1 メッセージと祈り
それは、祈りから始まった YMCA共同の祈り
未曾有の事態に誰もが不安な時間を過ごす中、2020年3月、アジア・世界のYMCAで祈りの輪が次々と広がっていった。日本では4月10日にオンラインでの「YMCA共同の祈り」がスタートし、「心をひとつに、思いをひとつに」(下記)の祈りを献げ、5回シリーズとなり、全国から800人が参加した。
毎日増え続ける感染者の数と死者の数にわたしたちの心は傷ついています。「いつまでなのですか」という嘆きの声は、あなたに届いているのでしょうか。わたしたちはいつ終わるとも知れない状況に疲れ果てています。さらに、将来に大きな不安を覚えています。わたしたちは孤立しています。集まることも、人と話すことも、一緒に食事をすることも、歌うことも、一緒にいて共に喜ぶことも、悲しむことも禁じられています。いっしょに学ぶことも、遊ぶこともできません。働くことも禁じられている人がいます。愛するものの臨終にも立ち会うことがゆるされない人もいます。弱い人はさらに弱く、貧しい者はさらに貧しくされています。神様、いつまでなのですか。いつまでわたしたちは苦しまなければならないのでしょうか。今、あなたの御前に、わたしたちの不安やいらだちを差し出します。どうかわたしたちの嘆きを聞き、愛をもって受け止めてください。
わたしたちの友は、医療の現場で、増え続ける感染者のために、目に見えない未知なる病と闘っています。どうかその人たちを感染から守り、その疲れを癒し、この難しい課題に打ち克つ知恵と力とを与えてください。わたしたちも最前線の医療現場にいる人たちを助け、その疲れや苦労を理解することができますように。新型コロナウイルスと闘う医療現場で働く人々が、その激務に加えて差別や偏見で苦しむことがないようにお守りください。そして、最前線で働く人々のご家族に、チャイルドケア(保育園・学童・放課後等デイサービス)、高齢者支援、地域活動のただなかで、支え、伴走しているYMCAの仲間を覚えます。わたしたちに理解する心、感謝する心、思いやる心を与えてください。未知なる感染症にかかり、その病と闘っている人々を癒してください。さらに、その人たちが病だけではなく、差別や偏見に苦しむことがないようにしてください。わたしたちがその病に苦しむ人たちに、罪意識まで背負わすことがないよう、わたしたちの言葉が愛に満ちたものでありますように。
わたしたちはあなたからこどもたちやユースと共に歩む使命が与えられています。わたしたちのところに集まってくるこどもたちも見えないウイルスや病、この社会に漂う異常な不安に傷ついています。多くのこどもたちの親たちは、外出することが制限されている中でも、人々の生活のために、また医療に従事するために働かなければなりません。どうかわたしたちYMCAが、そのこどもたちと伴走し、こどもたちの生活のケア、心のケアができますように、わたしたちの働きをも守ってください。こどもたちを祝福し、その健康と生活を守ってください。こどもたちをあらゆる暴力や貧困から守ってください。今こそ、わたしたちに与えられた使命を意識させてください。それを全うする力を与えてください。
わたしたちYMCAには、たくさんのユースが集い、共に活動しています。そのユースが不安と困惑の中にいます。特に外国から日本に来てYMCAで学ぶユースたちが、外国での生活の中で必要な情報や支援を得て、安心して生活することができますように。YMCAでも十分に学ぶことが難しい状況にあります。しかし、この状況の中で、彼らの未来のために重要な学びをすることができますように。不安と孤独に押しつぶされるのではなく、笑顔とポジティブな思いで考え、学び、将来に向かう希望と可能性について語り合うことが出来ますようお導きください。YMCAのリーダー、学生YMCAのメンバーも不自由な生活を強いられています。YMCAで十分に活動することもできず、中止、閉鎖、延期というネガティブな言葉にばかり接しています。就職や進学、将来の進路にも不安を覚えます。どうか、ユースたちにポジティブな言葉を与えてください。目に見えない感染症よりも強い希望と可能性に満ちた言葉を与えてください。独りではなく、共に生きる喜びを与えてください。
