くぬぎねつと句会7句選結果発表

2024年4月の季語 「日永」


 今回の兼題は「日永」。春分から少しずつ日が伸び始め、


春風や陽光の踊るような明るがあり、春の到来のよろこびや希望を託せる季題の一つ。


今回は鬱積した冬の寒さから解放されて、大いに春を満喫して頂くために本題を設定した。


結果としては写生句が約9割、抒情句1割とやはり、写生句が優勢であり、


いろんな景色が紹介されおおいに楽しめた。


 一方、抒情句としては「一人暮し」、「女三代」、「ときめき」等々との取り合わせが見られたが、


まだまだ詠み込める余地がある季語と考えられた。


「永き日のにはとり柵を越えにけり」 芝 不器男


「永き日や相触れし手は触れしまま」 日野 草城


「うちとけて日永の膝をくづしけり」 鈴木真砂女


(櫟HP管理人 宍野宏治)



最優秀句 9点句

5 釣り人の影動かざる日永かな            や ま と


優秀句 8点句

25 ユーモアの磁場の狂へる四月馬鹿        不 耳 男


秀逸句 7点句

102 五感みな働いてゐる春の山            悟   牛 

113 春宵やいつもどこかに電子音           や ま と



特選句選評

POTU

5 釣り人の影動かざる日永かな            や ま と

 太公望のじっとして動かず、何かを考えている姿がまるでロダンの考える人と呼応して楽しい御句でした。これこそ日永における作者の忘筌の心境であると納得しました。

茜屋 松治 選

15 引っ越しの段ボール待つ日永かな        迷   亭

 春といえば引っ越し、人生の新たな頁の始まりでもある。荷造りの段ボールを待ちながら、四月以降の新たな旅路をどのように描いていただろうか、聞いてみたい。



六   呉 選

25 ユーモアの磁場の狂へる四月馬鹿       不 耳 男

 嘘をついてもいい日は、どんな嘘でも許される日ではない。SNSやフェイク動画の普及により様々な嘘が世に蔓延るように。歪な承認欲求はどう転んでも罪でしかない。



桂  りん

84 結界をすいと超えゆく石鹸玉         獅子 耕司

 結界をドローンのように石鹸玉が超えて映像を送ってくれたらと思う。

発想は自由だから楽しいということのメッセージが俳句にも活かせている衝撃の一句でした。

獅子 耕司

85 先をゆく思ひ追ひかけ卒業す         や ま と

 卒業後の夢は無限に広がる。夢は夢を生み更なる大望へと繋がって行く。夢を持たない若者の多いこの世にあってエネルギッシュで頑張れと後押しをしたい一句。

ポニョ

102 五感みな働いてゐる春の山             悟   牛  

 先ずは山から、肌に触れる新しい空気、土の匂い、風音、掬う山水の味、芽吹きの美しさ、春が来た喜びを全身で感じとっている。心もリフレッシュされるに違いない。


2024年3月の季語 「鳥帰る」


 今回の兼題は「鳥帰る」。日本に渡って来た鳥が、春になって北方の繁殖地に帰ることをいう。


写生句が多く詠まれているが、


「帰る」は寂しさなどを連想させることから抒情句の対象として好まれる季語の一つとされている。


今回の結果も写生句、抒情句ともに5割と何れに用いても有用な季語との一つとして認識されていることが


判明する結果となった。


取り合わせの用語としては「写真」、「時計」、「本心」などと多岐に亘り、


まだまだ詠みこんでゆける季語の一つであることを確認できた句会であった。


「あをぞらのどこにもふれず鳥帰る」  杉山 久子

「鳥帰るいづこの空もさびしからむに」  安住  敦

「少年の見遣るは少女鳥雲に」 中村草田男


(櫟HP管理人 宍野宏治)



最優秀句 13点句

62. 薄氷は水の記憶を取り戻し              不 耳 男


優秀句 12点句

15. ゆびさきで回す地球儀鳥雲に               宙


秀逸句 10点句

27. 多喜二忌や僕のすつぽり入る箱            六   呉

33. 未来都市あるかもしれぬ海市かな            不 耳 男


特選句選評

獅子 耕司

76 本心はわからぬままや鳥帰る          桂  りん

 本心が語られることはあまりなく、また、知らなくてもいいことかも知れない。

何れにしても鳥たちは些細なことは気にするなと言わんばかりに故郷へと帰ってゆく。


竹   籟

5 滔々と雪解けの音の千曲川             桐山榮路村 

 信濃川の長野県側が千曲川と呼ばれています。雪解けの水の量も膨大なもの。

「滔々と」の言葉に地域の歴史・人々の営み・家族の縁が思われます。



qwe

33 未来都市あるかもしれぬ海市かな       不 耳 男

 海上の幻影である。見えてはいるが存在しない。イメージはあるが、

多くの人が遭遇出来ない。まさに未来である。未来都市のメタファーとしたことで、詩に昇華した。



POTU

125 寒明や太陽の位置確かめて                   q w e

 寒明けが立春となり、さらに春分ともなれば、昼と夜の時間が同じとなります。

そのとき太陽の出る方向が真東となる位置を確かめている天文学の好きな科学少年でした。






2024年2月の季語 「猫の恋」

 

 今回の兼題は「猫の恋」。


俳諧の世界では滑稽味や諧謔味あふれる季語の一つであり、


大いに珍重されている。そこで会員諸氏にこれらの世界を大いに楽しんで頂こうと企


画した。その結果、大筋としては写生句が主流を占め、特に「闇」を取り込んだもの


が多く類そう句の山となった。抒情句では作者自身の恋愛経験などとの比較や願望


を述べた句が認められた。諸手を上げて面白いとする句が認められなかったが、大


いに俳諧味を楽しんで頂けたことで良しとし、滑稽味への挑戦については今後の課


題としたい。


「恋猫の皿舐めてすぐ鳴きにゆく」加藤楸邨

「恋猫の恋する猫で押し通す」永田耕衣



(櫟HP管理人 宍野宏治)


