◎11月11日(月曜日)に行われました定例校長会での教育長先生のご講話を紹介します。
1.ユーグレナ社のCFOについて
8月の校長会でこのことを紹介したが、8月の3週間余りの募集期間に、500名もの応募があり、その中から、1200字のエントリーシートによる書類選考と2回の面接を経て、東京都の高校2年生、17歳の小澤杏子さんが選ばれた。小澤さんは、高校で「フラボノイドと腸内細菌の関係」というテーマの研究をしていて、その道の大先輩となる研究者が大勢所属している会社がCFOを募集していると知って、ぜひ何らかの形で携わりたいと思って応募したという。小澤さんは、インタビューの中で、以下のように答えている。
今回のCFOの募集のように、若い世代に責任あるポジションを任せてもらえるならば、自分の軸を変えずに、きちんと保つことが、より大切になってくるのではないかと感じます。自分の発言したことが、1年後の5年後も変わらずぶれないことが大事だと思っています。口先だけで『世界を救いたい』『貧困を無くしたい』というのは、誰にでも言える。ただ今回は、その企業の一員として、具体的に行動に移すことができるチャンスをいただけたと思って、一生懸命取り組んでいきたいと思っています。
学校教育で目指すのは、小澤さんのように、ぶれない自分軸をもち、自らの生き方を見つけ、社会に貢献していこうとする人づくりだ。
本校では、平成28年度から平成30年度までの3年間、奈良市教育委員会より「小・中学校等における起業家体験推進事業」の指定を受けキャリア教育に取り組んできました。平成29年度からは、地域の方のご指導とご協力を得て、参加希望者を募り、株式会社「鶴舞フラワー」を立ち上げました。商品企画・販売準備・原価計算・売価計算・宣伝・販売の役割分担・売上計算・利益計算などの活動を行いました。この成果をいかして本年度からは、全校体制で縦割りで商品を企画し制作する活動を行っています。このような取組を通して、積極的に社会に関わる意欲を養いたいと考えています。
また、ユネスコスクールとしてESDを核とした取組を行っています。低学年・中学年で「ふるさと鶴舞」の意識を高めることができるように発達段階に応じて系統的に取り組んでいます。この取組を5年生の世界遺産学習へ、6年生の「われら、地球市民」の学習へとつないでいきます。地域のことを学び、世界の課題についても学べるように計画しています。これからも小澤さんのように『世界を救いたい』『貧困をなくしたい』と積極的に活動できる人材となる基盤として、ESDの理念を本校の教育活動の中でしっかりとこれからも取り組んでいきます。
2.奈良市の新しい学校づくり
①一条高校の新しい教育について
一条高校では、来年度から学科再編を行い、次の時代を見据えた新しい教育を目指していく。「新しい教育を目指す」といっても、これまで行ってきた教育を全否定するのではない。良いところは一条高校の特色として残し、さらに伸ばしながら、時代に対応した新しい教育にも取り組んでいくということである。それが、これまでも話してきたSTEM教育や探求学習であり、教育委員会や一条高校の中でも議論してもらっている中高一貫構想である。
11月18日(月)に行われました一条高校の公開研究会に参加しました。芸術と地理歴史の2教科の公開授業を参観しました。
芸術ではデザインとは何かを各自が考える授業でした。多くの教科とコラボした作品が展示されている教室の中で、高校生が自らの感性を生かして、教科との関連性にも触れながら、「デザインとは〇〇である。」と自らの概念を形成していく過程を見ることができました。教科融合型の学習スタイルでしたが、そのことで多面的・多角的に物事をとらえることができることがよくわかりました。本校では主に生活科や総合的な学習の時間で教科横断型の学習を行っています。小学校段階から多面的・多角的に物事をとらえ学ぶことの重要性を再認識しました。
地理歴史は、「VTSの手法を用いたアフリカ地誌の学習」でした。VTSはVisual Thinking Starategiesの略で、対話を介してグループで作品を見るという鑑賞方法で、相互理解を深め、他者・自己を理解し、学習課題そのものを自ら発見していく、自律的な学習者になることを促進するための方法です。
実際の授業では、アフリカをイメージする「赤・黄・緑」をテーマとした映像作品を視聴し、その色のもつ意味を各自がスマートフォンで調べることから始まりました。植民地支配の歴史や旧宗主国との関係を航空路から考えたあと、コンゴ共和国におけるサプールの写真を通して、この国の現状を考えます。
(※サプールとは、「世界一おしゃれなジェントルマン」ともいわれ「服が汚れるから戦わない」との平和のメッセージが込められた運動のこと)
本校でも6年生の平和学習において「焼き場に立つ少年」の写真をもとにこの少年の置かれている状況を創造することから考える学習を展開しました。また5年生では、読売新聞の出前授業として報道写真について学び、児童が自分で撮った1枚の写真をもとに伝えたいメッセージを友達に発信する学習をしています。本校のこれらの学習が高校での学習につながることがよくわかりました。
②平城西中学校区の施設一体型小中一貫校づくりに際して
新しい校舎をつくる際に議論となったのが、「どのような学校にするのか」という、基本コンセプトや具体的な校舎の内容だ。この議論をする中で、「教育の40年ギャップ」の話を思い出した。自分が受けてきた20年前の経験をもとに、今の姿を議論する。そこには、40年のギャップが生まれてしまう、というものだ。しかし、本当に考えないといけないのは「今」ではなく「20年後の姿」である。
校舎づくりについては、メンバーが異なる、様々な場で話し合いが行われた。
1)学校の教員の意見
学校の教員からは、一番、現実的な意見が出てきた。例えば、「保健室は小学校校舎と中学校校舎に別々にほしい。」といった要望である。毎日、それぞれの学校の中で子どもと向き合い、教壇に立っているので、現実的な意見が出るのは当然である。これまでの教育ができる学校の方が、教員は安心するだろう。
2)子どもたちの意見
子どもたちからは多様な意見が出てきた。例えば、「フードコートや自分の部屋がほしい。」といった意見もあった。一見、突拍子もないような意見に思えたが、その根っこには、子どもの「自由でありたい」という思いがあり、改めて、子どもたちは、学校をどうとらえているのか、ということを考えさせられた。
3)指導主事の意見
指導主事には、「それが可能であるかどうかは度外視して、本当の理想の学校、目指す理想の学校、目指す理想の教育を考えてほしい。」と要求して議論してもらった。その結果出てきた学校の姿は、例えば、午前中は「自分で学ぶ時間と友達と学び時間」があり、午後は「個人やグループで追求したい課題を探求していく学習」といったものであった。
これは、昨年7月の校長会で「未来の教室とEdTech研究会」の紹介をした、未来の学校の姿でもある。「個別最適化された学び」と「協働で課題を追求していく探求型の学び」が主流となる学校だ。今すぐに、こうした学校へ変わっていくとは思わないが、議論と実践を積み重ねながら、20年後、30年後にはこうした学校へ向かっていくのだろう。
3.未来を生きる子どもを育てる学校づくりを
20年前の姿で立ち止まらないよう、自分の学校の、これまでに行われてきた様々な学校の当たり前を一つ一つしっかりと考え直してほしい。具体的にそれぞれの学校で、どう変えていくのか。20年前の姿で立ち止まった議論にならず、20年後はどうなっていくのかを見据え、一つずつ具体的なことをそれぞれの学校の実態に応じて考えてほしい。
20年後、26歳から32歳になる子どもたちに、小澤さんの活動や一条高校の取組を参考しながら、20年後もその先も役立つ力を小学校の学習を通して身につけていってもらえるように本校の取組を改善していきたいと思います。