衣服のごみ問題

最終更新日:2021年 1月5日

問題

日本で発生する衣服のごみのうちどれくらいが再利用(リユース・リサイクル・リペア)されている?

①26% ②57% ③78% ④95%





正解は・・・①26%

2009年時点での統計ですが,日本で捨てられる衣服の全体量94万トンのうち,再利用される量は合計約23万トンほどにとどまっています¹⁾。これはペットボトルやアルミ缶(約8割)と比べてもかなり低い値です。

なぜ衣服の再利用率は低いのでしょうか?そして,再利用率を高めるために私たちは何ができるのでしょうか?

世界で発生する衣類のごみの現状

ファッション業界では現在,世界全体で毎年およそ9200万トンもの線維ごみが発生しています²⁾。

現在私たちの生活には「①低価格かつ②流行を取り入れた衣料品を③高い回転率(つまり商品の入れ替わりが早い)で」提供する業態,通称ファストファッションが広く浸透,定着しています³⁾。ファストファッションは安価なだけでなく流行を取り入れたデザイン性に優れた衣服を大量に提供してくれます。これによりファッションの大衆化,カジュアル化が促進され,多くの人が気軽にファッションを楽しむことができるようになりました。

しかしこのファストファッションという業態の生活への浸透・定着が衣服の大量廃棄を引き起こしています。原因をあげれば品質に問題があり長期間使用されずに捨てられる,品質に問題がなかったとしても流行が過ぎたら捨てられる,売れなかった商品はそのまま店頭に置かれるわけでもなく流行が過ぎれば捨てられる,低価格であることが消費者の買うこと,捨てることに対しての意識を低下させる,などなど,枚挙にいとまがないです⁴⁾。

【調査】ファストファッション製品の購入頻度・処理方法は?

愛知県内の大学生,保護者を対象にした調査では,大学生の約半数である49.1%,保護者の50%以上2,3ヶ月に1回ファストファッション製品を購入していると報告されています。1か月に1回購入している人の分(大学生19.9%,保護者10.2%)も合わせると,大学生と保護者両方とも70%近くの人が少なくとも2,3ヶ月に1回の頻度でファストファッション製品を購入しています⁴⁾。

これらの製品の処分方法については,大学生の場合「ごみとして廃棄する」のが最も多く(37.2%),保護者の場合は「地域の自然回収システムを利用する」のが最も多いと報告されています。またそれ以外の処理方法について見てみると,特に大学生の場合「家族や知り合いに譲る(19.4%)」「リサイクルショップに売却する(16.0%)」が多く挙がりました。このことから,着用期間が短くあまり着古されていないためにこのような処分方法を行っていると考えられています⁴⁾。

衣類の大量生産・消費・廃棄によって起こる問題

ここで主に取り上げるのは衣類の大量廃棄についてです。しかし現行の衣類の大量生産・大量消費という産業形態は,ごみ問題以外にも様々な環境問題を引き起こします。

・衣類の原料が大量に生産,加工される過程でエネルギーが大量に使われることにより,ファッション業界だけで約21億トンもの温室効果ガスが排出され,地球温暖化に寄与していると考えられています。これは地球全体で排出される温室効果ガスの4%を占める数字です⁵⁾。

・服の素材のおよそ3割を占める綿は,その生産に大量の窒素・リン肥料や除草剤,殺虫剤を使用します。綿生産が地球全体に占めるそれらの使用量の割合はN・P肥料が4%,除草剤が7%,殺虫剤に至っては16%と推定されています¹⁾。

窒素肥料が大量に土壌に投入されると,使われず土壌に余った窒素が硝酸などの「反応性の高い窒素」に変化し,河川や地下水に流出して湖や河川の富栄養化(植物プランクトンが異常増殖し生物の斃死,窒息死を引き起こす),地下水の硝酸汚染(メトヘモグロビン血症などの原因となる硝酸塩の濃度が地下水中で上昇する)などを引き起こします⁶⁾。

・原材料である綿花の栽培では1㎏あたり1~2万リットル,そして繊維を染色する過程では繊維1㎏あたり100~150リットルの水が必要であると言われており⁷⁾,ファッション業界全体ではおよそ7兆5千億リットルという莫大な量の水が消費されていると考えられています¹⁾。