最優秀句 8点句

90    オムレツのふわりと焼けて花菜風      鶴岡ひつじ


秀逸句 6点句

7   格子戸の残る花街猫の恋           如   意 

56   本の帯外して春の立ちにけり         令   月

115  春月の椀の形に闇を受く                    悟   牛



特選句選評

み な み

39 薄氷やひとの心底読み切れず            獅子 耕司


 ひとの本心あるいは心底を知ることは難しいと作者はいう。薄っすらと張った氷は、はかなく消えてしまう。その心許ない薄氷と中七の取り合わせが効いている。


ポ ニ ョ 選

88 水音のいつもどこかに木の芽風            山 の 子 


 「いつもどこかに」の軽やかな表現により、きらめくような水音が聞こえてくる。雪や氷が解け木々の芽吹きを促し、春の訪れがそこまで来ている喜びを感じる。


迷   亭 選

90 オムレツのふわりと焼けて花菜風            鶴岡ひつじ 


 シンプルだが奥の深いオムレツ。今日はふんわりと焼けて、良い匂いが漂う。青空の下は一面の菜の花。窓から入るのどかな風が頬を撫でる。素敵な一日が始まりそうだ。




獅子 耕司

110 雑念はヒトほどは無し猫の恋                竹   籟  


 人ほど雑念と煩悩の多いものはこの世では類をみないであろう。猫の恋はただただ純粋な本能によるものであり、自然な事よ頑張れと寛容な作者の度量を示した一句。


や ま と 選

115 春月の椀の形に闇を受く                悟   牛


 三日月を椀と見立て、その椀が春の闇を受けている。ここは他の季節の三日月では駄目だと思う。春月だからこそ、幻想的で不思議な雰囲気が出ているのだ。





2024年1月の季語 「賀状」   


 今回の兼題は新年度につき正月らしい「賀状」を選定した。


高齢化社会にあって、また、SNSの発達した世にあって、年賀状じまいを散見するよう


になってきた。そこで年賀状の位置づけはどのような認識かを改めてさぐる句会とした


いとのことで設定した。


その結果、賀状じまいを憂う句が多く、まだまだ賀状文化は健在と認識した。


旅への誘いの句、長寿への決意表明の句や喜寿を寿ぐ等の句が見られて、


この世も捨てがたいものよと心強く感じた句会であった。


「賀状書くけふもあしたも逢ふ人に」  藤沢樹村


「遠ざかる人と思ひつ賀状書く」    八牧美喜子


「賀状うづたかしかのひとよりは来ず」 桂 信子


(櫟HP管理人 宍野宏治)



最優秀句 10点句

22 若水の星の名残を汲みにけり       近藤 幽慶

32 鯨鳴く海に痛覚あるらし         近藤 幽慶


最優秀句 9点句

13. たましひの余白ひろがる柚子湯かな    や ま と



特選句選評

こ と り

22 若水の星の名残を汲みにけり       近藤 幽慶

 もとより、一年の邪気を除くと信じられた若水ですから、早朝に汲む清らな水に

「星の名残」がさらに清々しい気分にさせてくれます。美しいポエムに共感です。



六   呉

32 鯨鳴く海に痛覚あるらしく       近藤 幽慶

 鯨の鳴声を海の悲鳴と聞いた句。痛みの理由は海洋汚染だろうか。

仲間に聞こえない周波数でなく鯨を孤独な鯨というらしいが、本当に孤独なのは人類かもしれない。


迷   亭

35 冬彦忌こんぺいたうの棘まるく     六   呉

 金平糖は甘く棘も丸い。冬彦忌の寺田寅彦は俳人・物理学者で金平糖の角を研究。

随筆で深い内容をとぼけたように描く寅彦と棘の丸い金平糖の取り合わせが愉しい。


み な み

41 意欲なら持ち越せばよい去年今年     不 耳 男

 高浜虚子は、時の流れを一本の棒のようなものととらえた。この作者の一本の棒は意欲。年を越えても、意欲は変わらず持ち続けたいという前向きな姿勢に共感した。


獅子 耕司

121 一緒に旅へ行こうかと年賀状       ポニョ

 共に旅をしようとの友人からの誘いである。加齢とともに親友と呼べる人は少なくなってゆく。そんな中での一筆を添えた年賀状は実に嬉しいものであったと推察される。




2023年12月の季語 「山眠る」 2023.12.24 本意探しの旅 


 今回の兼題は「山眠る」。


冬の山がもの寂しく静まっている様子と考えられることから


写生句が主流と考えられる。


また、兼題は山を擬人化していることから、


取り合わせなどの楽しい俳句も大いに期待された。


結果として写生句は六割、擬人化などとの取り合わせの句は


四割とほぼ期待通りの結果であった。


擬人化はほぼ成功句が多かったが、


取り合わせの句の是非の判定は困難を極め、


読者の見識に委ねられることになった。個人的にはもう少しの感が否めない結果であった。


「木も草もいつか従ひ山眠る」 桂  信子


「山眠り火種のごとく妻が居り」村越 化石


「ひとかどの女の如し山眠る」 守屋 明俊


(HP管人 宍野宏治)

 

最優秀句 7点句

128 口論に負けてしづかに蜜柑むく  や ま と

131 たましひのゆきどころなき冬銀河 POTU

 

優秀句  6点句

7 枯野行くまで今生を諦めず     不 耳 男

112 間違ひの万歳十二月八日      令   月

 

