サマースクール「ロボット社会のゆくえ」

応用哲学会のサマースクール企画公募に,私たちの研究会の提案した「ロボット社会のゆくえ」が採択されました.(企画代表,本田康二郎)

企画趣旨

GNRという呼称が使われることが示すように,ロボット工学は遺伝子工学,ナノテクノロジーと並んで将来最も重要になると目されている技術の一つである.今日,すでに工業生産の場のみならず,医療,介護,交通,流通,コミュニケーション,家事,軍事,エンターテインメントなど,日常的な場面から生死や健康にかかわる場面まで,様々な場面においてロボットの実用化が進んでいる.特に少子高齢化が進み,将来的に労働力の不足が深刻な課題になることが確実な日本においては,ロボット技術の開発と活用は必須かつ急を要する課題である.実際,日本政府といくつか学会はロボットの開発・活用を推進するための政策を立案,実施している .

しかしながらロボット技術に関しては考えなければいけない倫理的な問題も少なくない.戦争における自律的ロボット兵器の使用,ドライバーレスカーや無人飛行機に関する法的規制,それらが事故を起こした際の責任の所在,物のインターネット化に伴う実世界での情報収集とプライバシーの問題,ケアロボットやコンパニオンロボットの心理的社会的影響,ロボット義肢や装具によるエンハンスメントとトランスヒューマニズム,ロボット技術を利用可能な人々とそうでない人々の間の格差,労働市場におけるロボットと人間の競合,などなどである.

また、人工知能の急激な進歩が我々に与える影響も大きくなるに違いない.ロボットやAIを装備した家電は様々な情報を集め,インターネットに接続されてそれらを共有していく.我々が何らかの目的を達成するためには,この膨大な情報の海から的確な情報を利用する必要が生じてくるはずだ.そこで、我々は日常の様々な場面において,自然言語を媒介として家電製品上に組み込まれた人工知能とコミュニケーションをしていくことになるだろう.このような仕組みが完成していけば,人間にとっての知識の意味は大幅な変更を被ることになる。記憶やロジカルな分析,あるいは定量解析などがAIに依存して行われることが日常化すれば,教育の在り方も根本から変わっていくだろう.これは,人間の知性の定義にも関わる問題である.

人間関係も,現在以上にAIに依存して構築されていく可能性がある.インターネット上での出会いや情報交換は,我々の社会生活において欠かせぬ要素になりつつあるわけだが,これが加速すれば我々の社会的アイデンティティや帰属するコミュニティの基盤そのものが丸ごと技術に依存するようになるのかもしれない.そして、こうしたネット上のコミュニティの中で,やがてはAIが行為者の仲間入りを果たし,我々の友人や恋人のように振る舞うことも考えられる.

ロボット技術や人工知能が人間と社会に与える影響は大きく,かつ予想が難しい.これらの技術が人間を,社会をどのように変化させていくか,変化させていくべきか(あるいはべからざるか)について,私たちは慎重な検討と議論を始めるべき時に来ている.そしてその検討と議論には工学者,技術者,経済学者,法学者,倫理学者,哲学者,心理学者など様々な分野の専門家に加えて,企業,政策決定者および一般市民が含まれていなければならない.従ってロボットに関する哲学的・倫理的問題は,応用哲学会が学会として取り組むのにふさわしい主題である.そこで私たちは応用哲学会のサマースクールの企画として,本企画を開催するものである.

概要

  • 日程:2015年9月7-9日
  • 場所:筑波大学(つくば市),湘南ロボケアセンター(神奈川県藤沢市),富士ソフト,神奈川県庁,コンファレンス横浜(以上,神奈川県横浜市)
  • 内容:
    • 9月7日13時:筑波大学ヒューマン-エージェント・インタラクション研究室見学,同研究室の大澤博隆氏による講演と質疑応答
    • 9月8日10時:富士ソフト株式会社を訪問,コミュニケーションロボットPARLO開発者へのインタビュー
    • 9月8日13時30分:講演会(講師:村上祐子氏,赤坂亮太氏,尾形哲也氏.会場は横浜駅近くの貸会議室,コンファレンス横浜)
    • 9月9日10時:湘南ロボケアセンター見学
    • 9月9日14時:神奈川県庁を訪問,さがみロボット産業特区グループへのインタビュー
  • 参加費:無料.ただし湘南ロボケアセンターの見学には2500円がかかります.
  • 人数:上限15人.申し込みが15人を超えた場合は先に申し込みをされた方を優先いたします.ただし8日の講演会にはサマースクール参加者以外も参加できます.
  • 備考:宿泊先,移動手段,食事は各自で手配してください.