わたしたちは、今、分断を余儀なくされています。わたしたちは一つの国、一つの世界に生きながら、県の名前、国の名前によって分断されています。隣の県や国のことは、他人事のように感じています。同じ市町村にいながらも、違う学校や団体は別もののように感じます。そこでの発症者数や死者数はわたしたちと関係ないもののように感じてしまいます。今こそ、わたしたちに、連帯し、共にこの難しい局面を乗り越え、新しい世界を創っていく力を与えてください。ただ、感染症のピークが過ぎ、また前のような生活が戻ってくることを祈り求めるのではなく、この向こう側にある新しい社会を目指すことができますように。今こそ、わたしたちに与えられたポジティブネットの創造と拡張という使命を語ることが出来ますように。また新たな難しい課題に直面するときにも、それを乗り越えていくことが出来る力と連帯を与えてください。自己中心的な幸せではなく、誰もが生きやすい、希望のある豊かな社会を創造していくことができますように。わたしたちは世界的な危機の時代に生きています。その中で不安と恐れで押しつぶされそうですが、後ろ向きな気持ちではなく、わたしたちに与えられているYMCAの全国的、全世界的なネットワーク基盤を用いて、人と人を、YMCAとYMCAを強く繋げていく機会としていくための言葉と勇気と行動を与えてください。わたしたちの体と心と精神を強めてください。今こそ、わたしたちを一つにしてください。
わたしたちは現在の危機の中で、たくさんの課題に直面しています。すべてに誠実に、力をつくして取り組みたいと願っていますが、そのための働き手が十分ではありません。その働きを支える経済的な基盤も揺らぎつつあります。この難しい局面に立ち向かっていくためには、わたしたちの力はあまりにも弱く、心も萎え、力も失ってしまいます。しかし、神様、あなたはすべてを備えてくださる方であると信じています。わたしたちに必要な助け手を与えてください。経済的な支援も与えてください。そのためにわたしたち日本、アジア、世界のYMCAが連帯し、協力し合っていくことができますように。この困難な時を乗り越えたときに、まさに神がわたしたちと共にいてくださったと告白することができますように。
(2020年4月)
第1回 2020年4月10日
「心をひとつに思いをひとつに」
司式:中道基夫(関西学院大学・牧師)
第2回2020年4月24日
「子どもめぐる現場から」
司式:中道基夫(関西学院大学・牧師)
第3回2020年5月8日
「ユースの声を聴く」
司式:有住航(日本キリスト教団下落合教会牧師)
第4回2020年5月22日
「世界のYMCA、そして女性」
司式:石井智恵美(日本キリスト教団三鷹教会牧師)
第5回2020年6月12日
「会員・ワイズメンズクラブとともに」
司式:澁谷弘祐(日本キリスト教団毛呂教会牧師)
全回奏楽:竹佐古真希(オルガニスト)
総主事
カルロス・サンヴィー
2020年4月、世界にある12,000以上もの拠点の半数以上が、活動を休止しなければならなくなった。コロナウイルスは、YMCAの活力だけでなく、働く人びとの生活をも奪った。困難の連続であり、極限まで試された年となった。しかし、私たちは闘い抜いた。連帯し、互いを思いやり、決断力、そして信念と信仰を胸に。
私たちは、嵐を乗り切るためには変化しなければならないことに気づいた。変化は脅威ではなく好機に、スピード、集中力、効率性は連帯を高める機会をもたらし、「若者が見たい変化を起こす」ことを可能にした。
日本のYMCAを始め、世界中から寄せられた「世界YMCA連帯基金」によってスタッフの家賃や給与が賄われ、存続できたYMCAがいくつもある。3月には「レジリエンス」の構築、「リカバリー」の開始、「リイマジネーション」の試み、この3つの柱からなる戦略を開始した。
まず、「レジリエンス」とは私たちの内面的な強みを共有すること、「リカバリー」とはどのように方向転換するのが最善かを考え、新しい現実に直面し強みを発揮するために、まずデジタルに得意になること、若者がいる場所で彼らに出会うことを決意した。
