生成AIとは、「ジェネレーティブAI(Generative AI)」とも呼ばれるAI(人工知能)の一種です。AIを用いてクリエイティブな成果物を生み出すことができるのが特徴的で、生成できるものは楽曲や画
像、動画、プログラムのコード、文章など多岐にわたります(表1)。現時点の生成AIは、「ディープラーニング(深層学習)」を用いた機械学習モデルで、AIの中では比較的新しく、これから急速に進化する ものです。
(表1)生成AIの例
現在、対話型生成AIは、文章作成、翻訳等の素案作成、ブレインストーミングの壁打ち相手など、多岐に わたる活用が広まりつつます。あらかじめ膨大な量の情報から深層学習によって構築した大規模言語モデル(LLM(Large Language Models))に基づき、ある単語や文章の次に来る単語や文章を推測し、「統計的にそれらしい応答」を生成します。プロンプトと呼ぶ指示文の工夫で、より確度の高い結果が得られますが、回答は誤りも含んだものであり、事実に基づかないもっともらしい嘘(ハルシネーション)を生成するなど多くの課題があります。対話型生成AIを教育で利用するには、指導者が個人情報や著作権の取扱い、プロンプトへの習熟も必要となり、回答は誤りを含むことを前提に、何のためにどのような情報を得ようとしているのかを明確にし、それを何に利用するのかについて、しっかり精査し、適切に判断することが重要です。
対話型生成AIの概要
令和5年7月4日付け文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」より
2 教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成
(1)各学校においては、児童(生徒)の発達の段階を考慮し、言語能力、情報活用能力(情報モラルを含む。)、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう、各教科等の特質を生かし、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。
小・中学校学習指導要領(平成29年告示)第1章 総則 第2 教育課程の編成より
小・中学校学習指導要領(平成29年告示)では、児童生徒の日々の学習や生涯にわたる学びの基盤となる資質・能力の一つとして「情報活用能力」が挙げられています。情報活用能力は、世の中の様々な事象を情報とその結び付きとして捉え、情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力です。将来の予測が難しい社会において、情報を主体的に捉えながら、何が重要かを主体的に考え、見いだした情報を活用しながら他者と協働し、新たな価値の創造に挑んでいくためには、情報活用能力の育成が重要です。
新たな情報技術であり、すでに多くの社会人が生産性の向上に活用しはじめている生成AIが、どのような仕組みで動いているかという理解をベースにして、それをどのように教育に生かしていくのかという視点は重要で、急速に進化・浸透していくことを前提にして、児童生徒の発達の段階に合わせ て、何を学校教育で扱うべきなのか、議論し続ける必要があります。また、AIがどのようなデータを学習しているのか、学習データをどのように作成しているのか、どのようなアルゴリズムに基づき回答しているかが不明である等の「透明性に関する懸念」や機密情報が漏洩しないか、個人情報の不適切な利用を行っていないか、回答の内容にバイアスがかかっていないか等の「信頼性に関する懸念」が指摘されています。
児童生徒の利用に当たっては、年齢等の利用範囲等にも十分配慮しながら、個別の学習活動で活用する適否について、学習指導要領に示される資質・能力の育成を阻害しないか、教育活動の目的を達成する観点で効果的であるかを踏まえて、十分検討する必要があります。
教員は、利用規約の遵守はもとより、事前に生成AIの性質やメリット、デメリット等を十分に理解し、子どもの実態を踏まえた活用の見極めが重要です。AIに関するリテラシーが必要不可欠であり、これまでのICT活用の視点からさらに踏み込んだ、対象分野に関する知識や自分なりの課題意識を高めていかねばなりません。AIが生成した回答を批判的に修正するためには、対象分野に関する一定の知識や自分なりの問題意識と共に、真偽を判断する能力が必要となります。
今後、我々の生活にますます身近なものとなっていくであろう情報技術を、手段として学習や日常生
活に活用できるようにしていくことは、学校教育に求められる大切な内容となります。
活用が考えられる例
情報モラル教育の一環として、教員が生成AIが生成する誤りを含む回答を教材として使用し、その性質や限界等を生徒に気付かせること
