文献紹介

このページではロボットの哲学、ロボットの倫理学に関連した文献を紹介していきます。

国内(日本人研究者のもの)

  • 人工知能学会編『AIは人類と共存できるか?』,早川書房,2016年
  • 西垣通『ビッグデータと人工知能』,2016.
  • 小林雅一『AIの衝撃』,講談社現代新書,2015.
  • 岡田美智男『ロボットの悲しみ』、新曜社、2014。

桜を見上げながら腕に抱いたロボットに「きれいだねぇ…」と話しかける老婦人を見たときに抱いた「痛々しさ」「後ろめたさ」「居たたまれなさ」といった複雑な感情を巡って5人の著者が論考を展開する。彼らの抱いた違和感を感傷と切り捨てることもできるだろうが、人が機械と交じり合い混じり合っていくこの時代にあって、私たちは彼らの違和感を真剣に受け止めるべきだと思う。機械をどう受け入れるかは将来の人間の在り方に重要な意味を持つだろうから。

  • 岡田美智男『弱いロボット』、医学書院、2012.
  • 菅野重樹『人が見た夢 ロボットの来た道―ギリシャ神話からアトム、そして・・・』、JIPMソリューション、2011.
  • 武野純一『心をもつロボット―鋼の思考が鏡の中の自分に気づく!』、日刊工業新聞社、2011.
  • Sibata. Toward robot ethics through the ethics of autism. Krichmar and Wagatsuma eds. Neuromorphic and Brain-Based Robots. Cambridge University Press. 2011
  • 浅田稔『ロボットという思想: 脳と知能の謎に挑む』、日本放送出版協会, 2010.
  • Kohji Ishihara and Tamami Fukushi, Introduction: Roboethics as an Emerging Field of Ethics of Technology. Accountability in Research, 17: 1-5, 2010.
  • 石黒浩『ロボットとは何か』、講談社現代新書、2009.
  • Naho Kitano. 'Rinri': An Incitement towards the existence of robots in Japanese Society. International Review of Information Ethics. Vol. 6 pp. 78-83, 2006.
  • 舘暲『ロボット入門―つくる哲学・つかう知恵』、ちくま新書、2002.
  • 月本洋『ロボットのこころ―想像力をもつロボットをめざして』、森北出版、2002。
  • 柴田正良『ロボットの心―七つの哲学物語』、講談社現代新書、2001。
  • 坂本賢三『機械の現象学』,岩波書店,1975年.
  • 吉田夏彦 『ロボットの哲学』、日本経営出版会、1971。

本書が書かれた1971年は、産業用ロボットが実用化され、オフィスにおいてもコンピューターが導入され始めて間もないころである。ロボットやコンピューターといったまったく新しい技術が社会を大きく変化させることに対して人々が抱く不安と期待を背景として、本書はロボットと人間が共生する社会についてのヴィジョンを描くことと同時に、ロボットについて考察することを通じて伝統的な哲学の問題(人間性の理解)にアプローチすることを目指している。著者が本書を書いてから40年以上がたち、ロボット技術が格段に進歩し、社会の隅々にロボットが進出している現在でも、著者の問題意識と主張の多くは少しも古びたものになっていない。彼がここで提起した種々の問題は現在でも変わらず重要である。

著者は日本における分析哲学の草分け的な存在であり、本書にもその分析哲学マインドが横溢している。それが最も顕著なのは(そして本書の中で最も間違っている可能性が高いのは)、著者によるロボットの定義である。ロボットとは人間の何らかの側面を模倣し、人間の行う作業を代行するように設計された機械である。この設計は科学的になされなければならない。人間の行う作業は身体的なものであればそれは物理学によって記述できる。精神的なものであればそれは情報処理として記述できる。そしてこのどちらの記述に関しても、究極的には公理的集合論の言語に還元することができる。それゆえ最も一般的な意味でのロボットとはその構造が集合論によって記述できるものだ、と著者は主張する。

