レポート・論文作成においては、これまでのセクションで学んできた通り、自ら収集した資料やデータなどをもとに客観的な記述を心掛ける必要があります。しかしながら、それらの資料の記述・データを自分のレポート・論文に用いるためには「適切な引用」方法をとらねばなりません。そのような方法がとられない場合、「剽窃」「盗用」など著作権を侵害した行為とみなされることがあります。そして、学術、社会双方において大きな問題となります。東北学院大学経営学部に入学した皆さんには、早期より適切な引用方法を習得してもらい、その知識を当座のレポート作成のみならず、将来的な文書作成においても活かしてもらうことを期待しています。
音楽や小説などは著作物と呼ばれ、著作権法という法律で保護されています。この著作権法に基づけば、原則として著作物を著作者(実際にそれを作成した人)の許可なく公開したり、配布したりすることは認められていません。もちろん、その著作物の一部を勝手に使ってしまうことも問題となります。これは著作者の利益を保護するためです(以上、駒田ほか, 2016)。
しかしながら、その考え方を研究活動にも適用すると、利用料を毎回払う必要が発生してしまい、研究の発展が阻害されてしまいます(文化庁HP)。また、自分の著作物に否定的な研究に対しては、その内容を用いることを認めないなどの問題も想定されます。このような問題で研究が発展しないということは、社会にとっても望ましいものではありません。そこで、以下の著作権法第32条では、研究活動や報道活動などにおいて公表された他者の著作物を許可なしに「引用」することが認められています。
「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」(デジタル庁「e-Gov 法令検索 著作権法」より引用)
上記のように、他者の著作物は「引用」という方法をとることによって、自分の著作物に他者の著作物を利用することが認められます。逆に言えば、引用という手順を踏まなければ使用は認められないということです。それでは、皆さんがどのような方法をとれば引用として認められるのでしょうか?。
このセクションでは、引用をする際に一般的に必要とされる「引用個所の明示」と「参考文献リストの作成」について紹介します。この対応については、著作権法第48条の「合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない」(デジタル庁HPより引用)という要件を満たしたものになります。そして、学術文献において引用する際にも一般的な方法となります。以下、その方法と実例を記述していきます。
まず引用箇所の明示の意味について紹介します。他者の著作物の見解やデータ、図表を自分の文章に用いる際に「引用」を実施するわけですが、どの部分が他者の著作の記述、内容、データ、図表であるかわかるように明示する必要があります。他者の記載と自分の記載を混ぜて記載しないようにしましょう。
そのための方法として、「直接引用」と「間接引用」という方法があります(中村ほか, 2017)。まず、直接引用について学習しましょう。直接引用は他社の著作物の文言をそのまま用いる際に用います。正確に著者の言葉を伝える必要がある際に有用な方法です。具体的には以下のように実施します。
直接引用の方法
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●●●●●●●●●「引用部分」(著者の名字, 著作物の出版年, 記載されている
ページ番号)●●●●●●●●●●●。
*●●●●●●●●●部分は本文を意味します。
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まず、引用した部分を「」で囲います。これによって、この部分は引用している部分であることを読者がすぐにわかるようにします。そのうえで、どの文献から引用しているのかという情報を()内に記入していきます。一般的には、その文章が含まれる文献を書いた著者の名字、その著作が出版された年、その文字が記載されているページ数を記載します。このような情報を記載することで、どの文献のどの箇所から引用したかをわかるようにしています。次に、具体例を見てみましょう。以下の文章は、村山(2020)を直接引用したものです。引用部分を「」で括って、終わりの()内に引用している文献の情報を記載します。p.96というのはこの論文の96ページの部分にこの記述がありますということを示しています。
直接引用の例
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「結論として,観光地の経営や開発を任された観光地振興組織(例えば,DMOや地域の観光局)は,資源や資金で依存する影響力のあるステークホルダーの声だけに耳を傾けるのではなく,観光地を構成する多様なステークホルダーを包摂したステークホルダー共同体を組織し,そこでの対話を通じて独自の価値命題や観光地イメージを創出することで観光客へのアピールと誘客を実現し,観光地全体での経済的価値の最大化を目指さなくてはならないといえよう」(村山, 2020, p.96)
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なお、村山(2020)については、以下のページよりダウンロードできますので、確認してみてください。
東北学院大学「東北学院大学学術情報リポジトリ」
