令和3年1月に、中央教育審議会から「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」(答申)(以下、「令和答申」という。)が報告されました。そこでは、2020年代を通じて実現すべき学校教育の姿として、 GIGAスクール構想の実現によるICT環境の活用、少人数によるきめ細かな指導体制の整備により「個別最適な学び」と、これまでも「日本型学校教育」において重視してきた「協働的な学び」を一体的に充実させ、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善につなげていき、新学習指導要領を着実に実施していくことが示されました。令和答申後、本県においても、学習指導要領の着実な実施に向けた取組等を含め、1人1台端末を活用しながら、児童生徒一人一人の学習進度や興味・関心等に応じた学びや、多様な考え方に触れ、考えを深めていく学び等の取組が進められてきました。
令和答申において示された「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実に向けた学校教育の実現のためには、ICT を活用した学びが重要な役割を担うこととなりますが、その推進に当たっては、Society 5.0 時代に向けた社会変化の加速度的な進展や、それに伴う今後の新たな教育の可能性を見据え、これからの義務教育や学校における学びの在り方についての基本的な考え方を整理するとともに、1人1台端末等の活用を含めた多様で柔軟な学びの具体的な姿を明確化することなどが求められることから、国では、中央教育審議会の「義務教育の在り方ワーキンググループ」において、令和4年10月以降、以下の点について議論が行われてきました。
● 子供たちに必要な資質・能力と学校が果たす役割
● 全ての子供たちの可能性を引き出す学びの実現
● 個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を通じた「主体的・対話的で深い学び」の具体化
● 多様性と包摂性に基づく学校文化の醸成
● 学びにおけるオンラインの活用
● 学校教育になじめないでいる子供に対する学びの保障
令和5年12月28日に、同ワーキンググループから「中間まとめ」が報告され、今後の義務教育、学校教育の方向性等とともに、義務教育段階の学びにおけるオンラインの活用に関する基本的な考え方の一つとして、「オンラインは学びのツールの一つであり、教育の質の向上や子供たちの学びへのアクセスの保障を実現するための最適な手段は何かという観点から選択し、活用することが適切」であることが示されました。同中間まとめは、今後の次期学習指導要領改訂の議論における共通の方向性とされており、義務教育段階における1人1台端末等のICT機器やオンラインによる学びは、あくまでも手段であることを踏まえ、活用の在り方を考えていく必要があります。
社会において利用が急速に普及している生成AIについては、技術革新やサービス開発が飛躍的に進展し、多大な利便性があるとされる反面、個人情報や著作権保護の観点など、様々な懸念が指摘されているところであり、特に、学校における利用については、批判的思考力や創造性への影響等のリスクについての指摘がなされているところであり、国は、令和5年7月に、主として対話型の文章生成AIについて、学校関係者が現時点で生成AIの活用の適否を判断する際の参考資料として、「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を取りまとめ公表しました。
平成31年度に実施された全国学力・学習状況調査の児童生徒質問紙調査における「授業でもっとコンピュータなどの ICTを活用したいと思いますか」という質問に対して肯定的に回答した本県の児童生徒の割合(表1)は、小学校で85.8%(全国86.5%)、中学校で76.5%(全国78.3%)でした。
(表1)授業でもっとコンピュータなどのICTを活用したいと思いますか
本県の児童生徒は、1人1台端末が導入される以前から、学習においてコンピュータ等のICTを活用したいと考えていたが、「前年度までに受けた授業で、コンピュータなどのICTをどの程度使用しましたか」の質問に対する回答状況(表2)のとおり、授業中にICTを日常的に使用する環境にある本県の児童生徒の割合は低い状況でした。
(表2)
前年度までに受けた授業で、コンピュータなどのICTをどの程度使用しましたか
令和2年度以降、本県においても1人1台端末の導入が進みました。同 調査の児童生徒質問紙調査「学習の中でコンピュータなど(令和4年度以降は、「PC・タブレットなど」)のICT機器を使うのは勉強の役に立つと思いますか」という質問に対する児童生徒の肯定的回答の割合(表3)は、小・中学校ともに90%以上でした。これは、1人1台端末が導入される以前のICTを活用したいと肯定的に回答した児童生徒の割合よりも高く、実際に学習の中でICTを活用することで、ICTやデータを活用した学習をすることに有用性を感じている児童生徒が多いことが見受けられます。
(表3)
「学習の中でICT機器を使うのは勉強の役に立つと思いますか」(肯定的回答の割合)
また、1人1台端末の導入により、「前年度までに受けた授業で、コンピュータなど(令和4年度以降は、「PC・タブレットなど」)のICTをどの程 度 使用しましたか」の質問に対する「ほぼ毎日」と回答した児童生徒の割合(表4)は、小学校は、全国平均と同様に上昇傾向を示していますが、中学校は、全国平均と比較して上昇していない傾向にあります。
(表4)
「授業で、コンピュータなどのICTをどの程度使用しましたか」(「ほぼ毎日」と回答した児童生徒の割合)
全国学力・学習状況調査の学校質問紙調査では、調査対象児童生徒に対して「授業中どのような場面で、どの程度ICT機器を使用した指導を行ったか」についての項目があります。(表5)
各場面ごとに比較すると、小・中学校ともに、資料を集める場面や教員と児童生徒がやりとりする場面で活用する学校の割合が高い傾向が見られます。また、全国及び奈良県ともに、中学校よりも小学校の方が、ICTを活用する各場面で「ほぼ毎日」活用すると回答した学校の割合が高い傾向が見られました。
(表5)「授業で、コンピュータなどのICTをどの程度使用しましたか」(「ほぼ毎日」と回答した児童生徒の割合)