特選句選評           

獅子 耕司    

7    枯野行くまで今生を諦めず          不 耳 男    

作者にとっての枯野は、今生との対比の語彙があることから黄泉の国と考えられる。生命ある限りは懸命に生き決して諦めないと肝に銘じた処世訓は頼もしい限りである。

 

茜屋 松治 選    

50  ともし火の寂び着るマリア冬薔薇      桐山榮路村    

暗闇の中で灯火を見つめるマグラダのマリア(イエスキリストに出会い悔い改めた女性)を指していると思いました。彼女の今の生き様と冬薔薇の色が響き合っています。                

POTU  

59  トンネルを開けっ放しに山眠る        獅子 耕司  

山の入口と出口はトンネルにある、と定義している処がユニークであると拝察いたします。それを開けっ放して山眠るとは、山は人類に優しく鷹揚であると感心しました。                

六   呉 選 

92  侘助や家の重たき国に生き          竹   籟  

遺伝子さえつなげれば記憶は残り、個が存在した証にはなる。確かに我が国では家を守るという意識が高いが、逆に忌み嫌う人もいることは確か。そしてその何れも重い。

                                        

悟牛    

131 たましひのゆきどころなき冬銀河        POTU

 思いが通じないとか上手くいかないとか、自分は色々悩みが尽きない。一方、冬の銀河は何の悩みも無いかのように夜空に冴えわたっている。二つの対比が面白い秀句。 




2023年11月11日

くぬぎねつと句会「第一回 オフライン句会」


 今回はくぬぎねつと句会の対面式のオフライン句会とした。


兼題はなく当季雑詠とした。


句会は2部形式で一部は句会、二部はくぬぎねつと句会の年間グランプリの審議


し、選出する方法とした。


一部は各自が特選句と入選句を選択して、選評の後に作者が名乗る方式とした。


その後、選評を中心に活発な論議が交わされた。


二部は慎重な審議の結果、一位~五位までが選出、決定した。


終始、活発な句会であった。


(櫟HP管人 宍野宏治) 


最優秀句 

濁世に未来は噤み冬の蝶                  松田 六呉

優秀句  

献体のホルマリン浸け神の留守               POTU

秀逸句

殺されたやうに冬薔薇くずれけり              不 耳 男

暮早し十を数ふるあひだにも                如   意 

漁火を消さむ気負ひの能登時雨               q w e


特選句選評

獅子 耕司 選

濁世に未来は噤み冬の蝶                 六  呉


 汚れ切った世界には未来も辟易としている。


直ちに改善をしなければ明るい未来は約束出来ぬと迫る。


冬の蝶でその忠告の鬼気迫るように真剣なことが表現された。

POTU

漁火を消さむ気負ひの能登時雨             q w e


 大石まどかの能登しぐれは、漁火をも消さむ壮烈な歌唱力であります。


すすり泣くのは恋のぬけがらであり、


捨てに来た悲しみも涙さえも雪まじりの能登しぐれなのです。

不耳男

天狼や非現実には悪も棲む                六   呉


 「天狼」に悪、つまり狼の眼=邪悪と転義し、


非現実的な仮想としての青白く暗い邪悪な世界を表現している。


星座のように個性をもつ言葉の配置が詩性を表出している。

山の子

美しき十一月も半ばなり                如   意


 十一月が美しいと感じるのは本格的な冬の訪れの前の静けさと


空の青さに違いない。冬の前の安寧に心を委ねているのだろう。



「第一回くぬぎねつと句会年間グランプリ」の結果発表

 (2022年11月~2023年10月)


 第一回オフライン句会にて上記の審査の結果


以下の結果となりました。おめでとうございます。



第1位 しやべらねば言葉うしなふ冬林檎   と ん ぼ


第2位 空つぽの時間に追はれ中也の忌   六   呉


第3位 風鈴を鳴らしこの世を離れけり    獅子 耕司


第4位 泣くことに始まる命星月夜       山 の 子


第5位 蛍火や終わりの言葉聞き取れぬ   こ と り


特別賞 (年間最多高得点句)                  

      眠る子を夢ごとかかへ初詣      POTU




2023年10月の季語 「天高し」 2023.10.23 


 今回の兼題は「天高し」。秋は空気も澄みきって、空が一段と高く感じられる。


兼題は「秋高し」「空高し」とも呼ばれ、晴ればれとしてすがすがしく感じられるもので


ある。したがって、誰もが上機嫌になるような季語「天高し」は抒情句がよく合うものと


考えられた。思いきり空を見上げて「天高し」の新世界を切り開いて貰いたいと期待


をよせた。しかし、予想に反して、抒情句は約二割で写生句が八割の結果であっ


た。やはり写生句は前回と同様に類想句の山となった。大いに思いの丈を吐露して


本句会を大いに楽しんで頂きたかったが、今後の課題としたい。


「秋高し空より青き南部富士」 山口 青邨


「痩馬のあはれ機嫌や秋高し」村上 鬼城


 (櫟HP管人 宍野宏治) 


最優秀句 11点句

実柘榴やいつもどこかに戦の火    如   意


優秀句  8点句

妬心など無いふりをして青蜜柑     宙


秀逸句7点句

十三夜ことばに翳はつくれない     不 耳 男


獅子頭おほきく跳ねて天高し       宙


特選句選評

不耳男

53 君に会ひ独りに出逢ひ後の月 六   呉

 二律背反的な叙述展開から季語「後の月」が取り合わされている。


俳句が短詩へと向かって行く寸前の不安定な構造のなかで、


人間の孤独な在り様を語ろうとしている。

茜屋 松治 選

66 平和てふ言葉は無傷みみず鳴く    不 耳 男

 