訪問先について

  • 筑波大学ヒューマン-エージェント・インタラクション研究室:ロボットなどの自律的なシステムを社会的な「エージェント」としてとらえ,人間とエージェントとの間の相互作用を研究し,社会の中で活躍する人工的システムの在り方を探っている.
  • 湘南ロボケアセンター株式会社:CYBERDINEが開発しているロボットスーツHALを利用したフィットネストレーニングを提供し,身体機能改善のプログラムを実施している.また様々な生活支援ロボットを展示した「ロボテラス」というショールームも開設している.
  • 富士ソフト株式会社:業務システム開発を主な業務とするICT企業.ヒューマノイドタイプのコミュニケーションロボット,PARLOを開発,販売している.
  • さがみロボット産業特区:生活支援のためのロボットの技術開発・実用化の促進のために,規制緩和,助成制度などを設けている.

講演者について

(1) 名前,(2) 所属,(3) 専門,(4) 講演のテーマ

  • (1) 赤坂亮太 (2) 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 (3) 法学,新領域法学 (4)ロボットの社会進出にともなって生じうる法的な問題について
  • (1) 大澤博隆 (2) 筑波大学ヒューマン-エージェント・インタラクション研究室 (3) 認知科学,知能ロボティクス,ヒューマンインターフェース・インタラクション (4) 人間と人工的システム(エージェント)のインタラクションについて
  • (1) 尾形哲也 (2) 早稲田大学基幹理工学部表現工学科 (3) 認知ロボティクス,神経回路モデル (4) ロボットにおける深層学習モデルの応用とコミュニケーション
  • (1) 村上祐子 (2) 東北大学文学研究科 (3) 論理学,哲学,科学技術社会論 (4) ロボットへの義務論理の実装について

申し込み方法

こちらのフォーム(Google Form)に記入して送信してください.

なお6月30日までは応用哲学会会員のみの受付となります.30日を過ぎて定員に空きがあれば,会員以外の参加申し込みを受け付けます.本年度中に入会していただける場合は30日以前でも受付いたします.

応用哲学会の入会の申し込みは「応用哲学会への入会手続き」からお願いいたします.

集合の場所と時間

筑波大学ヒューマン-エージェント・インタラクション研究室見学(9月7日)

    • 場所:筑波大学中地区第三エリアF棟前(地図
    • 時間:12時50分
    • アクセス:つくばエクスプレスの「つくば」駅A3出口を出たところ,つくばセンターバスターミナル6番バス乗り場から「筑波大学中央」または「筑波大学循環(左回り)」に乗って「第三エリア」で下車.

富士ソフト見学(9月8日)

  • 場所:JR「桜木町」駅北2口
    • 時間:9時50分
    • アクセス:横浜駅からJR根岸線で約3分.

講演会(9月8日)

    • 場所:横浜市西区南幸2丁目8−9 ブライト横浜ビル8F コンファレンス横浜
    • 時間:13時30分(13時から入場可能)
    • アクセス:JR横浜駅より徒歩6分.詳しくはこちらのページをご覧ください.

湘南ロボケアセンター見学(9月9日)

    • 場所:神奈川県藤沢市辻堂神台2-2-1アイクロス湘南4階 湘南ロボケアセンター内ロボテラス前
    • 時間:9時50分
    • アクセス:JR東海道線「辻堂」駅徒歩4分.詳しくはこちらのページをご覧ください.

神奈川県庁訪問(9月9日)

  • 場所:神奈川県横浜市中区日本大通1 神奈川県庁本庁舎入口付近
  • 時間:13時35分
  • アクセス:JR「横浜駅」から「みなとみらい線」の「日本大通り駅」下車すぐ.詳しくはこちらのページをご覧ください.

※ このサマースクールは応用哲学会と本研究会の共催です.またこのサマースクールは文部科学省科学研究費補助金(基盤研究C)「工学的関心に則したロボット倫理学の構築」(課題番号:25370033)の援助を受けています.

※ お問い合わせは久木田水生(minao.kukitaの後ろにアットマークとis.nagoya-u.ac.jpをつける) まで.