Section5
Move forward
日本YMCA中期計画(2021-2023)
前進「日本YMCA中期計画に向けて」
新たに日本YMCA中期計画(2021-2023)が始動する。いま、「社会の回復に仕えるYMCAのあり方」が問われている。
ここでは、5つの柱と、日本、世界のYMCAの変化のきざしとを合わせて紹介し、共に前進する一助としたい。
中道基夫
日本YMCA同盟
中期計画策定委員長
光は暗闇の中で輝いている
ヨハネによる福音書は「言(ことば)の内に命があった。命は人間を照らす光であった」そして「光は暗闇の中で輝いている」と続いている。言葉が、知恵が人間に光、命を与えるのだと言っている。そしてその命を活かしめるもの、命を光らせるものがあるというのだ。それは言い換えるならば「使命」ではないだろうか。使命が私たちに生きる意味を与え、私たちの存在に光を与えてくれるのである。「光は闇の中で輝いている」というのは、この使命を得るときに私たちはどんな暗闇の中にあっても、その闇に消されることなくその光は輝きを増していくということだ。
このようなときにはYMCAのA、YMCAの目的である青年を結合するというAssociate(アソシエイト)を思い出す必要があるのではないだろうか。YMCAは結びつける業を持っているからこそその存在に意味があり、もしYMCAが、連なる私たちが人びとを結びつけることをしないならば、もうYMCAは解散したらいい。社会を変革し、そこに光を灯すこと、自分の命に意味があること、私たちの命に意味があり、そしてあなたの命に意味があるということを知らせる。そしてそれが肉体となる、つまり私たちの内に、現実になるという意味なのである。人が集まることができないならば、つながることができる別のあらゆる方法を模索する、それこそがYMCAの使命であり、アソシエイトするためのYMCAの在り方ではないだろうか。
1年間、私たちは暗闇の中にいた。窓口には透明の幕を張り、アクリル板を立て、消毒をし、人と会わない方法、人と触れない方法、そしてあらゆる行事を中止することに時間と労力を注いできた。そこでは否定的な言葉が語られてきたのではないだろうか。「こういうご時世だから」という言葉は全てを闇に葬ってしまう言葉である。しかしこれからは積極的につながるために、私たちはポジティブな言葉、光の言葉を語る必要がある。それが光として表現されている明るさ、強さ、闇に負けない力を象徴しているのだ。
暗闇は作り出されるものではなくて、火を灯さないところに暗闇が生まれる。暗闇の中でも一本のろうそくさえ灯っていれば、それはもはや暗闇ではない。私たちは一本のろうそくとして、このつながりをそれぞれの現場で灯したいと思う。
(神戸YMCA理事長・日本YMCA同盟理事)
Positive well-beingを提唱し、「みつかる。つながる。よくなっていく。」の体験提供を通して全人一貫教育の価値を最大化し、社会の健康を目指す。
YMCAの基本理念であるSpirit・Mind・Bodyの育成と調和にSocial(社会参画:つながりの中でよりよく生きる)という視点を加え、誰もが不安と喪失を抱える時代において人間性の回復と人と人との連帯によって培われるPositive well-beingを、YMCAの健康理解として提唱する。
わたしたちの健康は、「わたしがよくなる」というビジョンと経験を持つ「わたし」を起点に、家族、友人、地域、コミュニティ、国、世界と同心円的な広がりと関係性の中で育まれていく。Positive well- beingは、いま改めて、障がいや年齢、性別、人種、思想などあらゆる違いに目を向け、互いに心をひらき分かち合い、助け、助けられることによって育まれていくもので、よりよく生きる希望を灯す働きとなる。これは、キリスト教に基づく人間性の回復と、ポジティブネットいう連帯の形成によって人びとと社会の健康を目指すものである。
世界同時危機において、子どもとその家族、若者が孤立や分断することなく、将来に夢をもち、生きる楽しさ、喜びを感じられるよう、ライフパートナーとして一人一人に伴走する全人一貫教育(全人的な生涯教育)にYMCAの「みつかる。つながる。よくなっていく。」体験・経験という強みを最大限に活かすことを基軸として、すべての事業・活動を再興する。
