◎12月9日(月曜日)の定例校長会での教育長先生のご講話を紹介します。
1.正倉院展の世界ー皇室がまもり伝えた美ー
奈良で毎年行われている正倉院展が、今年、東京でも開かれた。天皇のご即位を記念した特別展で「正倉院の世界ー皇室がまもり伝えた美」という正倉院宝物と法隆寺献納宝物の代表的な宝物110点あまりを公開した展覧会であった。この展覧会の入口と出口には、森鴎外の『奈良五十首』の中の次の一首がそれぞれ掲げられていた。
「 勅封の 笋(たかんな)の皮 切りほどく 剃刀(はさみ)の音の 寒さあかつき 」(入口に掲示)
「 ゆめの国 燃ゆべきものの 燃えぬ国 木の校倉の とはに立つ国 」(出口に掲示)
正倉院宝物をはじめ、歴史的な遺産を守り、受け継いできた奈良に感嘆し、それをなんとかして未来に伝えていきたいという、鴎外の願いと決意が伝わってくる。
正倉院展の最終日が全国小学校道徳教育研究大会奈良大会の第1日目でした。全国各地から600名を超える先生方が参加してくださいました。参加者の中には公開授業の会場校である三碓小学校からタクシーで国立博物館に行き、正倉院展を鑑賞された方もいらしたと聞きました。
私事になりますが、全国大会の副実行委員長をさせていただきました。三碓小学校で公開授業が行われ、その全体会の折に平尾校長先生が、三碓小学校の校名のいわれを話されました。聖武天皇がこの地を通りかかられたとき、三つの碓(からうす)を使って農作業をしている様子を見られ、「三碓」という地名をつけられたと紹介されました。三碓小学校は、学校名で聖武天皇とつながる学校です。本校は、長屋王の屋敷跡から発見された木簡に記載されている「あまづらせん」の学習を通して、天平時代とつながっています。
このようなつながりや奈良市の各小学校の5年生が世界遺産学習を行っていることなどを三碓小学校から全国小学校道徳教育研究会全国理事会の会場であるホテル日航奈良に向かうタクシーの車内で、平城宮跡を車窓より見ながら、文部科学省教科調査官の浅見先生、全国小学校道徳教育研究会の会長先生にお話しました。もちろん、正倉院展のお話も出ました。歴史豊かな奈良の地での学習にお二人は興味を持たれ、「とっても素晴らしい取組ですね。」と感想を述べられていました。
2.奈良市の世界遺産学習が育む学び
①思いが行動に
10月31日、沖縄県那覇市にある世界遺産「首里城跡」に復元された「正殿」など7棟が全焼した。これを受けて、平城東中学校と二名中学校の生徒会では、首里城復興のための募金活動を行い、先日、平城東中学校の生徒会役員の生徒が募金を持ってきた。生徒会では、ニュースで首里城が焼け落ちる映像の中で、地元の人たちがとても悲しんでいたので、自分たちが毎年修学旅行でお世話になっている沖縄の人たちに何かできないかと思い、募金活動をすることにした、という。心に感じることと行動することが一致することが素晴らしいと思う。
②世界遺産学習を学んだ子たち
令和2年2月、世界遺産学習の全国サミットが奈良市で開かれる。2日目には、「世界遺産学習」を学んだ子が、現在の自分のキャリアに「世界遺産学習」がどう影響を与えたのか、というところにもスポットを当てようと、奈良市立の学校を卒業されたOGの方にも参加してもらい、子どもたちとのセッションも企画している。その2月のサミットでゲストに来てくれる一人は、世界遺産学習を受けて、「奈良には素晴らしいものがたくさんあり、それは大切に守られ、残されてきたということを知った。奈良と同じように日本全国にも、また世界中にも、それぞれの地域の素晴らしいものがあるはずだ。それを多くの人に知ってもらいたい。」と語ってくれた。それぞれの学校で子どもたちのきっかえとなる学び作りをしてもらい、「奈良で学んだことを誇らしげに語れる子」を育ててほしい。
本校では、「ぼうけんの森」・「校区探検」などを通して、鶴舞の豊かな自然や素敵な人との出会いをもとに低学年のうちから「ふるさと鶴舞」への思いを育て、中学年では「鶴舞」から「奈良市」・「奈良県」へと視野を広げていき郷土愛を醸成できるように指導しています。5年生からの世界遺産学習を通して、「世界遺産のあるまち奈良」の素晴らしさを学ぶとともに、本校ならではの天平貴族の幻の甘味料「あまづらせん」の再現活動や校区を流れる秋篠川岸の自生植物である「カラムシ」の繊維を取り出し手織り体験をし、その繊維が奈良晒の原料である苧麻(ちょま)になることを学びます。2つの体験活動を通して子どもたちは自分たちと天平時代とがつながっていることを体感します。6年生では修学旅行で世界遺産である原爆ドーム・厳島神社を訪れ、現地でしかできない学びをします。奈良と広島の世界遺産を大切に守ってきた人々の思いを学ぶことから、次に地球規模の課題についてそれぞれの国の立場になって考える学習へと広げていきます。「地球市民」であるという自覚を持って今の課題の解決方法を自分事として考える学習です。このように発達段階に応じた系統性を持って世界遺産学習を進めています。
3.奈良で学んだことを誇らしげに語れる子
明治5(1872)年、文化財保護の原点とも言われている寺社の宝物調査が行われた。この時に、当時の文部省から調査に参加したのが、蜷川式胤(にながわ のりたね)で、彼は、その調査の記録として、『奈良の筋道』を記した。そのなかで彼は、「地元の人たちは、他からやってきた人とわかれば、誇らしげに昔のことを話してくれる。自分たちが代々住まう土地のことを尊ぶ気風が今日の文化財を保護することにつながっている。」と記している。