 平和を長い間享受している人たちと平和をずっと渇望している人を連想した。


前者である我々戦後世代のそれは後者の人たちからすると密度が違う。


蚯蚓鳴くがよい。


獅子 耕司 選

97 天髙し何かいいこと有りそうな    詩   流

 何はなくとも期待を込めて前向きに生きてゐる姿は好ましい限り。


何かを求めていれば必ず何かが見えて来るもの。


天高しによりその可能性は無限であることを示した。

こ と り

110 実柘榴やいつもどこかに戦の火    如   意


 肉厚でいびつに割れて中の赤い実が覗く少しおどろおどろしい雰囲気の有る実柘

 

榴と戦火の取り合わせがとても良い。

POTU 選

115 一徹で通す一生天高し        獅子 耕司

 作者は人類の将来の在り方を指導できる老いの一徹をつらぬく哲学者であられる


と拝察しました。


天地人道につながる一生を全うしてくださいますように祈念いたします。




2023年9月の季語 「鰯雲」 


 9月の星月夜の「本意探しの旅」に続いての鰯雲の本意探し。


一つにはしみじみとした感慨や故郷への郷愁として詠まれることが一般的。


今回の句会において新しい展開が新感覚として提案されることを期待した。


結果として写生句が約7割、抒情句が3割とやはり実景が強い展開となった。


しかし、写生句は類想と考えられるものが多く、


傑出したものと判断されるものはみられなかった。


 一方、抒情句の可能性については


介護や辛い時の感情などの体験したこととの取り合わせなどがあり、


無限の可能性があることが示された。


「鰯雲人に告ぐへきことならず」 加藤楸邨

「いわし雲 大いなる瀬を さかのぼる 」飯田蛇笏


(櫟HP管人 宍野宏治) 



最優秀句 8点句

縄文の女神ふくよか秋高し                 悟   牛

空つぽの時間に追はれ中也の忌             六   呉

毬栗を蹴るディベートの帰り道               宙


優秀句 7点句

嘘もつく看取りなりけり鰯雲                     梨   花


秀逸句 6点句

ほどほどに生きて達者で敬老日              み な み




特選句選評

山 の 子

16 虫時雨青き地球の底ひなる 梨   花

 青い地球の底で聞く虫の声。

闇の中を一心に鳴く虫に心を奪われ私も地球の一員なのだと再認識する。


梨   花

26 縄文の女神ふくよか秋高し 悟   牛

 縄文の女神の豊かな体の像を見たら、誰もが豊かな気持ちになる。

痩せていることが良いとされる今の世とは対照的、秋高しの季語も良い。



不耳男

35 空つぽの時間に追はれ中也の忌 六   呉

 「空つぽの時間」が思わせぶりで挑戦的である。

一方で「追はれ」が二律背反的で片言性を高めて魅力的である。

中原中也の詩が空っぽな時間へ侵襲するのは確かである。



六   呉

42 流木の蘇生うながす星月夜     q w e

 時空の彼方から届く星光が視せてくれる幻覚か。すでに宇宙に存在しないもののかもしれぬ神秘さゆえか。どこかやさしくも哀しい光。樹液のかわりに流れるのだろうか。


や ま と

101 かみなびの森の暁水澄めり     鶴岡ひつじ

 「かみなびの森」なんて、実に神聖でおごそかな言葉です。

それに「暁」と「水澄む」が加わり、神々しい雰囲気がよく表されています。

すっきりと美しい句と思います。





2023年8月の季語 「星月夜」


 今回の兼題は「星月夜」。


星月夜の本意は満天の星の明かりが月夜のように思われる情緒にあるものと考えら


れる。この情緒をどのように詠むかが本句会とポイントと考えられた。


結果として、抒情句が13句、写生句が11句、抽象的な句と寓話的な句がそれぞれ


3句であった。抒情句の内容としては、「エンドロール」、「無」や「命」等々と多彩なも


のと取り合わせに本意の一端を垣間見た。今回の句会も星月夜のように大いに明る


い夢のある句会の一つとなったことは確実であろう。


「われの星燃えてをるなり星月夜」 高浜虚子


「人生の重きときあり星月夜 」 稲畑汀子


(櫟HP管人 宍野宏治) 



最優秀句 11点句

29. 一日のエンドロールや星月夜                   POTU

58. 泣くことに始まる命星月夜                     山 の 子


優秀句 8点句

80. 世の中が素敵に見ゆるサングラス                迷   亭

秀逸句 7点句

24. 東京の空は四角や揚花火                     梨   花


特選句選評

POTU

24 東京の空は四角や揚花火                      梨   花

高層ビルの谷間にいて眺める空は小さな四角に分断され、隅田川の花火大会もビルの死角となりどこへ行っても四角い揚げ花火であると幼児の記憶となることでしょう。




こ と り

36 うつし世の一喜一憂桐一葉                      獅子 耕司

人生に起こる辛い事も嬉しい事も、長い目で見れる歳になると桐一葉の舞う程度の事と思える。達観俳句の一つであろう。



獅子 耕司

49 星月夜みんな無口となりにけり                   令   月

沈黙に勝るものなしとか。素晴らしく美しい星月夜の前では形容の仕様のない感動があったことであろう。その感動を世のために大いに役立ててほしいものである。



qwe

76 踝を細く来る人サンドレス                       山 の 子

あるリゾート地。スタイルのいい女性が来る。涼風に載って軽やかに来る。花柄のデザインが似合う女性が来る。襟ぐりの大きな服に小麦色の肌の人が来る。恋が始まる。


みなみ

112 ふわと浮く紙飛行機よ敗戦忌                     q w e

子とあそぶ紙飛行機から特別攻撃隊まで飛ばした句。作者が特攻隊員もしくはその家族かどうか分からないけれど、含蓄に富む句です。




2023年7月の季語 「風鈴」 第68回


 今回の兼題は「風鈴」。風鈴の句作のポイントとしては如何に耐え難き夏を乗り切り、


前向きに生活句として捉えてゆくことであろう。


一方、取り合わせの句への挑戦はやや難と思われた。


当句会においても予想通りに取り合わせの句は殆ど見られず、


生活に密着した活き活きとした句が多く見られた。


実体験に根差した作句が多かったことや、


映像が明快に想像される句が多かったことで今回は涼やかな句会になったものと推察される。


「くろがねの秋の風鈴鳴りにけり」 飯田蛇笏

「風鈴を吊る海よりの広き風」  山口誓子


(櫟HP管人 宍野宏治) 