「リイマジネーション」とは私たちがどこにいて、どこに向かって行くのかをじっくりと見つめることである。連帯はYMCA間に留まらず、WHO(世界保健機関)及び「ビッグ6」※とのパートナーシップによって、「世界的なユース・モビライゼーション」の実現にいたっている。
私たちはいま、白紙の状態から世界を再構成しようとしている。若者の希望と夢はその大きな再構成の中心でなければならない。2020年は私たちが変化を受け入れ、再構成を開始した年として歴史に残るだろう。
良いときも、困難で厳しい時も旅をするすべての人びとに感謝し、共にYMCAによる’the Great Global Good'(世界規模の社会的な善意)に多くの希望を持ち続けたい。
(2021年4月)
事務局長
テドロス・アダノム
YMCAのようなコミュニティに基盤を置いた組織は、とても重要な役割を果たすことができる。正確な情報を広め、離れていても人びとの社会的なつながりの強さを維持していくことができる。特に重要なのは、若者へ、「自分の健康、家族の健康を自身の手で守るためにできることがたくさんあるのだ」というメッセージを伝えることだ。きちんと食べ、良く学ぶこと。コミュニティレベルでは衛生状態を保ち、社会的距離を保つというルールを守ること。
若者が地域の高齢者などに向けて食事や生活必需品を、安全な方法で届けるというプロジェクトをYMCAは全世界で行っている。YMCAには、ぜひ若者がデマや誤情報に惑わされず、事実を見極め、行政や政府・関係省庁、医師、そしてWHOのアドバイスに耳を傾けていけるようサポートをお願いしたい。いま、このとき、私たちはみなで力を合わせて難局を乗り切らなければならない。
(2020年4月)
総主事
ナム・ブー・ウォン
2021年3月、今回の日中韓YMCA平和フォーラムのテーマは“We are connected.(はなれていてもつながっている)”となっているが、私からのメッセージには“Social Distance, but deeper connection beyond borders.(物理的な距離はとっても、私たちは境界を越えてより深くつながる)”という副題をつけたい。
いま、東北アジアにおいては、地政学的な次元で国家間、特に政府間には自国の利益を中心とした緊張と葛藤が高まっている。キリスト教信仰に基盤をおく社会運動体、市民運動体としてのYMCAは、人類の普遍的価値に立脚してお互いが切っても切れない関係として結びついている。その結びつきをもって、この世界をさらに持続可能で平和な世界にするために、私たちはいかに貢献できるか、このことがいま問われているのではないか。
17年前に韓国YMCAが提案し、日本と中国の3ヶ国のYMCAが合意して始めた平和フォーラムは、いまこの時期において、一層切実に必要とされるようになっている。COVID19が提起した課題を謙虚に受け止める一方、過去に一貫して追求してきた「平和」の概念と意味を、いま世界で起きている文脈で再解釈し、東北アジア地域の3つのYMCAが共に力を合わせていくこと。「平和構築」の課題と内容を、真摯に内実化するために議論することが期待されている。特に、各国のYMCAの若者たちには「共生」の核心的な価値として「平和」の重要性を改めて認識してほしい。自国と自民族中心の思考を超えて、東北アジア市民として、そして人類共同体の一員として、イエス・キリストの教えに従い、正義と平和を実現させながら、神が造られたすべての被造物を大切に守り育んでいく。そのような世界を建設する「主役」として若者が役割を果たせるよう、日本、中国、韓国の共に支え合う協働の決意を誓うことを願って止まない。
(2021年3月。第8回日中韓YMCA平和フォーラム)
闇の中にお生まれになった神様
人と共に生きるために、人と人とをつなぎ合わせ、共に生きることを教えられるために、あなたは光り輝く天を離れ、この世の闇の中にお生まれになりました。
どうか、わたしたちは、不安による差別や偏見、不信感や憎しみではなく、信頼と友情による連帯をもって、あらゆる境界を越えていくことができますように。
そのための、智恵と勇気を与えてください。
北東アジアの平和の祈りによって結ばれた中国、韓国、日本のYMCAに連なるわたしたちを、この歴史的に困難なときにこそ、平和を作り出す道具とさせてください。
アーメン