定住環境の形成支援



Ⅲ.「サステイナビリティ学」に関する大学院プロジェクト演習を通した社会動態分析とニーズ把握に基づく定住環境の形成支援


堀田昌英(国際協力学専攻 教授、社会的意思決定論)

小貫元治(サステイナビリティ学グローバルリーダー養成大学院プログラム准教授、サステイナビリティ学)

田中俊徳(サステイナビリティ学グローバルリーダー養成大学院プログラム准教授、環境政策・行政学)


復興事業やイノベーション・コースト構想が進んでいく町そのものを題材とし、Ⅱ.で得られる定量的エネルギーモニタリング・ビッグデータ、地域エネルギー将来ビジョンも活用しながら、地域住民との積極的なコミュニケーションを通した社会動態分析とニーズ把握に基づく定住環境検討を、日本人大学院生・外国人留学生と教員、研究者、地域住民の協創を通して実現していきます。

新地町においては、現在復興計画に基づいた防災集団移転促進事業、新地駅周辺地区の市街地復興整備事業等、多くの復興事業が実施されており、浜通りの環境を活かしたまちづくりの推進が図られています。復興事業の実施にあたっては、「釣師防災緑地どんぐりプロジェクト」をはじめとする町民協働の取り組みが定着しており、関係主体が一体となって、地域の新しいビジョンを作り上げていくための地域文化と組織体制が既に構築されています。一方、震災後に転出超過が続いていた人口動態については、2014年より転入超過に転じており、転入者を含めた住民のニーズを詳細に把握し、定住環境を形成する施策を立案・実施していくための手法論が求められています。

地域社会の持続可能な発展を実現するための学融合領域「サステイナビリティ学(Sustainability Science)」に関する国際的教育研究拠点としてサステイナビリティ学グローバルリーダー養成大学院プログラム(Graduate Program in Sustainability Science – Global Leadership Initiative)を立ち上げ、そこでの教育研究活動を通して既に多くの実績を挙げており、同分野の知見を公・民・学連携による参加型アクション・リサーチとして新地町のまちづくりに活かすための方法論を有しています。フィールドに根付いた「サステイナビリティ学(Sustainability Science)」教育の実践として、これまでも「グローバル・フィールド演習」(Global Field Exercise)、「レジリエンス演習」(Exercise on Resilience)、「環境デザインスタジオ」(Urban Design Studio)、「環境システム学プロジェクト」などの演習授業を通じ、国内外の様々な地域に学生を派遣し、教育効果を上げてきた実績を持っています。また、これらのフィールド演習は、外国人留学生も日本国内の現場で、言語の壁を克服しつつ地域社会の課題を学び、地域の課題解決に貢献する「サステイナビリティ学(Sustainability Science)」のフィールド学習法としても定着してきています。これまでの実績として、岩手県大槌町において災害復興演習(Exercise on Resilience)を震災以来実施しており、サステイナビリティ学を専門とする日本人大学院生及び外国人留学生が、多様な観点から地域レジリエンスに関する地域ニーズを抽出し、地元関係主体と対話を重ねることによって人々の思いを復興知として確立する取り組みを行ってきました。

今後、新地町で進める「環境エネルギーまちづくり」においては、実際に現地に赴き、定量的なデータを取得することに加え、地域コミュニティとの対話を通して、地域固有の多様なニーズを、エネルギー利用モニタリングをはじめとするスマートコミュニティの革新的技術シーズと結びつけることが必要不可欠です。新地町をはじめとする福島県浜通り地域は、東日本大震災とその結果発生した原子力災害からの復興が今後継続して進んでいく地域であり、解決すべき課題が刻々と変化していく中で、最良の解を見出していくことが求められる場です。また、その解は、復興の進展とともに変化していくことが十分に想定されることから、解そのものが柔軟さを持つことが求められます。このような、極めて現代的な課題に対し、大学・研究機関の「知」を集結して研究を進める場を大学院生の学びの場として活用させて頂くことは、教育機関としては、稀有の機会ともなります。

本事業では、先に述べた当研究科の教育研究実績と、国立環境研究所と新地町が連携して構築してきたスマートコミュニティ事業やエネルギー需要実態計測システム、当研究科とUDCの強い連携による公・民・学連携体制でのまちづくりの実績を組み合わせ、長期間にわたって継続的に実施すべき復興まちづくりに当研究科が関わる中で、大学院フィールド演習を新地町で実施します。演習授業科目は、上述の既設の科目を適用することとし、採択後直ぐに実施できる準備が整っています。フィールド演習では、「環境」「エネルギー」「まちづくり」それぞれの専門領域において先端研究を実施している大学院学生・外国人留学生、大学教員、研究機関の研究者、UDCしんちのコーディネーターが、震災後の地区別・属性別の人口動態の詳細分析、および原発事故被災地からの移住者や地元居住者へのヒアリング調査等を通じた生活ニーズの把握に基づき、定住環境形成のための施策を地域住民と協働して立案、実行します。