最優秀句 14点句

23 風鈴を鳴らしこの世を離れけり           獅子 耕司


優秀句 11点句 

29 真つ直ぐな胡瓜は嘘をついてをり           悟   牛 


秀逸句 10点句 

28 岩手日報南部風鈴包みたる              如   意        


特選句選評

桂  りん

23 風鈴を鳴らしこの世を離れけり        獅子 耕司

映画のゴーストの一場面みているようでした。生きた証しに鳴らして誰に知らせたかったのか、余韻の残る一句です。


宍野 宏治

76 鉄風鈴東北の音たくましく        不 耳 男

鉄風鈴は南部風鈴のことであろう。大震災のことが容易に脳裏に蘇る。東北の音の逞しくの措辞で復興に励む意気込みが伺える一句。頑張れのエールを改めて送りたい。


不耳男

10 貝風鈴人魚が哭けば鳴りませう    こ と り

時代錯誤的な句柄は一癖も二癖も感じさせる。意味に捉われているように思えぬ表現だが、シュルレアリスムの一歩手前で季語の本意にしがみついているのかもしれない。



梨花

28 岩手日報南部風鈴包みたる        如   意

お土産を包む地元紙はついつい広げてしまう、旅先の様子をそのままいただいたような気になる、取り合わせがいい。


明田

110 風鈴やシャッター街を眠らせて    こ と り

アーケードの長く続くトンネルの商店街に、人通りもなく古い風鈴が微かな風になっている、夏場は夜市が開催されて一部は賑やかであるが、その期間が過ぎれば長い眠りにつく。



2023年6月の季語 「螢」 第67回


 今回の兼題は「螢」。季語には力の差があるかも知れない。


螢は季語としてはやや弱い感があり、何処まで季語の力を信じて


作句してゆくかが今回の課題の一つとして考えられた。


写生句としては数多の句が詠まれ、


焦点は如何に取り合わせができるかにあるかとも考えられた。


しかし秀句と思われる句が兼題の「螢」の写生句に多く見られたことは意外な事であった。


梅雨時はやや感傷的な気分が合うのかも知れない。


「蛍獲て少年の指みどりなり」 山口誓子 


「螢火や山のやうなる百姓家」 富安 風生


(櫟HP管人 宍野宏治) 



最優秀句 8点句

73 蛍火や終りの言葉聞き取れぬ              こ と り


優秀句 6点句 

10 空にまだ隙間のありし植田かな             如   意

130 戦争を知らずに育ち喜寿の夏              竹   籟 


秀逸句 5点句 

6 知恵の輪に絡まる両手新樹光               浮 游 子

62人去りて蛍の里となりにけり               え つ し

123時鳥生きゐるかぎり詩を詠まむ              み な み         


特選句選評

獅子 耕司

62 人去りて蛍の里となりにけり             え つ し


 単純明快な写生句。自然は自然のままにそっとしておく心構えが大事との教え。人が去り、静かな里に何時もの安寧が戻ってゆく様子の喜びを平易に明快に詠みあげた。


茜屋松治

63 機嫌よき今朝の足腰茅の輪越ゆ          み な み


 天気のぐずつく梅雨時は足腰の調子は朝起きてみないとわからない。快調な日には朝散歩で近くの神社の茅の輪くぐりをしたくなる。作者の気持ちのわかる一句である。


梨   花

86 後輩の転職通知濃紫陽花             茜屋 松治

 さっと転職を決めた後輩に、現状維持だと思われる作者。正解がないから後悔しない選択をしてほしい。


POTU

106 恋といふ永劫回帰業平忌              不耳男


 ニーチェの根本思想である永劫回帰は人類の永遠の存在感を肯定する考え方であり、在原業平に代表される恋の詩の発展、恋の歌や相聞歌へと万葉集以来永遠に続く。



桐山榮路村

 114 たっぷりの日差し竹皮脱ぎにけり          獅子 耕司


 私の持山でもモウソウは春また真竹やハチクは初夏か仲夏の頃に食する。 まだ土の中から掘り出せばとても柔らかで美味しい。観察力が好ましい。



358

第 66 回くぬぎねっと句会結果発表 5月分


(投句者 二十四名 選句参加者 二十一名)


2023年5月の季語 「鯉幟」

 今回の兼題は「鯉幟」。昨今では河川の上で群れなして泳ぐ鯉幟の姿が見られるが、街中では殆ど見かける機会が少なくなってきた。これも少子化の影響かも知れない。何とかしたいものだが方策はとんと浮かばない。当句会に於いては、殆どの句が鯉幟の泳ぐ姿を写生したもので、取り合わせ的な思い切ったものは見られず、類そう句の山となってしまった。馴染のある季語の取り扱いの難解さを思い知らされた句会となった。

「力ある風出てきたり鯉幟」  矢島渚男

「大空は大きな未来鯉幟」 山田弘子

(櫟HP管人 宍野宏治)


