾルベント評価
磯崎-北田の方法によるシュレーディンガー作用素の散乱行列の構成
共鳴散乱の解析
これらに必要となる
ムーレによる交換子評価の理論
楕円型偏微分方程式の評価法
擬微分作用素およびフーリエ積分作用素の理論
トレースクラス作用素の理論
解析的フレドホルム作用素の理論
は適宜解説するか, 講義資料または参考文献を示す.
参考文献 :
詳しくは講義資料の中で示す. この講義の内容に関する主要な文献は以下の通り.
S. Dyatlov and M. Zworski, “Mathematical Theory of Scattering Resonances”, Graduate Studies in Mathematics, vol. 200, AMS, 2019.
C. Gérard and A. Martinez, Prolongement méromorphe de la matrice de scattering pour des problémes à deux corps à longue portée, Ann. Inst. Henri Poincaré, 51 (1989), 81-101.
H. Isozaki and H. Kitada, Modified wave operators with time-independent modifiers, J. Fac. Sci. The Univ. Tokyo, 32 (1985), 77-104.
H. Isozaki and H. Kitada, Scattering matrices for two-body Schrödinger operators, Sci. Paper of the College of Arts Sciences, Tokyo Univ., 35 (1985), 81-107.
和書では, 量子力学に関しては,
磯崎 洋, 多体シュレーディンガー方程式, シュプリンガー現代数学シリーズ13, シュプリンガーフェアラーク東京, 2004.
北田 均, 新訂版 数理解析学概論, 現代数学社, 2016.
中村 周, 量子力学のスペクトル理論, 共立講座21世紀の数学26, 共立出版, 2012.
谷島 賢二, シュレーディンガー方程式I/II, 朝倉数学体系5/6, 朝倉書店, 2014.
また, 古典力学については,
磯崎 洋, 解析力学と微分方程式, 数学と物理の交差点1, 共立出版, 2020.