昔から奈良の人は、日頃からのお参りや、祭りなどの行事に参加する機会が多くあって、毎日の暮らしの中に、社寺を身近に感じる機会が多くあって、毎日の暮らしの中に、社寺を身近に感じる機会が備わっていたのだろうと思う。常日頃から、本物に触れ、肌で感じ、深く知る。そんな生活をしているからこそ、誇りに思ったり敬ったりする気持ちがあったのだろう。だからこそ、どの人も奈良のことについて誇らしげに語ることができたのだ。
奈良に残った世界遺産を始めとする伝統や文化は、それを大切に思い、誇りに思ってきた人たちが守り伝えて今日あるのだということを、しっかりと子どもたちに伝えていかなくてはいけない。
「鶴舞で学んだこと」「奈良で学んだこと」を誇りを持って語れる子を育てていきたいと考えています。
その一つの取組が鶴舞オリジナルソング「君のかわりは誰もいない」のCD制作です。もともとこの曲は昨年度、特別支援学級の児童がそれぞれの個性を大切にしていこうという学習をもとにメロディーと1番の歌詞を作ってくれた完全オリジナル曲です。その素晴らしい楽曲を全校の歌とするために、全校児童から大切にしたい言葉を募集し、2番の歌詞にまとめ、音楽会で全校合唱として発表しました。発表を聞いてくださった地域の方が「ぜひ、この曲を残していきたい。」という思いを持たれ、音楽プロデューサーをご紹介してくださいました。そして、素敵な出会いが重なり、全校児童の歌声が入ったCDが出来上がりました。
今年度は、小学校の歌だけで終わるのではなく、地域の歌としてこの曲を広げるために和太鼓の伴奏を付け、地域の夏祭りで披露しました。
また世界的に活躍されている和太鼓集団「倭」さんの学校公演の際に、プロの演者の方と本校の音楽クラブの児童が一緒に和太鼓を演奏し、全校児童は合唱で参加しました。「倭」の皆様から「これまで自分たちのレパートリーの中からリクエストされることはあっても、この曲でコラボしてほしいという依頼はなかった。初めての経験ができて本当に楽しかった。」と言っていただきました。この演奏のために送らせていただいたCDや先生方の演奏の映像を見て、一から太鼓の演奏を付けてくださいました。横笛の演奏を入れていただいたり、今回の学校公演に参加する予定でなかった演者の方をこの曲を歌うためだけにつれてきてくださたりと本気で取り組んでいただいたこともあり、会場が一体となる素晴らしいフィナーレの曲となりました。
12月18日に今年度版のCDのレコーディングをします。今回は、全校児童から鶴舞のまちのすばらしさをテーマに歌詞を募集し、新たに「君のかわりはだれもいない~ふるさと鶴舞バージョン」を作り、CDに収録します。自分たちが感じたふるさと鶴舞のすばらしさを自分たちで作った歌詞にのせ、心を込めて歌うことを通して、「鶴舞で学んだこと」を誇りとして語れる子を育てたいと考えています。
もう一つの取組は、積極的に外部に本校の学びを発信することです。
平成29年度には天平祭り特別講演で、平成30年度には奈良女子大学公開講座で児童が「あまづらせん」の再現活動について発表しました。また、昨年度、横浜でひらかれたユネスコスクール全国大会では、あまづらせんだけでなく、ESDの理念に基づき系統的に取り組んでいる教育活動をポスターにまとめて発表しました。
今年度は、12月22日に岡山市の岡山コンベンションセンターで行われる「中谷財団 成果発表会 西日本大会」で6年生の代表児童2名が、「あまづらせん」の再現活動と「カラムシ」の繊維取り出し・奈良晒の学習を中心にポスターセッションを行います。本校は、ESDの理念のもと、科学学習と世界遺産学習・キャリア教育・人権教育・インクルーシブ教育等との融合を目指して取り組んでいます。その方向性は、一条高校のSTEMArt教育と同じだと考えています。西日本各地の高校・中学校・小学校の実践校の児童・生徒の皆さんとの交流も楽しみにしています。
4.奈良の世界遺産学習の充実を
私はこれまでも、森鴎外や蜷川式胤の話だけでなく、奈良にある素晴らしい文化財や伝統を守り、受け継いできた数多くの人々の話を取り上げてきた。こういった人々は奈良で受け継がれてきたものに感嘆し、それを、。何とかして未来に伝えていきたいという願いと決意をもっていた。それが、今、私たちの目の前にある、文化財や行事である。
世界遺産学習を通して、子どもたちが、「なぜ残そうとしたのか」や「どのように守ってきたのか」ということなどを学んで、それを誇りに思い、自分の言葉で語れるようになってもらいたい。
ICTや英語教育等の時代に遅れない教育を進める一方、子どもの心の中に何を深く刻めるか、自分というものをしっかりともたせることができるかが大切である。そして、学びの奥にある深いものを知り、相手に伝えていく。こういった人がこれからの社会に求められていくのである。奈良には、そういうことを学べる素材が十分にあることを誇りに思ってほしい。世界遺産学習全国サミットも、その一つの機会である。当日発表される先生方や子どもたちは、一生懸命取り組んでいる。ぜひ、現場の先生方と地域や保護者の皆さんが大勢参加し、その姿を見てほしい。
2月の世界遺産学習サミットでは、2日目・2月8日(土)のポスターセッションに本校も参加します。本校の発表テーマは、「鶴舞」から「世界遺産のあるまち奈良」・「われら地球市民」へ です。本校の取組をわかりやすくご紹介できればと考えています。
会場(奈良教育大学)で皆様にお会いできることを楽しみにしています。多くの方のご参加をお待ちしています。よろしくお願いします。