優秀句 6点句

3 微笑みて隠す本音や蛇苺                 浮 游 子

27 きびきびと船綱結ぶ日焼けの手             と ん ぼ 

28 とこしへに散ること知らぬ水中花             POTU


優秀句 5点句 

82 歓声はケーキの上のこいのぼり             詩   流

91 ごはごはと乾くタオルや夏来る             山 の 子

         


特選句選評

宍野 宏治

27 きびきびと船綱結ぶ日焼けの手          と ん ぼ

猟師の日常を写生した生活感溢れる一句。熟練した海の男の無骨な生き様が日焼けの手ときびきびとの措辞で、ありありと実景が示される活き活きとした句になった。


茜屋 松治

28 とこしへに散ること知らぬ水中花          POTU

物理的に隔離された環境の人工物の本質を言い当てている。生物を模倣する人工物の創造は人間の挑戦であるが、長い時間を経てできた生物にはまだまだ及ばない。


qwe

58 鯉幟みな前向きに泳ぎけり            悟   牛

全くその通り。鯉幟の本意のど真ん中を衝いている。だが、凡人はその事実に気づかない。言われてはっととする。詩人と凡人の差異を見せつけられた。



POTU

22 凡庸をただ罪として蜘蛛の糸        六   呉

凡庸に生きることはただ罪であるとし、半凡より脱凡を目指し、すばらしい幾何学模様と糸を張る手順に卓越した現場施工法による蜘蛛の糸をよく観察されたことに脱帽。


明田

65 犬もまた歩幅合はせて白日傘        悟   牛

夏の日差しに日傘をさして、犬を連れて散歩をしている、人の歩調に犬が合わしているのであろう。犬が歩幅を合わすると読めるところが面白い、犬の歩幅の定義はあるのだろうか初夏の夜に考え込んでしまう。




三五七


第 65 回くぬぎねっと句会結果発表 4月分


(投句者 二七名 選句参加者 二五名)

 

2023年4月の季語 「桜」


 今回の兼題は「桜」。今年の桜は比較的長く楽しむことができた。


要因としては雨風が少なかったことが考えられる。


したがって、満開の花に酔いしれた人々が多かったものと考えられる。


しかし、一晩の雨で桜は敢え無く幕を閉じ例年通りの早くもわび寂の世界となった。


内訳は開花の喜び関連句28句、落花や散る桜を読み込んだ句が16句と少し開花を


愛でる句が多かった。


いずれにしても久しぶりに花を十分に堪能できた句会になったことと思われる。


「さまざまの事思ひ出すさくらかな」松尾芭蕉


「ちるさくら海あをければ海へちる」高屋窓秋


(櫟HP管人 宍野宏治)



最優秀句 

92. 人はみな片道切符春の虹                金田 あわ



最優秀句 

89. 鶯のけきよの辺りが恋の声               こ と り


優秀句 

9. 呵々大笑し春愁を丸め込む                q w e 


秀逸句

103. 二次会へ流れて行きぬ花衣               如  意          


特選句選評


六   呉

11 電線が空を汚しぬつばくらめ              梨  花


 カフェから見る街には空を汚す電線はない。電線にぶら下がる男たちを素材にしたTVCMがあった。コピーは想像力資本主義。異物からの想像。燕も楽しんでいるはず。


桐山榮路村

38 ひとひらに一つの別れ飛花落花           獅子 耕司


 まず俳句自体に流れがある。 又、上に昇る花と下に散る花の動きがはっき

りと脳裏に焼き付き、この流動性が更に俳句の艶を醸し出すことになり、好

ましい一句となった。


POTU

48 春嵐瀬戸大橋のバス蛇行              明   田


 タコマ橋の教訓により、春嵐での落橋の心配はありません。悠然とバスの蛇行を楽しんで


ください‼ 台風の目に差し掛かると安全第一で自動的に通行止めとなります。


q w e 選

57 不器男忌やあなたあなたに甘え癖         六   呉


 芝不器雄は、兄弟7人の末っ子。故郷に籠って東京帝大と東北帝大をふいにする甘えん坊。


一見、辛辣だが、ア音の頭韻を三つ重ね甘美な忌日作品に仕立て上げている。


遊   山 選

108 桜蘂降る痛恨の反戦歌             令   月


 むしろノンポリであった私に痛恨の反戦歌で思い出させる事は


同い年であった樺美智子さんの死です。


この句の作者に痛恨の反戦歌と言わせるどんな変事があったのか。




三五六


第 64 回くぬぎねっと句会結果発表 3月分


(投句者 二七名 選句参加者 二五名)

 


「はじめに」

「雲雀」は昔から歌や俳句に詠まれ人々に親しまれて来ている。

そこで、雲雀の見える空をみて、コロナ禍で引きこもりがちな生活からの脱却を図り、少しでも明るい気分になれれば幸いとの思いから今回の兼題を選定した。多くの句はやはり写生句が主流だが、数は少ないが中には抒情句も見られる。よく知られた俳句としては下記の句がある。