これらの問題に加え,衣類の大量廃棄による最終処分場の逼迫や焼却時のCO₂排出量増加などのごみ問題があります。このような問題の原因となっている衣類の大量生産・消費・廃棄を減らすのには3R(リデュース,リユース,リサイクル)に関する活動が重要な役割を果たしますが,衣類の再利用は現状それほど進んでいるとはいえない状況です。

ごみの再生資源としての再利用にはそれぞれの国の再生資源回収の仕組みが大きく関わっています。そのため,私たち自身が住むこの国の再生資源の現状・回収の仕組みを知るのは非常に重要なことだと考えられます。

日本で発生する衣類のごみの現状

繊維製品3R関連調査事業の報告書によると,繊維製品全体の2009年時点で日本国内で排出された廃棄物の量は171万トンであり,その中の衣料品単体における廃棄物の量は94万トンと推定されています。これらの廃棄物のうち3R(リユース,リサイクル,リペア:他の用途に再利用する)される量は繊維製品全体では37万トン,衣料品単体では24万トンであり,その割合はそれぞれ26%,22%となっています。再利用されなかった衣類の廃棄物は一般廃棄物の可燃ごみ,不燃ごみとして焼却処分され埋め立てられるか,産業廃棄物として処理されています¹⁾。

日本での衣類のごみ処理の流れ

事業者,および家庭から回収された衣類ごみの処理の大まかな流れを図に示しました(図1)。家庭から出た衣類のごみは大半が可燃ごみ,不燃ごみとして回収され,一部再資源化されるもののほとんどは焼却・埋め立て処分されます。一方で消費者がリサイクルショップやフリーマーケット,バザーなどに提供したもので購入されず売れ残ったものは,資源ごみで回収した分や下取りして回収された文分と合わせて故繊維業者に投入されます。事業者から出た衣類ごみは一部は再資源化されるものの大半は産廃業者に委託され,廃プラスチックとして再利用できる合成繊維を除き産業廃棄物として処理されます。

この図を見ると衣類ごみを再利用する手段は意外と多いことが理解できると思います。

図1:衣類ごみ処理の流れ 繊維製品3R関連調査事業報告書¹⁾,中古衣類を対象とした海外でのリユース実態調査⁸⁾を参考に作成

赤は最終的にごみとして処理されるパターン,青は最終的に何らかの形で再利用されるパターンを示す。先述した衣類ごみの3R率は,排出されるごみ全体に対する図中の青色の割合だと考えてもらっていい。

回収された衣類の行方

先述した通り,家庭から出た衣類ごみのうち再利用されるものは,その大多数が資源ごみとしての回収や下取りを経て,あるいはリサイクルショップやバザー,オークションの売れ残りなどとして故繊維業者へ投入されます。故繊維業者は回収した衣類ごみを選別し,①古着としてリユースし国内販売,あるいは海外輸出可能な中古衣類②リユースできないもので綿素材の割合が高くウエスとしてリサイクルが可能なもの③リユースできず様々な繊維を含んでいて反毛原料としてリサイクルが可能なもの④廃棄物の4つに分別します⁸⁾。

中古衣類として国内販売,海外輸出

故繊維業者に運ばれる衣類ごみのうち中古衣類としてリユース可能なものは全体の約6割におよびます。これらは性別,年齢,季節,流行などの項目で細かく区分された商品カテゴリーに選別され,中古衣類として国内のリユースショップ,あるいは海外の業者に輸出されます。特に海外への中古衣類の輸出は増加傾向にあり,2004年時点で9万1千トンだったのが2013年には21万6千トンにまで増加しています⁸⁾。この背景には海外での日本の古着の需要増加,国外で選別を行う故繊維業者の増加,国内でのウエス需要の低迷などが考えられます。(中古衣類の大量輸出は問題も引き起こしています。詳しくは「1分で読める古着の輸出入」も見てみてください。)

