応用哲学会第4回大会でのワークショップ

日本応用哲学会第4回大会(2012年4月21日、於千葉大学)でワークショップをやりました。各発表者のスライドはこのページの下の方に掲載されています。

以下は発表要旨です.

ロボットの倫理学と技術哲学

総称的にロボット倫理学と呼ばれる研究が近年盛んになってきている。こうした研究は突然登場してきたわけではなく、既存のさま ざまな領域での研究の延長上に行われているものである。たとえば、ロボット工学に関連する倫理問題についての研究は工学倫理学で、ロボットに よる意思決定に関わる倫理問題はコンピュータ倫理学で検討されてきた。日本でも、柴田正良氏によってロボットの心の哲学の一部分としてロボッ トの道徳が論じられている。したがってロボット倫理学は一つのディシプリンというよりも、ロボットの、あるいはロボットに関わる倫理への関心 を結節点としてさまざまな倫理学および哲学の議論が交わる問題領域とみなされるべきだろう。本ワークショップでは、この問題領域に含まれる多 様な論点と議論の可能性を検討する。

    • 岡本慎平「ロボット倫理学と人工的道徳的行為者:ロボット技術の倫理にまつわる理論と実践」
      • 近年ロボット工学に関する倫理問題が、多くの関連領域を巻き込む形で活発に議論されている。その中でもとりわけ危急の問題とし て挙げられるのは、アメリカ軍を中心とした軍事的ロボット技術の利用である。
      • 一方で、L. FloridiやC. Allenのようなロボットに関心を持つ情報倫理学・哲学者は、人工的道徳的行為者(Artificial Moral Agent)問題に対する興味深い議論を展開しているのだが、彼らの議論は将来発展するであろう人工知能を主眼に置いており、前述の危急の問題に対 しては有力 な論点を提起していると言いがたい。
      • そこでこの発表では、「人工物であるロボットであってもそれ単独で道徳的行為者となりえる」というAMA問題の前提を批判するこ とにより、 Allenらの議論と、ロボットに関する危急の倫理問題との接合を試みたい。
    • 久木田水生「人工道徳は倫理学にどのようなインパクトを与えるか?」
      • 現在、ロボット工学においては倫理的なコードをロボットやAIに組み込む研究(人工道徳)が進められている。この試みは単に道徳 的行為をシミュレートするだけではなく、本当に道徳的な行為者を人工的に作ることができるか、もし可能だとしたら私たちはそのような行為者に 何らかの権利を認めるべきなのか、といった問いを私たちに提起する。そしてこれらの問は道徳性そのものについての私たちの理解にも重大な影響 を与えうる。人工知能が心の哲学に数々のインスピレーションを与え、その発展を大いに促進してきたように、人工道徳が倫理学に有益なインスピ レーションを与える可能性は高い。この発表では人工知能が哲学に影響を与えてきた歴史を振り返り、そこから人工道徳が倫理学に対して与えうる 影響がどのようなものになりうるかについて考察する。
    • 本田康二郎「ヒト型ロボットの開発とエンハンスメントの倫理」
      • 構成論的アプローチと呼ばれる手法では、児童心理学などの分野で発展した人間の発達モデルをヒト型ロボットに組み込み、ロボッ トが共同注意や、言語能力の獲得に成功するか実験を試みている。人間と同等の能力を獲得するためには、ロボットに人間同様の「身体性」を持た せることが重要であるという。従って、人間とコミュニケーション可能なロボットが完成した暁には、そのロボットは人間によく似た姿を持ってい ることになるであろう。
      • こうして、「人間自身の理解」という大変興味深いテーマを掲げたロボット開発が急速に展開しているが、その結果は我々の社会に 思ってもみない変化をもたらす可能性がある。一方で、ヒト型ロボットは準-他者として、我々の対話相手になってくれる可能性があるのだが、他 方でヒト型ロボットを実現する技術が、我々の身体機能を機械で置き換える道を開く可能性がある。BMIと人工身体の融合により、ロボット技術は 新しい形のエンハンスメント技術になっていく可能性が高い。今回は、ヒト型ロボットの開発が社会へ与える影響を分析し、そこにある倫理的問題 について考察する。
    • 神崎宣次「道徳的配慮の対象としてのモノ: 環境倫理学とロボット倫理学における非人間中心主義」
      • この発表では、ロボットが道徳的行為者とみなされうるかという面倒な問題を回避しながら、道徳的配慮の対象になりうるという主 張を正当化することを目指す。
      • 人間以外の存在者が道徳的配慮の対象かという話題は、倫理学全体でみれば別に目新しいものではない。一例を挙げれば、環境倫理 学や動物倫理学では非人間中心主義に関する議論としてこうした話題が論じられてきた。したがって、環境倫理学等での議論から出発し、(自然物 と人工物の両方を含む)さまざまな対象物を道徳的配慮の対象として扱いうる議論の枠組みにそれを拡張した上で、その枠組みの内部でのロボット 倫理学の独自性を検討するというのが有力な議論の方向性の一つとして考えられるだろう。本発表では、この方向性に基づいて、いくつかの議論の オプションを比較検討した上で、最も有望と思われるものを示したい。