1.ユーグレナのCFO募集
ユーグレナ社(※1)が、18歳以下という条件で「CFO(チーフ・フューチャー・オフィサー:最高未来責任者)」を募集している。その募集のキャッチコピーに、「自分じゃない誰かが、何かをいい加減に解決してくれる。そんな期待を抱く大人にならないために。」とある。この言葉に、これからの時代の教育の一つの方向性があるように感じる。
※1.ユーグレナ社
ミドリムシという藻を生かした健康食品を開発販売したり、あるいは、ミドリムシを使ったジェット燃料の開発を行ったりしている東証一部上場会社
ユーグレナ社のホームページでCFO募集について調べてみました。CFOの役割は、「2030年に向けたユーグレナ社のSDGsに関するアクション、および達成目標の策定に関わるサミットの運営。ユーグレナ社定時株主総会、各種の関係会合やイベントへの参加とユーグレナ社CFOとしての発表、プレゼンテーション」と記されています。
CFOへエントリーする際の課題は、「SDGsの17のゴールの中で、あなたが関心のあるもの(複数でも可)と、ユーグレナ社で取り組みたいことを教えてください。」というものです。
SDGsとは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。SDGsは、2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟国193か国が2016年から2030年までの15年間で達成するために掲げた目標です。ユーグレナ社CFOの役割にも「2030年に向けた」という一つの目標時期が明記されています。
本校は、このSDGsの理念を学校教育の中で実現するために、「ぼうけんの森」を中心とした地域の豊かな自然環境をいかしながら、コミュニティスクールとして地域の方と協働して教育活動を推進しています。その取組が認められ、日本ユネスコ連盟から「ユネスコスクールSDGsアシストプログラム」に選ばれました。「ふるさと鶴舞」から「世界遺産のあるまち・奈良」へ、「地球市民」へと学習を発達段階で進めています。これらの学習を通して、自ら進んで地域のために行動できる力を育成できればと考えています。
2.現代の若者の意識と時代の変化
選挙権が18歳まで引き下げられた後の国政選挙の投票率を見てみると、全世代の投票率より10歳台、20歳台の投票率は大きく下回っている。若者の意識の中に「自分じゃない誰かが、何かをいい具合に解決してくれる。」という漠然とした期待があるのではないか。ある人は、「学校の教育では衆議院の議席数や被選挙権の年齢などペーパーテストで出てくる内容を教え、投票することでしゃかいを創っていくことやどのように投票したらよいかという生きて働く知識は教えない。」と語り、「選挙に行かないことは、社会を創っていくことを完全放棄しているのに等しい。」と言います。
時代が「工場モデル(※2)から大きく変化し、世界はグローバル化、複雑化している。その中で、異なる文化や対立する利害関係の中から、、お互いに納得解を導き出す力が必要となる。そのためには、「自分の頭で考え、進んで行動し、新しいアイデアを生み出す」ための教育が必要である。そのキーワードに「ワクワク感」という言葉を掲げている人がいる。
本校が取り組んでいる「SDGsアシストプログラム」の中では、社会とつながる教育活動を大切にしています。例えば、株式会社鶴舞フラワーでは、実際に商品を作り、原価計算をしたうえで販売価格を決定し、宣伝・販売などの業務を行います。売上計算・利益計算なども行い、次の活動に向けての見当も行ってきました。これまでの2年間の取組をもとに、今年度は全校体制で取り組めるように1学期から準備を進めています。このように社会とかかわる学習を通して、地域社会の担い手であることを自覚するとともに主権者としての役割を考えられるようになってくれることを期待しています。
※2.工場モデル
工場を動かし、モノを作れば作るほど利益が上がり、働ければ働くほど豊かになった時代のモデル
3.ワクワクがキーワード
「未来の教室」とEdTech研究会の委員である井上浄さんと対談する機会があった。井上さんは、「ワクワク」をキーワードに掲げ、「身近な不思議を興味に変える。周りを巻き込んで初めて『ワクワク』が生まれる。」とおっしゃって、次のようなビデオを見せてくださった。
『打楽器「トライアングル」の力を100%引き出すための音波解析』 文京学院大学女子高等学校 増本雛乃さん
井上さん自身、大学入学後、世界で自分以外の誰も知らない新しいことを日々発見する研究の面白さに気づき研究にのめりこんでいった経歴を持っており、「ワクワクとは、好奇心という言葉だけで片付けられるものではない。それが外に行動として現れたときに『ワクワク』だと思っている。」と語っている。
このワクワクの原体験は幼児教育のなかにあるのだと思う。幼児教育の「ワクワク」を、小・中学校につなぎ、一条高校の「STEM教育」の中で深めていきたい。そういった教育の在り方の提案が、経済産業省の「未来の教室」とEdTech研究会から「未来の教室ビジョン」として示された。
6月に行われました鶴舞こども園のソニー教育財団最優秀園実践発表会では、本校の教員が運営スタッフとして発表会を支えるとともに、優れたこども園での教育実践から学ぶために公開保育を参観させていただきました。多くの参観者が見守る中、園児のみなさんは、緊張することもなく、自分たちの遊びをよりいいものにするべく夢中で取り組んでいました。「ワクワク」感を園児の皆さんの姿からしっかりと感じることができました。
このような鶴舞こども園の教育実践に学び、本校との連携の中で、小学校教育につなげていきたいと考えています。
またEdTechの一貫として、4年生・5年生では、「自動採点システムの実証実験」を行っています。これは、市販テストをスキャナーで読み込み、電子データとして蓄積することで個別最適化学習につなげていく事業です。システム構築のための実証実験ですが、「未来の教室」をイメージできる取組になればと思います。
4.EdTech研究会の第2次提言「未来の教室」ビジョンより
昨年の8月校園長会では、「未来の教室」とEdTech研究会の第1次提言について話をした。「未来の教室」とEdTech研究会では、いくつかの学校で実証研究を行い、今年の6月25日に第2次提言として「未来の教室」ビジョンを発表した。今日は時間の関係上、すべてを紹介できないので、ぜひ、時間を見つけて読み込んでほしい。
奈良市では算数科において個別最適化学習として「学びなら」に取り組んでいます。本校では、この取組では、「学びの自立」となるように、自学自習と学びあい学習を組み合わせて進めていきたいと考えています。また、保護者の方にご理解いただくために、毎年、保護者向けの説明会を実施してまいりました。「未来の教室」の在り方の一つとして、「学びなら」の取組をご理解いただければ大変ありがたいです。
また、タブレット端末の活用や書画カメラ・大型テレビの活用、プレゼンテーションソフトを使った学習発表など、EdTechの実践をこれからも続けていき、EdTech研究会の第2次提言「未来の教室」ビジョンの基盤となるべき教育活動を着実に積み重ねていきたいと思っています。