ウエスとしてリサイクル

故繊維業者に運ばれる衣類ごみ全体のうち約2割ウエスとしてリサイクルされます。ウエスとはいわゆる業務用雑巾のことで,工場で汚れた機械や道具をきれいにするために使われます⁹⁾。古着からリサイクルされたウエスは新品のものに比べ吸水性・吸油性が良く,低価格であるといったメリットがあります。

反毛原料としてリサイクル

反毛原料とはリユースができず,さらにウエスとしてリサイクルができないような様々な繊維を含んだ繊維くずをわた状に戻したもので,自動車産業や土木業などで使用されるフェルトに主に使われます。繊維くずには様々な素材,色のものが含まれているので,「混綿場」と呼ばれる部屋に地層のように下から順番に積み上げていき,それを上下方向に切り出して製品にすることで品質を均一にしています¹⁰⁾。

日本で衣類の再利用率が低い理由

図1を見てもらえば分かるように,衣類のごみをリユース・リサイクルする方法は意外にも多岐にわたり,再利用は容易にできるように感じられるでしょう。にもかかわらず日本で衣類の再利用率が低いのには以下のような理由が考えられます。

「繊維リサイクル法」が制定されていない

衣類ごみのうち家庭から出るものは「一般廃棄物」に分類され,処理責任は各自治体が負っています。それゆえに処理方法も各自治体にゆだねられ,その地域の財政状況などによりどのように処理するかが変わっているのが現状です¹¹⁾。全地域で処理方法を統一するには他の循環資源(紙,容器包装,家電,建築廃棄物など)と同様にリサイクル法を制定する必要があると考えられます。

2009年に経済産業省が「繊維製品リサイクル・モデル事業」を立ち上げ,衣料品に関わる様々な業種を巻き込んでリサイクル技術や回収方法を確立し現状の課題を抽出・整理するためのモデル事業を用いた大規模な検証が行われました。この検証を受けて2010年には「繊維製品3Rシステム検討会」が設置され,今後の繊維製品3R推進政策について「基本方針」と「具体的な支援案」が掲げられました¹¹⁾。このような動きがあったにも関わらず,繊維リサイクル法はいまだに制定されていません

何故繊維リサイクル法を制定できないの?

複雑な繊維産業の生産,流通構造

図2は繊維産業の生産・流通構造を図解で示したものです¹²⁾。見て分かる通り生産・流通の過程で「取り扱う製品が多い」こと,「多くの中小企業が関係している」ことなどから,各事業者に適切な役割分担を求めるのが難しい状態にあります¹³⁾。これが法整備が困難な理由の一つになっていると考えられます。またこの複雑な産業構造においては各段階ごとに製品の売れ残りが発生します。このことから,法整備の難化だけでなく産業全体の廃棄物増加の直接的な原因にもなっていると考えられます¹³⁾。

輸入製品の割合が大きい

日本繊維輸入組合によると,2018年時点での衣類の輸入浸透率は97.7%とのことです¹⁴⁾。輸入浸透率とは「輸入量/(生産量+輸入量ー輸出量)」を表したもので,要するに国内で供給される衣類のうちどれだけが輸入品なのかを表した数値です。このように国内に出回る衣類のうちほとんどが輸入品であることも,法によるリサイクル・リユース制度の整備を難しくしていると考えられます。

図2:繊維産業の生産・流通構造¹²⁾

公益財団法人岐阜県産業経済振興センターの2019年資料を基に作成。繊維を取り巻く複雑な産業構造が見て取れる。

消費者の衣類ごみ問題に対する知識の不足

再利用が進まない理由として,衣類ごみの問題の現状や衣類のリユース・リサイクル手段などの知識が不足しているということも挙げられると考えられます。衣類の入手・処分方法に対する調査は様々な組織が様々な母集団のもとで行っており,多くの調査で「チェーン店やファストファッションの店」で入手し,処分する際は「一般ごみとして」処分するというのが最も多いという結果になっています¹⁵⁾。リユース・リサイクル手段を利用しない理由は様々挙げられます。

古着屋で衣類を購入しない理由としては「好みのデザインがない」「古着はおしゃれじゃない」,購入する理由として「おしゃれだったから」といったことが挙げられています。また古着屋へ衣類を売却しない理由には「ブランド物でも高く売れない」といったことが挙げられます。これらをみると,私たち消費者は古着屋を衣類再利用の手段としてではなくあくまでファッションの1つと考えているのが分かります¹⁶ ¹⁷⁾。