この主張は工学が科学的に行われなければならないという誤った認識に基づいている。論理を至上の原理とする古典的な分析哲学がこの時代の日本ではまだ有効な信条として機能していたことを伺わせており、興味深い。

国外

  • Luciano Floridi, The 4th Revolution: How the Infosphere Is Reshaping Human Reality, Oxford University Press, 2014
  • Nick Bostrum, Superintelligence: Paths, Dangers, Strategies, Oxford University Press, 2014.
  • エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー『機械との競争』(村井章子訳)、日経BP社、2013。

身に着けた知識と技術を生かせず,社会から必要とされないことは多くの人にとって最悪の苦悩だろう.失業は現在私たちが直面している最も切実な問題の一つであると思う.著者たちは景気が回復しているが失業率が改善しない原因を技術の急激な進歩に帰す.ITは高度に創造的な仕事と肉体労働へと労働力を二極化させ,失業と所得格差を増大させる.筆者たちはそれでも技術革新は最終的に社会を良い方向に導くことを信じ,そのための指針を提言する.重要なのは教育と規制緩和により創造性を促進することである,と彼らは言う.

  • Enemark, C. Armed Drones and Ethics of War: Military Virtue in a Post-Heroic Age. Routledge, 2013.

岡本慎平によるレジメはこちら(PDF)。

  • Robertson, J. ``Gendering Robots:Posthuman Traditionalism in Japan,'' in Recreating Japanese Men. 2011.

西條玲奈によるレジメはこちら(PDF)。

  • Gunkel, D. The Machine Question. The MIT Press, 2012.

ロボットの道徳的身分についての哲学的論考.ロボットは道徳的行為者(moral agent)になりうるか,あるいは道徳的被行為者(moral patient)になりうるかという問題を順に取り上げ,従来の理論の欠点,不十分な点を指摘し,最後は行為者-被行為者という二分法を「脱構築」することを提案する.著者の目的はロボットの道徳的身分について正しい問いを立てることであり,それに答えることではない,という.明確な答えを期待する読者にはもどかしい思いが残るかも知れないが,ロボットやAIの哲学,動物倫理や環境倫理についてのこれまでの議論のサーベイとしてだけでも十分に読み応えのあるものであるし,刺激的な哲学的議論であることは確かである.

  • Anderson, M and Anderson (eds), S. L. Machine Ethics. Cambridge University Press, 2011.
  • Lin, P., Abney, K. and Bekey, G. A. (eds), Robot Ethics: The Ethical and Social Implications of Robotics. The MIT Press, 2011.
  • Arkin, R. Governing Lethal Behavior in Autonomous Robots. Chapman and Hall/CRC, 2009.

「戦争法を守るようなロボット兵士を作ることは可能か?」

アメリカ軍からこの問いに答えること要請された著者は、``ethical governor''と彼が呼ぶ具体的なアーキテクチャーを提示することによって「然り」と答える。そしてロボット兵士はむしろ戦争をより倫理的にする可能性すらあるという。将来の戦場においては、人間の操作・監視を離れたロボットが勝手に人間を殺傷するようになるのかもしれない。

  • Singer, P. W. Wired for War. The Penguin Press HC, 2009. 邦訳は『ロボット兵士の戦争』、小林由香利訳、日本放送出版協会、2010。

ロボット技術はいま、戦争をこれまでとは全く異なるものに変容させつつある。現在そして将来の戦場に応用される様々なロボット技術の実例とともに、それらに関する開発者や軍関係者のコメントを紹介している。現実がSFに追いつき、そして誰も想像しえなかった領域までに達しつつあることを実感させられる。

  • Wallach, W and Allen, C. Moral Machine: Teaching Robots Right from Wrong. Oxford University Press, 2008.
  • P.-M. シュル著、粟田賢三訳『機械と哲学』、岩波新書、1972年。原著はP.-M. Schuhl, Machinisme et Philosophie, troisième édition, Presses Universitaires de France, 1969.