生成AIをめぐる社会的論議について生徒自身が主体的に考え、議論する過程で、その素材として活用させること
グループの考えをまとめたり、アイデアを出す活動の途中段階で、生徒同士で一定の議論やまとめをした上で、足りない視点を見つけ議論を深める目的で活用させること
英会話の相手として活用したり、より自然な英語表現への改善や一人一人の興味関心に応じた単語リストや例文リストの作成に活用させること、外国人児童生徒等の日本語学習のために活用させること
生成AIの活用方法を学ぶ目的で、自ら作った文章を生成AIに修正させたものを「たたき台」として、自分なりに何度も推敲して、より良い文章として修正した過程・結果をワープロソフトの校閲機能を使って提出させること
発展的な学習として、生成AIを用いた高度なプログラミングを行わせること
生成AIを活用した問題発見・課題解決能力を積極的に評価する観点からパフォーマンステストを行うこと
適切でないと考えられる例
生成AI自体の性質やメリット・デメリットに関する学習を十分に行っていないなど、情報モラルを含む情報活用能力が十分育成されていない段階において、自由に使わせること
各種コンクールの作品やレポート・小論文などについて、生成AIによる生成物をそのまま自己の成果物として応募・提出すること(コンクールへの応募を推奨する場合は応募要項等を踏まえた十分な指導が必要)
詩や俳句の創作、音楽・美術等の表現・鑑賞など子供の感性や独創性を発揮させたい場面、初発の感想を求める場面などで最初から安易に使わせること
テーマに基づき調べる場面などで、教科書等の質の担保された教材を用いる前に安易に使わせること
教員が正確な知識に基づきコメント・評価すべき場面で、教員の代わりに安易に生成AIから生徒に対し回答させること
定期考査や小テストなどで子供達に使わせること(学習の進捗や成果を把握・評価するという目的に合致しない。CBTで行う場合も、フィルタリング等により、生成AIが使用しうる状態とならないよう十分注意すべき)
児童生徒の学習評価を、教員がAIからの出力のみをもって行うこと
教員が専門性を発揮し、人間的な触れ合いの中で行うべき教育指導を実施せずに、安易に生成AIに相談させること
令和5年7月4日付け文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」より
スマートフォン等が社会で年齢を問わず普及し、日常生活においては、児童生徒も生成AIを使用していくことになります。そのため、国のガイドラインでは、全ての学校で1人1台端末活用の日常化を実現しながら、「情報モラルを含む情報活用能力の育成について、生成AIの普及を念頭に一層充実すること」と示されています。
情報モラル教育の充実
情報モラル=「情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方と態度」
他者への影響を考え、人権、知的財産権など自他の権利を尊重し情報社会での行動に責任をもつことや、犯罪被害を含む危険の回避など情報を正しく安全に利用できること、コンピュータなどの情報機器の使用による健康との関わりを理解すること 等
情報モラル教育の充実に資する学習活動例
発達の段階に応じて次のような学習活動を強化する
情報発信による他人や社会への影響について考えさせる学習活動
ネットワーク上のルールやマナーを守ることの意味について考えさせる学習活動
情報には自他の権利があることを考えさせる学習活動
情報には誤ったものや危険なものがあることを考えさせる学習活動
健康を害するような行動について考えさせる学習活動
インターネット上に発信された情報は基本的には広く公開される可能性がある、どこかに記録が残り完全に消し去ることはできないといった、情報や情報技術の特性についての理解を促す学習活動 等
令和5年7月4日付け文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」より
校務において生成AIを活用する際には、個人情報や機密情報の保護に細心の注意を払いながら、業務の効率化や質の向上など、働き方改革の一環として活用することが考えられます。また、「基本的な考え方」で示したとおり、教育利用に生成AIを活用する適否を適切に判断するためには、教員に一定のAIリテラシーが求められます。教員自身が新たな技術に慣れ親しみ、利便性や懸念点等を理解しておくことが、教育活動で適切に対応する素地となります。国のガイドラインでは、生成AIの校務での活用例(表1)を示し、準備が整った学校において実証研究を推進することとしています。
校務での活用例 (表1)