「揚雲雀ひとに追風迎へ風」 中村草田男

「どうしても見えぬ雲雀が鳴いてをり」 山口青邨

今回の当句会においても写生句が大半であり、大いに楽しく晴れやかな気分になれた句会になったものと確信した。


最優秀句 10点句

菜の花と海の狭間をキハ200             迷   亭

猫の腹どこまでも伸び春の昼             悟   牛


優秀句 7点句

綾取りのやうな赤橋花菜風               山 の 子


秀逸句 6点句 

果てのなき戦ありけり雛飾る              梨   花

母親を辞めたき日なり養花天             如   意


特選句選評

如   意

5 余りある伸び代の節つくしんぼ            桐山榮路村

愛媛に住み始めてより土筆を食べる楽しみが一つ増えた。袴を外し湯掻

くのだが、余りある伸び代の節とは脱帽。

遊   山

12 果てのなき戦ありけり雛飾る            梨   花 

ウクライナの戦争と雛飾るの対比がよい。はっとして平和に暮らしている自分たちのことを改めて思う。

茜屋 松治

37 これ以上縄張要るか叫天子             q w e

娑婆の世界では昔より領土搾取、略奪に明け暮れているのに対する雲雀の世界観の対比が良い。特に季語の叫天子がよい味を出している。

宍野 宏治 選

44 何にでも名前を書いて入学す            悟   牛

親目線からの心配りの一句で微笑ましい。また、子供らの入学の喜びを具体的に持ち物などの何にでも名前を書く行為で示したことによって説得力のある一句となった。

み な み

106 母親を辞めたき日なり養花天           如   意

桜が咲く頃の生暖かい曇りの日は、気分が憂いがちになるという。子育てがうまくいかない、楽しくないと思う母親は私だけではなかった。



三百五十五


第 63 回くぬぎねっと句会結果発表 2月分


(投句者 二七名 選句参加者 二五名)

 


「はじめに」

 今回の兼題は「梅」。「梅の花」は暖かい春に先駆けて、まだ寒い時期にいち早くつぼみを


つける植物であることから、春を告げる縁起の良い花と考えられ、俳人には古くから珍重され


てきている。


よく知られた句としては


「梅一輪いちりんほどの暖かさ」 服部嵐雪


「勇気こそ地の塩なれや梅真白」中村草田男


などと写生句や心情句などと幅広く詠まれる季語の一つで枚挙に遑がない。


 今回の投句内容は写生句が約8割、抒情句が2割の結果となった。


もうすぐ春が来ることを心待ちにする暖かな句会となった。


 (櫟HP管人 宍野宏治)


最優秀句 

家族とはつまとわたしと春ひとつ              不 耳 男 

水仙や海に一番近い駅                   遊   山


優秀句 

しゃべらねば言葉失ふ冬の部屋               藪  信栄

スリッパの中に収まる仔猫かな               コタロー


秀逸句 6点句

春愁の重さを載せてベレー帽                こ と り

アルバムに写るコロナや卒業す               え つ し

春立てり背中の羽を伸ばさむか               梨   花

白梅や親を叱った夜のこと                 こ と り           


特選句選評

q w e

11 家族とはつまとわたしと春ひとつ           不 耳 男


「ひとつ」には、そのものだけになるという集合の概念がある。家族=妻+夫+春。夫婦二人


と春を家族の構成要素として、親密と希望をシンクロした大胆な構想である。


え つ し 選


24 ハグをしてハミングをして春爛漫         如   意


 マスク無しの生活になりつつあるこの頃久しぶりに会う人と思わずバグしてしまう。

春を謳歌していると見られます。


迷   亭 選

49 雨粒がマリアを庇ふ絵踏かな        q w e


 十字架から降ろされたイエスの亡骸を抱きしめる聖母を描く踏絵に細やかな雨が降り注ぐ。   


いつまでも続く春雨は、子を亡くした母の、迫害されたキリシタンの涙か。


六   呉 選

51 せん妄の妻よ猜疑の銀狐         迷   亭


 猜疑心、銀狐との取り合わせに、常軌を逸した彼女の現在が浮かび上がる。彼は黙を通す


のか逃れるように嘘を並べるのか。フィクションとしても愛の句には違いない。


遊   山 選

56 アルバムに写るコロナや卒業す      え つ し


 まさか個人写真はマスクをしていないと思うが、いろいろな学校行事、部活動、スナップ写真


はマスクをしている。これらは児童生徒の人格形成には大切なもの。心配です。



宍野 宏治  選

99 梅ふふむ不戦の誓ひ新たにし       令   月


 世界はいよいよきな臭いものになってきている。平和の象徴の一つとして梅の花が考えら 


れ、梅の開花と共に戦争のない穏やかな日々を早く取り戻したいものである。



荒川  月 選

125 春立てり背中の羽を伸ばさむか     梨   花


 冬の間、寒さで丸く縮こまっていた背中を伸ばす。羽は肩甲骨の事かな?「さぁ、春だ。羽


ばたいて行こう。」という気持ちにさせてくれる一句。


三百五十四 


第六十二回くぬぎねっと句会結果発表一月分


(投句者 二九名 選句参加者 二七名)



最優秀句   


眠る子を夢ごとかかへ初詣          POTU


優秀句

メルカトル図法のひずみ鯨の死       不 耳 男


秀逸句   

未だ名を持たぬ戦争日脚伸ぶ                                           近藤 幽慶



特選句選評


宍野 宏治 選

悴む手包みて呉れし大きな手        え つ し


人間は寄り添って生きるもの。悴むような小さな変化であるが、


困っている人がいれば駆けつけて、


元気づけるいたわりの精神を常日頃から養っておきたいものである。


茜屋 松治 選

庭先の空を浮かべて初硯                  桐山榮路村 


 書初めにあたり、硯を取り出し墨をする。


この静間に作者は真青なる空を硯に見出す。


新春の凛とした雰囲気と作者の今年に望む気持ちが伝わる。

悟   牛  選

眠る子を夢ごとかかへ初詣       POTU


自分の子どもには、どうしても親として大きな夢を見てしまいがちです。


夢見心地で眠る子どもと、


その子どもに夢を託す親とを上手く詠んだ新春の微笑ましい句。



迷   亭 選

メルカトル図法のひずみ鯨の死      不 耳 男  


 昔から航海に使われてきたメルカトル図法は赤道から


離れるほど距離や面積が大きくなる。


人が生み出したその歪の中で、巨大な鯨が今ひっそりと死を迎える。


山 の 子 選

ゆるびゆく一指一指の初湯かな       宙

 いつの時も風呂に入れば体中が緩んでいくと感じられる。


初湯ともなればなおのこと。


指先の一本一本までしみじみとゆるびゆくもとをしみじみと思う。



「おわりに」 



今回の兼題は「初」。


「初」からのイメージをどのように現代人は捉えているのかとの


実験めいた提案であった。


その結果、本会員は多種多様な季語を見つけて、


約三〇の初の季語で初春を寿ぐ俳句を積極的に詠まれた。


予想では初詣がやや優位と思われたが、初鏡と同程度であった。


今回は新年の俳句らしい「初詣」の中から以下の2句を


紹介して今回の兼題の総括としたい。


「えりあしのましろき妻と初詣」 日野草城


「日本がここに集る初詣」山口誓子


(櫟HP管理人 宍野 宏治) 