世界同時危機において、子どもとその家族、若者が孤立や分断することなく、将来に夢をもち、生きる楽しさ、喜びを感じられること。YMCAは一人一人に伴走する全人一貫教育、特に子どもたちには「YMCA伴走サポート」を縦軸に、YMCAの「みつかる。つながる。よくなっていく。」体験・経験を横軸に、二つの方向性の強みを最大限に生かして行く。
生まれる前から、高齢者まで、生涯にわたって、全人的な出会いと成長、共に育つ共育の場として、ボランティア活動、市民活動を共に推進していく。
世界YMCA同盟は「YMCA Vision 2030」で4つの社会的インパクトを掲げており、コミュニティとウェルビーイングが最優先課題とされている。
若い世代が夢を持ち、自己実現のために参画できる社会を創造する。YMCAは若者の信頼できるパートナーとして、時代に適応し姿を変える。
予測のつかない羅針盤のない世界において、正義感と時代を読む感性に突き動かされ行動し、新しい未来を創造していく姿はYMCA創設時の姿である。閉塞感のある若い世代が夢をもって、自己実現のために参画できる社会を創造できる機会を創り出していく。
また、新しいことにチャレンジしたいという若いスタッフ・リーダーが、歴史や慣習による「YMCAらしさ」や制度に縛られることなく、恐れず挑戦できる組織を作る。同時に、ユース世代の学びや生活の環境、メンタルヘルスについて注視し、支援していく。そして、YMCAは若者の信頼できるパートナーとして、時代に適応し姿を変える「適応型YMCA(Adaptive YMCA)」となることで持続可能となる道筋を求め、健全運営・健康経営を目指して行く。
社会課題解決型の総合ユースリーダー事業がスタート。高校生たちが世界を良くしていくためのアイデアをベースに企画を練り、プレゼンテーションでその発想のユニークさ、実現可能性などを競うアイデアソンを開催した。海洋ゴミリサイクル、学校の教科書・制服の合理化、高校生のキャリア相談マッチング、途上国へのオンライン教育支援など、実現までの工程、マーケットへのアクセス、必要なコストなどビジネスとしても持続可能となる仕組みが次々と提案された。
持続可能な社会に向けて若者の課題解決能力を発揮する場が、世界、アジアで広がり、日本からも参画が相次いでいる。Youth-Led Solution Summitとして、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、気候変動をテーマに各国でプロジェクトチームを組織し、アクションプランを立案。日本からは、キャンプ場での非効率的なエネルギー使用改善から、藻場の有効活用などがプレゼンテーションされた。
インクルーシブな社会の実現のために、あらゆる場面でテクノロジーを活用し、多様なオンラインコミュニティのプラットフォームとなる。
テクノロジーの急速な拡大により、オンライン上で多様なコミュニティ(共同体)が生まれ、より手軽にグローバルな規模で、学校、職場、家庭ではない自己実現や社会参画が可能となっている。
YMCAはオンラインを健全かつ建設的に活用し、生きる喜びにつながるテーマや社会課題でつながるコミュニティ(共同体)創造のインクルーシブなプラットフォームとなる(ymca.positive.net構想)。
身近な興味関心や悩みには社会を動かす多様な視点が包含され、オンラインでの伴走とオフラインでの実行力を掛け合わせたコミュニティ活動は、多様性と包摂性のある社会創造につながる。
同時に、テクノロジーを取り入れて業務の合理化・効率化を図るとともに、地域のデジタル格差による学び、健康、経済活動などの機会損失について、事業・活動のオンライン化を可能な限り進め、支援を行っていく。
3月、Amazon Future Engineerの一年の集大成となるAssemblyをオンラインで開催。“はなれていてもつながっている”をテーマに、災害被災地の福島県郡山、岡山県倉敷、熊本の子どもたち、そして東京からは高校生が参加した。「水害に強い浮く家を作るにはどうしたらいいか」「地震のエネルギーに対して、それを消すエネルギーを出すには」と、テクノロジーと実体験をつないで、社会を変えるアイデアが次々と出された。
「国際女性デー」バーチャルシンポジウムがアジア・太平洋YMCA同盟の呼びかけで行われた。コロナによって、エッセンシャルワーカーの大半を占め、家事育児を担う女性に負担が増し、DVや貧困も進んでいる現状を共有した。一方で、インターネット、SNSを活用して女性たちの声が日本国内外で発せられ社会で顕在化、YMCAでも研修がオンラインやハイブリッド化することで女性、子育て世代の参加が増えるなど、テクノロジーによってインクルーシブな変化が起きている。