ここまで直接引用について学んできました。しかしながら、直接引用ですと、そのまま他の著作物の内容を引用するため、文章が長くなるなどの課題が生じます(中村ほか, 2017)。特に、包括的に様々な文献の指摘を踏まえて記述を作成する際に、全ての文献から直接引用をすると、その量は膨大となり、文章的な整合性を取るのも困難となる可能性があります。そのような際には、間接引用と呼ばれる方法(参照と呼ばれることもあります)を取ります(中村ほか, 2017)。間接引用では、他者の文献の内容を要約的にまとめ直接引用と同様に出典を明示します。その方法について一般的な方法を紹介します。
1. 引用したい文献を主語にする方法
「著者(出版年)によれば~」、「著者(出版年)は~と述べている。」といった形式でその著者の見解であることを記載します。その際は、皆さん自身の見解ではないということをしめすために、伝聞系でまとめるようにします。先ほどの村山(2020)をもとにまとめると以下のようになります。
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例1:村山(2020)によれば、観光地振興組織は地域のステークホルダーを組織し、対話をすることによって、地域全体の経済的利益を達成することを目指す必要があるという。
例2:村山(2020)は、観光地振興組織は地域のステークホルダーを組織し、対話をすることによって、地域全体の経済的利益を達成することを目指す必要があると指摘している。
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2. 文章の終わりに明示する方法
もう1つの方法は、文章をまとめてその終わりに、()で論文の情報を記載する方法です。直接引用のように、文章の終わりに(著者の名字, 出版年)という形式で引用する方法です。その際には、直接引用と異なり、「」でくくる必要はありません。また、ページ数も記載は必要ありません。この方法で、先ほどの文章を間接引用の形式にまとめると以下のようにあらわすことができます。
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例:観光地振興組織は地域のステークホルダーを組織し、対話をすることによって、地域全体の利益を達成することを目指す必要がある(村山, 2020)
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ここまで引用の方法について学習してきました。引用という方法を経ることで、他者の見解などを自身の研究活動に用いることができるのです。しかしながら、ここで注意しておく点があります。それは引用の量についてです。研究目的での引用は認められているわけでですが、レポートのほとんど全てが引用ということは認められません(1つの文献から文章のほとんどを引用しているというのは特に問題です)。これが認められてしまうと元の文献の全てを引用して自身のレポートとするということも可能となってしまいます。これは法律の観点からも支持されます。前述の著作権法32条でも引用は「正当な範囲内」(デジタル庁「e-Gov 法令検索 著作権法」より引用)に限ることが求められます。あくまでも自分自身の文章、主張があったうえで、その補足として引用が認められるわけです。皆さんがレポートや論文を執筆する際にはこの点注意してください。
また、レポートや論文を執筆する際にwebページや文献などを調べるわけですが、その文言を変えたから引用を付けなくてよいというわけではありません。研究活動においては、他者のアイデアなどもちいた際にも参照として取り上げる必要性が指摘されています(文部科学省HP)。そのため、参考にした文献などあれば、必ず言及するようにしてください。
ここまで学んできたように「引用」に際しては、どの文献から引用したのか誰が読んでも理解できるようにすることが求められます。このような理由から、文献の出典を正確に作成することが求められるのです。ただ、文献の正確な出典を該当箇所にすべて追加していくと文章が出典情報であふれてしまいます。同じ文献を何箇所かで引用する際も同様です。そのような背景があり、前のセクションで学習したように、学術的な文章においては、文章中には簡略化した出典情報を引用個所であるとわかるように明示するにとどめ、文章末に参考文献リストを作成することが一般的です。
参考文献リストの作成方法については、様々な形式が存在します。学術雑誌(週刊誌のように学術論文が掲載されている雑誌です)も各自作成方法についての指示を出しており、これが正解というものはありません。しかしながら、基本的な型というものは存在します。以下、東北学院大学経営学部FD委員会編(2015)をもとに、その例を見ていきましょう(今回は日本語文献のみを対象とします。英語文献については改めて各教員から指示を受けてください)。
日本語書籍の場合
著者氏名(出版年)『書籍タイトル』出版社名。
例:村山貴俊(2021)『観光学概論―海外文献を読み解く― 』創成社。
日本語論文の場合
著者氏名(出版年)「論文タイトル」『論文雑誌名』巻号, ページ数。
例:秋池篤・勝又壮太郎(2016)「消費者知識とデザイン新奇性の関係:電気自 動車の外観イメージ事例から」『組織科学』49巻3号, 47-59。
日本語新聞記事の場合
著者氏名(出版年)「記事タイトル」日付・刊,【面】
著者氏名がわからない場合は、新聞名を記載しておいてください。