2022年11月 くぬぎねつと句会 352


「はじめに」


 今回の兼題は「木の葉」。


木の葉は木の葉としての存在感があり、


散った瞬間に生物としては終わりを迎えるが、


同時に木の葉は落葉や枯葉には無い永遠性が感じられる


奥深い季語の一つと言えよう。


よく知られたものとしては加藤楸邨の「木の葉ふりやまずいそぐなよいそぐなよ」がある。


この句を凌駕したいものと会員諸氏の投句内容は堅実に写生句に徹したものが多く、


読み応えのある内容の充実した句会の一つとなった。(櫟HP管人 宍野宏治)

 


最優秀句 12点句

43. クロワッサン落葉のやうな音立てて              藤田美和子


秀逸句 6点句

シヤーペンの芯の折れたる夜寒かな               令   月

木の葉散る記憶に栞挟みけり                   近藤 幽慶

地図になき道かもしれぬ木の葉道                 宙

流し目は愛か侮蔑か帰り花                    令   月

皆既蝕赤銅色の月寒し                       み な み


特選句選評

獅子 耕司 選

11 立冬や清濁併せ呑む度量                 竹   籟

 この世には受け入れがたきものがなんと多いことかと驚愕するのが現状である。

しかし、厳しい冬の到来を機にやはり寛容精神は必要との見解に舵を切った達観した一句。



茜屋 松治 選

24 約束は人だけの知恵神無月                 不 耳 男

 男女の約束すなわち契は人類ならではの知恵とのご指摘、

ごもっともです。出雲に集まる神々の議題でもあり、季語とのマッチングが素晴らしい。



武田  正 選

35 木の葉散る記憶に栞挟みけり              近藤 幽慶

 過去も未来も切り捨てて、「前後裁断」で厳しく生きる。

記憶に栞を挿すとは、今日只今を必死に生きることの巧みな暗喩。

節度の詩情が良い。抒情に流されていない。



如   意 選

43 クロワッサン落葉のやうな音立てて             藤田美和子

大好きなクロワッサンだが 高級になる程食べ難い。カサッと音たて食べ始めると半分は散らばる。落ち葉のような音がするほど美味しい。



悟   牛 選

91 地図になき道かもしれぬ木の葉道             宙

落葉で道が隠れ、何処を歩いてよいものか。でも、林間は見通しが効く。こんな時、少々冒険するのも悪くない。人生もまた然り、これまで養った勘を信じてみたいもの。


「月間総合大賞受賞者(11月) 

10 シヤーペンの芯の折れたる夜寒かな          令   月


2022年10月 くぬぎねつと句会 351


「はじめに」


今回の兼題は「紅葉」。


傍題としては「もみづる」、「夕紅葉」、「谷紅葉」などがあり、


ほかに関連するものとしては「紅葉且つ散る」、


「紅葉鍋」や「紅葉酒」などと多くものがあり、


「紅葉」は詩心を揺さぶられる季語の一つと言えよう。


詩人となり切った会員諸氏からは、楽しく優雅な俳句がたくさん寄せられた。


まさに万葉の世界に迷い込んだ感のする紅葉の世界が展開された


句会の一つとなったと言えよう。(櫟HP管人 宍野宏治)



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最優秀句   

3 拍子木の音の乾ける鵙日和                  と ん ぼ


最優秀句 

103. ひとひらの紅葉入れたる投句箱              コ タ ロ ー


秀逸句   

31 食細き母の夕膳色葉添え                  詩    流


54 きな臭くなりし国境鳥渡る                  藤田美和子



特選句選評

POTU

3 拍子木の音の乾ける鵙日和                 と ん ぼ


 大師堂の前、お経の唱和の声とともに僧の鳴らす拍子木の乾いた


音が大気の澄み渡ったまさに鵙日和の境内に響いている。


その美しさに感動した。

獅子 耕司

77 人類を信じなくても小鳥来る                不 耳 男


人間不信の時代。そんな人類の世界を疑うことなく小鳥達はやってくる。

 

この信頼に応えるべく人との付き合いを大事にして、


信じあって楽しく生きたいものである。



明   田

98 少しくらい凭れていいよ秋桜                藤田美和子


 秋桜は群生して背が高い、風に吹かれると柳に風のごとくうまくやり過ごすが、


傾く場合もあるのでお隣にお世話になる、やさしい俳句だね。



令   月 選

124 表川尽きぬ流れの十三夜                竹    籟


 おそらく表川は歴史の古い河川だろう。


十三夜に流れる川面に映る月を見て遠き歴史を偲んで居る。



不耳男 選

133 国よりも星の話をして銀河                こ と り


 〈神の死〉はニヒリズムを生んだ。国家より〈いま・ここ〉の星を話題にしたい欲望も、


多様性が重視される社会とは言え、国家という最高価値へのニヒリズムである。

2022年5月のくぬぎねつと句会(ムービングSTNS句会)7句選の結果発表


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(櫟HP管人 宍野宏治)