テクノロジーを活用した社会貢献活動も始動
地域社会の課題に対し、企業や行政、地域の諸団体をパートナーとし、時にかなったスピード感をもって解決に臨む。
YMCAには地域社会の課題について、世界の持続可能な開発目標(SDGs)の健康、気候変動、平和、メンタルヘルス、ジェンダーなどの視点をもって解決できる資源が多くある。YMCA単独ではなく、パートナーであるワイズメンズクラブ、そして目的を同じくする企業や行政、地域の諸団体と対等なパートナーシップを組み、それぞれの特性を生かして共に解決に臨んでいく。これは、関係性の中でYMCAの役割を見出し、地域・社会のレジリエンスを高めていく働きとなり、実践的なアドボカシーである。
目的が具体的で明確な社会課題解決活動、ダイナミックなパートナーシップは、理想を求める中学生・高校生など若い協力者に訴求し、テーマで協働する会員、ユースリーダーや学生YMCAの活動の展開にもつながる。YMCAの社会貢献活動の資金的裏付けも明確となり、「寄附を受ける団体」として社会的認知度も向上する。
ワイズ・YMCAパートナーシップ
ワイズメンズクラブは最大のパートナーであり、ワイズメンズクラブ100周年や東西交流会の実施による活動への起爆剤始め、全国のYMCAとの情報共有や協働を進めている。
YMCA Girl’s program supported by Nike, Inc. and Laureus Sport for Good
スポーツを通して女の子の人生に変革をもたらすことを目的とした「プレー・アカデミーwith大坂なおみ」のプロジェクトにYMCAが選定される。思春期の女性から成人に至るまで体の変化、メンタルヘルスをサポートし、女性が長くスポーツを続け、さらに社会参画につながるリーダーシップ養成を目指す。
ユース×みんな電力
再生可能なエネルギーの電力利用を進めるため、YMCAの施設において電力の切り替えを進める。若者が主体となって気候変動の学びと取り組みを行い、耕作放棄地を活用したソーラーシェアリングを訪ね動画、教材作成など進める。
未曾有の世界危機において、YMCAに関わる一人一人がポジティブネットの実現のために地域、世界の課題に臨み、Change Agent (Global Servant)の育成に注力する。
世界規模で社会的弱者のいのちが脅かされ、若者や高齢者、課題を抱える人たちが脆弱な立場に追い込まれている。自国の対策を優先させる中で、途上国の貧困対策、教育支援が大きく遅れている。また、世界的に民主主義の根幹が揺らぎ、一方で下からの変革を求めてゆく市民セクターの力が増している。
わたしたちのいのちが誰かのいのちや人権の犠牲の上に成り立つことがないよう、YMCAに関わる一人一人が足元のコミュニティで、そして世界で、見えざるものに想像力を向け、声なき声を聴き、YMCAがポジティブネットを届けるべき先を考え、行動していかなければならない。
また、若い人が将来の世界を背負うため、グローバル社会と環境の課題を深く理解し、解決していくために必要な教育や研修、実践の機会を作り出していく。YMCAのグローバルネットワークを生かし、世界中の次世代リーダーとの協働を通して複雑な課題を解決し、地域でも、世界でも活躍できる真のChange Agent(Global Servant)の育成に注力していく。
すべての地域の課題は、世界の課題とつながっている。身近な生活、働きが地球規模の課題解決につながっている。自宅の電気、水、食料、プラごみなど家庭での一人一人の取り組みの積み重ねが地球規模の課題解決には不可欠である。自然エネルギーの転換活動など、YMCAから始め会員や家族を巻き込んだ運動に展開するなど、「ひとりが変わると世界が変わる」という実践的な推進が進んでいる。
世界のYMCAでは、「新型コロナウイルス感染症ワクチンを誰もが自由に平等に接種できるようにすることを求める」声明文を2021年1月に発表。2021年、2022年と、何十億人もの人々がワクチンを接種できずに置き去りにされる可能性が高まっていること、そのことによって世界中の人々が次々と生まれる変異株による感染リスクにさらされる危険性に警鐘を鳴らしている。また、諸外国では、YMCAが会場を提供し、特に貧困層や外国籍にルーツのある人々が安心してワクチン接種できる環境を設けている。