◎5月31日(金曜日)に行われた5月定例校長会での教育長先生のご講話を紹介いたします。
1.一条高校の学科再編について
5月21日付奈良新聞に一条高校の学科再編のニュースが出た。正式には、臨時教育委員会で議決をいただくことになっているが、一条高校を目指す子どもや保護者がお尋ねになることもあるから、今日はこのことについて話をする。
学科については、今まで4学科であったものを普通科(7クラス)、外国語科(2クラス)の2学科とする。普通科の中に、科学探求コースを2クラス設置する。
2.学科再編の3つの理由
一条高校が、学科再編をする理由は3つある。
①これからやってくる「Society5.0」といわれる社会の中を、たくましく生き抜いていく子どもの育てる。
②2020年から始まる大学入試改革に対応する。
⓷県立高校再編の中で、特色を打ち出し、魅力ある学校として存続させていく。
一条高校の学科再編の3つの理由は、小学校でも学びの質の転換しなければならいこととつながっています。これからやってくる「Society5.0」の社会でたくましく生き抜いていくためにも、AIに負けない人間にしかできない能力を発揮するための感性や創造性を育む必要があります。これらの力の基盤を創り上げるのは、小学校の時です。この大切な時期の子ども達の教育を担っていることをしっかりと自覚して、本校の教育活動を推進していかなければならないと再認識しました。
3.一条高校の3つのキーワード「探求」「STEM」「文理統合」
学科再編を行った中で、どのような教育を行っていくのか、キーワードは3つある。探求の例として、理数教育研究所が主催する「算数・数学自由研究コンクール」で受賞した作品を紹介する。
①王寺町立王寺北小学校3年 田中絆さん「3年生で習う一番難しい漢字は何?」
②弘前大学教育学部附属中学校3年 工藤優耀さん「『西から昇ったおひさま』が見たい!!」
(実践については、HP参照http://www.rimse.or.jp/research/)
二人の研究のように、自分なりの問いを立て、自分なりの仮設を立て、自分なりの方法で、自分なりの答えにたどり着く。この学びのプロセスを「探求」と呼ぶ。
6月1日(土曜日)に鶴舞こども園で行われた「ソニー幼児教育支援プログラム最優秀園実践発表会」での公開保育では、この「探求」の姿をたくさん見ることができました。たっぷり1時間以上、あそびを通して「いいこと」を追求していました。飽きることなくあそびを高めていく姿は、学びの原点そのものでした。本校ではこども園と連携して、教育活動を進めています。連携の中心は低学年の生活科での取り組みですが、こども園との接続プログラムとして、発達段階に応じてそれぞれの学年でできることを「探求」という視点から取り組んでいければと思います。
STEM教育については、これまでに何度も説明してきたが、一条高校ではArts(いわゆる芸術)を頭に出し、「Arts-STEM教育」と名付けて学びの基盤とする。
一条高校の学科再編は、単に数理学科、人文学科を再編したということではなく、文系、理系に偏ることなく、5教科をバランスよく学び、その中で子どもたちが自ら問いを立て、探求する力を育んでいく教育をすることにある。一条高校では、これからの時代に対応するいわゆる文理統合の教育を行っていきたいと思う。
本校は、今年度、財団法人・中谷医工計測技術財団より教育研究助成校に選ばれました。そのテーマは「学校自慢の『ぼうけんの森』を核にした地域の自然環境をいかした教育活動の創造」です。財団の事務局の方が、先日、本校に来られ、5年生の「ぼうけんの森」での学習の様子を取材されました。その時に、お話したことが、この文理統合の話です。
本校では「ぼうけんの森」を理科や生活科での学習の場として活用しています。それだけでなく、総合的な学習の時間においては、環境教育の場として活用しています。例えば、5年生で取り組む「からむし」の学習では、秋篠川に自生している植物「からむし」の繊維を取り出します。繊維を取り出す作業の中で、植物の構造にも理科的にアプローチできます。また、この繊維で作られた糸は、縄文時代から衣服として活用され、奈良では奈良晒の原料として使われました。「苧麻(ちょま)」と呼ばれる繊維は、軽く細いその特徴を生かして蚊帳として用いられてきたことを学びます。「からむし」の学習は、産業や歴史とともつながっていきます。本校が目指す文理統合の教育活動の具体例であり、社会と教室の学びをつなぐキャリア教育の一環です。この取組に奈良晒の美しい製品を通して「Arts-STEM教育」へとつながる教育活動になればと考えています。このような文理統合を意識した教育活動を発達段階に応じて進めていきます。
こうした一条高校の学科再編は、4月17日に国の中央教育審議会に諮問された「新時代に対応した高等学校教育の在り方」と同じ考えに立ったものである。(http://www.mext.go.jp/b_memu/shingi/chukyo0/toushin/14158777.htm)
こういったArts-STEMを基盤とした探求は、高校3年間だけで実現していくものではない。将来的には、中高一貫教育も視野に入れていきたいと考えている。
4.新しい学習指導要領リーフレット
学校で学んだことが、子どもたちの「生きる力」となって、明日に、そしてその先の人生につながってほしい。これからの社会が、どんなに変化して予測困難になっても、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれ思いを描く幸せを実現してほしい。そして、明るい未来を、共に創っていきたい。2020年度から始まる新しい「学習指導要領」には、そうした願いが込められています。(http://www.mext.go.jp/a_memu/shotou/new-cs/1413516.htm)
「楽しい学校」と「真剣に学ぶこと」は対立するものではない。一条高校が、これから高校を目指す奈良市の小中学生にとって、「学んでみたい学校」になっていければと思っている。
真剣に学ぶからこそ、本当に賢くなったという喜びが生まれます。その喜びを体験できる学校こそが「楽しい学校」になるのだと考えます。それは、押し付けられた学びで得られるものではなく、「自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、判断し行動できる学び」で実感できるものと考えます。
例えば、6年生の総合的な学習の時間では「われら地球市民」という学習単元では、地球的規模の課題について、各国の立場になって考えます。各国の立場になって考えることで、これまで総合的な学習の時間で育んできた「課題を追求する学び」で得た力を新しい視点からまとめ上げる学習として位置付けています。ともすれば観念的になりやすい地球規模の課題を、日本とは別の国の立場から考えることで、自分たちの生活と比較することができます。このように発達段階に応じた取組をESDの視点も取り入れて、計画的に取り組む用にしています。
新しい学習指導に込められた思いを実現できるようにこれからも努力を重ねてまいります。