例:日本経済新聞「企業、損失リスク積極開示、のれんや引当金、コロナ影響も、投資家、分析しやすく。」2020年8月5日付・朝刊,【1面】
日本語雑誌記事の場合
著者氏名(出版年)「記事タイトル」『雑誌タイトル』号, ページ数。
著者名がない場合は雑誌出版社名を記入してください
例:松浦龍夫(2018)「「2020就活 学生・企業がすべきこと」(2) インターンだけではない 学生と企業の出会い方」『日経ビジネス』2018年7月16日号, 44-45ページ。
Web記事の場合
著者氏名(掲載年)「記事のタイトル」『webサイト名』記事の掲載日付(url:アクセス日)
著者名がない場合は雑誌出版社名を記入してください
例:ITmedia(2021)「社長の出身大学、日本大学が10連覇 増収増益率1位 は?」『ITmediaビジネスONLINE』2021年12月3日(https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2012/03/news129.html:2021年1月28日アクセス)
企業や組織のwebページの場合
企業・組織名「ページタイトル」(url:アクセス日)
例:東北学院大学経営学部「(株)アールシーコアのBESS事業へ、経営学部の学生が戦略提案」(https://www.tohoku-gakuin.ac.jp/info/top/220126-1.html:2021年1月26日アクセス)
今回示した参考文献リストの作成方法はあくまでも一例です。様々な雑誌の投稿規程や、授業内などで指示があった場合、その指示に基づいて実施するようにしてください(指示がないのであれば、このフォーマットに基づいておけば問題ないでしょう)。
正解とされるフォーマットはありませんが、指示されたフォーマットに基づくということは重要です。読者などもそのフォーマットに基づき、参考文献の検索などを実施するためです。その部分の統一性がない場合、検索がうまくいかないなどの不都合が生じる恐れがあります。皆さんは指示されたフォーマットに必ず基づくようにしてください。
こちらに記載されていない媒体を引用したいときなどは「できるだけ情報を多く記載する」「教員に確認する」といったことをするようにしてください。「わからないから参考文献リストに記載しなかった」ということはないようにしてください。
(今回学習した内容と合わせています)
秋池篤・勝又壮太郎(2016)「消費者知識とデザイン新奇性の関係:電気自 動車の外観イメージ事例から」『組織科学』49巻3号, 47-59。
文化庁「著作物が自由に扱える場合」(https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html: 2022年1月11日アクセス)
デジタル庁「e-Gov 法令検索 著作権法」(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000048: 2021年9月13日アクセス)
ITmedia(掲載年)「社長の出身大学、日本大学が10連覇 増収増益率1位 は?」『ITmediaビジネスONLINE』2021年12月3日(https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2012/03/news129.html:2021年1月28日アクセス)
駒田泰士・潮海久雄・山根崇邦(2016)『知的財産法Ⅱ 著作権法』有斐閣。
松浦龍夫(2018)「「2020就活 学生・企業がすべきこと」(2) インターンだけではない 学生と企業の出会い方」『日経ビジネス』2018年7月16日号, 44-45ページ。
文部科学省「研究活動の不正行為等の定義」(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu12/houkoku/attach /1334660.htm: 2022年1月11日アクセス)
村山貴俊(2021)『観光学概論―海外文献を読み解く― 』創成社。
中村かおり・近藤裕子・向井留実子 (2017)「大学初年次のレポート作成指導で引用をどう扱うか」『日本語教育方法研究会誌』第23巻第2号, 8-9ページ。
日本経済新聞「企業、損失リスク積極開示、のれんや引当金、コロナ影響も、投資家、分析しやすく。」2020年8月5日付・朝刊,【1面】
東北学院大学経営学部FD委員会編(2014)『経営学部生のための学びのガイドブック』創成社。
東北学院大学経営学部「(株)アールシーコアのBESS事業へ、経営学部の学生が戦略提案」(https://www.tohoku-gakuin.ac.jp/info/top/220126-1.html:2021年1月26日アクセス)
東北学院大学「東北学院大学学術情報リポジトリ」(https://tohoku-gakuin.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_snippet&pn=1&count=20&order=16&lang=japanese&creator=%E6%9D%91%E5%B1%B1+%E8%B2%B4%E4%BF%8A&page_id=34&block_id=86: 2022年1月27日アクセス)
ここまで、「大学での学び方」を説明してきました。
あとは、自分に合った授業を選び、学んでいくだけです。
それでは、カリキュラム紹介を見ていきましょう。