また穴が開くなどした衣類を修繕するかどうかを尋ねた調査では,安価なものほど修繕せず処分することが多いという結果になりました。修繕するよりも新しく製品を購入する方が安価,あるいは容易であると判断した結果であると考えられます¹⁸⁾。

また資源ごみとしての回収は,指定された日に指定された場所へ衣類ごみを持っていくのが手間となり利用しないというケースもあるそうです¹¹⁾(自治体によって回収方法は異なり,一般ごみと同じように各地域を回収して回る自治体もあります)。

いずれの場合も,その手段を利用することのインテンシブが薄いことが,利用が進まない原因であると考えられます。衣類のごみ問題の現状と衣類の再利用の手段を知ってもらうことがインテンシブにつながるかどうかは分かりませんが,身近な方法で環境問題の解決に貢献できることを知ってもらう意味は十分にあると考えられます。

参照した文献・サイト

1)「繊維製品3R関連調査事業 報告書」独立行政法人 中小企業基盤整備機構(2010)

2)「Pulse of the Fashion Industry  2017」GLOBAL FASHION AGENDA and THE BOSTON CONSULTING GROUP(2017)

3)「【定義】ファストファッションとはなにか。世界を圧巻したトレンドたるもの」服飾方法論(2015)最終閲覧日:2020 11月26日

http://fashion-namako314.hatenablog.com/entry/2015/01/04/030152 

4)「ファストファッション製品の使用状況と着用後の 処分方法に関する調査 」鷲津かの子,水嶋丸美,安藤文子,宮本敎雄,伊藤きよ子

(2016)繊維製品消費科学,Vol.57,No.5 p. 385-390 

5)「Fashion on climate」 McKinsey & Company  最終閲覧日:2020年11月30日

https://www.mckinsey.com/industries/retail/our-insights/fashion-on-climate# 

6)「人間活動に伴う窒素負荷の増大と生態系影響」新藤純子(2004)地球環境,Vol.9,No.1,p3~10

7)「ファッションと環境問題」FASHION REVOLUTION 最終閲覧日:2020年12月1日

https://www.fashionrevolution.org/japan-blog/environmental-effects-of-fashion/

8)「平成 26 年度 使用済製品等のリユース促進事業研究会報告書」環境省(2015)

9)「ウエスって何?新品ウエスとリサイクルウエス」ウエスインフォ ホームページ 最終閲覧日:2020年12月21日

https://uesuyanen.com/contents/uesu_virgin_recycling/

10)「繊維リサイクル産業「反毛」について」島上祐樹(2008)SEN’I GAKKAISH(繊維と工業),Vol.64,No.7,p238~p241

11)「衣類のリサイクルはなぜ進まないのか?~持続可能な社会をめざして~」佐藤寿美,小西與志子,児島知佐子,林美千子

(2019)衣生活部会

12)「アパレル・繊維工業 」河合俊彦(2019)公益財団法人岐阜県産業経済振興センター

13)「循環型社会が構築し難い現状」東京都クリーニング生活衛生同業組合 ホームページ 最終閲覧日:2021年1月2日

https://www.tokyo929.or.jp/

14)「輸入浸透率97.7%に上昇」FISPA便り(2019)繊維産業流通構造改革推進協議会ホームページ 最終閲覧日:2021年1月2日

https://fispa.gr.jp/archives/5196.html

15)「「衣生活行動に関する調査」 調査結果概要 」一般社団法人 日本衣料管理協会(2019) 

16)「衣料品の再利用に関する消費者意識の調査 」岸川洋紀,嶋口茉由加 武庫川女子大学

17)「着なくなった大量の古着,どうしていますか?」百聞を一軒に活かす!!百一ホームページ 最終閲覧日:2021年1月5日

https://www.e-life.jp/column/trend/4348/

18)「衣料品のリペア(「お直し」)行動の実態アンケート調査結果 」田村有香(2013)京都精華大学紀要,第四十二号,p54~73 

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